比翼の悪魔

チャボ8

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再起と誇りと

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手も足も出なかった。


あいつは、剣も抜いていない。


なんなら動いてもいない。


覚悟は決めていた。


それでもどうしてもこいつにだけは勝てないって思ってしまった。


気付いたら皆あいつに傅いていた。












今彼等が居る場所は前大戦中にオリュンポス軍が物資を隠しておく為各地に建てた小屋の一つだった。


しかしながら終戦後は簡易的に魔獣除けの結界を施した旅人の休息地として再利用されていた。


「さて、落ち着いたか?」


「ああ、すまない・・・取り乱した」


思いがけない再会に歓喜し目元を泣き腫らしたルシファーが答える。


だがふと我に返ったかのように聞いた。


「・・・本当に本物だよな?」


「本物だよ。ほらちゃんと足も付いてるから。まあちょっと色々あったようでそう思いたくなる気持ちも分かるけどね・・・」


そう言って苦笑するハウラス。


「貴方達に何があったかは貴方が気を失ってる間に聞いたわ。兎に角・・・本当に・・・生きててくれてありがとう」


ハウレスも涙ぐんでいた。


「全くだぞ・・・トロメアに引っ切り無しに襲われたりルーラーと戦ったって聞いてて肝が冷えた・・・苦労掛けてすまなかった。多分だけど今回のことは仕組まれてたと思うんだ・・・俺達もお前達と合流出来なくされて・・・」


