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3話 ギルドの活用法
3話⑤
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「はい、もう宜しいですよ」
書き付けの音が止まり、ペンを置く音がして、ついで背後から放たれていた光が消えるとキサラが大変落ち着いた声を投げかけてきた。ステータスが表示された時間はものの5分程度だった気がする。あまり時間をかけるものでもないのだろう。
「これがラビさんの能力なのですけれど、概ね平均的ですわね」
兎海が体制を整えソファの正面に座り直すと、キサラが羊皮紙を見せてくれた。そこに列挙されているのは相変わらずの日本語だ。
◾️田◾️海
ヒューマン 女 26
レベル 4
名前の一部が読み取れない。本名は寺田兎海なので、この世界には「寺」と「兎」に該当する文字がない、あるいは兎海が見たことのない別の言葉が使われているということだろうか。名前の下にはRPGでお馴染みのステータスがズラッと箇条書きにされている。平均的ということはずば抜けて高い数値だとか、チート的な能力はないということだろう。レベルについてはよくわからないが、ラキシオンの狩猟が経験値になっていたりするのだろうか。
「お名前と年齢、間違いないかしら」
「あ、えっと、はい、大丈夫です。ラビは愛称で……本名を知られても問題はありません」
例えば平民は苗字を持たないだとか言われてしまうと困るところではあるが、大きな問題はないといえよう。愛称でギルド登録をしてしまった件については謝った方が良いのだろうか、などと考えていても、特にキサラの顔色が変わったようなことも窘められることもなかった。
生命力 657
腕力 150
知力 317
魔力 683
防御力 130
器用さ 422
敏捷 210
抵抗 763
幸運 304
ざっとステータスに目を通す。生命力、魔力というのがおそらくHPとMPに当たるだろう。腕力と防御力が低いのは、何の装備もない、鍛えもしていない女性なら仕方のないことだと思う。数値が高いのは抵抗、ついで器用さ、幸運。器用さや幸運はRPGならば生産性や技の発動に関係していた気がする。抵抗というのは馴染みがないが、免疫力のようなものだろうか。このあと時間に余裕があれば聞いてみよう。
「ええと、ギルドでランクを上げたり、鍛錬したりするとこの数値が上がっていく認識で合っていますでしょうか?」
「はい、概ねその通りです。鍛錬と言いますか、討伐や採取、生産によって各能力値が増加致します。ギルドから依頼を受けて、研鑽を積んで頂いて、完了時にその能力の測定を致します」
能力を伸ばすために依頼を受け、依頼で成長し、報告で能力の鑑定をして成長を確認する───というサイクルが確立されているらしい。例えば採取の依頼品を市場などで買って納品した場合には、状態が良いので高価な値が付くが、実際に採取はしていないので経験値にはならないのだとか。依頼をこなしたときに使用したスキルが能力の底上げに役立つということだろうか。
次に、加護と技能に目を移していく。
加護:◾️の◾️◾️手 ◾️◾️なる◾️主
技能:◾️◾️眼Lv◾️ 支援強化Lv5 料理Lv5 錬金術Lv5
なるほどわからん。名前のところは入る文字がわかっていたのでよかったが、今回に至っては何の検討もつかない。しかし、兎海に読めないだけであってこの世界の言語である可能性はある。ええいままよと加護の欄に並ぶ解読不能な文字を指差して聞いてみることにする。
「あのう、ここ、何て書いてあるんでしょう?」
「◾️の◾️◾️手、です」
駄目だった。もう一度聞き返してみたが、やはりわからない。音として何かとは聞き取れるのだが、意味のある言葉に聞こえないというか、言語として認識しないというか。その音を聞く一瞬だけ、ジャミングされたような、ノイズが耳と思考の邪魔をしている気がする。
これ以上は聞き返すのも悪いと潔く諦め、別の切り口から責めることにしてみた。
「加護と技能って何ですか?」
「加護は生まれ持って備わった恩恵です。能力では無いため鍛えることはできませんが、例えば成長の類の加護を持っていると、能力向上が顕著になる、といった報告がございます」
「では私の場合は?」
「◾️◾️手、という部分に治癒に長けた者、という意味があります」
「ではこちらは?」
「◾️主は人の上に立つ者という意味ですね」
「なるほどなるほど……」
詰まるところ、加護はパッシブスキルで技能はアクティブスキルという認識で良さそうである。魔力もそこそこにあるので、傾向から後方支援職、ヒーラーかバッファーとしてなら冒険者としてもやっていけないことはない、というようなものだろう。
(ただ、ヒーラーもバッファーもソロプレイには向いてないんだよな……っていうか別に冒険したいわけじゃ無いし)
技能には料理、薬学、錬金術がある。むしろこっちで生計を立てたい。血湧き肉躍る冒険よりも、スローライフを送りたいのである。薬学と錬成でポーションを作って売り捌けば、それなりのくらいができるのでは無いだろうか。
「ですが……」
兎海が将来の夢に瞳を輝かせようとした直後、唐突にキサラが深い溜息を吐き出した。ほっそりした顔の輪郭に長くて白い指を添え、悩ましげに眉根を顰める。サブカルチャー脳でなくてもわかる。この反応は、何かをやらかした時のものである。
「この、◾️◾️眼という技能なのですけれど」
同じく読めなかった文字で構成された技能。読めるものが多かっただけに確認しなくてもよいかとたかを括っていたが、や借り逃げられるものではなかった。というか、レベル表記から怪しい臭いがプンプンする。
「ええ、それが、何か」
「……この技能を発現した方は、国で召抱えられることになっております」
