魔女と魔術師のしあわせな日々

koma

文字の大きさ
8 / 14
束の間の幸せを

幕間

しおりを挟む
*閲覧ありがとうございます。
*幕間です。
*拾い拾われ二年目、セディオス十四歳のお話です。
─────────────────

 その朝。
 
「おはようございます、先生」
「おはよう……」

 起き抜け。屈託なく笑う少年を前にシェリーは内心、ひどく驚いていた。

 弟子の背がまた伸びていると。

「朝食出来てますよ」
「……ありがとう、今日も美味しそうだね」

 子供の成長は早いものだと知っているつもりではいたけれど。まさかこれほどまでとは思わなかった。
 成長期真っ盛りの愛弟子は、順調にその背を伸ばしていた。つい先日までシェリーは、その愛くるしい顔に見上げられていたはずなのに、いつの間にか、目線は同じ位置にまで到達していた。

「いい匂い」

 シェリーは動揺を隠しながら、テーブルについた。そうして食卓を彩っている暖かそうな琥珀色のスープを覗き込む。セディオスお手製のオニオンスープだ。

「いただきましょうか」
「ええ」

 真向かいに座ったセディオスが付け合わせのサラダとパンを並べ終わり、いつもの朝食が始まる。シェリーは焼き立てのパンを千切りながら、弟子の顔を見つめた。
 
「……セディオスくん、また背が伸びたのね」
「ああ、みたいですね。 毎晩身体が痛くてたまりません」

 そう苦笑するセディオスの細かった声も、大人のそれへと変貌を見せ始めていた。
 まだ、十四歳になったばかりだと言うのに。

「そうなんだ……じゃあ、追い越されちゃうのも、時間の問題ね」
「ですかね」

 身体も鍛えてるんですよ、と笑う少年に、シェリーは力なく「うん」と頷く。

 多くの魔術師がそうであるように、そう遠くはない未来、セディオスは自分のもとを旅立つのだろう。弟子は、一人前になれば師のそばを離れるのが普通だ。そのために学んでいるのだから、当たり前ではあるのだけど。
 そして魔術にひどく長けたこの少年は、それはそれは立派な魔術師になるに違いなかった。それこそ、シェリーが誇りに思えるくらいの。
 それは本来なら喜ぶべきことだ。
 けれど。

 けれど。
 
(そんなに早く大人にならなくてもいいじゃない)
 
 けれど今は、どうしたって寂しさの方が上回ってしまっていた。
 シェリーは、素直で明るくこんなにも自分を慕ってくれるセディオスのことが、可愛くて可愛くて仕方がなかった。セディオスのためなら、なんだってしてあげたいと思うくらいに。

 ──このままずっと一緒にいられたらいいのに。

 シェリーは決して叶うことのない、口にするつもりもない望みを心の奥深くに沈める。そうして弟子が丁寧に作ってくれたスープを飲み込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。

ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」  ぱんっ。  愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。  甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。  ──え?  打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

処理中です...