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3.5話 寺田兎海の尋常ならざる転機
3.5話
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「ですので、国に報告が必要になってくるかと……でも、ラビさんの年齢を考えると、今まで秘匿していた罪が……」
「つ、罪になるんですか……!?」
商業ギルド副所長キサラ女史が曰く、「◾️◾️眼」は顕現率が極端に少なく、幼少期にたとえLv1であっても発現が確認されればその時点で国に軟禁───もとい、召抱えられるほど稀少な技能であるらしい。一人の子供を手に入れるために、軍すらも動くという。故に、「◾️◾️眼」を所持する兎海がこの歳で護衛も付けず出歩いているということは、技能を秘匿し国から逃亡している───この特殊な技能が発現した際には鑑定した者が報告する責務があり、鑑定された本人は王国へ赴くことが義務付けられている───ということになる。
「でっでも、さっきキサラさんも鑑定を使われたじゃないですか!」
「あれはギルドの所有する魔導具によるものであり、私の技能ではありません」
冒険者の能力を測るため、ギルドには鑑定能力を持つ魔導具が国から貸し与えられる。それも有限であるため、大きな街のギルドに限られ、使用者も所長と副所長のみとなっている。
いろんな意味で困惑した表情を浮かべるキサラに、何と声をかけたものかわからない。しかし、召抱えられるにしても罪人になるにしても、身柄を抑えられるというのはどうしても避けたい。絶対に飼い殺されるとサブカルチャーに浸かり切った脳がアラートを上げている。
「ギルド登録をされるくらいですから、逃亡されているという訳ではないと思うのですが……」
まずい。非常にまずい。異世界転移して二日、恙無く過ごせたおかげでイージーモードだの何だのと楽観視していたが、ついに年貢の納め時ということか。
いや。まだ、打つ手はある。
「……キサラさん。本当のことを、お伝えしたいと思います」
「それは、大変な苦労をされてこられたのですね……!」
「キサラさぁん、ラビさんを匿ってあげましょぉ~!」
今、兎海の目の前には、感涙を流しまくる美女二人が手を取り合って深く頷き合っていた。兎海が何をしたかといえば、少々ブラックな身の上話をさせていただいたに過ぎない。もちろん口から出任せではあるが。この話は、いつかおいおい語りたいと思う。
兎海の語る臨場感に溢れた作り話にすっかり飲まれた二人は、兎海を王国に罪人として突き出す気は全くなく、新たな羊皮紙を一枚取り出し、兎海のステータスを改竄する方向でサポートに回ってくれた。具体的には本名を消してラビとし、例の技能を差し障りのない「目利きLv3」という技能に書き換えた。これは同じ鑑定系の技能であっても、学習で身につくものだそうだ。所謂宝石商や学者などが取得する、物の価値を判断する、まさに鑑定眼のことだ。レベルについては、4以上は店を構えるほどの功績が必要なため、ソロの冒険者が高レベルだとそれはそれで怪しまれてしまうからという配慮付き。
「他の加護や技能は、秘匿しなくても大丈夫ですか?」
「そうですねぇ、◾️主の加護を持った方はぁ、領主様とかぁ、王族が多いと聞きますぅ」
「先導者、英雄といった実力者が持つことが多いと言われております」
人の上に立つ、つまりカリスマ性ということだろうか。とはいえ何の実感も湧かない。むしろ雇われの方が性に合っている気がする。長いものには巻かれたい日本人だもんね。
「◾️◾️手の加護がありますしぃ、治療院などを開けばぁ、繁盛するかもしれませんよぉ」
「治療院?」
病院のようなものだろうか。ヒーラーでバッファーなのだから相性は悪くないと思う。しかし、医療関係の知識を持っている訳でも、それこそ回復魔法が使えるかどうかもわからない。
「そうだわ!」
唐突にキサラが、パンと一つ手を打って立ち上がった。涙でメイクがボロボロに崩れてはいるがそれでも美貌を保ったままのキサラはキラキラと輝かしい笑顔を兎海に向け、白い手で兎海の手を掴んだ。
「この街にロンロという薬師がおりますの。そちらで錬金術を生業にされるとよろしいですわ!」
「あぁ~、ロンロ様なら安心ですぅ」
曰く、ギルド職員の末席で、事務作業などは一切せずにギルドに卸すポーションなどを作成する研究職とのこと。気難しい性格で人付き合いに向かず、能力は高いが弟子などを取ることが難しい。それゆえ、訳ありの兎海を匿うには持ってこいなのだとか。
「それは、逆に私が行っても大丈夫なんですか?」
「ギルドからの紹介状と、ラビさんが料理技能をお持ちということであれば追い出されないと思います」
「もしかして研究に没頭すると寝食を忘れる傾向がお有りですか?」
「よくおわかりで!」
ワーカホリックの世話役を兼ねるということか。
「ラビさんにはぁ、ロンロ様のところで住み込みで仕事を手伝って頂くぅ、という依頼を受けて頂きますぅ。勿論依頼料も発生しますよぉ」
「ついでに、納品の際にその技能でギルドに貢献頂けると幸いですわ」
「寝食と身柄の保証を、ギルドで受け持って頂けるんですから、高待遇ですわ。喜んで」
その日三人の女性は、固く手を取り合い結託するのだった。
(ところでキサラさんって副所長なんだよね? 所長に話通さなくていいのかな)
兎海は本日の査定料550m───ラキシオンの素材が1匹200m、薬草の買取に150m、冒険ギルド登録にマイナス200m───を受け取り、残り二日宿を堪能してからロンロ宅へ向かう約束、もとい依頼を取り付け、その日はギルドを後にした。