あかんやつだった。
───
次回 10/27 12:00 3.5話 更新予定
書き付けの音が止まり、ペンを置く音がして、ついで背後から放たれていた光が消えるとキサラが大変落ち着いた声を投げかけてきた。ステータスが表示された時間はものの5分程度だった気がする。あまり時間をかけるものでもないのだろう。
「これがラビさんの能力なのですけれど、概ね平均的ですわね」
兎海が体制を整えソファの正面に座り直すと、キサラが羊皮紙を見せてくれた。そこに列挙されているのは相変わらずの日本語だ。
◾️田◾️海
ヒューマン 女 26
レベル 4
名前の一部が読み取れない。本名は寺田兎海なので、この世界には「寺」と「兎」に該当する文字がない、あるいは兎海が見たことのない別の言葉が使われているということだろうか。名前の下にはRPGでお馴染みのステータスがズラッと箇条書きにされている。平均的ということはずば抜けて高い数値だとか、チート的な能力はないということだろう。レベルについてはよくわからないが、ラキシオンの狩猟が経験値になっていたりするのだろうか。
「お名前と年齢、間違いないかしら」
「あ、えっと、はい、大丈夫です。ラビは愛称で……本名を知られても問題はありません」
例えば平民は苗字を持たないだとか言われてしまうと困るところではあるが、大きな問題はないといえよう。愛称でギルド登録をしてしまった件については謝った方が良いのだろうか、などと考えていても、特にキサラの顔色が変わったようなことも窘められることもなかった。
生命力 657
腕力 150
知力 317
魔力 683
防御力 130
器用さ 422
敏捷 210
抵抗 763
幸運 304
ざっとステータスに目を通す。生命力、魔力というのがおそらくHPとMPに当たるだろう。腕力と防御力が低いのは、何の装備もない、鍛えもしていない女性なら仕方のないことだと思う。数値が高いのは抵抗、ついで器用さ、幸運。器用さや幸運はRPGならば生産性や技の発動に関係していた気がする。抵抗というのは馴染みがないが、免疫力のようなものだろうか。このあと時間に余裕があれば聞いてみよう。
「ええと、ギルドでランクを上げたり、鍛錬したりするとこの数値が上がっていく認識で合っていますでしょうか?」
「はい、概ねその通りです。鍛錬と言いますか、討伐や採取、生産によって各能力値が増加致します。ギルドから依頼を受けて、研鑽を積んで頂いて、完了時にその能力の測定を致します」
能力を伸ばすために依頼を受け、依頼で成長し、報告で能力の鑑定をして成長を確認する───というサイクルが確立されているらしい。例えば採取の依頼品を市場などで買って納品した場合には、状態が良いので高価な値が付くが、実際に採取はしていないので経験値にはならないのだとか。依頼をこなしたときに使用したスキルが能力の底上げに役立つということだろうか。
次に、加護と技能に目を移していく。
加護:◾️の◾️◾️手 ◾️◾️なる◾️主
技能:◾️◾️眼Lv◾️ 支援強化Lv5 料理Lv5 錬金術Lv5
なるほどわからん。名前のところは入る文字がわかっていたのでよかったが、今回に至っては何の検討もつかない。しかし、兎海に読めないだけであってこの世界の言語である可能性はある。ええいままよと加護の欄に並ぶ解読不能な文字を指差して聞いてみることにする。
「あのう、ここ、何て書いてあるんでしょう?」
「◾️の◾️◾️手、です」
駄目だった。もう一度聞き返してみたが、やはりわからない。音として何かとは聞き取れるのだが、意味のある言葉に聞こえないというか、言語として認識しないというか。その音を聞く一瞬だけ、ジャミングされたような、ノイズが耳と思考の邪魔をしている気がする。
これ以上は聞き返すのも悪いと潔く諦め、別の切り口から責めることにしてみた。
「加護と技能って何ですか?」
「加護は生まれ持って備わった恩恵です。能力では無いため鍛えることはできませんが、例えば成長の類の加護を持っていると、能力向上が顕著になる、といった報告がございます」
「では私の場合は?」
「◾️◾️手、という部分に治癒に長けた者、という意味があります」
「ではこちらは?」
「◾️主は人の上に立つ者という意味ですね」
「なるほどなるほど……」
詰まるところ、加護はパッシブスキルで技能はアクティブスキルという認識で良さそうである。魔力もそこそこにあるので、傾向から後方支援職、ヒーラーかバッファーとしてなら冒険者としてもやっていけないことはない、というようなものだろう。
(ただ、ヒーラーもバッファーもソロプレイには向いてないんだよな……っていうか別に冒険したいわけじゃ無いし)
技能には料理、薬学、錬金術がある。むしろこっちで生計を立てたい。血湧き肉躍る冒険よりも、スローライフを送りたいのである。薬学と錬成でポーションを作って売り捌けば、それなりのくらいができるのでは無いだろうか。
「ですが……」
兎海が将来の夢に瞳を輝かせようとした直後、唐突にキサラが深い溜息を吐き出した。ほっそりした顔の輪郭に長くて白い指を添え、悩ましげに眉根を顰める。サブカルチャー脳でなくてもわかる。この反応は、何かをやらかした時のものである。
「この、◾️◾️眼という技能なのですけれど」
同じく読めなかった文字で構成された技能。読めるものが多かっただけに確認しなくてもよいかとたかを括っていたが、や借り逃げられるものではなかった。というか、レベル表記から怪しい臭いがプンプンする。
「ええ、それが、何か」
「……この技能を発現した方は、国で召抱えられることになっております」
あかんやつだった。
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