比翼の悪魔

チャボ8

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雨晴れ

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死んだかと想える程の激痛が止んだとき彼女の思考には靄が掛かっていた。


ぼんやりと、ここがどこなのか、自分が何だったのかすら分からない。


目の前に3つの何かがこちらを見ている、その3つの何かは口々に何かを言っていた、でも彼女には理解が出来なかった。


確かなことはあった、目の前の3つを手に持っている棒で只管殴らないといけないということ、今の彼女には何故かそれだけははっきりと分かっていた。




ゆっくりと歩を進めていく、目の前の3つの何かが口を開いている、目から何かを流していた。


でも彼女には何なのか分からない、兎に角殴らないといけない、手からも何か流れているがそれでも殴らないといけない、命令は絶対なのだ。






そんな時だった、何かが飛来し彼女の意識は永遠に途絶えた。












(俺達は本当に大馬鹿野郎だ・・・)


目の前の光景を見てヴァーリ達は思った。


愚かな行いの結果がこれだ。


師匠の首が落ちた、あまりにも呆気なく、彼等友人達の手によって。


虚ろな目の人としては死んだ師匠に三人は何も出来なかった。


そして自分達が躊躇い出来なかった事を彼等はあまりにも呆気なくやってしまった。


(俺達に出来るって思ったのが間違いだったんだな・・・)






ここに来ることを求められた時、一つだけヴァーリの頭に考えが浮かんだ。


師を助け彼等とも共闘し全員が生き残る。


堂々と分かりやすい手柄を持たせることが出来れば彼等も帰りやすくなる、後は地位だけはある自分達三人がしっかりと彼等の事を主張する、そうすればやっと再会できた二人と離れなくて済むのではと。


