バーレーンナイト

ミムラ

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前編

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「さあ、最後の直線!!二番手とは十分な差がある!!ドライバーのアルフレドは勝利を確信している!!今大歓声のなか、チェッカーフラッグ!!アブダビGP 勝利したのはモンスター・ホンタ!!アルフレド・マルティネス!!今季5戦目で初勝利!!」

中東の茹だるような暑さが続く、夜。世界でも最高峰とされるグランプリシリーズの第5戦。アブダビシリーズが3万人の大歓声のなか終わった。それは光輝く神秘的なお祭り。広大な砂漠の中にオイルマネーで作られた宮殿のようなサーキットで、最高のレーサーたちが最高のドライビングテクニックを競う。勝敗が決し、世界中から集まったセレブとメディア達からレーサーたちへの賞賛が続く時間。

「その部品のパッキングナンバーは記録してくれた?テオ?」

そんな華やかな舞台とは裏腹に、私は埃と暑さに格闘しながら作業を続けていた。

「記録したよ、ジュンコ。このシートは良いね。ボルトの詰め忘れが無いかも一目でわかる。」

「ありがとう、テオ。セイリ、セイトンよ。」

気の良いヨーロッパ人と会話をしながら、素晴らしい腕をもつメカニックたちがテキパキと分解する部品がパッキングボックスに詰められているのを確認する。

世界最高のカーレースはもちろん使われている車も世界最高であり、関わっている技術者も世界最高だ。過酷な戦いを終えた、マシンは1レース毎に必要な箇所を完全に分解し、チームのラボや次のレースの開催地への送られている。

私の仕事はロジスティクスチーム、すなわちチームの物流を管理するチームのアシスタントマネージャーである。ちなみにチームは私とテオの二人。テオがマネージャー、私がアシスタントマネージャー。マネージメントするメンバーはいない…。

私、中村順子は北陸地方のそれほど大きく無い地方都市に生まれた。母に言わせると、小学生の頃から時間があると古い機械を分解しているような変わった子供であったらしい。「変わりもの」確かにその自覚はある。高校生になる前から、実用を突き詰めた先にある美しさに惹かれ、航空機や高速列車、そしてスーパーカーが大好きな女子高生だった。いつかそれらの開発に関わりたい。そう思って猛勉強の末、国立の女子大に進学。日本でも有数の自動車会社に就職し、やっとの思いでモンスター・ホンタ・レーシングチームの一員になれたのに…。

「一体どうしてこうなった…」のである。

きっかけは些細な事だった。アシスタントとしてレーシングチームに配属されて3年、正直技術者としては目がでず限界を感じていた。自分なりに一生懸命やってはいた。それでも最高と言われる舞台で活躍するには、魔法のようなひらめき、悪魔のような集中力、そういった特別な何かが必要だった。そして残念ながら私にはそれがなかった。30も超え、正直来季は厳しいかもと感じていたある日、ふと目についたのが、テスト後のマシンの分解とパッキングである。

些細な違和感ではあった。それでも世界最高のメカニック達の作業にしては美しくないと感じた。レースは過酷である。1週間、若しくは2週間毎に世界をまわる。メカニックたちの作業が少しても楽になればと提案をして見たのが…。

「運命の分かれ目だったのかなあ…。」

整理整頓、見える化、定置定量、会社の研修で習ったような提案があれよあれよと採用され、私はめでたく二人きりのロジスティクスチームのアシスタントマネージャーに就任したのである。

「ジュンコ?」

おっといけない、集中力が途切れていた。このサーキットは今日の24時までに退場する必要がある。それまでに全ての作業を終えて、次の開催地にマシンを送り出さないと。それに次のレースの開催は2週間後。移動には少し余裕がある。ヤツがやってくる可能性が高い。

「お疲れさま、ジュンコ、テオ。」

くそう、もう来やがった。清潔な石鹸の匂い、汗とほこりに塗れて作業している私とは大違いだ。それに悔しいけど声も良い。落ち着いてるのに艶がある。遊び人と名高いスペイン人の遺伝子のせいかもしれない。

