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第一夜 Executive Player「律」
安易な約束
しおりを挟む「リオ、おまえまた来たの?」
仲直りシャンパンを入れて数日もたたないうちに、リオはAquariusに足を踏み入れていた。シャンデリアを見上げられるソファ席に座り、リオはかわいらしく笑う。
「なにそれ~。来たら迷惑みたいな言い方じゃん」
「違えよ。こないだたくさん金使ってくれたからさ。心配してんだよ」
「大丈夫だよ。言ったでしょ。私が拓海のこと支えるって」
「そうだけど……でもほんとに無理すんなよ」
「大丈夫だって。昼間もたくさん稼いでるし」
「そう?」
拓海はぎこちなく笑う。
確かに、ホストクラブで売り上げに勝る名誉はない。
とはいえ、デリヘルで働くリオには、金を一気に使うためにも働いてほしいところだ。夜はなおさら、稼ぎ時なのだから。
頻繁に来て安酒を頼むくらいなら、締め日ギリギリまで働いて一気に散財してほしい。
「あのね、拓海。今日はちょっと掛けになっちゃうかも。でも次きたときに払うからいい? モエピンク」
律だったら。律だったら間違いなく断っている。
拓海は違った。なにせ、リオは先日、現金一括でおつりまで出したのだ。デリヘルで相当金を稼いでいるのは間違いない。たとえ少しの掛けを出したとしても、締め日までに入金する余裕はあるはずだ。
「おっけおっけ。俺のためにありがとな。でも絶対飛ぶなよ?」
「飛ぶわけないじゃん! 私には拓海しかいないんだから」
それからも、リオは拓海のために何度も店に通った。
同伴から店に入り、ボトルを二、三本おろして帰る。リオがいる日は必ず、拓海がラスソンを歌うことができた。店が終わるとアフターで一泊することもある。
この短期間で、拓海のために一番金を出すエースとしてなりあがった。Aquariusのホスト、スタッフが認知するほどの存在になった。
ボトルは掛けになることもあったが、次の来店時には必ず払っていた。たとえどんなに大きな掛けをしても、締め日を待たずに必ず回収できている。
だから、油断していた。
拓海は掛けることに抵抗を見せなくなっていた。
「あ、ごめん。拓海。今日持ち合わせないや」
シャンパングラスをあおっていた拓海が、間延びした声で返す。
「あ~、いくらだったっけ?」
「えーと、三百万」
「は?」
さすがに酔いが冷めたのか、ソファに座りなおし、リオに向き直る。リオはあっけらかんと笑っていた。
「今日さ、シャンパンタワー頼んじゃったじゃん? アルマンドで。予想よりも値段行っちゃったんだよね~」
「いや三百万はやばいだろ~」
「これからがんばって稼ぐからさ。最低でも入金日に全部払えばオーケーでしょ?」
いつもの調子で、悪びれもせず、リオは言う。
「あ~……ん~……でももうすぐ締め日もあるのに……」
「大丈夫だって! 私こう見えてデリの売れっ子なんだよ? 拓海を絶対に一位にのし上げるから、任せといて!」
実際、リオの金回りはいい。リオが頑張れば、律の売上を越えるのも夢ではない。
高額な掛けも、ホストにはよくあること。拓海は今まで回収できていたし、リオは今まで掛けをはらっている。
「……わかった。でもぜぇってぇ飛ぶなよ」
「も~、わかってるよ」
二人がいる卓席の後ろを、スタッフに連れられた律が通っていく。拓海の卓席の前に積まれていたはずのシャンパンタワーはすでに飲み干され、撤収されていた。
飛ぶ鳥落とす勢いの拓海だが、律が脅威に感じることはない。
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