だが現実は非情、今目の前で来てることが事実である。


手柄を持たせるどころか自分達は死にかけまたしても無駄な手間を掛けさせてしまった。









「先・・・生・・・」


ヴァーリがやっと声を出す、ヴィーザルとフレイヤの二人も嗚咽した。


無力感を痛感、後悔してもしきれない程だった。


だが彼等は冷たく言い放った。






「言葉が足らなかったか、お前達がここまで馬鹿だとは思わなかった」


「お前達はここに要らない、だから来るなと言った。慕っていた師匠すら信じられない程救いようがない馬鹿だとはな・・・」


「待ってくれよ・・・俺達は・・・」


「消えろ」


有無を言わさない突き放す言い方だった。


一瞬でも目を離せば目の前の二人は後ろの三人を迷わず襲うだろう、一切視線を外さず相手を牽制する彼等。


そして集中力を切らさない為に余計なお喋りも彼等はしないつもりだった。


作戦の全てが瓦解した、そしてやはり居たモロク達。


死力を尽くさなければ勝ち目は無いだろう。


だが背後からは気配がまだ残っていた。




「おい・・・何回も」


「なあ・・・」


彼等の怒気を含んだ言葉をヴァーリが遮った。


「どうしてだよ・・・どうしてもっと速く来てくれなかった・・・そうすれば先生は・・・・・・俺達が悪い、本当に・・・すまなかった」


震えてる声だった、最後は消え入りそうな声。


そして気配が遠のいていった。


一方的かつ支離滅裂な言葉、責めたと思ったら謝っていた。


心の整理が追い付いていなかったのだろう。


目の前で師があんな目に遭ったのだ、頭の中がぐちゃぐちゃだったのは誰だって想像がつく。





「行ったみたいだな」


「ああ」


「お前達が私達が動かないように牽制していたのを彼奴らは気付いているか?」


「どうだって良い、感謝されたかったわけじゃない・・・死んで欲しくないだけだ」


言い切った彼等、だがその声はどこか震えていた。


友人からあのようなことを言われて耐えられる人間の方が少ないだろう。




実際彼等も顔に出していなかったが後悔していた。


ダメージが残ってる身体で全力で飛んだが間に合わなかった、もっと早く敵を排除できれば三人が居たとしても間に合ってたかもしれないと。


それを必死に圧し殺していたのに言われてしまったのだ、傷口に塩を塗られたに等しい。





だがそれでも彼等は堪え、我慢できないことを追及した。


「・・・そんなことよりだ・・・答えろ、どうしてガブリエルにこんな仕打ちをした?」


彼等の言葉には怒りよりも失望の方が濃く現れていた。


確かにモロク達は敵になった、だがここまでのことをするとは彼等も思っていなかったのだ。




「ああ・・・そうだな、我慢が出来なかったんだよ」


「我慢?」


「ガブリエルは確かに敵だ、でもあの小僧達が乱入しなければ勝負はどうなったかわからない。命懸けの戦いを・・・あんなふざけた連中が台無しにした、恐怖で染めて死なせてやらなければ気が済まなかったんだよ」


そう話すモロクは見ていて寒気がする笑みを浮かべていた。


これが本当の彼等なのか?二人は相対していて分からなくなっていた。


一緒に居た時間はそう長くない、その時にルシファーとリリスに見せてくれた顔とはあまりにも違いすぎた。




「アミー、お前も同じ意見か?止めなかったんだな」


ルシファー・リリスはモロクのクイーンにも呼び掛けた。


だが相手は何も行動をしなかった。


この場合の沈黙は肯定としか取りようが無い。




「そうか・・・」


「質問は以上か?」


「ああ、終わりだ」


「分かった」










同時だった。


ルシファー・リリスが魔力弾を連射。





モロク達はやはりその間を縫って接近、再びその拳を撃ち込まんと狙っている。


完全に昨日見た光景だった。



(やはり来た・・・狙い通りか)


相手はまたしても防御をする気配が無かった、こちらの放っている弾丸を全て躱している。


このままではまた捉えきれず相手のペースになるのは間違いない。


(行くよ?)


(ああ、やろう)


だが昨日とは違った、彼等は冷静だった。


相手が何か対策を講じていたらと考えすぐには使わなかった、しかしながら相手は同じ戦法を使ってきた、余程自信があるのだろう。


彼等は魔力弾の中に散弾を混ぜていたのである。






「ぬっ!」


モロク達は驚く、そして炸裂した魔力の小弾がまるで投網のように襲い掛かってきた。


(ちっ・・・小細工を・・・)


昨日は上手く行ったから今回も行ける、そういう気持ちが二人にあったのかもしれない。


しかし現実はそうはいかなかった。


恐らく急所を避ければ死にはしないだろう、だが咄嗟に炸裂された為に回避が間に合わない。





モロク達は躊躇わずバリアを展開し攻撃を凌いだ。


一瞬だったが暴風と間違える程の攻撃が二人を襲う。


(なんとか防げたか・・・)


(もう一回・・・いや、だめだ!来るぞ!)


アミーが焦りを隠さず警告した。









「・・・昨日みたいに行くと思うな」


嘯いた彼等。


これで勝負が付くなど彼等も思っていない、足を止めれば良い。




一瞬だけでも止まればその隙を彼等は見逃さない。


(防ぐよな・・・お前達みたいに色々経験を積んでいれば積んでいる程警戒する、喰らって毒でもあったら大変だもんな、だからお前達は絶対に防ぐ、そして足が止まれば・・・)



剣を握り彼等は肉薄した。


勢いのまま横薙ぎの斬撃を叩き込むルシファー・リリス、モロク達は堪らず地面を蹴り全力で距離を取った。


だが彼等は更に飛び掛かり連続で斬り掛かる。


回避で拳が間に合わない事を読んだルシファー・リリスには躊躇いが無かった。


一撃二撃と彼等は攻め立てていく。




(ちっ・・・此奴ら・・・)


モロクが苦い顔をした、考え得る最悪な状況に持ち込まれたからだ。





モロク達の武器は拳、対するルシファー・リリスの手には剣が握られている。


この時点で既に彼等に武器の長さで負けている。


そしてもう一つは立ち回りの仕方だ。


彼等は絶妙に一歩踏み込まないと届かない距離を維持し斬り掛かっていた。


これだけで既に攻撃を叩き込むには踏み込むという行程を挟まなければいけない、一手遅れが生じて不利。


更には彼等の左手は空いていた。


右手の剣で絶え間ない斬撃と合間を縫った左手からの魔力弾、完全にモロク達の弱点を読み殺しに行っている立ち回りだった。


(昨日みたいに行くと思うな・・・か、全くその通りだったな)


攻撃と防御バリアを両立出来ないことも見破られていたのを痛感していた。


(出鼻を挫かれたのも効いたわね・・・)


自嘲しながらも確実に追い詰められるモロク達、拳が段々血に塗れていく。







モロク達のように拳で戦う戦士は本来は手甲等を使うのが普通だった、だが彼等は使っていなかった。


そもそも彼等の攻撃に耐えられる手甲が無い事が一番の原因だが無くても戦える戦闘スタイルを彼等は自力で完成させてしまったからだ。


それは単純明快、クイーンの予知を確実に実行し全てを回避してしまうこと、守りを捨てる戦い方である。


事実彼等はこの戦法で生き残ってきた、自信があった。


だが致命的に足りてない物があった。





ルーラーとの殺し合いの経験だ。


ルーラーは希少な存在、その殆どが悪魔族の集団であるトロメアに所属していた。


そして軍でも演習はしていたがそれは所詮演習、命の取り合いではなかった。


希少な存在を傷つけてはいけない、そういった躊躇いがあったのだろう。


つまり予知を予知で返してくる殺し合いをモロク達は経験していなかったのである。


事実今の彼等は防戦一方だった、確実に拳に傷が増え身体には魔力弾が掠めていく。





だがしかし。





「なるほどな、よく分かった」


(なんだ・・・!)


不意に口を開くモロク達、ルシファー・リリスは攻撃の手を緩めていないが確実に戦意が失われていないことを察し警戒する。


彼等の斬撃を防いでいた血塗れの拳が痛々しい、普通ならば痛みで使い物になって無くてもおかしくない。


相手の身体も魔力弾で傷が増えてきている。


そして立ち位置は変わっていない、絶妙な距離を保ち腕が届かない距離から変わらず彼等は攻め続ける。


一瞬でも隙が出来ればそこに致命傷を叩き込む用意は変わらない。






これは昨日の反省点から編み出した戦法である。


だがこの状況も完全なる優位ではなかった。


確かにモロク達は攻めることが出来ていないがルシファー・リリスも踏み込めていなかった。


理由は簡単、反撃を警戒しているのもあるがモロク達が決定打を打たせないように攻撃を防いでいるからである。




二人は均衡が崩されないこと祈りたかった、だが相手はそう甘くない。


ルーラーとの戦闘経験が無くてもモロク達と彼等では単純な戦闘経験、潜った修羅場の数が違いすぎるからだ。





(リリス、何か来るぞ・・・)


(分かってる、でも相手の様子は・・・)


一気に緊張感が心臓を鳴らし始める。


相手の体勢は変わっていなかった。


リリスがより一層警戒する、少しでも攻撃の兆候を見逃せば死ぬ事実に恐怖を感じながらも彼女は役目を果たそうとする。




だがそれでも彼女は違和感を感じた。





(・・・!ルシファー!)