「お疲れ様、フレディ。もうパーティーは終わったのかい?」

穏やかにテオが答える。そう、そこには今日のグランプリの主役にして我らがエースドライバーであるアルフレド・マルティネスが立っていたのである。

「適当なところで抜け出してきたよ。騒がしいだけだからね。あんなパーティー。」

世界中のセレブが集まるパーティーをこともなげに切り捨てる。

「それでジュンコ、オシゴトは終わりそう?」

くそう、こんな所でそんな事を聞くんじゃない。テオの方が見れないじゃ無いか。

「・・まだしばらくかかる。今晩は難しいかも。」

可愛くないな、私。

「そう?明日はフリーだよね?何時になっても構わないから時間をもらえないかな?」

「・・作業が終わって、仮眠を取ってからでも良いなら。」

赤くなってないかな、私。

「ん、ありがと。」

テオはずるい、ここにはいないが私の上司である前田さんもずるい、二人ともこんなことが起こっているのにまるで気がついてないように振る舞う。

「ご褒美が欲しくてがんばったんだ…。」

耳元で囁くんじゃ無い!!

結局、仕事が終わって、宿に帰り、簡単にシャワーを浴びてから、仮眠をとって、フレディの部屋に向かったのは次の日の早朝だった。

黒いパンツに長袖のブラウス、上から薄いニットジャケットを羽織った格好で、アブダビの高級ホテルに入るのは気を使う。でも自分の宿を出るときにフレディに連絡を入れておいたので、彼がロビーで待っていてくれた。私と目が合うとニコッと笑う。少年みたいだ。いや実際若いのだ、私より7つ年下の24歳だったと思う。そんな彼がそっと私に寄り添い、スイートルーム専用のエレベーターまでエスコートしてくれる。エレベーターが閉まると彼が腰に手を回す。テオが宿泊しているスイートルームは一つの階を占有しているらしい。

エレベーターの扉が開くと、開放的で明るい、近代的でかつ、エスニックのエッセンスを取り入れた部屋が目に入った。フレディに軽く背中を押されるようにして部屋に入ると、彼が後ろから抱きしめ、私の首筋に唇を落とした。ごく平均的な日本人女性である私を180cm近い彼がそうすると、すっぽりと包まれたようになる。

「フレディ、待って明るいわ…。」

ゆっくりと彼が私の首筋にキスをしながら、優しくわたしの体を探る。自然と私も普段と違う声が出る。

「いや、待たない。もう一晩我慢したんだよ?十分待ったでしょ?君が欲しいんだジュンコ。」

フレディの手が、ブラウスの裾から服の中に入る。

「お願い、フレディ。シャワーを浴びたいの。それに服がシワになるのは困るわ…。」

そこまで言うと、名残惜しそうに私の体を弄っていたフレディの手が、渋々と私を離してくれる。

「ありがと…フレディ…」

私はフレディの手を離れ、場違いなスイートルームのバスルームに向かう。本当であればバスタブにお湯を張ってゆっくりと浸かりたい。でも「待て」をされてる、大きい犬のようなフレディを思い出して諦める。ざっとお湯を浴びて鏡を見る。あー顔が疲れてるなあ、ちょっと最近はお腹も気になる気がする…。バスローブを拝借して鏡と睨めっこしていると、ドアの外にフレディの気配がする。

「ジュンコ、大丈夫?」

大丈夫かと言われれば大丈夫じゃないよ、こっちは三十路、光輝くあんたとは違うのよ。下着どうしようと一瞬頭をよぎったけれど、バスローブだけを羽織って、えいやっとバスルームのドアを開ける。そこにはフレディが嬉しそうに待っていた。

フレディは私を引き寄せると、ほおに手を寄せて私の唇をうばう。軽く唇を合わせたあと、すぐに深いキスに移る。彼の舌がわたしの舌を絡めとり、唇を甘噛みされる。

「あっ、まずい…。」

フレディは本当に限界だったらしい、余裕が無く私の体を貪ろうとする。それに合わせて私の理性も薄れていく。フレディはグッと私を抱きしめながら、二人でもつれるようにベットルームに移動する。私がシャワーを浴びてる間にちゃんとカーテンは閉めておいてくれたらしい。薄暗いベッドルームの大きなベットに私を横たえると、フレディはもどかしそうにカットソーとデニムのズボンを脱ぐ。

