6 / 27
1話 癒しの店「ラ・ヴィ・アン・ローズ」
1話⑤_完
しおりを挟む
「……まさか、こんな辺鄙な場所に鑑定師など居る筈が、居るなどという話は聞いたことがない」
この世界において、生きとし生けるものをはじめ、ありとあらゆる物体には熟練度というものが存在する。それは道端に転がる小石であっても、生まれたばかりの子猫であっても、等しく存在しており、消し隠すことはできない。そして、熟練度は軒並み背面と呼ばれる場所に浮かび上がるのである。何処が裏側かわからないような物体でも、鑑定をすれば恐らくここが裏だろう、というようなところに出るらしい。
一つの都市伝説だが、鑑定師がとある国の城を鑑定したところ、正面玄関の裏側──勝手口のような場所に表示がされなかったというので城中をくまなく歩いていると、なんと地下牢の石畳にうっすらと浮き出ており、そこの石畳を剥がし掘り返してみると、現王にも知らされていない秘密の部屋、歴代の王が残した宝物庫が見つかった、というものもあるほどだ。
少々脱線したが、つまるところ鑑定が出来ると言うことは、必然にしろ偶然にしろ、隠していた裏側、弱点が暴けてしまうという訳である。故に、彼ら鑑定師は畏怖の対象であり、その稀有な能力を顕現しようものなら国に召し抱えられ、一族何不自由ない暮らしが出来るほどの財を与えられるほどだ。本来ならば要人として扱われるべき鑑定師が、こんな街の片隅に居るのは到底おかしい。冒険者ギルドの卸す羊皮紙を扱っているのだから、彼女の話は事実であり、彼女の能力は本物だと思われるが、何故ラビはこんなところで商売をし、ギルドは秘匿し黙認しているのか。例えば何か訳ありで、国に召し抱えられると都合が悪いなどというのであれば一介の剣士が口を出すことではないのかもしれない。その訳とやらは全く見当も付かないが。
「秘密と申し上げましたでしょう?」
秘密。だから皆、この店がどういう趣旨の店なのか説明しなかったというのか。そんな口約束で、街の人間の口を封じることが出来るものか。否、鑑定師ならば可能なのかもしれない。口に出したが最後、彼女から自身の全ての情報が漏れ出してしまうという制約に等しいのではないか──スクーダルは急に目の前の娘が怖くなった。もしかすると、召使は仮の姿なのかもしれない。いや、そういうことにしておこう。少なくともギルドの認証があり、この街で商売をするだけの信頼があってのことなのだろう、もうそれで良いではないか。
「そんなに警戒しないでくださいまし」
軽やかに、優しく、まるでどうということのない様子でラビは口を開き、また穏やかににこりと微笑んだ。先程までの鋭い妖艶さは窺えない。
「ちゃんとギルドからも許可を頂いておりますし、ここで鑑定した熟練度は全てギルドに提出させて頂きます」
にこにこと爽快に笑うラビの前で、スクーダルは疎らに髭の生えた顎を無骨な手で覆い幾許か唸ってから、腕を広げ肩を竦めて見せた。その表情は、降参を思わせるものだっただろう。
「……わかった、だが」
「背中を晒すのは好きではない、ですね? 大丈夫です、皆さん始めはそう仰いますもの」
うふふ、と楽しげに笑みを零す娘は「お許し頂けますね?」と、先ほどより語気を強めた確認を口にした。ここで怯んでは男が廃る、とスクーダルはフンと荒い呼気一つで返事をした。ラビは満足げに口角を上げて笑って見せると、仕切り直す様にパンと手を叩く。
「さぁさ、ご主人様、手早く終わらせるためにもさっさと寝台に俯せになってくださいまし!」
この世界において、生きとし生けるものをはじめ、ありとあらゆる物体には熟練度というものが存在する。それは道端に転がる小石であっても、生まれたばかりの子猫であっても、等しく存在しており、消し隠すことはできない。そして、熟練度は軒並み背面と呼ばれる場所に浮かび上がるのである。何処が裏側かわからないような物体でも、鑑定をすれば恐らくここが裏だろう、というようなところに出るらしい。
一つの都市伝説だが、鑑定師がとある国の城を鑑定したところ、正面玄関の裏側──勝手口のような場所に表示がされなかったというので城中をくまなく歩いていると、なんと地下牢の石畳にうっすらと浮き出ており、そこの石畳を剥がし掘り返してみると、現王にも知らされていない秘密の部屋、歴代の王が残した宝物庫が見つかった、というものもあるほどだ。
少々脱線したが、つまるところ鑑定が出来ると言うことは、必然にしろ偶然にしろ、隠していた裏側、弱点が暴けてしまうという訳である。故に、彼ら鑑定師は畏怖の対象であり、その稀有な能力を顕現しようものなら国に召し抱えられ、一族何不自由ない暮らしが出来るほどの財を与えられるほどだ。本来ならば要人として扱われるべき鑑定師が、こんな街の片隅に居るのは到底おかしい。冒険者ギルドの卸す羊皮紙を扱っているのだから、彼女の話は事実であり、彼女の能力は本物だと思われるが、何故ラビはこんなところで商売をし、ギルドは秘匿し黙認しているのか。例えば何か訳ありで、国に召し抱えられると都合が悪いなどというのであれば一介の剣士が口を出すことではないのかもしれない。その訳とやらは全く見当も付かないが。
「秘密と申し上げましたでしょう?」
秘密。だから皆、この店がどういう趣旨の店なのか説明しなかったというのか。そんな口約束で、街の人間の口を封じることが出来るものか。否、鑑定師ならば可能なのかもしれない。口に出したが最後、彼女から自身の全ての情報が漏れ出してしまうという制約に等しいのではないか──スクーダルは急に目の前の娘が怖くなった。もしかすると、召使は仮の姿なのかもしれない。いや、そういうことにしておこう。少なくともギルドの認証があり、この街で商売をするだけの信頼があってのことなのだろう、もうそれで良いではないか。
「そんなに警戒しないでくださいまし」
軽やかに、優しく、まるでどうということのない様子でラビは口を開き、また穏やかににこりと微笑んだ。先程までの鋭い妖艶さは窺えない。
「ちゃんとギルドからも許可を頂いておりますし、ここで鑑定した熟練度は全てギルドに提出させて頂きます」
にこにこと爽快に笑うラビの前で、スクーダルは疎らに髭の生えた顎を無骨な手で覆い幾許か唸ってから、腕を広げ肩を竦めて見せた。その表情は、降参を思わせるものだっただろう。
「……わかった、だが」
「背中を晒すのは好きではない、ですね? 大丈夫です、皆さん始めはそう仰いますもの」
うふふ、と楽しげに笑みを零す娘は「お許し頂けますね?」と、先ほどより語気を強めた確認を口にした。ここで怯んでは男が廃る、とスクーダルはフンと荒い呼気一つで返事をした。ラビは満足げに口角を上げて笑って見せると、仕切り直す様にパンと手を叩く。
「さぁさ、ご主人様、手早く終わらせるためにもさっさと寝台に俯せになってくださいまし!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる