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番外編
桜の出会い ー優香とひなこー
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栗原優香は自他共に認める美少女だった。
物心つく頃には自分が可愛いことも、性格がひねくれていることも把握していた。当然だ。なるべくしてなったのだから。
幼い時分から人形のようだと褒め称えられ、しかも実家は裕福。
言い寄ってくる馬鹿は枚挙に暇がなく、それに嫉妬し敵意を剥き出しにした女達が輪をかけて馬鹿なことを仕出かすのだから、冷めきった思考にもなろうというものだ。
普通の友達付き合いを夢見ていたのは、本当に子どもの頃の話。
諦めを知った優香は、着々と歪んだ性根を育て上げていったのだった。
進学先に御園学園を選んだのは、最低限レベルが同等の人間しか入学できないだろうと思ったからだ。頭の悪い陰口やイジメにウンザリしていた。
――やるなら正々堂々と正面からやればいいのに、何で表向きは友好的なフリとかするわけ? そっちの方が歪んでるじゃん。
幸い、特に勉強することもなくすんなりと合格できた。
これにも実家のコネを使ったのだと難癖を付ける輩にイラッとしたものだが、勝手に言っていればいいとも思った。もうそんな悪意が届かない場所に行く。
入学式当日。優香は電車を使って登校することにした。
栗原優香の実家を知らない人も多いはずだから、お抱えの運転手に送り迎えをさせては嫌みっぽいと思ったのだ。
けれどすぐに後悔した。最寄り駅から学園が、遠い。
たかが十分の距離とはいえ、歩き慣れていない優香にとっては遠足にも等しかった。
――明日からは、絶対車にしよう……。
少し息切れしながら、疲労感からくる苛立ちまぎれに固く誓う。
四月上旬でも、歩いていれば汗ばむような日和だった。
雲一つない晴天、首の後ろを射すような日差し。全てが疎ましく思う。
電車に慣れていないため、少し早く来すぎてしまったようだった。周囲に同じ制服を着た人はほとんどいない。
そう思っていたら、前方に小さな人影が見え始めた。
どれだけのんびり歩いているのか、背中はどんどん鮮明になっていく。
真新しい制服に身を包んだ女生徒だった。
肩に少しかかるくらいの黒髪。ヘアカラーやアイロンなど、一度も使ったことがなさそうだった。
――マジメそう。さすが御園。
何となく見つめていたら、彼女がゆっくり歩いていた理由が分かった。
今年は寒い時期が長引き、例年より桜の開花が遅れていた。
さすがにほとんど散ってしまっているものの、枝にはまだ花弁が残っている。彼女はそれをのんびりと眺めているようだった。
葉桜を見上げる横顔は穏やかで、目元が和んでいた。裸同然の桜を見て、よくあんな笑顔になれるものだ。
――サブッ。乙女かよ。
優香がこっそり身震いしていると、一陣の風が吹いた。
何とか枝に残っていた花びらが、一斉に舞い上がる。幻想的な光景に、優香でさえ思わず足を止めた。
前方を歩いていた少女は、スカートを摘まんで花びらを集めていた。歌うようにはためかせながら、くるんとその場を回る。
華麗に一回転、とはいかなかった。
ちょうどいい具合に半回転すると、顔を認識できるほど近付いていた優香と真正面からバッチリ目が合った。
「――うわぁっ!」
それは、思いもよらない反応だった。少女はなぜか悲鳴を上げると、青ざめながら一気に後退ったのだ。
見開いた瞳にあるのは恐怖そのもの。ハッキリ言って訳が分からない。
固まる優香に、少女はハッと我に返った。
「え、あれ? うわ! あ、あの、すいません! あまりにも綺麗な人だったから、桜の下で死んだ美少女の幽霊かと思って……」
「――――――はぁ?」
ペコペコと頭を下げる彼女を、ただ呆然と見下ろした。
何て失礼な女なんだ。あんなふうに桜を愛でておきながら、桜の精とかならともかく、幽霊とか物騒な思考によく辿り着いたな。
おかしいでしょ。スカートで花びら拾ったりクルクル回ったり、メルヘンぽいこと考えそうな乙女チックしてたじゃん。幻想的とか思っちゃってた私の方がダサいじゃんっ!