フレディのほっそりとしながら適切に鍛えられた体に私はいつも見惚れてしまう。フレディは欧米人なのに体毛が薄い、それに清潔な石鹸の匂いがする。その匂いを嗅ぐといつも私は、はしたなく蕩けてしまう。

フレディは私の上に覆い被さると、キスを再開する。乱暴に私の唇と舌を奪いながら、右手が乳房を弄り始める。わきの下あたりから優しく触れられると私が弱いことをフレディはよく理解している。やがて私の唇を犯すことに満足したフレディの唇と舌は、私の首筋と鎖骨のラインを繰り返し味わい始める。

「ん、ふうっ…。」

ゆっくりとダイレクトに舐め上げれる舌の感触に、はしたなくも声が漏れる。フレディの舌は私の脇腹をあたりを舐め上げながらお腹の方へと移っていく。そうなると私もかなり出来上がってきて、フレディの柔らかい髪の毛をかき上げながら良いように鳴かされてしまう。

フレディは私のおへそにキスをしてから、取って返って私の乳房を味わい始める。フレディが軽く噛んだり、舐め上げたりをしていると、彼のが私の足に触れ存在を主張する。外国人のそれはそれほど硬くならないという話も聞くけれど、彼のそれはしっかりと硬い。私が着ていたバスローブは腕を通しているだけになっていて、私のからだの全てが彼の前にさらけ出されている。はしたない自分の姿を想像しながら、頂点を軽く噛まれると快感で私の腰が浮かび上がる。

いつもに比べると短い時間フレディは乳房と戯れると、ゆっくりとお腹にキスをしながら、下へ下へと下がっていく。フレディの手が私の膝の裏にかかり、左右に広げ軽く持ち上げようとする。

「待って、フレディっ、あはあっ。」

フレディの唇が私の太もも内側、付け根のあたりにキスをする。彼を受け入れる準備を始めていた私を、彼の頬が掠める。身をよじろうとするけれど、彼が優しく許してくれない。

「フレディっ、恥ずかしい!!」

いつも紳士的で優しいフレディは、私の訴えに答えてくれない。しっかりを足を開かせたまま、彼が私を味わい始める。熱い彼の舌が、私を舐め上げ、器用についばみ、蹂躙する。私は急激すぎる快感の上昇についていけずただ、喘がされる。

「ああっ、あああっ!!」

彼が舌と唇で私の突起を柔らかく挟み、優しく刺激すると、私は軽く達してしまう。

私のそんな痴態を確かめてから、フレディはもどかしそうに避妊具をつけ、覆い被さり、入ってこようとする。薄いゴム越しに彼のそれと私の入り口がキスをする。それだけでぞくぞくとお腹の下から快感が込み上げる。焦りながらそれでも優しくフレディが私に入ってくる。

「っくふん、ああっ」

私の中が彼でいっぱいになり、声が漏れる。十分に準備はできていた私の体がフレディを包み込む…

「ああ…、ジュンコ、待って、そんなに締め付けないで…。持たないっ。」

フレディが辛そうに、それでも我慢できないように、ゆっくりと動き始める。ゆっくりともどかしいようなその動きが私の中の弱いところを刺激する。私は我慢できずに、全身でしっかりフレディにしがみつく。

「あっ、はあっ、ジュンコっ、ジュンコっ、ああっ、気持ち良すぎる。」

フレディが私の名前を呼びながら、精一杯、私を刺激し続ける。いけない、愛おしさが込み上げてくる。私は足をフレディの腰にからめ力任せに引き寄せる。

「あああっ」

フレディが苦しそうに声を漏らし、最後に向かって動きを早める。肩に腕を回して私を抱きしめ、唇を強引に奪う。

「ああっ、ジュンコっ!!」
「んんっー!!、ふううー!!。」

フレディが膜越しに精を放つのを感じ、私は快感にしたる。焦ったような彼にグッと密着し、私は彼を独り占めする満足感を密かに噛み締めていた。

ああ…、曲がりなりにも世界を相手にするエリートドライバーと、日本の地方からひょこひょことやってきた田舎娘の私がどうしてこうなったんだろう。ゆっくりと私の上で呼吸を整えるフレディを感じながら夢のように思い出す。

