ゆる北欧神話

ももちよろづ

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トールが花嫁

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「アーッハッハッハ!

 トール、何、その格好!?しい!ヒァーッハッハ!」

「あ~もう!ロキ、笑い過ぎ!」


 ※ ※ ※ ※


「ハンマーを、失くしたぁ!?」

「うん」


アース神族の国・アスガルド、雷神トールの宮殿。

オレは、広い広い客間で、トールと向かい合っている。

コイツが『どうしても、ロキに相談したい事がある』って言うから、

出向いてやったら、開口一番、コレだ。

「いや、本当、何やってんの?

 お前のハンマーが無いと、アース神族の戦力、ガタ落ちだよね?

 今、巨人族が、アスガルドに攻めて来たら、どうすんの?」

「だって、昼寝して起きたら、もう無かったんだもん」

トールは、頬を膨らませて、ぶすっとむくれた。ガキか。

「盗んだ犯人に、心当たりは?」

「巨人だ!」

「え?」

「こんな事するのは、俺の宿敵、巨人族に決まってる!」

「何、その、短絡的思考。ちょっと、落ち着k「ロキ!

  捜して来て!」

「は?」

巨人の国ヨトゥンヘイムに行って、俺のハンマー、捜して来てよ!」

「え?いやいや、何言っt「頼んだからね!」

「お前、何言ってんの?」

トールからの斜め上の無茶振りに、オレは頭がクラクラした。


 ※ ※ ※ ※


「ったく、何でオレが、アイツのハンマー、捜さなきゃいけないの?」


オレは、女神フレイアにたかの羽衣を借りて、鳥に姿を変え、

巨人の国・ヨトゥンヘイムへ飛び立った。

バサッ……

「よっ、と。ここが、その巨人の王のハウスね……」

『スリュム王』

門柱に、大きな表札が出ている。分かり易い。

♪ピンポーン

「すいませーん!」

ドン、ドン

流石は巨人の館、スケールが違う。

オレは、馬鹿デカい扉を、ガンガン叩く。

「スリュムさん、居ますかー?」

「はーい!」

奥から、ドスドスと、地響きに似た足音が聞こえた。従者だろう。


 ※ ※ ※ ※


「率直にこう。トールのハンマーを盗んだの、アンタか?」


謁見えっけんの間に通されたオレは、巨人の王・スリュムを見上げ、問うた。

デケぇ。

「はい。ハンマー盗んだの、俺です」

「お前かよ!」

トールの予想、当たってたんかい。

「ソレ、トールのだから。返してくんない?」

「……抱きたいです」

「へ?トールを?ガチムチ趣味?」

「違います!

 ……女神フレイア様を、抱きたいんです。

 抱かせてくれたら、ハンマーを返します」

「はぁー!?」

そんなの、フレイアに、断られるに決まってんじゃん……。

オレは、足取り重く、アスガルドへの帰路に就いた。


 ※ ※ ※ ※


「はぁ!?嫌に決まってんでしょ!

 このアタシが、巨人にとつぐなんて!」


「だよねぇー……」

予想通り、フレイアは、話を聞くなり、いきり立った。

オレはこの話を、アース神族のおさ、オーディンに持って行く事にした。


 ※ ※ ※ ※


「……で、皆に集まって貰ったんだが」


アスガルド、オーディンの宮殿。

アース神族の、錚々そうそうたる顔触れが、一堂に会している。

「あの美しいフレイアを、卑しい巨人にやる等、有り得んぞ!」

「そうだ、そうだ!」

神々は、口々に、異議を申し立てた。

「静かに!」

オーディンが、ピシャリと言い放つ。

流石はおさの貫禄、場は、波を打った様に静まり返った。

「あのー」

オーディンの息子の、ヘイムダルが、手を挙げた。

コイツは真面目で堅物で、オレとはどうも反りが合わない。

「僕に、提案が有ります」

「何だ?ヘイムダル。言ってみろ」

「はい、父上。

 フレイアの代わりに、 『トールが、花嫁に化ける』

 と言うのは、どうでしょう?」

「はァ!?」

「「「ファッ!!?」」」

ヘイムダルの一言に、場の空気が凍り付いた。

当のトールは、口をあんぐりと開けている。

「…………」

「……………………」

「プッ……フッ……ゥアーッハッハ!」

沈黙の後、オレは、堪らず吹き出した。

「ギャッハッハッハ!」

「プーッ、クスクス!」

それを皮切りに、会議場のあちこちで、爆笑の渦が巻き起こる。

「いや、ちょ、なぁ~んで俺が、花嫁にならなきゃなんない訳!?