「聴かせてくれるか?お前達に何があったんだ」


パイモン達は頷いて話し始めた。






「あの日は朝からバアルさんとテレサさんが居ないって聞かされて役所のみんなで探してたんだ」


「バアルさんの悪ふざけだと最初は思ってたんだよね・・・」


「街中探しても見つからなかったから異常事態だって察して・・・午後からはみんな血相変えて外まで捜索範囲を広げたんだよ・・・でも見つからなかった・・・」


「らしいな・・・」


「それと同じ頃かしら・・・魔獣にされたボグルボーさんを私達が見つけたのは・・・」


リリスの言葉を聞いた一同の表情は重い、パイモン達三人も彼とは知り合いだった。


三人は役所で働いていた為に施設の修繕等を大工であるボグルボーに依頼する事が多々あった、そこから食事などを奢ってもらうなど親しい関係を築いていた。


「・・・あの人が何をしたんだよ・・・犯人め・・・」


「パイモン・・・」


ルシファーとリリスにも犯人への怒りを思い出してきた。


そもそもその裏切り者のせいで彼等は故郷を失った、生き残る事に精一杯でそこまで思考が回らなかったが思い返してみれば彼等は散々な目に遭わされた。


怒らないでいられるわけがない。


「えっと・・・ルシ兄?リリ姉?大丈夫?具合悪い?」


ハウラスが二人に声を掛けた、思ったより顔に出ていたらしい。


「え、ううん平気よ。それでその後の事教えてくれる?」


リリスが取り繕う、パイモン達も察したのか話を戻した。


「そうだな・・・多分察しは付いてると思うけどこの後だよ・・・次の日朝からまた外に探しに行ってる間に変な光に呑まれた・・・」






「気付いたら知らない場所だった・・・と」


「それだけならまだ良かったよ・・・まだ帰るだけだからね」


ハウレスの顔が曇った。


「探してた時ね・・・先輩達とも一緒だったんだ・・・でも今居るのは私達だけ、なんでだと思う?」


姉の言葉を補足するハウラス、二人は察した。



「待ち伏せね・・・」


「ああ・・・野盗とかそんなもんじゃなかった・・・どう考えても訓練されてる連中の動き、裏切ったやつが待ち伏せさせてたとしか思えねえよ・・・」


「下手したら全滅も有り得たよ・・・生きた心地がしなかった・・・でも・・・先輩達が・・・私達だけでもって・・・」


涙ぐみながら言うハウラス、ハウレスとパイモンも暗い表情になっていた。


「その後何日も逃げ続けて何とかシトリーに帰ったら焼け野原、何とか無事な地図だけ引っ張り出してエデンを目指そうって事になったんだ」


「困ったらエデンに居るオーディンを頼れ、バアルさん達言ってたからね。本当に助けてくれるかは分からないけど私達行く当てがなかったから・・・」


「それもそうだな・・・俺達も・・・でもよく俺達の居場所が分かったな。どうやって探したんだ?」


ルシファーが過った疑問を口にした。


何故こんなことを聞いたかというとこの三人の能力は人捜しには向いていないのだ。


なのに自分達の居場所を的確に見つけた。


そんな疑問が過ったのは一瞬だった、だがすぐさま確かな殺意が彼から漏れ出す。


三人は慌てて弁明した。


「待て待て待て、落ち着け。俺達本物だって」


本気で焦った様子のパイモン、ハウレスが説明しだした。


「えっとね、あなた達だって確証はなかったの。でも所々凄く地面が抉られてたりなんか凄い事があった跡が残ってて・・・もしかしたらって思って辿ってみたの・・・」


「ね?本当だから・・・信じてよ・・・」


嘘を言ってるようには思えなかった。


「ルシファー?」


そしてリリスが心配そうにルシファーを見つめている。


「・・・悪い、疑り深くなってた」


ルシファーが項垂れ謝罪した。


彼が疑ったのは偽物ということだった。


「・・・多分聴いてるよな、前に助けた人間が爆弾にされてて殺されそうになったって。人を爆弾にした奴らだったらそっくりに人を作り替えるなんて事も出来るんじゃ無いかって今思ってしまってな・・・それで疑った、本当にごめん・・・」


先程は会えてうれしかった親友達を真っ先に疑ってしまい意気消沈と言った様子のルシファー、だが三人は彼を責める気持ちにはなれなかった。


「良いよ、大丈夫だって。そこまで疑わないと身を守れないような環境だったんだし」


「ハウラスの言う通りだ。まああれだ、やっと合流できたんだから少しはお前達の負担を軽く出来るようにしてやるさ」


「ええ、だから私達の事頼ってね」


「ああ、ありがとう・・・」


「良かったね、本当に良かった」



彼の負担が軽くなる、リリスとしても喜ばしい話しだった。


誰だって好きな人、大事な人の辛そうな姿など見たくは無いだろう。


良い友人に恵まれたことに彼女は心から感謝した。









「それでだ、今後どうするかって話しも・・・このままするか?」


そしてパイモンが切り出した、これは避けては通れない話しだ。


どう話そうかは事前に考えておいたのだがそれで納得してもらえるかは別、腰を据えて話すつもりだった。


しかし実際は即答だった。


「決まってる、エデンに行く。リリスも良いよな?」


「勿論!」


彼女は笑顔で頷いた。


だが三人としては思ってたのと違う解答だった。


鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしつつ恐る恐る聞き返した。


「えっと・・・私達が言うのも変かもだけどさ、良いの?」


「うん、二人は国を出ようかなって考えてたんだよね。私達としてはそれも尊重しようかなとも思ってたんだけど・・・」


「・・・まあそうだな、そう考えてた。もうここに来る前の道中で完全に諦めてたから、疲れ切ってたんだろうな・・・戦って、死にかけて、それでも殆ど休めないまま歩かないといけなくて・・・兎に角楽になりたかったんだ・・・」


「でもね・・・さっきの話し聴いてて思ったの。なんで私達がこんなに苦労しなきゃ行けないんだろうって、そう考えたら凄く怒りが湧いてきたの・・・」


「シトリーの事もだ。あの人達みんな綺麗な過去を持ってたわけじゃ無い、戦争で人を殺したんだからな。でもだからといって今はもう静かに暮らしてたみんながあんな酷い死に方をして良いのかって・・・」