次の瞬間だった、またしても間一髪の事。




リリスの声と同時に飛び退く判断をしていなかったら地面からの刃で彼等は串刺しにされていただろう。







「足からか・・・危なかった・・・」


安堵するルシファー。


リリスの感じた違和感、それは相手が攻撃を防ぎながら踏ん張った足にあからさまな力が入っていた事だった。




注意していなければ先ず気付けない程自然な動作、やはり簡単にいくわけがないことを彼等は思い知らされる。


相手の攻撃は足下から土の刃を作り出すもの、恐らくは膠着状態に陥った相手への不意討ち目的の魔法だろう。






(待って、まだ来る)


飛び退いた彼等、だがすぐにリリスの警告がきた。


これ以上の安堵など与えてもらえるわけが無かった。



(あれは・・・)


視線を向け警戒する彼等、モロク達はなんと地面に拳をめり込ませていた。




これは想定内であった。




(ねえ、あれやっぱり)


(ああ・・・間違いない)




彼等は直ぐさま身構えた。


そして次の瞬間だ。







モロク達は凄まじい轟音と共に拳で地面を掬い上げた。


土煙が舞い上がる。


「飛翔せよ、貫け、百の剣となりて怨敵を滅せよ」




この詠唱が号令だった。


地面と共に飛び散った大小様々な石が彼等目掛けて飛来したのである。







ミノタウロス、モロクの能力の元である魔族だ。


牛頭に人間の胴を持つ。


彼等は縄張り意識が強く一つの特技があった、建築である。


縄張りを自らの建物で誇示するのだ。



その過程で彼等はある魔法を身に付けた、それがモロク達が使った重力操作だった。


範囲は至って狭く手に触れたもののみと言う制約があるもののこれを使いミノタウロス達は身体の数十倍の建材ですら持ち上げることが出来る。


平和利用できる筈の技術、だがモロク達はこれを戦闘に転用していたのである。







モロク達の手に触れた石が彼等目掛けて飛来する。


その速さは最早弓矢に等しくそれが大量に襲い掛かる様子は大軍が一斉に放った弓矢のようであった。


当たれば間違いなく人体程度なら穿ってしまうのは間違いない。


だがこれは彼等が読んでいた攻撃だった。


地面に落ちてる石、たかが石と思われるだろうがその石ですら当たり所が悪ければ人は死に至る。


まだ魔法が普及してない時代の戦争ではその石を手頃な飛び道具として集団で投げつける戦法が流行っていた時期があった。


これを知っていた為に彼等は間違いなく石を利用してくると読んでいた。







(思ってたより規模はでかい、だが手頃に飛び道具を調達するならそれが手っ取り早いのは予想通り)


(ルシファー、一気に突っ込むよ)


(ああ!)


石の矢雨が放たれた瞬間彼等は迷いなく突撃を敢行した。




矢雨は放物線を描き彼等に降り注ぐように飛んできている、ならば飛来する前に突撃し一撃で斬り捨てる。




彼等は全力でモロク達目掛けて一直線に突っ込んだ。




(三段構えだ、光輪、魔力の刃、出来た隙で確実に殺す)


(OK、終わらせよう!)




光輪ならば魔法で防ぐことは出来ない、魔力の刃ならば物理的に防ぐことは不可能、そして隙が生まれれば首を刎ねる、異なる攻撃を確実に叩き込む算段を建てた彼等。


加速しながら同時に魔力を操作し全く別の攻撃を準備するリリス、そして加速に耐えながら正確無比に撃ち込むルシファー、文字通り一心同体にならなければ不可能な芸当であった。


(ここで終わらせる・・・!)


心臓の鼓動が速くなる、集中する彼等、タイミングを間違えてはいけないプレッシャーはかなりのものだ。


飛び掛かりながらも視線は一切外さなかった。





「っ!」


だがその目論見は潰された。







彼等の居た場所に降り注ぐ筈だった石の矢雨が彼等を追ってきたのである。


偶然などでは決して有り得ない曲がり方、明確に彼等に向かってきている。




(ちょっ・・・嘘でしょ)


(ちっ・・・!逃げるぞ!)