 可笑おかしいでしょ!ねぇ、ヘイムダル?」

が、ヘイムダルの目は、至って真剣だ。

「……………………マジ?」

トールは、ごくり、とつばを飲んだ。


 ※ ※ ※ ※


「何度見ても、笑えるわ!ヒーッハッハッハ!」

「も~!笑わないで!」


侍女じじょに化けたオレは、筋肉ムッキムキの花嫁と、巨人の国ヨトゥンヘイムへ向かった。

「巨人スリュムの前では、中身お前だってバレない様に、しおらしくしてるんだよ?」

「あい!」

めかし込んだトールが、元気良く手を挙げる。

本当に分かってんのかな、コイツ。


 ※ ※ ※ ※


「あたい、スリュム様に、嫁入りしに来ました。

 美と愛の申し子、フレイアでっす!」


「あぁ、フレイア様!抱きたk……お会いしたかったッス!」

巨人の王・スリュムの館。

スリュムは、目を潤ませて、中身トールの花嫁を見詰めている。

すっかり、だまされてんな。阿呆アホだ、コイツ。

「ささ、フレイア様。長旅で、さぞや、お疲れでしょう。

 豪華なディナーを、ご用意してございますよ」

オレ達は、巨人の従者に、大広間に通された。

テーブルの上には、牛、山羊、鮭、酒……巨人の国ヨトゥンヘイムの恵みが、これでもか、と盛られている。

巨人達は、美しいフレイアを一目見ようと、ワラワラと集まって来た。

「おぉ……!」

「何と、うるわしい……!」

揃いも揃って、騙されてやがる。やっぱ阿呆だわ、コイツ

「いっただっきも~っす!」

ガツガツ、ムシャムシャ……

(お、おい……!)

オレが止める間も無く、巨人達の目の前で、

大食いトールは、牛を丸々1頭、鮭を8匹、ペロリと平らげた。

「ん~……美味いネ!女将おかみを呼べ!」

満足気に、蜜酒もグビグビ煽っている。

「ぷっは~!くぅ~!」

ざわ……ざわ……

「………………!!」

広間の巨人達が、ざわつき始めた。

スリュム王は、顔を真っ青にして、ドン引きしている。いかん!

「あぁぁあ!スリュム様、実はですね、

 フレイアは、貴方との婚礼に胸がドキドキしちゃって、

 8日も前から、食事も喉を通らなかったんですよぉ~。

 ねっ?フレイア!」

「あい!」

オレは、何とかその場を取り成した。

トールお前、空気読め!

「じゃあ、早速さっそく、フレイア様を抱かせt「の前に、

 花嫁に、祝いのトールハンマーを」

ハァハァと息を荒くするスリュムを、従者がいさめる。

花嫁(トール)の膝の上に、ハンマーが置かれた。

今だ!

「ふんぬッ!」

ドガァァン!

トールは、スリュムの頭目掛け、思い切りハンマーを叩き込んだ。

巨大な頭蓋ずがいが、音を立てて、粉々に砕け散る。

「せいやッ!」

ドゴォォン!

「もいっちょ!」

ズドォォン!

ハンマーを手にしたトールは、手当たり次第に、広間の巨人共を駆逐して行く。

パーティームードだった結婚式場は、瞬く間に、阿鼻叫喚の地獄絵図へと豹変した。

「あーあ。

 一匹残らず、駆逐しやがった」

オレは、窮屈きゅうくつだった侍女の衣装をバサリと脱ぎ捨て、

テーブルの端に残っていた麦酒エールのグラスを、クイ、と飲み干した。


 ※ ※ ※ ※


「いや~、暴れた、暴れた!」


アスガルドへの、帰り道。

トールは、自分の手に戻って来たハンマーを肩に担いで、ご満悦だ。

「いや、もう巨人の国ヨトゥンヘイム迄出向いて、皆殺しとか、ご免だからね?」

「あい!」

「本当に、分かってんの?お前」

「あいあい!」

「はぁー……」


その時、オレは、

後々、コイツと二人で、巨人の里・ウトガルドに乗り込んで、

てんやわんやの冒険をする羽目になるだなんて、

知るよしも、無かったのだった――。
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