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第3章・アイドルの恋愛事情
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-王宮の一室-
カチカチッ…と、時計の進む音が静寂を際立たせる。
空気が張りつめた部屋の中、激しく動揺するフルールの姿に、ネックは首を傾げた。
「何故って…あなたはベルヴァ国王の「運命の番」なのでしょう?」
「……身柄の引き渡しを求めるのは当然では…?」
「そ……そう、ですけど……でも……」
「……はぁー……」
オロオロするだけのフルールに、ネックは深いため息をついた。
「ベルヴァとマーレの歴史は、私も存じ上げております」
「!!!」
ネックは眉間を押さえながら、フルールを見下ろした。
「つくづく、聖歌人とは……」
「「獣人たらし」なのですね」
「……え…?」
薄く開かれた瞳は、確実にフルールを哀れんでいた。
「あなたがバダクの地に足を踏み入れた理由は、何となく想像がつきます」
「……へ?」
「どうせまた、ベルヴァとマーレは聖歌人の取り合いをしているのでしょう」
「それで、あなたはバダクに逃げて来た」
「……まぁ…(ちょっと違うけど…)」
「やはり、そうだと思いました!」
「はっきりと申し上げますが…」
まるで「推理劇でも始まったのか」と思わせる程に、突然、饒舌っぷりを発揮し始めたネック。
「あなた方2大国がどうなろうと、私達にはどうでもいいことです!ですが…」
「これ以上、兄を巻き込まないで下さい」
「………っ…」
敵の顔でも睨むような、憎々しい目でネックに睨まれたフルールは、一瞬恐怖で体がすくむも
「これ以上、兄が…兄が……」
「……?」
ワナワナと震えだしたネックを、不思議そうに眺めた。
すると突然
「バロンが聖歌人を好きになってしまっては、僕が困るんですよ!!!」
「…………………はい?」
わぁぁぁぁっ…と、まるで「悲劇のヒロイン」のように地面に膝をつき、両手で顔を覆い、泣き叫ぶネック。
そんなネックにフルールは動揺し、困惑していると
ドタドタドタドタッ…と、廊下から大きな足音が聞こえて来て…
バンッ!!!バキッ…
「ネック!!!」
扉を破壊しながら、バロンが部屋に駆け込んで来たのだった。
「ネック!何故、泣いておるのだ!?」
「まさか…フルール、そなたがネックを…」
「えぇ!?違っ……」
疑いの視線を向けてくるバロンに、フルールは慌てて否定する。
「…(あれ?僕、この展開知ってる…)」
「…(前世で流行った小説の流れと一緒……)」
「…(てことは、僕「悪役」!!?)」
衝撃過ぎる展開にフルールは驚愕した。
だが
「兄上…違うのです、彼には何もされていません」
「…(あ、否定はしてくれるんだ…でもこのパターンは信じてくれな…)」
「うむ、そうか」
「疑ってすまない、フルールよ」
「……あ…はい」
「…(信じるのはぇーな!ちょっとは疑えよ、逆に!!!)」
想像していた流れとは違い安心するも、何故か腑に落ちないフルールなのであった。
「ネックよ…では何故、泣いておるのだ?」
「兄に申してみよ」
バロンはネックの涙を優しく指で拭い、キスしそうな程に顔を近付け、ネックに問う。
「兄上……兄上は……」
「聖歌人の事を好きになってしまったのですが!?」
「僕という「番」がいるのに!!!」
「…(えぇぇぇぇぇぇぇ!!!あなた達「番」だったの!!?)」
衝撃の事実に叫び出したい気持ちを、フルールはグッとこらえた。
何故なら、フルールは「空気の読める子」だから。
すると
「ニハハハハハ!!!」
突然、バロンが大きな声で笑いだし
「何を言うかと思えば…そうか!」
「聖歌人に嫉妬しておるのだな…愛い奴め」
デロデロに溶けた柔らかい笑みを浮かべながら、バロンはネックを優しく抱き締めた。
「我は、父とは違う」
「生涯愛するの者は、たった一人…」
「ネックだけだ…」
「バロン……んっ…」
二人は見つめあい、フルールが目の前にいるのも構わず(もはや忘れている)、深く唇を合わせはじめた。
「………………」
目の前でチュッチュッチュッチュッ……。
部屋には二人の唇から漏れたか細い吐息と、卑猥な水音が響き渡る。
今にも「おっ始めそう」な二人に、フルールは叫ぶのだった。
「僕の話も聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「無視すんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
バダク現国王と第2王子が「番」関係であることは、公式にはまだ発表されていない。
だが、他国の王族や貴族達の間では既に有名な話だった。
