59 / 69
時空の狭間で
しおりを挟む
「どうか、ご武運を――」
タツヤは無事に、時龍核の内部に入り込むことが出来ただろうか。
アマリア達は、防御術式をこちらに割く余裕はなかった。だからこそ、動いた。
一瞬だけのチャンスを、タツヤの意思を尊重するために、少しだけ、無茶をした。
後悔は無かった。むしろ、誇らしくさえも思えた。
今まで迷惑を掛けっぱなしだった旅の恩返しの一部にくらいはなっただろうか。
再び、この世界に戻ってきてくれるだろうか。
眼前に迫る炎球を遠目で眺めながら、ルーナは目を瞑った。
自分の為せることは、終わった。
後はタツヤを信じて待つだけだ。
その時、自分はタツヤの隣にいられるだろうか。
――もし、タツヤ様の隣に自分以外のヒトがいたら……ちょっと嫌だな。
隣にいるのが自分でなくとも、タツヤは分け隔てなく親切に接していくだろう。
タツヤと出会ってたった半年の中で。美味しいものをたくさん食べさせてもらった。家族と仲直りさせてくれた。大事にしてくれた。そんな色々な思い出が瞬時に脳裏をよぎって、消えていく。
「……あれ? おかしい……なぁ……」
もう泣かないと決めていたはずなのに。
涙が止まらなかった。
空腹による燃料切れでほとんど身体も動かない中で、ルーナが小さく手を伸ばした――
――瞬間だった。
「ったく、いつまで世話焼かせんだよバカルーナッ!」
ルーナの手を勢いよく引っ張り抜いたのは、聞き慣れた声だった――。
○○○
時龍核の内部に入った俺は、海に投げ捨てられたかのような感覚を味わっていた。
前後左右に光が反射して虹色を醸し出している。
水を掻き分けて進むようにして、前へ移る。眼前には一層光り輝くキューブ型の塊があった。
本当にこれが時空龍の身体の中なのかと疑問に思えるほど澄んだ世界にいるのは、俺ただ1人だけだ。
「――ッ!?」
だが、そんな澄んだ世界に現れたのは円形の空間だ。
その円形の空間の奥に存在するのは、少し古びた木造のフローリング。
脱ぎっぱなしでよれよれの服。
投げ出された買い出し用のビニール袋に、片付けられていない段ボール。
見覚えのある、懐かしささえも感じるアパートの部屋だった。
全てはあそこから始まったのだ。
だけど――。
――俺が求めているのは、それじゃないもんな……。
にやり、不適な笑みを浮かべてその後方にあるキューブ型の塊に手を伸ばす。
あの塊を、時龍核と呼ぶのだろう。
懐に忍ばせておいたのは、第一大隊長グスタフから預かった時龍核の欠片。
まるでそれに共鳴するかのように、互いが互いを引き寄せているのが分かった。
時龍核本体に手を伸ばす。
息もそう長くは続かないだろう。
俺は手を伸ばした先にある時龍核の本体をがっちり掴んだ。
「――ぁ?」
突如、身に降りかかったのは謎の浮遊感。
水中にいたのが、突然空中に投げ出されたかのような、そんな感覚。
考えることも、抵抗することもままならない中で空間が捻れ始める。
「あ――れ?」
吐き気、目眩、意識の混濁。
様々な痛みと違和感に支配されながら、どこかへと落とされてゆく。
グラントヘルムの中は、こんなにも広い空間だったっけ……? なんてことを頭の片隅に思い浮かべたまま、俺は意識を失っていった――。
○○○
「……ここは……?」
ふと、目を覚ます。
見慣れない藁の天井だった。
とてとてとて。
可愛らしい足音と共に俺を覗き込んだのは――金の髪をした幼女だった。
タツヤは無事に、時龍核の内部に入り込むことが出来ただろうか。
アマリア達は、防御術式をこちらに割く余裕はなかった。だからこそ、動いた。
一瞬だけのチャンスを、タツヤの意思を尊重するために、少しだけ、無茶をした。
後悔は無かった。むしろ、誇らしくさえも思えた。
今まで迷惑を掛けっぱなしだった旅の恩返しの一部にくらいはなっただろうか。
再び、この世界に戻ってきてくれるだろうか。
眼前に迫る炎球を遠目で眺めながら、ルーナは目を瞑った。
自分の為せることは、終わった。
後はタツヤを信じて待つだけだ。
その時、自分はタツヤの隣にいられるだろうか。
――もし、タツヤ様の隣に自分以外のヒトがいたら……ちょっと嫌だな。
隣にいるのが自分でなくとも、タツヤは分け隔てなく親切に接していくだろう。
タツヤと出会ってたった半年の中で。美味しいものをたくさん食べさせてもらった。家族と仲直りさせてくれた。大事にしてくれた。そんな色々な思い出が瞬時に脳裏をよぎって、消えていく。
「……あれ? おかしい……なぁ……」
もう泣かないと決めていたはずなのに。
涙が止まらなかった。
空腹による燃料切れでほとんど身体も動かない中で、ルーナが小さく手を伸ばした――
――瞬間だった。
「ったく、いつまで世話焼かせんだよバカルーナッ!」
ルーナの手を勢いよく引っ張り抜いたのは、聞き慣れた声だった――。
○○○
時龍核の内部に入った俺は、海に投げ捨てられたかのような感覚を味わっていた。
前後左右に光が反射して虹色を醸し出している。
水を掻き分けて進むようにして、前へ移る。眼前には一層光り輝くキューブ型の塊があった。
本当にこれが時空龍の身体の中なのかと疑問に思えるほど澄んだ世界にいるのは、俺ただ1人だけだ。
「――ッ!?」
だが、そんな澄んだ世界に現れたのは円形の空間だ。
その円形の空間の奥に存在するのは、少し古びた木造のフローリング。
脱ぎっぱなしでよれよれの服。
投げ出された買い出し用のビニール袋に、片付けられていない段ボール。
見覚えのある、懐かしささえも感じるアパートの部屋だった。
全てはあそこから始まったのだ。
だけど――。
――俺が求めているのは、それじゃないもんな……。
にやり、不適な笑みを浮かべてその後方にあるキューブ型の塊に手を伸ばす。
あの塊を、時龍核と呼ぶのだろう。
懐に忍ばせておいたのは、第一大隊長グスタフから預かった時龍核の欠片。
まるでそれに共鳴するかのように、互いが互いを引き寄せているのが分かった。
時龍核本体に手を伸ばす。
息もそう長くは続かないだろう。
俺は手を伸ばした先にある時龍核の本体をがっちり掴んだ。
「――ぁ?」
突如、身に降りかかったのは謎の浮遊感。
水中にいたのが、突然空中に投げ出されたかのような、そんな感覚。
考えることも、抵抗することもままならない中で空間が捻れ始める。
「あ――れ?」
吐き気、目眩、意識の混濁。
様々な痛みと違和感に支配されながら、どこかへと落とされてゆく。
グラントヘルムの中は、こんなにも広い空間だったっけ……? なんてことを頭の片隅に思い浮かべたまま、俺は意識を失っていった――。
○○○
「……ここは……?」
ふと、目を覚ます。
見慣れない藁の天井だった。
とてとてとて。
可愛らしい足音と共に俺を覗き込んだのは――金の髪をした幼女だった。
0
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる