2 / 3
養分
しおりを挟む
もう11月も下旬。暗い寒空の下、ぼろぼろの駅舎が次の電車を迎えている。
もとは深い蒼色だったトタン屋根はからからにひび割れ、薄緑に変化している。
今の時刻は午後7時。都会であれば残業帰りのサラリーマンでいっぱいのホームだ。だがこんな片田舎では、そんな光景は望むべくもない。
まばらに降りる乗客をモニター越しに眺めながら、駅員はぽつりとつぶやいた。
「……そろそろ、補充しないとな。」
「あらぁ、また来たのねぇ、おにいさん? 」
「ええ……来ちゃいました」
先程の電車から降りてきた30代半ばほどの男性が、キイ、と音を立てて駅の待合室に入る。やつれた表情で妙齢の女性のとなりに座った。
待合室は、ホーム内に独立した一軒家のようになっており、中にはコーヒー、紅茶、ホットミルク、煎茶、水のサーバーが設置されている。入り口のドアには、
『あたたまりたい方は、どうぞご自由にお入りください』
と書かれている。
中には、4人がけのテーブルが2つと、横並びのテーブル席が11人分ほど用意されている。その横並びの席のうちの一つに二人は並んで座っていた。
「ここに来ると、なんだかとても安心できます」
小一時間ほど話して、男性はすっかり顔色が良くなっていた。
待合席には、他に4人ほど人がいた。
女子大生らしき二人組が、窓際の席できゃあきゃあと盛り上がっている。
OLらしき人が、コーヒーを片手に何やら電話をしている。
40代前半と思しき男性が、近くのコンビニで買ってきたのだろうか、チーズケーキを紅茶で頂きながら至福の表情を浮かべている。
一人ひとり状況は違うが、皆あたたかい笑顔でその時を過ごしていた。
しばらくして。男の2人組が待合室に入ってくる。一方は両耳ピアスに歩きタバコ、髪の毛を肩のほうまで伸ばしている。もう一方は顔と右手になにやら入れ墨があり、ガムをくちゃくちゃと噛んでいる。
いかにもな2人組は中に入ると、一番近くにいた40代前半の男性に目をつけた。
「おい、オッサン。」
男性はそこで初めて2人組の存在に気づいた。ヒッと顔を引きつらせると、作り笑いを浮かべながら応えた。
「な、なんでしょう……」
「オッサン、ちょ~っと金貸してくんね? 俺、財布落としっちまったみたいでよ~。家、帰れねンだわ」
「そうそう、5万で許してやるよ」
男性は焦り、周囲の乗客を振り返る。
だが誰も目を合わせようとはしない。
助けを求めるように何度も周囲を振りかえるが、誰も反応しない。
2人組がニタァ、、と笑う。
男性は、観念したかのようにカバンから財布を取り出そうとする。そのとき。
キイ、と音を立てて、待合室のドアが開く。
2人組が、同時にドアのほうを見る。
そこにいたのは、駅員だった。
「お客様。」
駅員が2人組に話しかける。
「ドアに書かれていた注意書きは、お読みになりましたか? 」
2人組は顔を見合わせ、再び駅員に向き直る。
「なんだ? てめえ。」
「てめえもやられたいのか? 」
駅員は冷静な表情で告げる。
「では、暖かくなって頂きます。」
そう告げると、即座に振り返り、待合室を出ていく。扉を閉める。
ガチャリ、と鍵をかける音がする。
「あっ! 」
「こいつ!! 」
気づけば、他の客も誰も残っていない。2人は急いでドアノブに近寄りガチャガチャやり始めるが、当然開くはずもない。
全力で押しても、引っ張ってみても、開く気配はない。
ハア、ハア……と肩を上下させ、息を整えようとする。’
だが、3分ほどしても、息が整う気配はない。むしろ息が荒くなってくる。
部屋が暑い。息が苦しい。目の裏が熱い。体が熱い。
息ができない。肺が焼ける。立っていられない。苦しいッ……!
2人が倒れたのを確認した駅員は、もう一つのボタンを押した。
モニターの中の2人組は、急に全身の服や体が溶け出したかと思うと、すべてが床の排水口に吸い込まれて消えていった。
それから数分後、部屋の温度はすっかりもとに戻る。サーバーの飲み物の残量メーターが、トクトクと音を立てて増えていく。
駅員室のモニターに表示されているバッテリー表示は、99%。
「これで、あと半年はもつかな」
コーヒーで一息つきながら、駅員はぽつりとつぶやいた。
もとは深い蒼色だったトタン屋根はからからにひび割れ、薄緑に変化している。
今の時刻は午後7時。都会であれば残業帰りのサラリーマンでいっぱいのホームだ。だがこんな片田舎では、そんな光景は望むべくもない。
まばらに降りる乗客をモニター越しに眺めながら、駅員はぽつりとつぶやいた。
「……そろそろ、補充しないとな。」
「あらぁ、また来たのねぇ、おにいさん? 」
「ええ……来ちゃいました」
先程の電車から降りてきた30代半ばほどの男性が、キイ、と音を立てて駅の待合室に入る。やつれた表情で妙齢の女性のとなりに座った。
待合室は、ホーム内に独立した一軒家のようになっており、中にはコーヒー、紅茶、ホットミルク、煎茶、水のサーバーが設置されている。入り口のドアには、
『あたたまりたい方は、どうぞご自由にお入りください』
と書かれている。
中には、4人がけのテーブルが2つと、横並びのテーブル席が11人分ほど用意されている。その横並びの席のうちの一つに二人は並んで座っていた。
「ここに来ると、なんだかとても安心できます」
小一時間ほど話して、男性はすっかり顔色が良くなっていた。
待合席には、他に4人ほど人がいた。
女子大生らしき二人組が、窓際の席できゃあきゃあと盛り上がっている。
OLらしき人が、コーヒーを片手に何やら電話をしている。
40代前半と思しき男性が、近くのコンビニで買ってきたのだろうか、チーズケーキを紅茶で頂きながら至福の表情を浮かべている。
一人ひとり状況は違うが、皆あたたかい笑顔でその時を過ごしていた。