優香は敗北感のようなものを味わいながら、無言で歩き出した。明日からは絶対車にしよう。そうしよう。
しかし、憂鬱になる出来事はそれだけでは終わらなかった。何と、朝に出会ったメルヘン女とクラスが一緒だったのだ。
しかも五十音順によって席が決まっていて、運悪く彼女は斜め前方だった。『有賀ひなこ』と『栗原優香』。全然離れているのになぜ。
――サイアク…………。
うんざりと顔をしかめる優香に、話しかける者がいた。
「あれ!? 栗原さんじゃん!」
視線を上げると、明るい髪色をした女生徒が教室の扉の外から覗き込んでいた。
どちらも記憶に残らないほど平凡な顔立ちで、制服の着崩し方もどこかで見たような代わり映えのしないもの。
濃すぎるメイクは流行りなのか知らないが全く似合っていない。慣れていないのが丸分かりで、アイラインはガタガタだった。
「御園行くって噂、マジだったんだねー!」
「意外~、栗原さんはゼッタイお嬢様学校に行くと思ってた」
察するに彼女達は、同じ中学校に在籍していたのだろう。
知り合いに会いたくなくて御園を選んだのに。大体、頭の悪そうな彼女達に御園レベルの学力がある方が、よほど意外だ。
しかも全体的にちぐはぐな印象を受けるので、どうせ高校デビューというヤツだろう。見ている方が恥ずかしくなるから、無理をしなくていいのに。
ギャルに擬態した二人は、図々しく教室に踏み込んでくる。いかにも気安げに、長いネイルが付いた手を振った。
「同中出身同士、仲良くしようよー」
「バーカ。あんたみたいなギャル、栗原さんが相手にする訳ないじゃん。この人社長の娘だからめっちゃ金持ちなんだよ」
ザワザワとした声が方々から上がる。
他クラスの生徒だから悪目立ちしているし、彼女達の声が大きいせいでこちらをチラチラ見てくる者も多い。
苛立ちは頂点に達し、優香は座ったまま二人を睨み上げた。
「――――うるさいんだけど」
無理に張らずとも、冷ややかな声は教室中に響いた。
広い空間がしん、と静まり返る。
怯んでいた偽ギャル達は、教室中の視線が集まっていることに気付くと、すぐに強気な表情に戻った。
「カンジ悪」
不快げに吐き捨て足音荒く立ち去っていくのを、他の生徒達が気まずそうに見ている。
やがてあちこちで、先ほどまでの賑かさとは打って変わった囁きが交わされ始めた。
どうせ悪口であることは分かっている。その証拠に、誰一人として優香に話しかける者はいないのだから。
まるで腫れ物を扱うみたいに。優香など存在していないみたいに。
――こんなものだ、いつだって。
裕福だから、可愛いからと勝手にチヤホヤして。性格のきつさに勝手に失望して去っていく。今までもずっとそうだった。
だからもう期待するのをやめたのだ。
一生誰もいらない。周りが遠巻きにするなら、その方がずっと気楽だ。
優香は冷めた気持ちで教室をあとにした。
「――栗原さん!」
数歩と歩かない内に、誰かに引き止められた。優香は無視してずんずん進む。
けれどその誰かは走っているため、あっという間に追い付かれそうだ。重い息をつくと、諦めて振り返った。
「……何」
予想はついていたが、やはり無害そうな顔をした有賀ひなこだった。
先ほどの偽ギャル達と同じように特徴のない顔。ただ、黒目がちな大きな瞳は綺麗だと思った。
彼女は優香の前で立ち止まると、勢いよく頭を下げた。
「栗原さん、今朝は本当にごめんなさい!」
「……別に。もう気にしてないから」
「本当に? 栗原さんは優しいね」
話を早く切り上げたかっただけなのに、彼女は嬉しそうに笑った。
「あの、お詫びにもならないんだけど、今日苺を持って来てるの。ご近所さんからの頂き物でね、早く食べないと悪くなっちゃうから結構たくさん持ってきてて。よかったら、お昼の時一緒に食べない?」
この女は頭がおかしいのだろうか。
あれだけ席が近いのだから、優香達の会話は聞こえていたはずだ。なのに平然としていられるなんて、神経が図太すぎる。
「あんたって、バカなの?」
「へ? 私、馬鹿なの、かな?」
「その受け答えが完全に馬鹿のヤツ。よく御園に入れたわね」
