夏休みの日常

かわし

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フードコートにて

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とあるフードコートの高校生三人組。そのうちの一人が天ぷらそばを前にこう言った。
 「俺もういいわ」
この一言がすべての始まりだった。
 「お、おい、まじかよ…」
 「お前…エビ天残ってるじゃねーか」
 「ああ、だが俺にはこいつは食えねえ。こいつはもう…汁に侵されている…」
彼の目の前にはふやけてバラバラになった衣と、一部が顕になったエビ天の姿があった。
 「俺、汁吸った天ぷら気持ち悪くて食えねえんだよ」
 「なぜ?一本目はあんなに美味しそうに食べてたのに…」
 「1本目の時点ではまだ俺の許容範囲だったんだ」
 「じゃあどうして、すぐ二本目に取り掛からなかった?」
 「俺は…俺は好きなものは最後に残すタイプなんだよ!」
彼は感情が高ぶり、思い切り机を叩いた。おわんの中は大きく揺れ、エビから衣が剥がれていく。
 「…分かった。ここはお前の意思を尊重しよう。そのエビは俺が食ってやる」
おわんに伸びる手。忍び寄る箸。天ぷらと呼ぶには少し無理があるエビ天がつまみあげられたまさにその時、エビを運ぶのを妨げるかのように前から一本の手がエビを運ぶ手首を掴んだ。落ちるエビ天。剥がれる衣。彼の目はチンピラと睨み合うかのような目力だ。
 「その権利は、俺にもある」
 「ハッ、何を言い出すかと思えば。こんなもんは早いモン勝ちに決まってんだろ」
 「おいおい、誰がこの前金の無いお前にパピコを半分やったと思ってるんだ?え?」
  「それはお前…って言うかそれはお前に宿題写させてやったお礼のやつだろーが」
 「お前前のテストの時筆箱忘れて俺に泣きついてきたのを忘れるな」
 「それを言うのは一年の時貸したままのマンガを返してからにしな」
 「クソッ、このままじゃ埒があかねぇ。とっとと正々堂々ジャンケンで決めるぞ」
 「仕方ねえ。望むところだ。あとマンガは返せよ」
二人はそれぞれの思うジャンケンの未来を見る方法で予言し、なぜか既に勝ち誇った顔をしている。二人の闘いはもう始まっているのかもしれない。二人はびどうだに
 「「ジャーンケーンホイッ!」」
机の上に出されたのはグーとパー。やはりジャンケンは言い出しっぺが負けるというジンクスを覆すことは出来なかったようである。
 「…っ、おい!今お前のペースでジャンケンしただろ。反則だ、もう一回やれ」
 「はいぃ?この後に及んでいちゃもんつけてくるんですかぁ?醜いねぇ。反則とかどこのルールブック見て言ってるのか教えて欲しいねぇ」
手も足も出ない相手を最大限バカにした顔で散々バカにしまくった後、とうとう戦利品をいただこうと箸を持つ手を上げたが、そこから動かない。呼吸も荒くなっており明らかにおかしい。
 「無い…なぜ無い。俺の勝利のエビ天はどこに行ったんだ。お前か?お前が食ったんだろ!」
 指をさされた前の男は諦めてうなだれていたが、その手を強く払った。
 「どうやったらお前の目を盗んでお前の横からエビ天を盗めるんだよ!せっかくこっちは諦めてこれからの楽しいことを考えてこのショックから立ち直ろうとしてるのに邪魔すんな!」
その時、そばを食べ終わってからずっと音楽を聴いていた彼があまりのうるささにイヤホンを外して事情を聞くと。
 「エビ天?ああ、それなら食べたよ。俺嫌いなの衣だけだから」
おわんにはふやけた衣とエビの尻尾だけが浮かんでいた。
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