宿に戻っても皿洗いをまたやらせてもらって、小遣い稼ぎも忘れなかった。
───
次回 10/29 12:00 4話① 更新予定
「つ、罪になるんですか……!?」
商業ギルド副所長キサラ女史が曰く、「◾️◾️眼」は顕現率が極端に少なく、幼少期にたとえLv1であっても発現が確認されればその時点で国に軟禁───もとい、召抱えられるほど稀少な技能であるらしい。一人の子供を手に入れるために、軍すらも動くという。故に、「◾️◾️眼」を所持する兎海がこの歳で護衛も付けず出歩いているということは、技能を秘匿し国から逃亡している───この特殊な技能が発現した際には鑑定した者が報告する責務があり、鑑定された本人は王国へ赴くことが義務付けられている───ということになる。
「でっでも、さっきキサラさんも鑑定を使われたじゃないですか!」
「あれはギルドの所有する魔導具によるものであり、私の技能ではありません」
冒険者の能力を測るため、ギルドには鑑定能力を持つ魔導具が国から貸し与えられる。それも有限であるため、大きな街のギルドに限られ、使用者も所長と副所長のみとなっている。
いろんな意味で困惑した表情を浮かべるキサラに、何と声をかけたものかわからない。しかし、召抱えられるにしても罪人になるにしても、身柄を抑えられるというのはどうしても避けたい。絶対に飼い殺されるとサブカルチャーに浸かり切った脳がアラートを上げている。
「ギルド登録をされるくらいですから、逃亡されているという訳ではないと思うのですが……」
まずい。非常にまずい。異世界転移して二日、恙無く過ごせたおかげでイージーモードだの何だのと楽観視していたが、ついに年貢の納め時ということか。
いや。まだ、打つ手はある。
「……キサラさん。本当のことを、お伝えしたいと思います」
「それは、大変な苦労をされてこられたのですね……!」
「キサラさぁん、ラビさんを匿ってあげましょぉ~!」
今、兎海の目の前には、感涙を流しまくる美女二人が手を取り合って深く頷き合っていた。兎海が何をしたかといえば、少々ブラックな身の上話をさせていただいたに過ぎない。もちろん口から出任せではあるが。この話は、いつかおいおい語りたいと思う。
兎海の語る臨場感に溢れた作り話にすっかり飲まれた二人は、兎海を王国に罪人として突き出す気は全くなく、新たな羊皮紙を一枚取り出し、兎海のステータスを改竄する方向でサポートに回ってくれた。具体的には本名を消してラビとし、例の技能を差し障りのない「目利きLv3」という技能に書き換えた。これは同じ鑑定系の技能であっても、学習で身につくものだそうだ。所謂宝石商や学者などが取得する、物の価値を判断する、まさに鑑定眼のことだ。レベルについては、4以上は店を構えるほどの功績が必要なため、ソロの冒険者が高レベルだとそれはそれで怪しまれてしまうからという配慮付き。
「他の加護や技能は、秘匿しなくても大丈夫ですか?」
「そうですねぇ、◾️主の加護を持った方はぁ、領主様とかぁ、王族が多いと聞きますぅ」
「先導者、英雄といった実力者が持つことが多いと言われております」
人の上に立つ、つまりカリスマ性ということだろうか。とはいえ何の実感も湧かない。むしろ雇われの方が性に合っている気がする。長いものには巻かれたい日本人だもんね。
「◾️◾️手の加護がありますしぃ、治療院などを開けばぁ、繁盛するかもしれませんよぉ」
「治療院?」
病院のようなものだろうか。ヒーラーでバッファーなのだから相性は悪くないと思う。しかし、医療関係の知識を持っている訳でも、それこそ回復魔法が使えるかどうかもわからない。
「そうだわ!」
唐突にキサラが、パンと一つ手を打って立ち上がった。涙でメイクがボロボロに崩れてはいるがそれでも美貌を保ったままのキサラはキラキラと輝かしい笑顔を兎海に向け、白い手で兎海の手を掴んだ。
「この街にロンロという薬師がおりますの。そちらで錬金術を生業にされるとよろしいですわ!」
「あぁ~、ロンロ様なら安心ですぅ」
曰く、ギルド職員の末席で、事務作業などは一切せずにギルドに卸すポーションなどを作成する研究職とのこと。気難しい性格で人付き合いに向かず、能力は高いが弟子などを取ることが難しい。それゆえ、訳ありの兎海を匿うには持ってこいなのだとか。
「それは、逆に私が行っても大丈夫なんですか?」
「ギルドからの紹介状と、ラビさんが料理技能をお持ちということであれば追い出されないと思います」
「もしかして研究に没頭すると寝食を忘れる傾向がお有りですか?」
「よくおわかりで!」
ワーカホリックの世話役を兼ねるということか。
「ラビさんにはぁ、ロンロ様のところで住み込みで仕事を手伝って頂くぅ、という依頼を受けて頂きますぅ。勿論依頼料も発生しますよぉ」
「ついでに、納品の際にその技能でギルドに貢献頂けると幸いですわ」
「寝食と身柄の保証を、ギルドで受け持って頂けるんですから、高待遇ですわ。喜んで」
その日三人の女性は、固く手を取り合い結託するのだった。
(ところでキサラさんって副所長なんだよね? 所長に話通さなくていいのかな)
兎海は本日の査定料550m───ラキシオンの素材が1匹200m、薬草の買取に150m、冒険ギルド登録にマイナス200m───を受け取り、残り二日宿を堪能してからロンロ宅へ向かう約束、もとい依頼を取り付け、その日はギルドを後にした。
宿に戻っても皿洗いをまたやらせてもらって、小遣い稼ぎも忘れなかった。
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