しばらくして。男の2人組が待合室に入ってくる。一方は両耳ピアスに歩きタバコ、髪の毛を肩のほうまで伸ばしている。もう一方は顔と右手になにやら入れ墨があり、ガムをくちゃくちゃと噛んでいる。
いかにもな2人組は中に入ると、一番近くにいた40代前半の男性に目をつけた。
「おい、オッサン。」
男性はそこで初めて2人組の存在に気づいた。ヒッと顔を引きつらせると、作り笑いを浮かべながら応えた。
「な、なんでしょう……」
「オッサン、ちょ~っと金貸してくんね? 俺、財布落としっちまったみたいでよ~。家、帰れねンだわ」
「そうそう、5万で許してやるよ」
男性は焦り、周囲の乗客を振り返る。
だが誰も目を合わせようとはしない。
助けを求めるように何度も周囲を振りかえるが、誰も反応しない。
2人組がニタァ、、と笑う。
男性は、観念したかのようにカバンから財布を取り出そうとする。そのとき。
キイ、と音を立てて、待合室のドアが開く。
2人組が、同時にドアのほうを見る。
そこにいたのは、駅員だった。
「お客様。」
駅員が2人組に話しかける。
「ドアに書かれていた注意書きは、お読みになりましたか? 」
2人組は顔を見合わせ、再び駅員に向き直る。
「なんだ? てめえ。」
「てめえもやられたいのか? 」
駅員は冷静な表情で告げる。
「では、暖かくなって頂きます。」
そう告げると、即座に振り返り、待合室を出ていく。扉を閉める。
ガチャリ、と鍵をかける音がする。
「あっ! 」
「こいつ!! 」
気づけば、他の客も誰も残っていない。2人は急いでドアノブに近寄りガチャガチャやり始めるが、当然開くはずもない。
全力で押しても、引っ張ってみても、開く気配はない。
ハア、ハア……と肩を上下させ、息を整えようとする。’
だが、3分ほどしても、息が整う気配はない。むしろ息が荒くなってくる。
部屋が暑い。息が苦しい。目の裏が熱い。体が熱い。
息ができない。肺が焼ける。立っていられない。苦しいッ……!
2人が倒れたのを確認した駅員は、もう一つのボタンを押した。
モニターの中の2人組は、急に全身の服や体が溶け出したかと思うと、すべてが床の排水口に吸い込まれて消えていった。
それから数分後、部屋の温度はすっかりもとに戻る。サーバーの飲み物の残量メーターが、トクトクと音を立てて増えていく。
駅員室のモニターに表示されているバッテリー表示は、99%。
「これで、あと半年はもつかな」
コーヒーで一息つきながら、駅員はぽつりとつぶやいた。
0
あなたにおすすめの小説
姉から全て奪う妹
明日井 真
ファンタジー
「お姉様!!酷いのよ!!マリーが私の物を奪っていくの!!」
可愛い顔をした悪魔みたいな妹が私に泣きすがってくる。
だから私はこう言うのよ。
「あら、それって貴女が私にしたのと同じじゃない?」
*カテゴリー不明のためファンタジーにお邪魔いたします。
真実の愛ならこれくらいできますわよね?
かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの
でもそれは裏切られてしまったわ・・・
夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。
ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?
好きな人と結婚出来ない俺に、姉が言った
しがついつか
恋愛
グレイキャット伯爵家の嫡男ジョージには、平民の恋人がいた。
彼女を妻にしたいと訴えるも、身分の差を理由に両親から反対される。
両親は彼の婚約者を選定中であった。
伯爵家を継ぐのだ。
伴侶が貴族の作法を知らない者では話にならない。
平民は諦めろ。
貴族らしく政略結婚を受け入れろ。
好きな人と結ばれない現実に憤る彼に、姉は言った。
「――で、彼女と結婚するために貴方はこれから何をするつもりなの?」
待ってるだけでは何も手に入らないのだから。
私が消えたその後で(完結)
毛蟹
恋愛
シビルは、代々聖女を輩出しているヘンウッド家の娘だ。
シビルは生まれながらに不吉な外見をしていたために、幼少期は辺境で生活することになる。
皇太子との婚約のために家族から呼び戻されることになる。
シビルの王都での生活は地獄そのものだった。
なぜなら、ヘンウッド家の血縁そのものの外見をした異母妹のルシンダが、家族としてそこに溶け込んでいたから。
家族はルシンダ可愛さに、シビルを身代わりにしたのだ。
【完結】あなた方は信用できません
玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。
第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?
診断書を提出してください。
柊
ファンタジー
元々平民で人格者であった祖父が男爵位を賜ったことにより、「成金の偽善者」と陰口を叩かれるセドリック・トリエ。
それは婚約者である伯爵令嬢カテリーナ・ラドゥメグも例外ではなく、神経をすり減らす日々を送っていた。
そいてラドゥメグ伯爵家を訪れたセドリックと、父クレマンが切り出したことは……。
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
夫に愛想が尽きたので離婚します
しゃーりん
恋愛
次期侯爵のエステルは、3年前に結婚した夫マークとの離婚を決意した。
マークは優しいがお人好しで、度々エステルを困らせたが我慢の限界となった。
このままマークがそばに居れば侯爵家が馬鹿にされる。
夫を捨ててスッキリしたお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる