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本編
参戦
しおりを挟むドレスができあがる前に、手持ちのドレスを纏って規模の大きくない夜会にヨハネスのエスコートで出てみた。
何度か夜会の大小にかかわらず、できる範囲で参加してみてアマーリエなりに場慣れしてきた。
女騎士のアマーリエは夜の出動は免除されているが、ヨハネスは参加しなくてはいけない。しかし、家の絡みで参加しなければいけない夜会などには参加しても良いことになっているため、それを口実に夜勤をしない日は参加していた。
また、アマーリエも「将来的な夜会デビューに向けてプレデビューします」と理由をつけて夜会に参加していた。ヨハネスが同伴ということは伏せつつ、家に来た招待状の中から参加していると伝えているので、兄の誰かと参加していると思ってくれているだろう。
薔薇の雫がいつ使用されるかわからないため、用意された豪華な食事も食べず、ビスケットすらつままず、あらかじめ食事を済ませての参加だった。
ただヴェッケンベルグ家の招待状で参加した時には、イルムヒルデが返事を書くときに「プレデビューであるため不慣れ云々」と書いてくれていた。娘を思って書き添えてくれた一言もあってプレデビュー枠での参加となったため、夜遅くまでいることは叶わなかった。しかし、騎士として働いているということは知っている方がほとんどだったために、ある程度いても不審がられることはなかった。
また十八歳の年になってもデビューを済ませていない理由を、アマーリエが思う以上に知っていてくれているようだ。
ヴェッケンベルグ辺境伯家の一人娘が茶会デビューの時に泣かされて以来社交界に出ていないという話は割と有名で、ディーゼル伯爵家の伝手で参加した夜会でも比較的同情された。中には下に見られているなと感じたこともあったが、おおむね同情的だった。
というのも、ドロテアの我が侭ぶりとケッテラー侯爵の親馬鹿ぶりは有名だったからだ。
社交界に疎いアマーリエはまったく知らず、自分を取り巻く事情すらも知らなかった。ヨハネスはちゃんと把握していてくれたようで、アマーリエを上手くフォローしていてくれた。
参加して噂を集めつつ、怪しい動きがないかこっそりと裏手を探っている。
一カ月半ほどの成果は酔っ払いに絡まれた令嬢を助けたことが数件ある。大変感謝されて、実家に礼状が届いた事もあった。
三月も終わりに近づくと夜の寒さも少し和らいできたため、庭園の片隅でカップルがいちゃいちゃしていて、襲われている場合と間違いやすい。
アマーリエはまだ社交界に疎いこともあり、婚約関係にあるのか不倫関係にあるのか、襲われているのかわからないのでしばらく観察する羽目になって、正直げんなりすることもあった。
(知らなかったわ……夜会の片隅でこんなことが起きているなんて……)
知らずにいた世界を知ってしまって心が重い。しかもヨハネスが隣にいるときに見てしまったこともあって気まずかった。
ただ、一カ月半もすれば少しは慣れてきた。夜会での話にも慣れてきたので、問題なくこなせるようになったと思う。アンナは「社交は慣れと根性」と言っていたし、エリーゼは「困ったら否定も肯定もせずに笑っていなさい」と助言をくれていた。
エリーゼはさらに「人気のないところには行かないのよ」と言ってくれていたが、言いつけはあまり守れていない。
(怪しいことをする人たちって、人気のないところにいるんだもの)
ヨハネスが親戚の侯爵につかまってしまったため、アマーリエは「風にあたってきます」と言って庭に出てきた。
ヨハネスの伝手で潜り込んだ侯爵家のパーティーだ。侯爵家の邸宅での夜会であるため、屋敷は広く死角になりそうな箇所は多い。庭も綺麗だが広く、不埒な狼藉者がいる可能性がある。薔薇の雫の件も重要だが、狼藉物を捕まえるのも騎士として貢献することにつながるだろう。
しかし、あまり一人で奥に行くのも危険である。奥にある倉庫などは一人で回らず、ガゼボなどの位置の把握だけしておくことにする。
今日はフリードリッヒにもらったピンク基調のドレスと金の鎖の華奢なネックレスだった。ドレスは上等の生地をふんだんに使い、デコルテがあいた若者向けのデザインだった。もう少し先の八重咲の薔薇のようでかわいらしくて好きなデザインなので、春は着る機会が多そうだ。
ネックレスも春めかしいピンクダイヤモンドで花模様を作ったもので、金の鎖で豪奢というより華奢なもので、これも若者向けのデザインだ。気に入っているのは可愛いからという理由もあったが、十数個の花のうち二つだけタンザナイトとブルーダイヤモンドがあしらわれているからだった。ブルーダイヤモンドはアマーリエの瞳の色で、もう一つの色はフリードリッヒの色だった。
(団長……今日も頑張ります)
多元性ブルーは何度見ても心がときめく。同時に心が引き締まる。時々このネックレスをつけて調査に挑んでいる。
奥のガゼボまで、石畳ではなく芝生を歩く。石畳をヒールで歩くとさすがに足音がするため、芝生をゆけば足音は消せる。
(今度、エリーゼお姉さまにヒールの時にあまり音のしない歩き方がないか聞いてみよう)
ヒールでの走り方はエリーゼに聞いて練習して挑んだのだが、音が響いて接近に気付かれてしまうので実用性が高くないように思う。
「……っ?」
何かが微かに聞こえた。引き裂くような高めの音――悲鳴だ。
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