「うん、頑張ったから」
「……イヤミも分かんないワケ?」
「へ? 嫌みだったの?」
「……もういい。あんたと話すの疲れる」
無視して歩き出した背中に、またもや能天気な声がかかる。
「あの! お昼、一緒に食べようね!」
「――本格的にバカ」
さすがに我慢できなくなって、有賀ひなこを睨み付けた。
馴れ馴れしくされるとイライラする。
どうせ金や見返りを求めて近付いてくるのだろう。そう思うのに、彼女の瞳には敵意が見つからなかった。
腹の中が読めずに戸惑う。瞳に潜む拒絶には、人一倍敏感なはずなのに。
諦めたと思いながらも好意を探してしまう自分自身に何より苛立ちながら、優香は八つ当たりのように悪意をぶつけた。
「さっきの教室でのやり取り、あんたも聞いてたでしょ? よく近付こうと思うわよね。よっぽどのバカか、何か目的でもあるのかと思っちゃうわ」
有賀ひなこはしばらく瞳を瞬かせていたが、合点がいったのか深く頷いた。
「あぁ、あのギャルっぽい人達だよね。仲良くしたくないって気持ちがビシバシ伝わってきたよ。みんなも驚いてた」
驚いていたというか、怖がっていたの間違いだろう。今頃教室は優香の悪口で盛り上がっているに違いない。
けれど有賀ひなこは、思ってもみない言葉を続けた。
「あんなズバッと言えちゃうなんてシビれるよねって、みんな騒いでた。格好よかったから。少し猿顔の……えーと、大谷君? あの人なんか惚れたとか宣言してたよ」
「…………」
予想外の反応を見せたのは、何も彼女に限ったことではなかったらしい。彼らには、今まで優香が培ってきた常識など通用しないのだろうか。
常識が通用しないということは、つまり必死に守り抜いてきた心の鎧も無意味な訳で。
すっかり肩の力が抜けた優香は、額に手を当てて長すぎるため息を吐き出した。
「――バカばっかりなのね、あのクラスは」
お昼に食べた苺は、普段家で食べるものより数段酸っぱかった。
我も我もと欲しがるクラスメイトが集まり、醜い争いと化していたけれど。
……優香にとっては、一生忘れられない味になった。
物心つく頃には自分が可愛いことも、性格がひねくれていることも把握していた。当然だ。なるべくしてなったのだから。
幼い時分から人形のようだと褒め称えられ、しかも実家は裕福。
言い寄ってくる馬鹿は枚挙に暇がなく、それに嫉妬し敵意を剥き出しにした女達が輪をかけて馬鹿なことを仕出かすのだから、冷めきった思考にもなろうというものだ。
普通の友達付き合いを夢見ていたのは、本当に子どもの頃の話。
諦めを知った優香は、着々と歪んだ性根を育て上げていったのだった。
進学先に御園学園を選んだのは、最低限レベルが同等の人間しか入学できないだろうと思ったからだ。頭の悪い陰口やイジメにウンザリしていた。
――やるなら正々堂々と正面からやればいいのに、何で表向きは友好的なフリとかするわけ? そっちの方が歪んでるじゃん。
幸い、特に勉強することもなくすんなりと合格できた。
これにも実家のコネを使ったのだと難癖を付ける輩にイラッとしたものだが、勝手に言っていればいいとも思った。もうそんな悪意が届かない場所に行く。
入学式当日。優香は電車を使って登校することにした。
栗原優香の実家を知らない人も多いはずだから、お抱えの運転手に送り迎えをさせては嫌みっぽいと思ったのだ。
けれどすぐに後悔した。最寄り駅から学園が、遠い。
たかが十分の距離とはいえ、歩き慣れていない優香にとっては遠足にも等しかった。
――明日からは、絶対車にしよう……。
少し息切れしながら、疲労感からくる苛立ちまぎれに固く誓う。
四月上旬でも、歩いていれば汗ばむような日和だった。
雲一つない晴天、首の後ろを射すような日差し。全てが疎ましく思う。
電車に慣れていないため、少し早く来すぎてしまったようだった。周囲に同じ制服を着た人はほとんどいない。
そう思っていたら、前方に小さな人影が見え始めた。
どれだけのんびり歩いているのか、背中はどんどん鮮明になっていく。
真新しい制服に身を包んだ女生徒だった。
