転生令嬢と七人の元養い子たちー前世で拾った子どもが立派なイケメンになりましてー

浅名ゆうな

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第14話

 客人がいることでお説教は免れたものの、父に無言で強く抱き締められ胸が痛くなった。
 クロードより先に逝けば、こんなに親不孝なことはない。改めて、生きていてよかったと実感する。
 歓迎会はまた後日行うとして、まずは朝食だ。
 バターがたっぷり使われたクロワッサンにデザートのプリンまで付いた、いつもより豪華な食卓を囲む。
 いつもは父と二人なのでマナーもそれほど厳しくないが、今日は慎重にナイフとフォークを動かす。
 面積のおよそ六割が牧草地であるのどかなロントーレ領とはいえ、対外的には子爵令嬢だ。
 シルフィアの振る舞いによって父に恥をかかせるわけにはいかない。
 ーーしかし、何でよりにもよって、ユウガオとツバキとシオンなんだよ……。
 互いに自己紹介は済ませているから人違いはあり得ない。間違いなく、かつての養い子達だった。
「彼らはこの街の出身らしくてね。今回の事件にも、ずいぶん心を痛めてくださっているんだ」
「そうなのですね」
 嬉しそうに笑う父に、シルフィアは形式的な態度を崩さず微笑んだ。正直まだ戸惑いが強く、どんな顔をすればいいのか分からない。
 チラリと、はす向かいに座るツバキを盗み見た。
 青灰色の髪は短く切り揃えられ、凛とした雰囲気と華やかさを併せ持っている。父への受け答えにも如才がない。
 うっとりするほど端麗な、乙女が夢見る理想の騎士の体現。むしろ王子様。
 それを体現したような彼女が女性だと、果たして父は気付いているのだろうか。
 家名が一緒であることに不思議そうな顔をしたクロードへも、義理の兄弟だからという説明で済ませていた。
 義理の兄弟でもあるが、れっきとした夫婦でもある。そのため家名が同じなのだと言えばいいのに。
 何となく、手間を省いているのではと思った。
 この国では同性婚が許可されていないため、夫婦と明かせばまずツバキが女性であることを驚かれたはずだ。好奇の視線にさらされることもあったかもしれない。
 そんなことを毎回繰り返していれば、いい加減煩わしくもなるだろう。
 そのため訂正せず誤解は放置、親しい者以外には結婚をしている事実も伏せるというやり方が定着していったのかもしれない。
 ーー昔はユウガオのあとをついて回る、か弱い女の子だったのに。変われば変わるもんだよな……。
 どちらかというと王子と騎士にしか見えない組み合わせだが、時折交わされる視線が何とも甘い。
 本人達が幸せそうで何よりだ。
 そして、誰より変化に驚いたのはシオンだった。
 末っ子で、他の養い子達の二歳下。五歳の可愛い盛りだった。甘えん坊で素直で愛らしく、いつもクシェルの腕の中にいた気がする。
 そんな天使が、世界の全てを否定するような暗い瞳をしているのだ。まだ二十一歳だというのに、彼の人生に一体何があったのか。
 もう一つシオンについて驚いたのが、家名が変わっていたことだった。
 騎士としての優秀さを認められ、ララフェル男爵家の養子となったらしい。
 なので今の彼は、シオン・ララフェルという。
 貴族に引き立てられるには、相応の実力と容姿、教養が必要だ。元養い親として誇らしく思ってもいいだろう。
 けれどシオンに関しては、とても楽観的に喜ぶ気にはなれなかった。
 身を削るような無理を重ねたのではと考えてしまうのは、憂いを帯びた青い瞳のせいだろうか。
 じっと見つめすぎていたせいだろうか、彼がおもむろに顔を上げた。
「何か?」
「あ……申し訳ございません。きっととてもお強いのだなと、思っておりましたの。騎士に選ばれるには大変な試練があると聞きます。ぜひ詳しくお伺いしたいわ」
「別に、聞いて楽しいものではありませんよ」
 主人の愛娘があまりに素っ気なく一刀両断され、一瞬で空気が凍る。
 沈黙が下りたものの、その後クロードとツバキが上手く場を和ませたおかげで悲惨な朝食とならずに済んだ。
 ーーやっぱり、絶対おかしいだろ……。
 前世は前世だと理解しているものの、シルフィアにはやはり放っておけなかった。

