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3話 ギルドの活用法
3話④
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はい、と目の前の二人の女性が頷く。曰く、狩猟を伴う納品依頼は冒険者ギルドで斡旋しており、冒険者ギルドで納品後、解体された素材の中で商業ギルドに必要な分を納品する。商業ギルドでもそのままの納品はできないことはないが、解体が有料オプションになるため、一回冒険者ギルドを通すのが一般的のようだ。冒険者ギルドを介するには、そちらのギルドでも登録をする、ギルド登録した冒険者とパーティを組むのが理想であるらしい。今回は初回のため、これから冒険者ギルドに加入すれば解体料は免除してもらえるとのことである。
「冒険者ギルドではぁ、定期的に依頼を受けることが必要でぇ、更新手続きがちょっと面倒なんですねぇ」
「それと、解体料が無料になる分、初回の登録料も商業ギルドより少し高めになります」
商業ギルド加入時、カード発行料と合わせて100m払っており、現在の所持金は100m。10m硬貨は10枚入ったポケットを軽く撫でてから、お恥ずかしい話ですが、と切り出すことにした。隠し通せるわけもあるまい。
「所持金が心許なく、登録料が払えないと思います」
「なるほどぉ……ではお先にぃ、薬草類を換金してしまいますねぇ。そうすればぁ、足しになるかもしれませぇん」
金髪の受付嬢は採取籠を預かり、ローテーブルの上に中身を広げていった。ついでに借りていた採取道具なんかも一緒に返してしまう。テーブルに載せられた野草類と木の実はあまりに少なく、適当に採取をしてきたのが悔やまれる。
「では計算の間に、ラビさんの能力値の確認を致しましょう」
キサラは細い腕を水晶の嵌まった杖に絡め、うふふ、と微笑んだ。商業ギルドのランク査定にもステータス確認は必要で、ランクや能力値が高くなると買取額にも差がついてくるらしい。熱心にランク上げをするのは商人が多いらしいが、兎海は商売で生活するつもりはないのでそこまで気にする必要はないだろう。
「それでは、能力値を確認させて頂いても宜しいでしょうか?」
「あ、はい、お願いします」
キサラがさっと杖を構えたので、それを使ってウィンドウを立ち上げるということだろう。転生ものあるあるでチートな数値が並んでいたらどうしようかなー、などと不埒なことを考えつつ、兎海は椅子に腰掛けたままキサラに背中を向けた。
「えっ……」
「え?」
ソファに座る腰を少しずらして、横を向くような姿勢になっただけ。それだけで、キサラは短く息を飲んだ。首だけでキサラを振り返ると、キサラは受付嬢と顔を見合わせている。今度こそ困った表情だ。
(え? なに? もしかして窓が後ろに出るのって私だけなの?)
だとすれば、お願いしますと言った手前、いきなりいらんことをしてしまったということになる。慌てて慣れていないもので、と姿勢を正面に正そうとすると、キサラは手を頬に当てたまま、大丈夫です、と小さく声をかけてきた。
「失礼致しました、素直に背中を任せて頂けるとは思っておりませんでしたもので」
この物言いから、背中を見せることは間違っていなかったようだ。しかし、背中を見せること自体に問題がある、というように聞き取れる。再度首だけで恐る恐るキサラを振り返ると。キサラは小さく肩を竦めてから、兎海の肩にそっと手を乗せた。
「あのね、ラビさん。幾らこちらがギルドの者とはいえ、軽率に背中を見せてはいけないんですよ」
「えっ? でもそれだと、鑑定できないですよね?」
「それはそうですけれど……ラビさん、どこかで鑑定を受けたことが?」
「ええ、何が書かれているかはわからなかったのですけれど」
兎海はこの世界に来てから、一度だけ自分のステータスを確認したことがあった。但し、案の定背中側に出てしまったので自分で読み取るのは難しく、内容の確認などは出来ていない。全て本当というわけでもないが、嘘を吐いているわけではない。自分で見たので鑑定を受けたかという部分の判定は少々厳しいかもしれないが。
「不思議ね……鑑定が使える者なら、普通はそのことも含めると思うのだけれど」
「と、とりあえず鑑定をお願いします、早く終わらせて頂けます?」
いつまでも背を向けているわけにはいかないと悟った兎海は、引きつった笑みを浮かべながら軽く自分の肩を叩いて見せる。そうね、とキサラが答えると、視界の端で水晶の杖が持ち上げられるのを捉えた。微かに動いた空気で自分の背中に水晶の杖が翳されていることを感じてから、無理な角度で振り返っていた首を正位置に戻す。
ヒィン、と震えるような音がして、肩越しに淡い光を感じる。ステータスウィンドウが開いたのだろう。背後からは紙にペンを滑らせる音がする。ステータスを書き写しているのか、ギルドならそういうこともあるな、などとぼんやり考える。
が。
それよりも気になっていることがある。
(今キサラさん、「鑑定が使える者」って言った!? 万人が使えるもんじゃないってこと!?)
兎海はこの二日、蛇口を捻るくらいの気軽さで鑑定を使ってきた。四方やそれが貴重なスキルだとは知らずに、何度も。一応他人の目がない場所でのみ、という縛りを課しておいてよかった。こんなところで無自覚チートとは、異世界転移の王道を突き進んでいる気がしてきた。
(っていうかもしかしたらステータスにそういうスキルの記載とかあるんじゃないの!?)
やはりあっさりと鑑定させたのはまずかったか。しかし冒険者ギルド加入の話が出たからには鑑定を受けないわけにはいかない。詰みの状態というやつだ。鑑定が終わったら話をしよう、洗いざらいぶち撒けよう───兎海は心の中で拳を握り決意を固めるのだった。
───
次回 10/23 12:00 3話⑤ 更新予定
「冒険者ギルドではぁ、定期的に依頼を受けることが必要でぇ、更新手続きがちょっと面倒なんですねぇ」
「それと、解体料が無料になる分、初回の登録料も商業ギルドより少し高めになります」
商業ギルド加入時、カード発行料と合わせて100m払っており、現在の所持金は100m。10m硬貨は10枚入ったポケットを軽く撫でてから、お恥ずかしい話ですが、と切り出すことにした。隠し通せるわけもあるまい。
「所持金が心許なく、登録料が払えないと思います」
「なるほどぉ……ではお先にぃ、薬草類を換金してしまいますねぇ。そうすればぁ、足しになるかもしれませぇん」
金髪の受付嬢は採取籠を預かり、ローテーブルの上に中身を広げていった。ついでに借りていた採取道具なんかも一緒に返してしまう。テーブルに載せられた野草類と木の実はあまりに少なく、適当に採取をしてきたのが悔やまれる。
「では計算の間に、ラビさんの能力値の確認を致しましょう」
キサラは細い腕を水晶の嵌まった杖に絡め、うふふ、と微笑んだ。商業ギルドのランク査定にもステータス確認は必要で、ランクや能力値が高くなると買取額にも差がついてくるらしい。熱心にランク上げをするのは商人が多いらしいが、兎海は商売で生活するつもりはないのでそこまで気にする必要はないだろう。
「それでは、能力値を確認させて頂いても宜しいでしょうか?」
「あ、はい、お願いします」
キサラがさっと杖を構えたので、それを使ってウィンドウを立ち上げるということだろう。転生ものあるあるでチートな数値が並んでいたらどうしようかなー、などと不埒なことを考えつつ、兎海は椅子に腰掛けたままキサラに背中を向けた。
「えっ……」
「え?」
ソファに座る腰を少しずらして、横を向くような姿勢になっただけ。それだけで、キサラは短く息を飲んだ。首だけでキサラを振り返ると、キサラは受付嬢と顔を見合わせている。今度こそ困った表情だ。
(え? なに? もしかして窓が後ろに出るのって私だけなの?)
だとすれば、お願いしますと言った手前、いきなりいらんことをしてしまったということになる。慌てて慣れていないもので、と姿勢を正面に正そうとすると、キサラは手を頬に当てたまま、大丈夫です、と小さく声をかけてきた。
「失礼致しました、素直に背中を任せて頂けるとは思っておりませんでしたもので」
この物言いから、背中を見せることは間違っていなかったようだ。しかし、背中を見せること自体に問題がある、というように聞き取れる。再度首だけで恐る恐るキサラを振り返ると。キサラは小さく肩を竦めてから、兎海の肩にそっと手を乗せた。
「あのね、ラビさん。幾らこちらがギルドの者とはいえ、軽率に背中を見せてはいけないんですよ」
「えっ? でもそれだと、鑑定できないですよね?」
「それはそうですけれど……ラビさん、どこかで鑑定を受けたことが?」
「ええ、何が書かれているかはわからなかったのですけれど」
兎海はこの世界に来てから、一度だけ自分のステータスを確認したことがあった。但し、案の定背中側に出てしまったので自分で読み取るのは難しく、内容の確認などは出来ていない。全て本当というわけでもないが、嘘を吐いているわけではない。自分で見たので鑑定を受けたかという部分の判定は少々厳しいかもしれないが。
「不思議ね……鑑定が使える者なら、普通はそのことも含めると思うのだけれど」
「と、とりあえず鑑定をお願いします、早く終わらせて頂けます?」
いつまでも背を向けているわけにはいかないと悟った兎海は、引きつった笑みを浮かべながら軽く自分の肩を叩いて見せる。そうね、とキサラが答えると、視界の端で水晶の杖が持ち上げられるのを捉えた。微かに動いた空気で自分の背中に水晶の杖が翳されていることを感じてから、無理な角度で振り返っていた首を正位置に戻す。
ヒィン、と震えるような音がして、肩越しに淡い光を感じる。ステータスウィンドウが開いたのだろう。背後からは紙にペンを滑らせる音がする。ステータスを書き写しているのか、ギルドならそういうこともあるな、などとぼんやり考える。
が。
それよりも気になっていることがある。
(今キサラさん、「鑑定が使える者」って言った!? 万人が使えるもんじゃないってこと!?)
兎海はこの二日、蛇口を捻るくらいの気軽さで鑑定を使ってきた。四方やそれが貴重なスキルだとは知らずに、何度も。一応他人の目がない場所でのみ、という縛りを課しておいてよかった。こんなところで無自覚チートとは、異世界転移の王道を突き進んでいる気がしてきた。
(っていうかもしかしたらステータスにそういうスキルの記載とかあるんじゃないの!?)
やはりあっさりと鑑定させたのはまずかったか。しかし冒険者ギルド加入の話が出たからには鑑定を受けないわけにはいかない。詰みの状態というやつだ。鑑定が終わったら話をしよう、洗いざらいぶち撒けよう───兎海は心の中で拳を握り決意を固めるのだった。
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