すかさず方向転換、こんな状況で攻撃を当てるのは無理だと判断し上空に逃げる彼等。


だが矢雨はまだ向ってきた。




(くそ・・・しつこい)




相手に突撃するつもりで圧縮していた魔力を全て使うつもりで彼等は上空を飛び振り切ろうとした。


こんなものは見たことがなかった、一度に大量の石を飛来させるだけでも相当な魔力操作の練度が必要だろうにそれを追尾させるなど彼等には想定が出来なかった。


おまけにかなりの速度で追ってきている、もはや獲物を追い立てる猟犬と言っても良い。


一瞬でも気を抜けば穴だらけにされるのは確実だった。




(相手が集中を切らすまで我慢比べか・・・イヤだめだ、こっちが持たない。攻撃の余力が無くなる・・・)


彼等も連戦してきている身、過度な我慢比べは自殺行為に等しい。


(ルシファー!相手を・・・操作してるモロク達を撃とう、当てられれば止まるはずだよ)


リリスのアドバイス、確かにその通りではあった。


今のモロク達は一瞬の判断ミスも許されない精密作業をしているに等しい、魔力操作は失敗すれば暴発し使用者本人が死傷する危険な行いなのだ。


それをかき乱せれば彼等にもまだ勝機はあった。


(ああ・・・やってみる価値は、あるな・・・!)




その判断に頷いたルシファー、高速で飛びながらモロク達に狙いを定める。


(相手はバリアをする暇など無いはず・・・威力を最弱にして・・・ちょっとでも当てられれば・・・!)


集中し神経を尖らせた、だが飛ぶスピードを落とすことは出来ない、そのせいで狙いが上手く定まらなかった。



動いているものに飛び道具を当てるのは至難の業だ、ましてや自分が一切止まれない状況では尚のこと。


プレッシャーにも打ち勝たなければならない。


(当ててやる・・・絶対に・・・)


必死に狙いを定めるルシファー・リリス。


だが風と極度の緊張で手がブレ中々狙いが定められない。




(ルシファー!)


そんな中またしてもリリスの悲鳴、これは最悪としか言いようが無かった、相手の石の矢が加速してきたのである。


(まずい・・・これは、くそが!)


無理だった、この状況で狙うのは彼等には無理だった。


作戦が瓦解、またしても彼等は逃げに徹した。


(戦場を離脱・・・だめだ、逃げ切れる保証も無い。それに離れたら・・・)


(ええ・・・今度はヴァーリ達の方に行くのは間違いないわね・・・)


ここで彼等が自分達の生存を最優先するなら運命は変わってたかもしれない、だが彼等にそんな選択は出来なかった。


(ここまでなの?・・・私達・・・)


(リリス・・・・・・まて・・・)


(え?)


(・・・試さないか?最期に一回だけ)










(まだ逃げ切るか)


モロク達は意図的に矢のスピードを抑えていた、緩急をつけることで確実に対象を殺害する為である。


(まだ行けるか?)


(ああ、久しぶりにしてはやれてる。まだ心配はない、最大まで上げてやるか?)


(それは最後に取っておけ、まだ勝負は付いていない)


この攻撃、石の追尾矢はモロク達の奥の手であった。


彼等がここで殺すと決心した相手に対する初見殺し、だがこれは殆ど知られていなかった。


理由は簡単、使われた相手は確実に死亡しているからである。


ようやく魔力に形を与えて飛ばす魔法が主流になっている中で対象を追尾してくる魔法など発想自体が無く誰も対処出来なかった。



(ここまでやれる相手は久しぶりだ・・・でも、さらばだ)


奥の手にしている理由も勿論あった、単純に消耗が激しいのだ。


ルシファー・リリスの読み通りこれはかなりの魔力と集中力を使う魔法だった。


ミノタウロスの使う魔法を更に応用したものであり魔力を石に留まらせ操作し確実に相手目掛けて飛ばし続ける。


だが安易に使ってはすぐにガス欠になり戦えなくなってしまう。


これを使っているのは相応に追い詰められている証拠でもあったのである。







(墜ちろ・・・墜ちろ、ここで終わらせてやる・・・)


ルシファー・リリスはもう魔力弾でこちらを狙う体勢にすら入れない程追い立てられていた。


モロク達は勝利を確信しそうになった。




(なに・・・?)


だが彼等は諦めていなかったのを見せ付けられた。


ルシファー・リリスがまた彼等目掛けて突っ込んできたのである。


(ほう・・・そうきたか)


モロク達はほくそ笑んだ。




ルシファー・リリスは既に加速している速度を利用してモロク達目掛けて跳び蹴りの体勢に入っていたのだ。




こちら側が動けない事を察し、速度を生かした一撃で確実に葬る、そう考えたのだろう。




(考えは間違っていない、考えはな)


だがモロク達から余裕が消えてなかった。





「お前達は強かった、立派だった、だが私達の勝ちだ」




二人は石の矢に使っていた魔力を全て解除、彼等は止まれないと確信しての選択。



そして迎撃態勢に入り勝利宣言をした。





モロク達は掌に魔力を集中、余裕が消えていない理由はこれだった。





ミノタウロスの能力である触れた物体の重力を操作する魔法、これを近接戦闘で多用しなかったのにはこういうときの為だった。


相手の此処ぞという一撃の時へのカウンターとしてモロク達は温存していた。




使えば使う程相手は警戒する、ならば温存し賢い相手なら揺さぶりを、愚かな相手なら忘れた頃に反撃を、これは技量に自信があるからこその選択である。




そしてどれだけ強力な攻撃でも重さを無くしてしまえば無意味。


(斬撃ではなく打撃、この状況なら仕方ないだろう、だがな。それは悪手だよ)


モロク達は勝利を確信した。




つまりルシファー・リリスは最善策を取ったつもりが墓穴を掘っていたのだ。











「これで・・・」




(勝っ・・・ちっ、何だと!)




アミーは冷静沈着なクイーンとして知られる女性だった、だが今起きた現象には驚きを隠せなかった。




























重さが消せなかったのだ、勿論アミーがミスをしたわけでは無い。





落雷と見間違う速さで蹴り掛かってきたルシファー・リリス、その速度がそのまま破壊力としてモロク達にのし掛かる。




「馬鹿な・・・何を・・・なっ、貴様靴を・・・バリアで・・・だと?」




「そういう事だ、お前達の力は確かに脅威だ、でも触れなきゃ意味が無い。そうだろう?」


言い放ちながら同時に彼等は心の中で思っていた。


(こればかりはお前のお陰だよ・・・)


(ありがとう、ガブリエル)




彼等がしたのは触媒を覆ったやり方、ガブリエルの剣を覆うやり方を参考にし土壇場で成功させたのである。


このやり方ならば触媒に使った靴が時間経過で劣化する事は無い、彼等が魔力を注ぎ制御し続ければ良い。


そしてガブリエルには無理だったことでも彼等ならば出来た。


だが実際に戦い殺されかけた彼等だからこそこのやり方を思い付いた。





ここまでの経験でルシファー・リリスが上回っていたのもある、だがこれはモロク達を始めほぼ成熟しきっていた戦った者達には無い発想だった。






魔力同士の干渉で周囲に激しい火花が飛び散る、それだけでは終わらなかった。




更に彼等は推力を上げてきた。




更なる重さがモロク達に襲い掛かる。




歯を食いしばり耐えるモロク達。










「ま・・・まだまだ・・・まだ終わらんぞ・・・屈するか・・・この程度で」



「いいや、終わりだよ」


先程まで追い詰められていた姿とは違い彼等は冷静に言い放った。




「なっ・・・こんな・・・力を・・・まだ・・・」


彼等は更に推力を増した。




相当消耗してる筈だとモロク達は読んでいた、それは間違っていない。


だがルシファーは膨大な魔力がその特徴であるデーモンの能力を持つ。


あまりにも膨大すぎて独りでは簡単な魔法すら制御できずに暴発、リリスと一緒に血の滲むような努力をしてようやく制御できるようになったのだ。


彼等にもリスクはある、しかしながらこういう魔力での力比べなら彼等に負けは無いと言っても良い。


これが現実だった。




モロク達が弱かったわけでは決して無いのだ。






「・・・じゃあな」


更に彼等は推力を増した。





(こんな・・・ここまでとは・・・)


肉体が軋む音がしていた、聞き間違いでは無い。




モロク達の肉体自体に限界を越えるレベルの負荷を相手は圧し付けてきている。




このまま抗えば防御以前に肉体が圧壊し死亡する危険があった。


(モロ・・・ク・・・もう・・・限界だ・・・)


モロクすら聞いたことが無いアミーの悲痛な声、モロクは一つの決断をするしかなかった。















轟音と共に魔力が爆発した。


ルシファー・リリスは直ぐさま離脱、だがモロク達は地面に身体が割れる勢いで叩き付けられ血を吐きそうになる程の激痛に襲われた。


膝をついて漸く身体を起こすももうまともに歩ける状態では無いのは明白だった。











(ルシファー!)






「死ね!」












一瞬の静寂、胸から血を吹き出して倒れたのはモロク達だった。


「負けたか・・・ははっ・・・届かなかったな・・・」


「どうして・・・分かった?」


自嘲気味にモロク達は言った。


「お前達・・・最期にわざと圧し負けただろう、そして距離。見えない一撃が来るとしか思えなかった」


「あれの脅威は身をもって体感した、そして予測も立てた。あれは空気に重さを与えた塊をぶつけてるんだな?」




触れた物に重力を与える応用だろう、あくまでも塊をぶつけている為に弾丸や刃より殺傷能力で劣るが見えない一撃が高速で飛んでくるのは始めて戦う相手には先ず見切れない。


だが彼等は始めてではなかった。


なので塊を穿つ方法を考えた、その結果中央に集中して攻撃を加え穴を空ける方法を考えた。


「だから鋭く、螺旋を描きながら穴を空ける物を幾つも撃った」


ヒントは大工道具である。




木に穴を開ける道具を参考にし予め考え、モロク達が膝をついて身体を起こした瞬間に実行した。




「死の恐怖すら乗り越えたか・・・ははっ・・・」


「・・・ああ、独りじゃなかったからな」


「敵わないな、ああ、見事だ・・・一思いに頼むよ」


「分かった」


了承する彼等、掌を頭に向けた。


放っておけばモロク達は間違いなく死ぬが苦しませないというせめてもの慈悲だった。


「じゃあな」















「そこまでだ」




この場の全員誰も気付かなかった、上から声がしたのだ。




モロク達には聞き覚えのある声、ルシファー・リリスには様々な負の感情を思い出させる声。







「お前達・・・何しに来た!」


憎悪を持って声の主に彼等は返答した。


アイムとイブリスへ。














「まあ、色々思うところはあるだろうが落ち着けよ」


アイム達は言った、だがその声の様子は前と違って聞こえた。


どこか達観したように聞こえるのだ、しかしながらそれでも彼等の怒りは収まらなかった。


「ふざけんな・・・お前等、ふざけんなよ・・・」


怒りに我を忘れ斬り掛かりそうになるルシファー・リリス。


無理もなかった、あの時の光景、感触、彼等は未だに忘れられない。


抑えられるわけが無い。




だがそれを止める者達が居た、モロク達だ。


モロク達は力を振り絞って彼等を制止した。


「待て・・・落ち着け・・・死ぬ気か?」


「でも・・・」


「モロクさん達の言う通りだ、今日は戦いが目的じゃ無い。目当てはその二人の回収、今ならまだ息がある。だから連れ帰らせてもらう。どうしても戦いたいなら止めはしないがな・・・」




(殺気も感じる、でも嘘を言っているようには見えない・・・)


(ルシファー・・・ここは・・・)


(ああ、そうだな・・・)



