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2話 異世界転移、始めました
2話①
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寺田兎海は、異世界から召喚された者に相当するらしい。昨今のアニメゲーム漫画の娯楽では然程珍しくもない。実際に自分が体験するものとはつゆ程も思っていなかったが、受け入れるのは早かった。決して、アルコールの所為で判断力が鈍っていた訳ではない。
所持品と言えるのは身に付けているメイド服一式と、それが入っていたパステルピンクの紙袋だけ。店で使っていた革靴も何故か入っていたので、タイツを履いているとはいえ裸足で歩き回ることにならなかったのは不幸中の幸いである。財布や携帯といったものは所持していなかったが、大凡異世界に持ってきてまで使えるものではないと判断し、早々に踏ん切りをつけた。自棄酒をするために散財していたので財布の中身も大したことはないので悔いもなかった。
草原に立つ尽くしてもどうしようもない、と兎海はあてもなく歩き始める。少し歩けば馬車と思しき轍が幾つも走る砂利道を発見したので、ひとまずそれを辿ってみることにした。どちらが先頭なのかはわからないが、人のいる場所と場所を繋いでいるだろうことは間違い無いので取り敢えず右側に伸びる道に向かうことにした。
麗かな日差しと心地よい風、自然味あふれる空気を満喫しながらブラブラと歩いていくと、草原ばかりだった景色は遠方に霞みがかった山が見える。今歩いている場所は丘の上だった様で、眼下には小さな森と、村の様なものが見えた。目的が見えたと、兎海は意気揚々と歩き出した。
途中の森で軽く休憩をした。日差しはたいして強くなかったが、やはり木陰の中は幾分か涼しかった。水分補給もしたかったが、丘の上からも川らしきものは見えていなかったし、目視できる範囲で川や池のようなものは見つけられなかった。
「ここがゲームの世界なら、薬草とか採れたりするのかな」
適当な大きさの石に腰を下ろし足を伸ばしながら、地に生える草を眺める。元居た世界では大凡見たことのない形の草を一つ撫で、兎海はうーんと小さく唸る。そしていつぞやにプレイした覚えのあるゲームよろしく、右手の人差し指と中指をピンと立ててから軽く下に振り下ろした。所謂「メニューウィンドウを出す」というジェスチャーだ。
「これで何か出たら逆に笑うわ」
はは、と乾いた笑いを漏らしてから振った指を持ち上げる。すると───
「え、マジ?」
リン、と鈴を転がしたような微かな音を立て、半透明のウィンドウらしきものが、葉の向こう側にすっと浮き上がった。どうして向こう側?と疑問符を浮かべながらウィンドウを眺めて納得する。半透明のウィンドウに並んでいるテキストは綺麗な鏡文字───つまり、裏側が表示されているらしい。試しに二本の指を別の葉に向け、下から上にぴっと振り上げる。再度リン、と音がすると、葉の裏側に矢張り裏面を向けたウィンドウが出る。
「アレか、缶の底に原材料とか書いてある感じ」
判明してしまえば元居た世界では割と習慣じみている話である。パッケージを手に取ったら一回裏返す、買い物の基本動作だ。
理屈が理解できれば手にした葉っぱを裏返す。ウィンドウも追従してこちら側を向いてくれたので、わざわざ背面に移動したり地面に這いつくばって空を見上げる行為が必要ではないことがわかって安堵した。この大自然の中、草むらに寝転がるというのは魅力的ではあるのだが。
ウィンドウを正面に据えると、兎海はまたうぅんと唸る。鏡文字であると判断した時からわかっては居たのだが、漢字ひらがなカタカナ混じり───どうやら日本語なのである。情緒のなさをひしひしと感じながら、取り敢えず手にした草の説明を読んでみる。
イゲル草
薬草の一種。殺菌効果があり、化膿止め、解毒薬の原料となる。
入手方法:簡単
平均販売額:3m
「……3メートル?」
通貨の単位であろう場所に、見慣れた単位が出てくる。きっと他の読み方をするのだろうが、どうしても先に長さの単位が出てきてしまうのがつらいところ。
「入手が簡単ってことはいっぱい採ってもあんまりお金にならないってことか」
イゲル草とやらのことは一旦忘れるとして、もう少し高価なものでもないだろうかと、適当に辺りを見渡す。目に入った小さな花や果物を同じ要領で一つ一つステータス確認を行い、加えて食用になりそうなものを紙袋へと仕舞っていく。食用であるかどうかは、自生するキノコを鑑定した時に判明した。「食用には向かない」という記述どころか、「幻覚効果をもたらす」「しばらくの間全身が麻痺する」などと危なげな効果がしっかり明記されていたのだ。
森の浅い部分では30mを超える額を出せるものはなさそうだったが、流石に深部へ足を踏み入れる気にはならなかった。それよりもさっさと道に戻り、村へ向かって通貨の確認をしたほうが良いだろう。兎海はすっくと立ち上がり、今一度森の中で深呼吸をし、爽やかな空気を肺いっぱいに詰め込んでから、腰掛けていた石や森に向けて「お邪魔しました」と声をかけてから舗装のされていない砂利道に足を向ける。目的の村まではもう暫く歩くことになる。
