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本編
ヴェッケンベルグの家訓 2
しおりを挟む「それでね、ここに置いてあるアクセサリーとドレスの確認をしようと思って帰ってきたの」
「あら、ドレスの仕立てはしないの? せっかくの夜会なのよ」
「ううん、それは本当のデビューまで取っておきたいわ。お母さまともじっくり相談して作りたいの」
社交界デビューのときのドレスは白と決まっているが、プレデビューは決まっていない。ただ若年ということもあってパステル系の色か、原色でも愛らしいデザインのドレスが多い。
「そうだね、母上もお喜びになると思うよ」
「そうね。デビューの衣装を考えるのは毎回とっても楽しかったってお姉さまたちは言っていたわ。もちろん、私もレースを選んだり楽しかったわ。じっくり選んだ方がいいわね」
ヴェローニカは母親を小さいころに亡くしている。ヴェローニカの一番上の姉がデビューの手伝いをしてくれたのだろう。
ヴェローニカは「そうだわ」と嬉し気に手をたたく。
「じゃあ、既製服は? 既製服の手直しだったら十日から二週間あれば手元に届くわ」
「そうなの? ヴェラ義姉さま」
裁縫が得意な母親を持ち、なおかつ裁縫王国であるヴォルティエ王国が近かったため、アマーリエにとって服というものはすべて母親がいつの間にか用意してくれるものだった。たまにサイズを測った記憶しかない。
基本的に既製服を着たことがなかったので選択肢に入れてなかったが、思えばフリードリッヒが贈ってくれた最初のドレスは既製品手直しだった。数時間で直してくれたが、職人はさぞ大変だったのだろうと今更に思った。
「ええ。だからね、今から仕立て屋を呼びましょう。見本をいくつか持ってきてくれるし、カタログもあるのよ。一緒に選びましょう。選んでたら義母さまもお戻りになるわ」
「ではそうするわ、ヴェラ義姉さま」
仕立て屋のカタログや見本から選んだことはあるし、助言ももらえるからアマーリエでも選べるだろう。さらにヴェローニカも一緒に選んでくれるなら変なドレスは選ばずに済む。
「アクセサリーはフリードリッヒさまからいただいたものがあるのでしょうけど、私とおそろいのバレッタを選びましょう。夜会向けのバレッタは持っているみたいだから、普段に使いやすいものがいいわ」
「はい、ヴェラ義姉さま」
(何だか本当に姉妹のようだわ)
男兄弟の中で育ったことには何の不満もないが、姉妹らしい行為にあこがれがあった。アンナが妹たちとおそろいのブレスレットを持っているそうだが、そういう姉妹でおそろいの品を持つのは素敵だなと思っていた。
夜会向けのバレッタはフリードリッヒがくれたものだ。デビューのお祝いにと贈ってくれた。
(フリードリッヒさま……)
フリードリッヒのことを思うと少し胸が痛む。辛い気持ちに押し流されないように小さく頭を振った。
「ヴェラ、アマーリエと一緒に選ぶのもいいけど、君からアマーリエに贈るドレスを選んでおくれ」
「あら、ギイさまもアマーリエを彩る素敵なドレスを選びましょう。妹を彩るドレスも選べない男は、愛する女性を彩るドレスの一つも選ぶ資格がないことと同じですわ」
ヴェローニカはうふふと笑って続ける。
「ドレスを贈るのは真心を贈るのと同じですもの。妹への真心を忘れては駄目よ、ギイさま」
ヴェローニカの言葉にギュンターは逞しい肩を震わせる。
「すばらしいよ、ヴェラ。……真心を忘れてはいけない、か。兄として大切なことだね。さすが私のヴェラだ。いつも君に助けてもらっている」
「だって、ギイさまの奥さんですもの」
ぎゅっと抱き合う二人をアマーリエは羨ましく思って見ていた。
(仲良しでいいなあ。……私は、フリードリッヒさまとはこういう感じにはなれないけど……結婚したらいつかしてみたいなぁ)
恋人や配偶者の膝に乗る、膝に乗せるのは定番である。愛する二人の当然の定番行為であるため、憧れがある。
自然に定番の格好になれる二人の仲の良さに、アマーリエは頬を綻ばせて茶で喉を潤した。
******
イルムヒルデが帰宅したあと、プレデビューしたいことと、ヴェローニカと選んだドレスやギュンターが選んだドレスを購入する旨伝えると涙ぐんで喜んでくれた。
本当の目的は違うので胸が痛む。
しかし、痛みにつられて俯かないようにしながら久々の町屋敷での会話を楽しんだ。
久々の町屋敷なので、誘われるがままにそのまま食事をしていくことになった。イルムヒルデと兄夫婦と楽しくおしゃべりをして遅くなってしまった。一人で帰るのは危ないと反対されてしまったので、帰りはギュンターが馬車で送ってくれることになった。
「今日はありがとう、ギイお兄さま。お母さまと話せてよかったし、ヴェラ義姉さまと一緒にドレスや小物も選べて楽しかったわ」
向かい合って座ったギュンターに告げると「それは良かった。また帰っておいで」と穏やかな笑顔で言ったあと、少しだけ表情を引き締める。
「ヴェッケンベルグの家訓は常に戦うことだ。戦いから逃げないことだ」
穏やかな声音は崩さず、少しだけ口調を引き締める。
「戦うためには考えなければいけない。有事だけではない、日常においても常に考えて進退を決めなければいけない。思い考えて、肌で感じる。人生において大切なことだけど、時にお前を傷つけることもあるかもしれない。でもね、お前を成長させてくれる糧にもなりうるんだよ」
穏やかな表情は真剣なものへと変わっている。ただ真剣な表情はアマーリエを慮ってくれているようだ。
ギュンターは馬車の中で跪いてアマーリエの手を取る。守るように手を包み込んでギュンターは続ける。
「だからね、傷つくことを恐れてはいけないよ。お前を愛しているよ、アマーリエ。お兄さまはお前を見守っている。胸を張りなさい。前を向きなさい。いいね、我が愛しき妹よ」
「ギイお兄さま……」
吹っ切って前向きに臨んでいたつもりだったが、アマーリエの態度から、何かしらを察したのだろうか。
ギュンターは本当にアマーリエをよく見てくれていて、愛してくれているのだと感じた。
「ありがとう、ギイお兄さま。大好きよ」
せり上がってきた感情に声が詰まってしまったが、それだけ言うと、ギュンターはアマーリエを黙って抱き寄せてくれた。
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