「提案を受け入れるなら今すぐゆっくり離れろ、時間が無い。今すぐにだ」


「・・・」


彼等はゆっくりと立ち上がりモロク達から離れた。


最大の障害を生かしておく事になるが背に腹は変えられなかった、受け入れなければ消耗仕切った彼等は捻り潰されるのは間違いない。



「賢明な判断だ」


それだけ言うとアイム達はモロク達の側に近寄り石を踏み砕いた。


「・・・・・・」


光に飲まれる瞬間モロク達の口が動いているような気がした、だが彼等には知る由も無かった。
















冷たい風が吹いた。




そしてこの野営地に残っているのは彼等だけになった。




彼等は力無く倒れ込んだ。




(ルシファー・・・)


(悪い・・・無理みたいだ・・・動けない)


(だね・・・私も・・・もう、頭痛くて何も考えられないや・・・)


ここまで多用していた急加速でルシファーの身体へのダメージは深刻な物だった。


本来は多用するにしてもしっかり身体を保護してから使うべきものなのである。


膨大な魔力消費でリリスの精神力もほぼ使い切っていた。


攻撃防御回避索敵全てに湯水のように魔力を使い彼女はその制御を全て完璧にこなしていた。


いずれも常人が出来る芸当では無い。


戦闘のダメージもだがここまで身体を騙しながら行ってきたが今の戦闘で完全に限界を超えてしまっていた。


一日二日休んで何とかなるダメージではなかった、ほぼ燃え尽きてしまったと言っても良い。





(せっかく生きれたのにね・・・)


(だな・・・)


こんな話をしてはいるが能力を解除はしていなかった、悪魔族の力は生命維持の役割もある。


意識が完全に飛んでない限り解除はしないのだ。


だがそれも時間の問題だった。




(ありがとうな、ここまで)


(こちらこそ・・・愛してるよ)


(ああ、俺もだ)


(また、運良く生き残ったりしてね・・・)


(運良くまたブファスさんに見つけてもらえればな・・・結局探すことが出来なかったか・・・)


(ルシファー・・・実はね反応が来てるの・・・魔獣以外にも悪魔族の・・・数までは、ちょっと分からないんだけど・・・)


(・・・そうか、トロメアだったらもう無理だな・・・いや、トロメア以外でも・・・か・・・)


そう言うルシファーの脳裏に過るのは忌まわしい記憶、山賊に襲われたあの記憶だった。


トロメアでないからと言って味方では無いのだ。


(・・・)


「ルシファー・・・」


彼等の能力が解除された、彼の意識が完全に飛んだ証拠だった。


愛するルシファーは弱々しく呼吸をしている、幸い死んではいない証拠でもある。


彼女はナイフを手に持った。


幸いまだリリスの身体は動く。





「大丈夫、独りにはしないからね」


彼女は優しく囁いた。


































「・・・っあれ・・・」


眩しい物が目に当たる、間違いなかった。


朝日である。


「え・・・俺・・・何を・・・」


記憶が混濁していた、だが今居る場は屋内、彼が居る場はベッドの上だった。


「え・・・え・・・?」


周囲を彼は見渡す、するとどうだろう。


愛するリリス以外にも人が居たのだ、それも三人。


見知った顔だった。




一人は赤髪に顔に傷がある強面な青年、もう二人は双子の金髪の女性、一人は聡明そうな顔をしておりもう一人は快活そうな顔をしていた。






間違いなかった、死んだと思っていた。




「パイモン・・・ハウレス・・・ハウラス・・・なのか・・・?本当に・・・?」


信じられないと言った顔、そして自然と涙が流れていた。




「やっと起きたか、寝ぼすけめ」


強面だが人懐っこい笑顔で答えるパイモン。


「そうよ、ただいま」


優しげに答えたのがハウレス。


「お!はよ!ルシ兄!」


そう言ってハウラスが飛びついてきた。




「お前ら・・・夢じゃ無いんだよな・・・現実だよな・・・本当に・・・良かった・・・」


飛びつかれながら子供のように彼は泣きじゃくった。






終わりの見えない戦いで疲弊しきっていた彼の心に久しぶりの安息だった。


これが夢じゃ無い事を彼は祈り、すぐにこの安息が壊れてしまわないように彼女は祈った。
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