肩に少しかかるくらいの黒髪。ヘアカラーやアイロンなど、一度も使ったことがなさそうだった。
――マジメそう。さすが御園。
何となく見つめていたら、彼女がゆっくり歩いていた理由が分かった。
今年は寒い時期が長引き、例年より桜の開花が遅れていた。
さすがにほとんど散ってしまっているものの、枝にはまだ花弁が残っている。彼女はそれをのんびりと眺めているようだった。
葉桜を見上げる横顔は穏やかで、目元が和んでいた。裸同然の桜を見て、よくあんな笑顔になれるものだ。
――サブッ。乙女かよ。
優香がこっそり身震いしていると、一陣の風が吹いた。
何とか枝に残っていた花びらが、一斉に舞い上がる。幻想的な光景に、優香でさえ思わず足を止めた。
前方を歩いていた少女は、スカートを摘まんで花びらを集めていた。歌うようにはためかせながら、くるんとその場を回る。
華麗に一回転、とはいかなかった。
ちょうどいい具合に半回転すると、顔を認識できるほど近付いていた優香と真正面からバッチリ目が合った。
「――うわぁっ!」
それは、思いもよらない反応だった。少女はなぜか悲鳴を上げると、青ざめながら一気に後退ったのだ。
見開いた瞳にあるのは恐怖そのもの。ハッキリ言って訳が分からない。
固まる優香に、少女はハッと我に返った。
「え、あれ? うわ! あ、あの、すいません! あまりにも綺麗な人だったから、桜の下で死んだ美少女の幽霊かと思って……」
「――――――はぁ?」
ペコペコと頭を下げる彼女を、ただ呆然と見下ろした。
何て失礼な女なんだ。あんなふうに桜を愛でておきながら、桜の精とかならともかく、幽霊とか物騒な思考によく辿り着いたな。
おかしいでしょ。スカートで花びら拾ったりクルクル回ったり、メルヘンぽいこと考えそうな乙女チックしてたじゃん。幻想的とか思っちゃってた私の方がダサいじゃんっ!
優香は敗北感のようなものを味わいながら、無言で歩き出した。明日からは絶対車にしよう。そうしよう。
しかし、憂鬱になる出来事はそれだけでは終わらなかった。何と、朝に出会ったメルヘン女とクラスが一緒だったのだ。
しかも五十音順によって席が決まっていて、運悪く彼女は斜め前方だった。『有賀ひなこ』と『栗原優香』。全然離れているのになぜ。
――サイアク…………。
うんざりと顔をしかめる優香に、話しかける者がいた。
「あれ!? 栗原さんじゃん!」
視線を上げると、明るい髪色をした女生徒が教室の扉の外から覗き込んでいた。
どちらも記憶に残らないほど平凡な顔立ちで、制服の着崩し方もどこかで見たような代わり映えのしないもの。
濃すぎるメイクは流行りなのか知らないが全く似合っていない。慣れていないのが丸分かりで、アイラインはガタガタだった。
「御園行くって噂、マジだったんだねー!」
「意外~、栗原さんはゼッタイお嬢様学校に行くと思ってた」
察するに彼女達は、同じ中学校に在籍していたのだろう。
知り合いに会いたくなくて御園を選んだのに。大体、頭の悪そうな彼女達に御園レベルの学力がある方が、よほど意外だ。
しかも全体的にちぐはぐな印象を受けるので、どうせ高校デビューというヤツだろう。見ている方が恥ずかしくなるから、無理をしなくていいのに。
ギャルに擬態した二人は、図々しく教室に踏み込んでくる。いかにも気安げに、長いネイルが付いた手を振った。
「同中出身同士、仲良くしようよー」
「バーカ。あんたみたいなギャル、栗原さんが相手にする訳ないじゃん。この人社長の娘だからめっちゃ金持ちなんだよ」
ザワザワとした声が方々から上がる。
他クラスの生徒だから悪目立ちしているし、彼女達の声が大きいせいでこちらをチラチラ見てくる者も多い。
苛立ちは頂点に達し、優香は座ったまま二人を睨み上げた。
「――――うるさいんだけど」
無理に張らずとも、冷ややかな声は教室中に響いた。
広い空間がしん、と静まり返る。
怯んでいた偽ギャル達は、教室中の視線が集まっていることに気付くと、すぐに強気な表情に戻った。
「カンジ悪」
不快げに吐き捨て足音荒く立ち去っていくのを、他の生徒達が気まずそうに見ている。
