メイドさんは最強の鑑定師

からあげ定食

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1話 癒しの店「ラ・ヴィ・アン・ローズ」

1話⑤_完

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「……まさか、こんな辺鄙な場所に鑑定師など居る筈が、居るなどという話は聞いたことがない」

 この世界において、生きとし生けるものをはじめ、ありとあらゆる物体には熟練度というものが存在する。それは道端に転がる小石であっても、生まれたばかりの子猫であっても、等しく存在しており、消し隠すことはできない。そして、熟練度は軒並み背面と呼ばれる場所に浮かび上がるのである。何処が裏側かわからないような物体でも、鑑定をすれば恐らくここが裏だろう、というようなところに出るらしい。
 一つの都市伝説だが、鑑定師がとある国の城を鑑定したところ、正面玄関の裏側──勝手口のような場所に表示がされなかったというので城中をくまなく歩いていると、なんと地下牢の石畳にうっすらと浮き出ており、そこの石畳を剥がし掘り返してみると、現王にも知らされていない秘密の部屋、歴代の王が残した宝物庫が見つかった、というものもあるほどだ。
 少々脱線したが、つまるところ鑑定が出来ると言うことは、必然にしろ偶然にしろ、隠していた裏側、弱点が暴けてしまうという訳である。故に、彼ら鑑定師は畏怖の対象であり、その稀有な能力を顕現しようものなら国に召し抱えられ、一族何不自由ない暮らしが出来るほどの財を与えられるほどだ。本来ならば要人として扱われるべき鑑定師が、こんな街の片隅に居るのは到底おかしい。冒険者ギルドの卸す羊皮紙を扱っているのだから、彼女の話は事実であり、彼女の能力は本物だと思われるが、何故ラビはこんなところで商売をし、ギルドは秘匿し黙認しているのか。例えば何か訳ありで、国に召し抱えられると都合が悪いなどというのであれば一介の剣士が口を出すことではないのかもしれない。その訳とやらは全く見当も付かないが。

「秘密と申し上げましたでしょう?」

 秘密。だから皆、この店がどういう趣旨の店なのか説明しなかったというのか。そんな口約束で、街の人間の口を封じることが出来るものか。否、鑑定師ならば可能なのかもしれない。口に出したが最後、彼女から自身の全ての情報が漏れ出してしまうという制約に等しいのではないか──スクーダルは急に目の前の娘が怖くなった。もしかすると、召使は仮の姿なのかもしれない。いや、そういうことにしておこう。少なくともギルドの認証があり、この街で商売をするだけの信頼があってのことなのだろう、もうそれで良いではないか。

「そんなに警戒しないでくださいまし」

 軽やかに、優しく、まるでどうということのない様子でラビは口を開き、また穏やかににこりと微笑んだ。先程までの鋭い妖艶さは窺えない。

「ちゃんとギルドからも許可を頂いておりますし、ここで鑑定した熟練度は全てギルドに提出させて頂きます」

 にこにこと爽快に笑うラビの前で、スクーダルは疎らに髭の生えた顎を無骨な手で覆い幾許か唸ってから、腕を広げ肩を竦めて見せた。その表情は、降参を思わせるものだっただろう。

「……わかった、だが」
「背中を晒すのは好きではない、ですね? 大丈夫です、皆さん始めはそう仰いますもの」

 うふふ、と楽しげに笑みを零す娘は「お許し頂けますね?」と、先ほどより語気を強めた確認を口にした。ここで怯んでは男が廃る、とスクーダルはフンと荒い呼気一つで返事をした。ラビは満足げに口角を上げて笑って見せると、仕切り直す様にパンと手を叩く。

「さぁさ、ご主人様、手早く終わらせるためにもさっさと寝台に俯せになってくださいまし!」
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