メイドさんは最強の鑑定師

からあげ定食

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3話 ギルドの活用法

3話①

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 商業ギルドで登録を済ませた兎海は、ギルドで貸し出していた大きな籠を提げ、ほくほくとご満悦な笑みを浮かべて昨日入ってきた門へと向かって大通りを歩いていた。

(いやー、ギルド様様ってねー!)

 それは商業ギルド職員パープが迂闊にも口にした「質問があったら何でも聞いて」の言葉。その言葉を傘に、一般市民に聞けば鼻で笑われそうな常識周りを一気に習得したのである。パープも当初はなぜそんなことを聞くのかと困惑していたが、学習意欲の高い兎海の顔を見て意識を改めたのか何なのか、意気揚々と教えてくれるようになった。
 早朝からギルドに向かい、時間も忘れて様々なことを聞きまくったため、ギルドを出たときは他の職員が昼休みから戻ってきたところであった。パープの休憩時間を遅らせてしまったことに謝罪したが、彼女は気にするなと笑ってくれた。あれだけ質問攻めにしたにも関わらず、まだ何かあればいつでもどうぞ、と明るい笑みで言ってくれた。彼女は仕事中毒なのかもしれない。
 しかし一般常識を知識として取り入れただけなので、まだまだ教わらなければならないことは山ほどある。

(これから暫く朝はパープさんのところに行って勉強して、昼は外で採取、夜は酒場で皿洗いのバイトしよっかな。うーん、充実するなー!)

 スキップでもしそうなくらい軽やかな足取りで門を潜ると、昨日とは異なる二人組が門番をしていた。ちょっと素材採取に行ってきます、と明るく元気に告げてさっさと門を後にすれば、彼らも道中気を付けて、と送り出してくれた。
 目的はもちろん、昨日罠を張った小さな森である。パープ曰く、ギルドカードを登録した直後の依頼はあの森で達成できるものらしい。犬型の魔物、ラキシオンもさほど強くはないため、序盤のクエスト向きなのだとか。安物ではあるが採取道具や武器、防具一式も、ギルドが格安で貸し出してく れる。兎海の提げている大きな籠の中にも、採取道具が詰め込まれている。
 街からしばらく砂利道を歩いて目的の森に着くと、茂みに注意しながらツコの木の元に急いだ。深くない場所にここ二日お世話になった小さな果樹が見える。その手前の茂みには───

(居た!)

 ツコの黄を囲む背の低い茂みの数ヶ所に、四つ足の生き物が引っかかってジタバタしている。
正直、何か掛かってくれればいいと思いはしたものの、素人造りの罠がまともに機能するとも思っていなかった。ある程度距離を取った場所で、ガサガサと忙しなく葉の擦れ合う音を立てる方向へ目をやる。そこには、狐のような生き物が頭を出したり引っ込めたりと踠いていた。

(狐、にしては変な色……)

 狐すら写真や動画でしか見たことのない生き物ではあったが、その毛並みは緑がかった金色をしていた。その上、野生動物故か毛皮の色艶はよくないようで、くすんで見える。兎海はさて、とひとつ息を吐いてから、一旦その場から離れた。
 罠は蔓を輪っかに結んだものを、高い位置にある木の枝の上を通し、近くの低い枝に括り付けた簡素なもの。蔓はその辺りに自生していたもので、よもや野生動物が引っ張って千切れないほどの強靭さとは思っていなかった。昨日は指の爪を使い、蔓に傷をつけることで切断に成功しているが、今日は採取道具を借りているので小型のナイフでサクサクと切り落としていく。おそらく横からの切断に弱く、縦に引っ張る力には強いのだろう。罠に掛かったモンスターを縛る必要もあるだろうので木に巻き付いた蔓を毟り取っては腕を広げた程度の長さで切断する。それを数本用意すると、いよいよ罠の方へ向き直る。

(あんまり近付きたくはないけど……)

 ツコの木を正面に見据え、獣の唸り声とガサガサという激しい葉擦れの音がする茂みの一つに、兎海はそっと手を伸ばす。蔓の先を木に括り付けているので、ピンと張られたそれがツコの木に向かっていること、それが兎海に背を向けていることを教えてくれる。人差し指と中指をピンと立て、静かに、そして素早く下から上に振る。リン、と鈴の音が聞こえると、伸ばした指の先に半透明のウィンドウがゆらりと立ち上がる。


 ラキシオン
 獣系モンスター。気性が荒い。
 毛皮、骨が素材になる。肉に筋が多く、食用に向かない。

 討伐:平均


(ラキシオンで合ってた……ありがとうパープさん!)

 ギルドの応接室にて、熱心に対応してくれたハーフリングの受付に心の中で感謝の念を送る。彼女に尋ねた情報の中に、もちろんラキシオンも入っている。近くの森に出ると聞いたが見たことはない───そんな風に伝えると、パープは分厚い辞典まで取り出して鼻息荒く説明してくれた。印刷技術が低いのか、はたまた編集者に絵心がなかったのか、その辞典に載っているラキシオンの絵は狐よりもフェネックに似ているように見えた。フェネックもやはり本物は見たことがないのだが。
 木々の隙間を縫い茂みの隙間から暴れる獣を見やれば、目測で体高30cmほどの四つ足の獣が、首を吊られる形で後ろ足で立ち、前足で宙を掻いていた。

(しかしどうやって捕まえたものかな……)

 足音に気をつけながら罠からピンと張った蔓の根本、結んだ木の枝の真下まで移動する。太めの枝を選んでいたので、ラキシオンが暴れてもびくともしていない。手の届く位置に結んだ蔓と、放り投げて引っ掛けた高い位置に伝う蔓、そしてラキシオンの首に巻きつく罠。

(これは……アレだな)

 結び目と高い位置の枝にピンと張った蔓に、手を伸ばす。蔓を掴んでくいっと軽く引いてみるが、罠の先にいるラキシオンはそれに気付かないのかジタバタと踠いている。蔓を両手でしっかりと掴み、ふう、とひとつ息を吐いてから、兎海は懸垂をするように腕を曲げて、思い切り地面を蹴った。ジャンプしたまま足を伸ばさず、重力に任せて落下する。

「ギャアアッ」
「うひぃ!」

 獣の鋭い叫びが聞こえたあと、目の前を獣が横切った。首を吊られ中を浮いたラキシオンが、兎海の目の前まで遠心力で振れているのだ。ぶらん、ぶらんと揺れるそれには、先ほどまで元気にしていた様子───生きている気配がしなかった。

(うおお……あっさり吊れたけど気持ちの良いもんじゃないな……)

 握っていた蔓を片手ずつ離すと、するすると吊られたラキシオンが降りていき、草の上にとさりとその姿を落とした。はあああ、と深い息を吐いてから、兎海は思わず両手を合わせてナンマイダーと適当な念仏を唱えてしまう。無宗教ながらついついこういうシーンでは手を合わせてしまうのが日本人というものだろう。


───
次回 10/15 12:00 3話② 更新予定
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