メイドさんは最強の鑑定師

からあげ定食

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4話 薬師ロンロ

4話⑤

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「それでは料理もわたくしの方で作らせて頂きます。 ロンロ様にご納得頂ける料理が出来るか未知数ですので一食50mとさせて頂いて」

 宿屋で食べた料理は肉や魚の料理が一品45mほどだった。故に、素人が作る料理ならメイン一つにパン、サラダ、スープと考えるとそんなものではないだろうかと踏んでいる。ここに関してはロンロも異論はないようでひっきりなしに頷いている。料理の腕は長い自炊生活によりある程度自信があるが、それでも異世界で通用するかと言われれば不安は残るので保険はかけておく。

「それから、朝食は今居るこちらで召し上がって、昼夕は実験室にお持ちする、という形では如何でしょう? 食べ終わった食器は廊下に出して置いてくだされば回収いたしますので」
「い、いいのか?」

 構いませんわ───兎海は朗らかに笑ってみせる。食事に50/回と書き足してから、料理の下にある買い出しの項目をペン先で示した。すると、ロンロはやはり先に見せたように、少し首を傾げて不思議そうに兎海を見つめてきた。

「依頼の中に材料調達、というものがございましたわね」
「ああ」
「それの日用品版だと思って頂いて差し支えないですわ。 主に食材の買い出しにかかる部分です。 報酬ではなく、かかった費用を請求させていただきます」
「わかった。 それじゃあ、これは?」

 納得いったと小さく頷いてから、最後の最後でやっと調子が出てきたのか、ロンロは修繕の部分を指差して示した。読んで字の如くだが、解説が欲しいというのであれば応えない訳にもいかない。

「このお家の修繕修復、お手入れをさせて頂きます。 今一番必要なのは……お庭の花壇でしょうか」

 家の前にあった小さな花壇。日当たりが悪いというだけではないだろう、その手入れのされていなさがありありと浮き出た可哀想な風景。その上ロンロはそこから実験の材料になる植物を採取しようと考えているのである。これは彼以外に管理するものが必要な状況だと物語っている。
 加えて、玄関。錆び付いてただの木の板が枠に嵌め込まれているに過ぎないあの扉を、スムーズに開閉できるようにならねばならない。ついでに言えば、玄関がああなのだから、各部屋の窓や台所などもどうなっているのか推して然るべきというものだ。

「一言で申し上げますと、ここは人が住んで生活できる環境ではございませんの」
「そ、そう、か……」

 兎海がハッキリ言い切ると、多少は覚悟していたロンロも考えが甘かったかと頭を垂れることになった。折角の機会なので「助手ではなく家政婦を雇うべき」とも伝えることにしたが、それに関しては既に試みられており、過去数度に渡って家政婦見習いの娘たちがやってきては数日で音を上げて出て行ってしまったという。

(あれ? もしかして安請負いした……?)

  土台を固めようとして、逆に厄介なことに首を突っ込んだのかもしれない。しかし、助手としてやってきた兎海がここまで手筈を整えてしまった手前、もう一人雇え増やせというのも気が引かれ、助手兼家政婦の位置に収まることにした。取り敢えずまず「助手業より家政婦業に重きを置く」と断ったが、ロンロは嫌な顔せず二つ返事で承諾した。人が住めない、と断言されたことに危機感でも覚えたのだろうか。一先ずは今日は兎海に与えられた個室と台所の掃除に注力し、台所が片付かないあこと前提で食べ物を買ってくる方向で話をつけた。
 因みに依頼料は3日毎、納品時にギルドから日当の300mが支払われるらしい。それ以外の雑務に関しては薬品の買取後、ロンロの家に戻ってからということになった。


 兎海がロンロの家で住み込みを始めてから3日、初めての納品日。暫くはロンロの許可を取り助手としてではなく家政婦として家の掃除、庭の手入れ、扉の修繕をこまめに行っていた。その甲斐あってか、台所から実験器具は取り除かれダイニングは食事ができる場所となり、庭の花壇にはぽつぽつと若い緑が芽吹き始め、玄関の扉はほんの少し開くようになっている。

「では、ギルドへ納品して参りますわね」
「ああ」

 2階から1階へ薬品を下ろし、実験室に篭る背中に声をかける。行ってらっしゃい、とか気を付けて、とか言ってこない辺りがロンロらしい。
 1階、玄関の外には小さな荷車が一つ。近所の厩に声をかけ、手頃なサイズのものを借りておいたのだ。初回はタダで貸してくれたが、次回からはお金を払おうときめている。いくら近所付き合いが良い───庭の手入れの際に近所に愛想を振りまいている───とはいえ、厩は商売でこの荷車も商品の一部なのだから、きっちりしておいたほうが良いと思った。但し、友人価格というか、ご近所のよしみでお安くしてもらえればいいなぁなどと都合の良いことを考えなくもない。
 そんな訳で荷車に木箱二つを積み込んだ兎海は、黒のメイド服を翻し、ギルドへと向かうのだった。
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