彼は数年前から苦しんでいた。才能はあると言われながらも、ムラっけがあり成績を伸ばし切れず、エリート街道を進んできた若者にありがちな良くない繊細さがあった。去年前半の成績は特にひどく、あるレースの後ほとんど泥酔したようなフレディをピットの裏で発見し、あまりに傷つき弱っていた彼にほだされて…。いや訂正しよう、私には彼に対する単純な好意があった。繊細だが優しく、未熟な若者の危ない魅力に迷っていたのだ。そこであまりに傷つき弱っていた彼につけ行って…。

今から考えても何でこうなった、である。それからはずるずると関係を持つようになり、この半年はレースの後にほぼ毎回、ご褒美と称してこのような関係を持ってしまっている…。

呼吸を整えたフレディが私のおでこにチュッとキスをして、後始末のために体を離す。私も体を動かそうとしているとフレディが帰ってきた。私の髪をかきあげながら、キスをくれる。初めはいたわるようなキスだったけど、だんだん深くなってくる。ああっ、これはやばいやつだ…。

「待って、フレディ、まだするの?」
「だってまだジュンコをしっかりと味わえてない、だめ?」

私に拒否されると思ったのだろうか、フレディが不安げに問う。その表情に私はやられてしまう。

「だめじゃないけど…。」

フレディはその返事に安心したように私の唇との戯れを再開する。

一度精を放ったフレディは少し余裕ができたらしい。さっきよりもゆっくりと私を隅から隅まで味わい、愛撫する。フレディがお気に入りの首から鎖骨のラインはもちろん、私の手の指を咥えたり、肘の内側、それから腋の下まで時間を掛けて味わってくる。私はそれだけでもとろけてしまうのに、次は私をうつ伏せにして背中に舌を這わせる。脇腹の後ろ辺りをなめられながら、腕を回され、胸の頂点を指で愛撫されると、我慢しようとしてもはしたなく声が漏れてしまう。

「綺麗だよジュンコ、本当に綺麗だ…。」

フレディの声に私は何も返せない。

なのにフレディは私を再び仰向けにすると、更に丁寧に愛撫する。フレディは腋から胸の膨らみにつながるライン、それから脇腹を味わいながら、同時に手も私の太ももやお尻を撫で回す。その後、一度目と同じように、足を開かせると、一度目よりずっと時間を掛けて太ももの付け根を味わい、十分焦らしてから、私自身に唇をつける。さっきよりも入念な私自身への愛撫が続き、私は快感についていけず、息はたえ、涙まで出てくる。

鏡を見なくてもぐしゃぐしゃの顔をしてるのがわかる私に、避妊具を着けたフレディが入ってくる。さっきと同じように優しく、でもさっきよりもずっと長い時間、微妙に角度を変え、体の位置を変えながら、私を蹂躙するフレディに、私は抑えきれず、普段では考えられないような淫らな声がでる。

「あんっ!!ふうっ…、あああっ!、フレディイっ!!。」

私の声を聞きながら、動き続けてきたフレディもそろそろ限界なのだろう。更に私の中に深く入ろうと体位を調整し、激しく動く。でも私自身も完全に出来上がっていて、全く嫌じゃない。

「あああっ、ジュンコ、ごめん、そろそろ行きソウダっ。」
「いいわ!、フレディ、行って、行ってえ!!。私、もう何回もっ、ああああああっ!!!」

フレディの最後の動きを受け止め、深く深く達してしまった私は、フレディの脈動を感じ、フレディに包まれながら、気絶するように意識を手放すのだった。




目が冷めるとすでに時間はお昼だった。ベッドサイドのデスクではフレディがコーヒーを飲んでる。私は全身ボロボロの有様で全裸でやっと目が覚めたというのに、フレディはシャワーを浴びた上で着替えもしたのだろう。さっぱりと小綺麗なカットソーとパンツを着ている。