やがてあちこちで、先ほどまでの賑かさとは打って変わった囁きが交わされ始めた。
どうせ悪口であることは分かっている。その証拠に、誰一人として優香に話しかける者はいないのだから。
まるで腫れ物を扱うみたいに。優香など存在していないみたいに。
――こんなものだ、いつだって。
裕福だから、可愛いからと勝手にチヤホヤして。性格のきつさに勝手に失望して去っていく。今までもずっとそうだった。
だからもう期待するのをやめたのだ。
一生誰もいらない。周りが遠巻きにするなら、その方がずっと気楽だ。
優香は冷めた気持ちで教室をあとにした。
「――栗原さん!」
数歩と歩かない内に、誰かに引き止められた。優香は無視してずんずん進む。
けれどその誰かは走っているため、あっという間に追い付かれそうだ。重い息をつくと、諦めて振り返った。
「……何」
予想はついていたが、やはり無害そうな顔をした有賀ひなこだった。
先ほどの偽ギャル達と同じように特徴のない顔。ただ、黒目がちな大きな瞳は綺麗だと思った。
彼女は優香の前で立ち止まると、勢いよく頭を下げた。
「栗原さん、今朝は本当にごめんなさい!」
「……別に。もう気にしてないから」
「本当に? 栗原さんは優しいね」
話を早く切り上げたかっただけなのに、彼女は嬉しそうに笑った。
「あの、お詫びにもならないんだけど、今日苺を持って来てるの。ご近所さんからの頂き物でね、早く食べないと悪くなっちゃうから結構たくさん持ってきてて。よかったら、お昼の時一緒に食べない?」
この女は頭がおかしいのだろうか。
あれだけ席が近いのだから、優香達の会話は聞こえていたはずだ。なのに平然としていられるなんて、神経が図太すぎる。
「あんたって、バカなの?」
「へ? 私、馬鹿なの、かな?」
「その受け答えが完全に馬鹿のヤツ。よく御園に入れたわね」
「うん、頑張ったから」
「……イヤミも分かんないワケ?」
「へ? 嫌みだったの?」
「……もういい。あんたと話すの疲れる」
無視して歩き出した背中に、またもや能天気な声がかかる。
「あの! お昼、一緒に食べようね!」
「――本格的にバカ」
さすがに我慢できなくなって、有賀ひなこを睨み付けた。
馴れ馴れしくされるとイライラする。
どうせ金や見返りを求めて近付いてくるのだろう。そう思うのに、彼女の瞳には敵意が見つからなかった。
腹の中が読めずに戸惑う。瞳に潜む拒絶には、人一倍敏感なはずなのに。
諦めたと思いながらも好意を探してしまう自分自身に何より苛立ちながら、優香は八つ当たりのように悪意をぶつけた。
「さっきの教室でのやり取り、あんたも聞いてたでしょ? よく近付こうと思うわよね。よっぽどのバカか、何か目的でもあるのかと思っちゃうわ」
有賀ひなこはしばらく瞳を瞬かせていたが、合点がいったのか深く頷いた。
「あぁ、あのギャルっぽい人達だよね。仲良くしたくないって気持ちがビシバシ伝わってきたよ。みんなも驚いてた」
驚いていたというか、怖がっていたの間違いだろう。今頃教室は優香の悪口で盛り上がっているに違いない。
けれど有賀ひなこは、思ってもみない言葉を続けた。
「あんなズバッと言えちゃうなんてシビれるよねって、みんな騒いでた。格好よかったから。少し猿顔の……えーと、大谷君? あの人なんか惚れたとか宣言してたよ」
「…………」
予想外の反応を見せたのは、何も彼女に限ったことではなかったらしい。彼らには、今まで優香が培ってきた常識など通用しないのだろうか。
常識が通用しないということは、つまり必死に守り抜いてきた心の鎧も無意味な訳で。
すっかり肩の力が抜けた優香は、額に手を当てて長すぎるため息を吐き出した。
「――バカばっかりなのね、あのクラスは」
お昼に食べた苺は、普段家で食べるものより数段酸っぱかった。
我も我もと欲しがるクラスメイトが集まり、醜い争いと化していたけれど。
……優香にとっては、一生忘れられない味になった。
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