メイドさんは最強の鑑定師

からあげ定食

文字の大きさ
21 / 27
3.5話 寺田兎海の尋常ならざる転機

3.5話

しおりを挟む
「ですので、国に報告が必要になってくるかと……でも、ラビさんの年齢を考えると、今まで秘匿していた罪が……」
「つ、罪になるんですか……!?」

 商業ギルド副所長キサラ女史が曰く、「◾️◾️眼」は顕現率が極端に少なく、幼少期にたとえLv1であっても発現が確認されればその時点で国に軟禁───もとい、召抱えられるほど稀少な技能であるらしい。一人の子供を手に入れるために、軍すらも動くという。故に、「◾️◾️眼」を所持する兎海がこの歳で護衛も付けず出歩いているということは、技能を秘匿し国から逃亡している───この特殊な技能が発現した際には鑑定した者が報告する責務があり、鑑定された本人は王国へ赴くことが義務付けられている───ということになる。

「でっでも、さっきキサラさんも鑑定を使われたじゃないですか!」
「あれはギルドの所有する魔導具によるものであり、私の技能ではありません」

 冒険者の能力を測るため、ギルドには鑑定能力を持つ魔導具が国から貸し与えられる。それも有限であるため、大きな街のギルドに限られ、使用者も所長と副所長のみとなっている。
 いろんな意味で困惑した表情を浮かべるキサラに、何と声をかけたものかわからない。しかし、召抱えられるにしても罪人になるにしても、身柄を抑えられるというのはどうしても避けたい。絶対に飼い殺されるとサブカルチャーに浸かり切った脳がアラートを上げている。

「ギルド登録をされるくらいですから、逃亡されているという訳ではないと思うのですが……」

 まずい。非常にまずい。異世界転移して二日、恙無く過ごせたおかげでイージーモードだの何だのと楽観視していたが、ついに年貢の納め時ということか。
 いや。まだ、打つ手はある。

「……キサラさん。本当のことを、お伝えしたいと思います」


「それは、大変な苦労をされてこられたのですね……!」
「キサラさぁん、ラビさんを匿ってあげましょぉ~!」

 今、兎海の目の前には、感涙を流しまくる美女二人が手を取り合って深く頷き合っていた。兎海が何をしたかといえば、少々ブラックな身の上話をさせていただいたに過ぎない。もちろん口から出任せではあるが。この話は、いつかおいおい語りたいと思う。
 兎海の語る臨場感に溢れた作り話にすっかり飲まれた二人は、兎海を王国に罪人として突き出す気は全くなく、新たな羊皮紙を一枚取り出し、兎海のステータスを改竄する方向でサポートに回ってくれた。具体的には本名を消してラビとし、例の技能を差し障りのない「目利きLv3」という技能に書き換えた。これは同じ鑑定系の技能であっても、学習で身につくものだそうだ。所謂宝石商や学者などが取得する、物の価値を判断する、まさに鑑定眼のことだ。レベルについては、4以上は店を構えるほどの功績が必要なため、ソロの冒険者が高レベルだとそれはそれで怪しまれてしまうからという配慮付き。

「他の加護や技能は、秘匿しなくても大丈夫ですか?」 
「そうですねぇ、◾️主の加護を持った方はぁ、領主様とかぁ、王族が多いと聞きますぅ」
「先導者、英雄といった実力者が持つことが多いと言われております」

 人の上に立つ、つまりカリスマ性ということだろうか。とはいえ何の実感も湧かない。むしろ雇われの方が性に合っている気がする。長いものには巻かれたい日本人だもんね。

「◾️◾️手の加護がありますしぃ、治療院などを開けばぁ、繁盛するかもしれませんよぉ」
「治療院?」

 病院のようなものだろうか。ヒーラーでバッファーなのだから相性は悪くないと思う。しかし、医療関係の知識を持っている訳でも、それこそ回復魔法が使えるかどうかもわからない。

「そうだわ!」

 唐突にキサラが、パンと一つ手を打って立ち上がった。涙でメイクがボロボロに崩れてはいるがそれでも美貌を保ったままのキサラはキラキラと輝かしい笑顔を兎海に向け、白い手で兎海の手を掴んだ。

「この街にロンロという薬師がおりますの。そちらで錬金術を生業にされるとよろしいですわ!」
「あぁ~、ロンロ様なら安心ですぅ」

 曰く、ギルド職員の末席で、事務作業などは一切せずにギルドに卸すポーションなどを作成する研究職とのこと。気難しい性格で人付き合いに向かず、能力は高いが弟子などを取ることが難しい。それゆえ、訳ありの兎海を匿うには持ってこいなのだとか。

「それは、逆に私が行っても大丈夫なんですか?」
「ギルドからの紹介状と、ラビさんが料理技能をお持ちということであれば追い出されないと思います」
「もしかして研究に没頭すると寝食を忘れる傾向がお有りですか?」
「よくおわかりで!」

 ワーカホリックの世話役を兼ねるということか。

「ラビさんにはぁ、ロンロ様のところで住み込みで仕事を手伝って頂くぅ、という依頼を受けて頂きますぅ。勿論依頼料も発生しますよぉ」
「ついでに、納品の際にその技能でギルドに貢献頂けると幸いですわ」
「寝食と身柄の保証を、ギルドで受け持って頂けるんですから、高待遇ですわ。喜んで」

 その日三人の女性は、固く手を取り合い結託するのだった。

(ところでキサラさんって副所長なんだよね? 所長に話通さなくていいのかな)

 兎海は本日の査定料550m───ラキシオンの素材が1匹200m、薬草の買取に150m、冒険ギルド登録にマイナス200m───を受け取り、残り二日宿を堪能してからロンロ宅へ向かう約束、もとい依頼を取り付け、その日はギルドを後にした。
 宿に戻っても皿洗いをまたやらせてもらって、小遣い稼ぎも忘れなかった。


───
次回 10/29 12:00 4話① 更新予定
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...