「ジュンコ、おはよう。大丈夫?無理させてない?」

もぞもぞと動く私に気がついたのだろう、フレディがカップをサイドテーブルに置いて、声をかけてくる。

「大丈夫…。」

駄目だ、さっきまでのが恥ずかしくてまともに答えられない。フレディはベッドに腰掛け、私の頭を軽く抱き寄せ、頭のてっぺんにキスをする。

「すごく素敵だったよ、本当にありがとう…。」

くそうっ、恥ずかしくて顔を上げられないじゃないか。

「食事にする?それともシャワーに入ってくる?」

フレディが優しく尋ねてくれる。時刻を確認して少し考える。先に簡単にシャワーを浴びるとして、出来れば食事の後にもゆっくりと湯船を使いたい。でも明日は早朝に空港に移動しないといけないし、今日暗くなってから宿舎に一人で帰ることは防犯上も好ましくない…。

「夕食も一緒にどう?出来ればマエダさんとリコも一緒に…。」

前田さんは私の上司、莉子さんは我が社の広報担当だ。私は少し考えて、莉子さんにラインを入れる。

「今日、前田さんとフレディと四人で夕食どうですか?」

「おk」

莉子さんの返事はいつも早い。当然私とフレディのこんな関係にも気がついているとは思うが、気がつかないふりをしてくれる大人な女性だ。

私は簡単にシャワーを浴びフレディとルームサービスを食べる。最初は高級ホテルのルームサービスを奢ってもらうことに遠慮もあったが、最近は気にしないことにした。

「あいつの稼ぎと、俺たちの稼ぎは2桁違うぞ。」

というのは前田さんのセリフだ。その後お風呂に入ってフレディのラップトップで少し仕事を片付ける。フレディは私にピッタリと寄り添いながら何かの本を読んでいる。

ブブブーっ 

約束の時間ぴったりに私の携帯がなる。

「ヤッホーっ、順子ちゃん。ロビーにいるよー。」

携帯から莉子さんの明るい声が響く、私はラップトップをしまって、忘れ物がないか確認し、フレディと一緒にロビーに降りる。

「お疲れ様です…。」

エレベーターの前に陣取っていた私の上司たる前田さんと、莉子さんに挨拶をする。お風呂の誘惑に負けて食事をお誘いしたけれど、事情を全て察しているであろう上司をどんな顔をして見れば良いかわからない。ああっ、やめておけば良かった。穴があったら入りたい。

「おうっ…、お疲れ…。」

そっけなく前田さんが返事を返す。愛想の良いタイプでないことが逆に好ましい。実は前田さんは私が育った隣町の出身で、入社以来とてもお世話になっている。無愛想だが面倒見が良く、部下を裏切らないのだ。この人は。

「おつかれさまー」

莉子さんが明るく返事をする。莉子さんは私の二つ年上の美人さんだ。今は、汚れている訳ではないのにパッとしないポロシャツ姿の前田さんと対照的に、派手ではないのに華があるジャケットを着ている。この二人は大学の先輩と後輩だったそうだ。

ちなみに前田さんはラインをなかなか見ないので連絡がつくのが遅い。でも莉子さんを通してなら直ぐに連絡をとれることは私を含めて、数人だけが知っている秘密だ。

「オツカレサマ、タツ、リコ」

ちなみに、フレディは意外なことに前田さんと馬があう。少し幼さが残るフレディと周囲にあまり関心のない前田さんは良い組み合わせらしい。

「よし、じゃ行くか…。」

ホテルが手配してくれた車に向かって前田さんが歩き出す。今までも何度もこのメンバーで食事をしているが、レストランは基本前田さんが選んでくれる。これまでびっくりするような高級店から、ローカルレストランまで前田さんのチョイスにハズレはない。ちなみに全て支払いはフレディがしている。なのにフレディに一切忖度せずにレストランを選ぶ所が、前田龍興(38歳)の性格を表している。変人だが悪人ではなく、社会人として落第生だが、技術者としては少なくとも一流、もしかしたら超一流だ。

私はテオと一緒に仕事をして、フレディと甘い時間を過ごし、前田さんと莉子さんとも交流する。こんな不安定な状態がいつ迄も続く訳はないと思いながら、淡い夢のような時間を過ごしていたのだった。
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