スキル【直帰】で異世界賃貸暮らし!?

みみっく

文字の大きさ
4 / 10

門出

しおりを挟む
▼△▼△▼△▼△


「行ってきます!!」

響く声は屋外のそれではなく、体育館とか劇場だろうか?広めの空間で声を出した時の感覚に似ていた

しかし周りは俺の頭の中を反映するかのように真っ白で

処理の追いつかないままその中心地に誰か居ると知覚するも

「「えっ?」」

と言う声が聞こえた時には

「失礼しました!」

そう言ってそそくさと扉を閉めて部屋へ戻った、念の為鍵もかけた

出勤から5秒も経たぬ内に帰宅である

「え?何だあれ!?すんごい美人となんか普通の人?」

ようやく追いついた知覚情報を処理していく
美術品のような美しい女性とそれに釣り合わない平凡な男性がこちらを見ていた…気がする

驚いた声を出されたので咄嗟に逃げ出してしまった

あれから暫く時間が経ったが、扉が外からノックされる事はない

置き時計の呼吸音は淡々と時を刻む

意を決して次は少しの隙間で外の様子が見られるように引いて開けてみる事に

すると


今度は宇宙空間のような星空を全方位に散りばめた闇が広がっていた


俺はそっと扉を閉じて鍵をかけ

「早く目を覚さないと遅刻してしまう」

言葉を呪詛のように口に纏わせ、いそいそと布団に潜り込んだ



▼△▼△▼△▼△


…おかしい

一向に目が醒める気配が無い

目を瞑ってみるも眠れるわけもなく
眠れたからと言って夢から醒める保証もない

何かアクションをと何度か扉を開けるもののその度に外の景色は変わり、つい先程などは

「皆さんには殺し合いをしてもらいます」

なんていう物騒な言葉すら聞こえた

もちろん直ぐに閉めた

その後も開け閉めと気付かれたり気が付かれなかったりを繰り返すうちに

「転生」

「転移」

「異世界」

「スキル」

「チート」

「死んでしまうとは情けない」

「お前が俺で俺がお前で…お前は誰だ!?」

出るわ出るわのテンプレワード
最後らへんはなんか違う気はするがその辺りになるとだいぶ麻痺してきていた

現実逃避とも言う

とりあえず落ち着くためにコーヒーを入れたのだが、普段通りに行くわけもなく
しっかりこぼして火傷した

冷ますのも兼ねて冷蔵庫から牛乳を取り出して半分くらいになってしまったコーヒーへ注ぎ、一口飲んでカフェオレの味を堪能する

「痛覚も味覚もあるなぁ」

呟きながらふと時計を見る
今から出ないと営業開始時間にすら間に合わない

「夢だろうがやれる事はやらないととダメだよな」

という事で

栄治は職場に遅刻してしまう連絡を入れる事にした。

遅刻理由としては素直に“家から出られない”で行こうと思っているあたりなかなかぶっ飛んでいる

「おはようございます!相模商事の内山うちやまです」

3回目のコールの後、女性の凛とした声が栄治の鼓膜と琴線を震わせる

この声は同期入社の内山さんだ!
同じ事務所に配属されていたのか!!

研修の時から気になっていた女の子と同じ事務所に配属された事を喜ぶ反面、これから言う言葉はマイナス評価だろうなぁと落ち込みつつ言葉を絞り出す

「おはようございます、内山さん。
同期入社の轟です本日なのですがーー」

「轟さん??あ!轟さんですね!丁度良かったです」

用件を話す前に遮られてしまった
しかしとはどう言う事だろうか?

「所長に代わりますね!」

彼女はそう告げると保留メロディが流れ出す

なんだか妙な流れを感じるも、現状どうする事も出来ないので
とりあえず謝罪の言葉を考えようとしたら

「おはよう轟君、所長の二階にかいだ。電話越しで申し訳ないが初めまして」

ワンコーラスもしないうちに渋いバリトンボイスが耳に響いた

所長!早いっす!まだ心の準備がですね…

しかしこんな半端な時間に遅刻連絡をよこすような新人にこの対応、この所長めちゃくちゃ人徳がありそうだぞ?

「は、初めまして!轟です!こちらこそ電話越しで申し訳ありません…」

恐縮しながらも挨拶を返す、この後遅刻の報告をしないといけないと思うと気分はどんどん重くなるがやらないわけにはいかず、報告を済ませると

「はっはっは!構わんよ!何しろ我が社始まって以来の“本社勤務者”だ!詳しい事は聞かされていないが君が出勤出来ない事は聞いているよ」

「は!?」

明るい様子のダンディ(仮)所長の発言に思わず素の声が出てしまった

「君は本社勤務となり、就業時間等は現地に合わせると言う話だ!基本的には“直行直帰”の通勤レスらしいが羨ましい限りだよ」

はっはっはと爽やかに笑う上司ダンディ

他にも何か言っていたが
完全にキャパオーバーとなった栄治の脳は

・遅刻にはならない
・本社勤務になった(栄転?)
・社内で使用するメールアカウントに詳細が送られている
・後日、仕事道具が届けられる
・道具が届くまでは自宅待機

そのくらいしか処理出来なかった

「轟さん!こっちに戻ってきた時は盛大に歓迎会してくれるそうですよ!ちなみに私は今週末だそうです♪」

いつの間にか変わっていた内山さんの可愛らしい声を最後に

栄治の遅刻報告は辞令と共に返されたのであった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...