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旨さは正義だ!

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 思う存分タンゴを採取したオメガは、ほくほく顔で自分に炎の魔術らしきものを行使して胞子を焼き払うと、ついでにタンゴ繁殖地域もエルフ軍と協力して壊滅させた。
 そして一行は、さらに行軍して海辺に差し掛かる。

「ここを抜ければ、王国はすぐそこです」

 アーレンハイトはオメガにそう伝えるが、間の悪い事に突如暗雲が立ち込めて雨が降り始めた。

「スゲー雨だな」
「おかしいですね……水の精霊がはしゃいでいるような兆候はなかったのですが」

 オメガが作ってオメガ空間に収納していた巨大な木の天蓋……どうも聞くところによると、落ち着ける場所にこれを置いてバイオリアの葉を日光を当てずに育て、テンチャというお茶葉にするらしい……を設えて、その下に入ったエルフ軍は火の魔術で服と鎧を乾かした。

「そういや、ばかすか火を起こすヤツ使ってるけど、精霊とやらは大丈夫なのか?」

 暇なのか、アクビをしながらカルミナに問いかけるオメガに、カルミナは淡々と答える。

「火の精霊は偏在しない。太陽に属する精霊だからな。陽光があれば自然と一日程度で元に戻る」
「精霊も種類によって色々だな。……んー、バイオリアも種類分けして栽培しようかな。ブレンドするなら渋茶も必要だしなぁ」
「ちょっと待て。種類分けだと? 貴様、どれだけの数のバイオリアを珍妙空間に収納しているのだ!?」
「今、200株くらいかな。株分けですぐに増えるんだよ、あいつら」
「にひゃ……!? 貴様なぁ!」
「安心しろよ。サイズは人間くらいのもんだ。闇の精霊力とやらがなきゃ、生命力は強ぇけどあそこまでデカくなんねーし。強さの方も、せいぜいファイヤーヒュドラくらいだよ」
「オメガ様。ファイヤーヒュドラはエルフ軍でも始末に苦労する位の強さなのですが」

 オメガ空間内では他にも数種類、コカトリスやスレイプニル、オッコトヌシ、バフォメットなどを家畜として育てているらしい。
 先ほどの魔タンゴ達もそこに加わるのだろう。
 後は牛だな! とオメガは朗らかに笑っていた。

 ちなみにどれも、1対1なら勇者でも苦戦するレベルの怪物たちである。
 世の中には、ベヒーモスの眷属であるが体格が半分程度のリトルベヒモスと呼ばれる怪物も存在し、途中に生息地帯もあったのだが、カルミナに「お願いですからオメガに教えないで下さい」と言われたので、アーレンハイトは黙っていた。

 ……ちょっと食べてみたいな、と思っていたのはアーレンハイト一人の秘密である。
 最近、魔物が食べたいと言うとすっかりオメガに毒されたと、カルミナが悲しそうな顔をするからだ。

「全部殺してしまえ!」
「そんな勿体無い真似が出来るか! どれも俺サマが可愛がって育ててる可愛い魔物どもだぞ!?」
「どうせ食うんだろうが!? 最後に殺すくせに偉そうに!」
「当たり前だ! だが食うために殺すのとただ殺すのは話が別だろ!」
「そもそも魔物は食うために育てたり殺したりするものではない!」
「何でだよ!? 美味いだろうが!」
「オメガ様の持つ魔物を解放したら、それだけで魔王軍に匹敵する軍団が作れそうですね」

 彼がそんな事をするとは露とも思っていないアーレンハイトは、のほほんと呟いて海に目を向けた。
 すると、荒れた海の中で波の動きがおかしな所があるのに気付く。
 アーレンハイトは首を傾げながら意識を集中して、顔色を変えた。