何故なら、彼等は人目も場所も構わず、常にイチャイチャしては、自分達の世界に入り込んでしまう。
その為、皆が口を揃えて言う。
「二人が揃うと会話が成立しない」と…。
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空気が張りつめた部屋の中、激しく動揺するフルールの姿に、ネックは首を傾げた。
「何故って…あなたはベルヴァ国王の「運命の番」なのでしょう?」
「……身柄の引き渡しを求めるのは当然では…?」
「そ……そう、ですけど……でも……」
「……はぁー……」
オロオロするだけのフルールに、ネックは深いため息をついた。
「ベルヴァとマーレの歴史は、私も存じ上げております」
「!!!」
ネックは眉間を押さえながら、フルールを見下ろした。
「つくづく、聖歌人とは……」
「「獣人たらし」なのですね」
「……え…?」
薄く開かれた瞳は、確実にフルールを哀れんでいた。
「あなたがバダクの地に足を踏み入れた理由は、何となく想像がつきます」
「……へ?」
「どうせまた、ベルヴァとマーレは聖歌人の取り合いをしているのでしょう」
「それで、あなたはバダクに逃げて来た」
「……まぁ…(ちょっと違うけど…)」
「やはり、そうだと思いました!」
「はっきりと申し上げますが…」
まるで「推理劇でも始まったのか」と思わせる程に、突然、饒舌っぷりを発揮し始めたネック。
「あなた方2大国がどうなろうと、私達にはどうでもいいことです!ですが…」
「これ以上、兄を巻き込まないで下さい」
「………っ…」
敵の顔でも睨むような、憎々しい目でネックに睨まれたフルールは、一瞬恐怖で体がすくむも
「これ以上、兄が…兄が……」
「……?」
ワナワナと震えだしたネックを、不思議そうに眺めた。
すると突然
「バロンが聖歌人を好きになってしまっては、僕が困るんですよ!!!」
「…………………はい?」
わぁぁぁぁっ…と、まるで「悲劇のヒロイン」のように地面に膝をつき、両手で顔を覆い、泣き叫ぶネック。
そんなネックにフルールは動揺し、困惑していると
ドタドタドタドタッ…と、廊下から大きな足音が聞こえて来て…
バンッ!!!バキッ…
「ネック!!!」
扉を破壊しながら、バロンが部屋に駆け込んで来たのだった。
「ネック!何故、泣いておるのだ!?」
「まさか…フルール、そなたがネックを…」
「えぇ!?違っ……」
疑いの視線を向けてくるバロンに、フルールは慌てて否定する。
「…(あれ?僕、この展開知ってる…)」
「…(前世で流行った小説の流れと一緒……)」
「…(てことは、僕「悪役」!!?)」
衝撃過ぎる展開にフルールは驚愕した。
だが
「兄上…違うのです、彼には何もされていません」
「…(あ、否定はしてくれるんだ…でもこのパターンは信じてくれな…)」
「うむ、そうか」
「疑ってすまない、フルールよ」
「……あ…はい」
「…(信じるのはぇーな!ちょっとは疑えよ、逆に!!!)」
想像していた流れとは違い安心するも、何故か腑に落ちないフルールなのであった。
「ネックよ…では何故、泣いておるのだ?」
「兄に申してみよ」
バロンはネックの涙を優しく指で拭い、キスしそうな程に顔を近付け、ネックに問う。
「兄上……兄上は……」
「聖歌人の事を好きになってしまったのですが!?」
「僕という「番」がいるのに!!!」
「…(えぇぇぇぇぇぇぇ!!!あなた達「番」だったの!!?)」
衝撃の事実に叫び出したい気持ちを、フルールはグッとこらえた。
何故なら、フルールは「空気の読める子」だから。
すると
「ニハハハハハ!!!」
突然、バロンが大きな声で笑いだし
「何を言うかと思えば…そうか!」
「聖歌人に嫉妬しておるのだな…愛い奴め」
デロデロに溶けた柔らかい笑みを浮かべながら、バロンはネックを優しく抱き締めた。
「我は、父とは違う」
「生涯愛するの者は、たった一人…」
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「僕の話も聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「無視すんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
バダク現国王と第2王子が「番」関係であることは、公式にはまだ発表されていない。
だが、他国の王族や貴族達の間では既に有名な話だった。
何故なら、彼等は人目も場所も構わず、常にイチャイチャしては、自分達の世界に入り込んでしまう。
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