超SS集 vol.1

石清水ゴリラ

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養分

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 もう11月も下旬。暗い寒空の下、ぼろぼろの駅舎が次の電車を迎えている。
 もとは深い蒼色だったトタン屋根はからからにひび割れ、薄緑に変化している。
 今の時刻は午後7時。都会であれば残業帰りのサラリーマンでいっぱいのホームだ。だがこんな片田舎では、そんな光景は望むべくもない。
 まばらに降りる乗客をモニター越しに眺めながら、駅員はぽつりとつぶやいた。
「……そろそろ、補充しないとな。」

「あらぁ、また来たのねぇ、おにいさん? 」
「ええ……来ちゃいました」
先程の電車から降りてきた30代半ばほどの男性が、キイ、と音を立てて駅の待合室に入る。やつれた表情で妙齢の女性のとなりに座った。
 待合室は、ホーム内に独立した一軒家のようになっており、中にはコーヒー、紅茶、ホットミルク、煎茶、水のサーバーが設置されている。入り口のドアには、
『あたたまりたい方は、どうぞご自由にお入りください』
と書かれている。
 中には、4人がけのテーブルが2つと、横並びのテーブル席が11人分ほど用意されている。その横並びの席のうちの一つに二人は並んで座っていた。
「ここに来ると、なんだかとても安心できます」
小一時間ほど話して、男性はすっかり顔色が良くなっていた。
 待合席には、他に4人ほど人がいた。
 女子大生らしき二人組が、窓際の席できゃあきゃあと盛り上がっている。
 OLらしき人が、コーヒーを片手に何やら電話をしている。
 40代前半と思しき男性が、近くのコンビニで買ってきたのだろうか、チーズケーキを紅茶で頂きながら至福の表情を浮かべている。
 一人ひとり状況は違うが、皆あたたかい笑顔でその時を過ごしていた。

 しばらくして。男の2人組が待合室に入ってくる。一方は両耳ピアスに歩きタバコ、髪の毛を肩のほうまで伸ばしている。もう一方は顔と右手になにやら入れ墨があり、ガムをくちゃくちゃと噛んでいる。
 いかにもな2人組は中に入ると、一番近くにいた40代前半の男性に目をつけた。
「おい、オッサン。」
男性はそこで初めて2人組の存在に気づいた。ヒッと顔を引きつらせると、作り笑いを浮かべながら応えた。
「な、なんでしょう……」
「オッサン、ちょ~っと金貸してくんね? 俺、財布落としっちまったみたいでよ~。家、帰れねンだわ」
「そうそう、5万で許してやるよ」
男性は焦り、周囲の乗客を振り返る。
 だが誰も目を合わせようとはしない。
 助けを求めるように何度も周囲を振りかえるが、誰も反応しない。
 2人組がニタァ、、と笑う。
 男性は、観念したかのようにカバンから財布を取り出そうとする。そのとき。
キイ、と音を立てて、待合室のドアが開く。
 2人組が、同時にドアのほうを見る。
 そこにいたのは、駅員だった。
「お客様。」
駅員が2人組に話しかける。
「ドアに書かれていた注意書きは、お読みになりましたか? 」
2人組は顔を見合わせ、再び駅員に向き直る。
「なんだ? てめえ。」
「てめえもやられたいのか? 」
駅員は冷静な表情で告げる。
「では、暖かくなって頂きます。」
そう告げると、即座に振り返り、待合室を出ていく。扉を閉める。
 ガチャリ、と鍵をかける音がする。
「あっ! 」
「こいつ!! 」
気づけば、他の客も誰も残っていない。2人は急いでドアノブに近寄りガチャガチャやり始めるが、当然開くはずもない。
 全力で押しても、引っ張ってみても、開く気配はない。
 ハア、ハア……と肩を上下させ、息を整えようとする。’
 だが、3分ほどしても、息が整う気配はない。むしろ息が荒くなってくる。
 部屋が暑い。息が苦しい。目の裏が熱い。体が熱い。
 息ができない。肺が焼ける。立っていられない。苦しいッ……! 


 2人が倒れたのを確認した駅員は、もう一つのボタンを押した。
 モニターの中の2人組は、急に全身の服や体が溶け出したかと思うと、すべてが床の排水口に吸い込まれて消えていった。

 それから数分後、部屋の温度はすっかりもとに戻る。サーバーの飲み物の残量メーターが、トクトクと音を立てて増えていく。
 駅員室のモニターに表示されているバッテリー表示は、99%。
「これで、あと半年はもつかな」
コーヒーで一息つきながら、駅員はぽつりとつぶやいた。
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