   ◇ ◆ ◇

 数日後。シルフィアはミーナを伴って南街区の孤児院を訪れていた。前回子ども達と約束した通り、お土産にたくさんの揚げパン持って。
 急な訪問にもかかわらず、ユキノシタは笑顔で迎えてくれた。揚げパン目当ての子ども達も。
 庭でボール遊びをする元気な姿を眺めながら、並んで日当たりのいいベンチに座る。
「と、いうことがあったのよ……」
 シルフィアが話しているのは、先日のモクレンの態度についてだ。
 朝食を終え屋敷を辞そうとする彼を引き留め、シオンがあそこまで変わってしまった原因を知らないか質問した。
 するとモクレンは、なぜか突然不機嫌になったのだ。
 その上苦々しい顔で重ねて忠告をされた。『エニシダとシオンにはくれぐれも近付くな』と。
 忠告を忘れていないからこそ、モクレンに聞いたのだ。そうでなければ回りくどいことなどせず、本人を捕まえ直接確かめている。
 屋敷に滞在しているシオンと、極力接触しないようにさえしているのに。
 シルフィアがなぜ、素直に彼の忠告に従っているのか分かっていないのか。
「モクレンはなぜあそこまで怒ったのかしら。義理の兄弟なら、もう少しくらい色々教えてくれてもいいのに」
「モクレンのことですから、きっと何か僕達が考えもしないような深慮があるのでしょう」
 くだらない愚痴を延々聞かされても、ユキノシタは穏やかに微笑んでいる。
 シルフィアは少し恥ずかしくなって、ここに来た大義名分を伝えた。
「ユキノシタ様も、ツバキ様達と一緒に育ったのよね。彼らが当家にいること、ご連絡差し上げた方がいいかと思って今日はお邪魔させてもらったの」 
「そうだったのですね。それは、教えていただいて嬉しいです。シルフィア様のご配慮に感謝いたします」
 伝えようとは思ったが、それだけが理由ではない。何より、ユキノシタに会いたかったのだ。
 子ども達の高らかな笑い声、ポカポカの日差し。そして隣には、癒し系美形。
 ーーああ。癒ししかないわ……。
 目が合うと、彼は優しい笑みを浮かべる。淡い春空のような瞳とふんわりした雰囲気は、何と心安らぐものか。
 締まりのない笑顔をへろりと返しながら、シルフィアは礼を口にした。
「愚痴を聞いてくれて、ありがとうございました。ユキノシタ様は聞き上手ね。やはり、神父様だからかしら?」
「あなたのお話がとても面白いから、聞いているだけで楽しいのですよ」
「まあ、女性の扱いもお上手なのね」
「シ、シルフィア様、からかわないでくださいよ」
 頬を赤らめて慌てるユキノシタに、シルフィアはおかしくなって吹き出した。
 彼も冗談だと気付いたのか、フッと笑い出す。
 しばらく二人でクスクスと笑い合った。
「そうだわ。今度、騎士様方の歓迎パーティが行われることになっているの。よかったら、子ども達と一緒にいらっしゃってください」
 シオンは養子だが、ララフェル男爵家の正統な後継者らしい。任務でロントーレに来ているとはいえ、貴族として相応に扱わねばならない。
 待遇をおろそかにできないと、現在は家をあげてパーティの準備に追われていた。
 名案だと思ったのに、ユキノシタは困惑している。
「ですが、子ども達は礼儀作法など全く……」
「歓迎の歌を演奏するのはどうかしら? ちょうど何か、余興でもあればと考えていたの。そうすれば、気兼ねなく食事ができるでしょう?」
 もちろん子ども達の希望が最優先だが、ツバキ達も堅苦しい席にするより楽しめるだろうと思ったのだ。
 孤児院をなかなか空けられないユキノシタも、義兄弟達とゆっくり過ごせる。
 参加者が増えることによってシオンやツバキとの接触が減り、前世がばれる可能性も低くなる。
 我ながらいいことずくめの作戦だ。
 その時玄関から、駕籠を担いだクチナシがやって来た。
「いいなぁ。俺も料理人の端くれ。上流階級の料理ってやつを味わってみたいぜ」
「あらクチナシ、こんにちは」
 ドサリと下ろした駕籠の中には、土の付いた野菜がたくさん詰まっている。
 どうやら店で余った食材を、こうして定期的に分けに来ているらしい。エニシダといい、養い子達はとても優しく育っているようだ。
 こっそり感動している間に、ユキノシタとクチナシの歯に衣着せない会話が弾んでいく。
「クチナシ、突然会話に交ざるのは無作法ですよ。それにあなたでは出席する理由がないでしょう。ツバキ達が帰って来ているらしいので、会いたい気持ちは分かりますが」
「おお、あいつら今こっちに帰ってるのか。そりゃますます顔出してぇな。そうだ。何なら俺が当日の料理を作ればいいんじゃないか?」
「そもそも上流階級の料理を食べたことがないから、こういう話になっているんでしょう」
「あ、そうだった」
 二人のとぼけたやり取りを聞いていると、身分など関係なかった前世を思い出す。
「ーープッ、」
「シルフィア様?」
「ご、ごめんなさい……フフッ、アハハハハッ!」
 先刻まで胸にわだかまっていた些細な憂鬱も、いつの間にか消えてなくなっている。
 シルフィアの笑い声が、青空に吸い込まれていった。
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