所持品と言えるのは身に付けているメイド服一式と、それが入っていたパステルピンクの紙袋だけ。店で使っていた革靴も何故か入っていたので、タイツを履いているとはいえ裸足で歩き回ることにならなかったのは不幸中の幸いである。財布や携帯といったものは所持していなかったが、大凡異世界に持ってきてまで使えるものではないと判断し、早々に踏ん切りをつけた。自棄酒をするために散財していたので財布の中身も大したことはないので悔いもなかった。
草原に立つ尽くしてもどうしようもない、と兎海はあてもなく歩き始める。少し歩けば馬車と思しき轍が幾つも走る砂利道を発見したので、ひとまずそれを辿ってみることにした。どちらが先頭なのかはわからないが、人のいる場所と場所を繋いでいるだろうことは間違い無いので取り敢えず右側に伸びる道に向かうことにした。
麗かな日差しと心地よい風、自然味あふれる空気を満喫しながらブラブラと歩いていくと、草原ばかりだった景色は遠方に霞みがかった山が見える。今歩いている場所は丘の上だった様で、眼下には小さな森と、村の様なものが見えた。目的が見えたと、兎海は意気揚々と歩き出した。
途中の森で軽く休憩をした。日差しはたいして強くなかったが、やはり木陰の中は幾分か涼しかった。水分補給もしたかったが、丘の上からも川らしきものは見えていなかったし、目視できる範囲で川や池のようなものは見つけられなかった。
「ここがゲームの世界なら、薬草とか採れたりするのかな」
適当な大きさの石に腰を下ろし足を伸ばしながら、地に生える草を眺める。元居た世界では大凡見たことのない形の草を一つ撫で、兎海はうーんと小さく唸る。そしていつぞやにプレイした覚えのあるゲームよろしく、右手の人差し指と中指をピンと立ててから軽く下に振り下ろした。所謂「メニューウィンドウを出す」というジェスチャーだ。
「これで何か出たら逆に笑うわ」
はは、と乾いた笑いを漏らしてから振った指を持ち上げる。すると───
「え、マジ?」
リン、と鈴を転がしたような微かな音を立て、半透明のウィンドウらしきものが、葉の向こう側にすっと浮き上がった。どうして向こう側?と疑問符を浮かべながらウィンドウを眺めて納得する。半透明のウィンドウに並んでいるテキストは綺麗な鏡文字───つまり、裏側が表示されているらしい。試しに二本の指を別の葉に向け、下から上にぴっと振り上げる。再度リン、と音がすると、葉の裏側に矢張り裏面を向けたウィンドウが出る。
「アレか、缶の底に原材料とか書いてある感じ」
判明してしまえば元居た世界では割と習慣じみている話である。パッケージを手に取ったら一回裏返す、買い物の基本動作だ。
理屈が理解できれば手にした葉っぱを裏返す。ウィンドウも追従してこちら側を向いてくれたので、わざわざ背面に移動したり地面に這いつくばって空を見上げる行為が必要ではないことがわかって安堵した。この大自然の中、草むらに寝転がるというのは魅力的ではあるのだが。
ウィンドウを正面に据えると、兎海はまたうぅんと唸る。鏡文字であると判断した時からわかっては居たのだが、漢字ひらがなカタカナ混じり───どうやら日本語なのである。情緒のなさをひしひしと感じながら、取り敢えず手にした草の説明を読んでみる。
イゲル草
薬草の一種。殺菌効果があり、化膿止め、解毒薬の原料となる。
入手方法:簡単
平均販売額:3m
「……3メートル?」
通貨の単位であろう場所に、見慣れた単位が出てくる。きっと他の読み方をするのだろうが、どうしても先に長さの単位が出てきてしまうのがつらいところ。
「入手が簡単ってことはいっぱい採ってもあんまりお金にならないってことか」
イゲル草とやらのことは一旦忘れるとして、もう少し高価なものでもないだろうかと、適当に辺りを見渡す。目に入った小さな花や果物を同じ要領で一つ一つステータス確認を行い、加えて食用になりそうなものを紙袋へと仕舞っていく。食用であるかどうかは、自生するキノコを鑑定した時に判明した。「食用には向かない」という記述どころか、「幻覚効果をもたらす」「しばらくの間全身が麻痺する」などと危なげな効果がしっかり明記されていたのだ。
森の浅い部分では30mを超える額を出せるものはなさそうだったが、流石に深部へ足を踏み入れる気にはならなかった。それよりもさっさと道に戻り、村へ向かって通貨の確認をしたほうが良いだろう。兎海はすっくと立ち上がり、今一度森の中で深呼吸をし、爽やかな空気を肺いっぱいに詰め込んでから、腰掛けていた石や森に向けて「お邪魔しました」と声をかけてから舗装のされていない砂利道に足を向ける。目的の村まではもう暫く歩くことになる。
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