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本編
ヴェッケンベルグの家訓 1
しおりを挟む月に一度は町屋敷に帰ってくること、というのが騎士になる条件の一つだった。
『お父さまに顔を見せて差し上げなさい』
そのようにイルムヒルデに言われて、特に反対する理由もなく了承した。
しかし、北の小国フィンクスコーミが北の辺境伯である通称銀狼伯の領地のみならず北の国境に面した地域で広く略奪を行っている。
フィンクスコーミとの国境は完全にライアーベルクが隔てているものの、ライアーベルクを超えてやってくる。
積極的に攻めていかないのはラーヴェルシュタイン国の国柄である。しかし明らかな略奪行為である以上、国としての責任をという意味で戦争になってもおかしくないが、いまだ戦争には至っていない。フィンクスコーミ側からは少人数ずつ多数のグループ――つまりそれぞれの部族が勝手にやっている体での略奪であるため「こちらとしても遺憾である」というフィンクスコーミ側の態度でのらりくらりと、ラーヴェルシュタイン国の抗議をかわしているのだという。国が略奪を容認し、さらにある程度は支援していると密偵からの情報もある。
今も外交官同士の厳しい折衝が続いている。同時に略奪も続いている。物資を奪っていくだけで積極的な殺生行為は行っていないとはいえ、犠牲はでている。さらに食料が無くなるということは餓えという問題がある。
銀狼伯領以外の領地へのフォローをヴェッケンベルグも行っている関係でカルーフや兄たちは町屋敷にいないことが多くなっている。
普通の年でもイルムヒルデ以外は王都にとどまることは少ないのに、今年は夫婦で留まることはほとんどいないだろう。ヴェローニカが嫁いできて初めての社交シーズンなのでギュンターは比較的いることが多く、また頻繁に行き来することになるだろうということだった。
「アマーリエ、お帰り」
「お帰りなさい、アマーリエ」
実家の町屋敷について屋敷に入った途端、ギュンターとヴェローニカに抱きしめられ、熱烈な歓迎を受けた。
「ギイお兄さま、ヴェラ義姉さまただいま戻りました。お母さまはいらっしゃらないのかしら」
「ええ、義母さまはお茶会に行っていらっしゃるわ。本当は私も行く予定だったのだけど、ギイさまがいらっしゃるから今日は家にいることにしてましたのよ」
話をしながら居間に通されて、イルムヒルデの在宅を訪ねたが、不在と言われてしまう。
本当はヴェローニカには敬語で話すべきなのだが「本当の姉妹のように、気軽な話をしたい」と結婚式の翌日に話したときに言われて、敬語で話すのをやめて、兄たちと同じように話している。
(団長が時間を取ってくださったんだわ)
『馬車ではなく、馬で軽装で帰るようになるが、それでよければ一日や二日は滞在をのばすことができる』
そう言ってくれたためにヴェローニカと交流を測はかることができた。最低限の荷物を各自持ってフリードリッヒと護衛騎士で先行し、ローマンとハンゼルは他の荷物――大半は土産を馬車で昼夜押して運んでくれた。多少の時間差はあれど同じ宿で休めた。
アマーリエは机をはさんだ長椅子に座り、向かいに兄夫婦で座るが、ギュンターはヴェローニカを膝に乗せている。当たり前のように座っている兄夫婦の仲の良さに二人の愛を感じて当てられてしまいそうだ。
「どうしたんだい? 母上に用事があったようだけど」
ギュンターの問いに、アマーリエはヨハネスと打ち合わせをした通りに告げる。
「私、護衛デビューしたでしょう? だからね、正式な社交界デビューはまだだけど、そろそろ苦手克服のために、同期の人と一緒に思い切って夜会に参加してみようと思ったの。ただ、どこに参加するか招待状を見て決めようかと思って」
「まあ! プレデビューをしたいのね」
場の雰囲気になれるために、デビュー前に夜会の初めの方だけ参加することをプレデビューという。第五第六王女が早い時間のみ参加しているのがプレデビューにあたる。
「そうなの、ヴェラ義姉さま。そのうちデビューはしなくちゃいけないから、場馴れするには今からでも少しずつ参加しようって思ったの……」
「まあ、素敵よアマーリエ。私も一番上のお姉さまに連れられてプレデビューしたのよ。お酒禁止だったけど、雰囲気を味わうのも楽しかったわ」
手を合わせ笑顔を見せる義姉は「あら」と不思議そうに小首をかしげた。
「参加は同期の方としますの? フリードリッヒ・バルツァーさまではないのね」
「だ、団長はお忙しいので……同期の人のほうが時間も取れるし、気軽なプレデビューでいいと思うの。護衛デビューしたときに副長に「気負わずに、練習の通りにやってごらん」って言われたの。……そのおかげか、上手くできたから」
「まあ、そうなのね。……そうそう、護衛デビューといえば、みんなで見たのよ。立派だったわ。ギイさま……ううん、義父さまたちもみんな感動して見守っていたのよ」
「そうなの?」
ギュンターに視線を据えるとギュンターはにこりと笑った。
「堂々と立派な騎士姿だったよ。殿下も朗らかな笑顔で夜会を楽しんでいらっしゃった。お仕えした方が場を楽しむことができたということは、アマーリエの立派な成果なんだよ」
そこまで優しく言って目を潤ませた。
「ギイお兄さまっ?!」
いきなり涙ぐんだギュンターの反応にアマーリエは狼狽えてしまう。しかし、ヴェローニカは「あらあら」と微笑んでハンカチを取り出した。
「ああ、ヴェラ……。アマーリエの立派な姿を思い起こしたら、あの時の感動がよみがえってきてしまったんだ」
「ギイさまったら涙もろいんだから。……そういうところも大好きですけど」
ギュンターは涙をぬぐうヴェローニカを抱きしめる。
(仲良ししてる時に、声がかけ辛いわ)
アマーリエは二人が落ち着くまで茶を飲んで待つことにした。落ち着いてから声をかけることにした。
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