「オメガ様! カルミナ!」
「何だ?」
「どうされました、アーレンハイト様」

 二人が言い合いを中断してアーレンハイトに目を向けるので、海の方を指差した。

「レ、レヴィアタンです!」
「何ですと!?」

 カルミナも海に目を向けると、ざばりと波をかき分けてそれは姿を見せた。
 白い体に強靭な鱗を持つ海蛇に似た怪物。

「レヴィアタンってのは何だ?」
「水の精霊王、ティアマトの眷属です! 世界の終末において、晩餐に供されるという強大な魔獣……普段は、海の奥深くにいる筈なのですが」
「ふーん。イルカみてーに嵐に感覚でも狂わされたのかな」
「なんだ、イルカというのは。というか、そんな間抜けな魔獣がいるか!」
「理由なんか何でも良いよ。それより、飯か……」

 オメガは腕を組んで顎を撫でながら、悪どく笑う。

「つまり、美味いんだな!?」
「貴様はそれしか頭にないのかーーーッ!!!」

 みるみる内に迫り来るレヴィアタンの両脇に、さらに二体のレヴィアタンが現れる。

「まっすぐこちらに迫ってきますね……」
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「それは良いですけど、海の中では流石にオメガ様でも分が悪いのでは?」
「イケるイケる。半機甲化ハーフ・アジャスト! バスター・コネクト!」

 緑の鎧姿の青年に変わったオメガ……イクス・バスターは、両手に持った筒を縦に噛み合わせた。
 キィン、と音を立てて、それが長大な破城槌に似たものへと変わる。

「バスターモード・キャノンバレル! チャージ!」

 レヴィアタンに狙いを定めたイクス・バスターは、キュィイイイイ……氷の魔術を行使した時に聞く空気が冷えるような音を立てる破城槌を構えたまま、微動だにせずに待ち。

「フルチャージ! 行くぜぇ……《絶・凍・弾》! ウェポンズフリィイイイイ!!!」

 ドン、と大地を揺るがすような音を立てて、凄まじい圧を感じる緑の弾が尾を引きながら撃ち出されて、レヴィアタンの迫る波間に着弾した。

「……外れたぞ」
「これで良いんだよ」

 カルミナの呟きに答えたオメガの言葉と同時に、一瞬にして、目の前に見える限りの海が凍りついた。

「え?」
「絶対零度の氷結弾だ。使うのに時間が掛かるし腹が減るけど、効果範囲は数十キロ……って言っても分かんねーな。えーと、魔王城と周りの魔の森を崖の上から見下ろしたくらいの範囲を凍りつかせる」

 海と共に、レヴィアタンも凍りついていた。
 途方も無い威力である。
 ドラグォラの闇の咆哮と同等近い威力があるのではないだろうか。

「……貴様、これを使っていれば、あの時にわざわざ時間を掛けて魔の森のヌシを殺す必要はなかったのではないか?」

 カルミナが半眼で問いかけると、元に戻ったオメガはあっさり肩を竦めた。

「解凍肉は鮮度が落ちるだろ。異空間に隔離収納すりゃ腐らねぇし」
「貴様は本当にそればかりだな! 美味いものがそんなに大事か!?」
「大事に決まってんだろ! 美味さは正義だ!」
「これ、大丈夫なんですか……?」

 アーレンハイトが息を吐くと、色が白い。
 冬のような冷え込みのせいで、降ってくる雨が雪に変わっていた。
 エルフ軍の面々も冷えたのか、寒そうにしながら再度炎の魔術を行使している。

「時間が経てば自然に溶けるよ。元々氷結弾の効果時間はそんなに長くねぇ。必要だったから使っただけだ」
「理由を聞いても?」

 アーレンハイトが訊くと、オメガは海を指差した。

「決まってんだろ。今から氷の上を歩いてレヴィアタンを解体しに行くんだよ。マグロか蛇か、どんな食感と味なのか楽しみだな!」

 鼻歌でも歌い出しそうな様子でうきうきと、オメガはレヴィアタンの元へ向かった。

 ちなみにバイオリアの蜜を煮詰めてジンジャーとタンゴを加えた濃厚なフルーツソースで食したレヴィアタンは、淡白な白身魚に似た味わいだった。
 
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