「だからさ、私達が動いて黒幕を、裏切った誰かを暴いてやらないとみんな浮かばれないんじゃないかなって」


「だから俺達はエデンに行きたいって思った、ヴァーリ達の言った言葉を信じてオリュンポスの力を借りる。お前達はどうだ?」


三人は知っていた、こうなったこの二人は誰よりも頼もしいと。


「異論なんてあるわけないだろ!」


「絶対に、絶対に黒幕暴こうね!」


「そう言ってくれて本当に心強いわ、ありがとう」






「あの、ちょっと話し変わるけど良いかしら?貴方達の話しを聴いていて気になる点があったの」


ハウレスが口を開いた。


「どうした?」


「ブファスさんの事なんだけど・・・」


ブファス、憲兵隊の隊長を務めておりルシファーとリリスの友人のベリアルの父親でもある男だ。


何者かに襲われ行方不明になっていたが自力で生還し力を使い果たしたルシファーとリリスを偶然発見し助けていた。


「たしか朝起きたら居なかったのよね?」


「ええ、そうね」


「俺達にしっかり休みなさいって言って寝ずの番をしてくれるって言ってたんだけど・・・ドアも開けっ放しで朝起きたら居なかった。その後また襲われたりしてて結局探す余裕がなかったんだよな・・・」


「ドアを開けっ放しで・・・相当慌ててたのかな?」


「・・・だろうなあ、しかもあの人は自分から言い出した事を投げ出さないだろうし・・・あの人が慌てるってまさかベリアルの声でも聞きつけたか?」


パイモンが推測を口にした。


ブファスの能力はカーバングル、並外れた聴覚を手に入れることが出来る能力だ。


使う用途は人捜しから戦闘時の索敵まで幅広く非常に強力な能力と言えた。




さらにブファスという男はお人好しであるが同時に自分から言い出した事を投げ出すような事はしない男だった。


ましてやルシファーとリリスのことも実の子のように可愛がっていた、そんな彼等より優先することなど息子のベリアルに危機が迫っている事くらいしか一同には思い付かなかった。


「・・・大丈夫かな」


「もう一つだけ良いかしら・・・悪い推測に過ぎないんだけどそのあと合流できたなら合図なり何か信号を見せてくると思うの・・・でもここまで何も無かったのよね?」


ハウレスの言葉に一同の顔が強ばった、その通りだったからだ。


ブファスの性格的に事が済んだなら何かしらのアクションを起こしこちらに合流を図るはず、でもそれが無かった。


合流出来ないような最悪な状況、言葉には出したくない事に陥っている危険性が考えられた。


「お姉ちゃん、あのさ・・・なんで今その話を?」


「ごめんなさい、私だってしたくは無かったわ・・・でも最悪の状況は考えるべきだと思ったの」


ハウレスが申し訳なさそうな顔をした、だがルシファー達は責めたりはしなかった。


「確かにハウレスの言う通りだ、でも・・・無事で居て欲しいな・・・」


「同感だ・・・せっかく無事だったならまた会いたいぜ・・・」




「だったら行きながら所々で探してみよう、出来るよね?リリ姉?」


表情の落ち込んでる男二人の背中をハウラスが叩く、その言葉にリリスも頷いた。


「ざっくりとだけど行きながら悪魔族の反応のある方に寄ってみるって感じでどうかしら、ちょっと危険だけどね」


「そうだな・・・それで行こう。多少の危険なら大丈夫だろう、お前達も居るからな」


「何だよ、褒めても何も出ないぜ?」


等と他愛ない会話、空気が少しだけ明るくなった気がしたがハウレスがまだ考えてる様子なのをルシファーが気になって聴いた。


「なあ、どうした?」


「うん・・・あの、ごめんなさい、もう少し待って。その・・・もう一つあるの、貴方達が山賊に襲われたときの話しよ」


その話しを言われて少し困った顔になったルシファーとリリス。


「あっ、結果的に身を護る方が大事だったんだから貴方達の事を言うつもりは無いわ」


二人にとって苦い思い出になっていたのはもう動けない相手にもトドメを刺した事だった。


今でも相手の命乞いする顔、恐怖に怯えた顔は忘れられなかった。


だがこの場の三人は誰もそれを咎めるつもりは無かった。


むしろルシファーとリリスが生きていてくれた事の方が重要であり、事情はあれど日常的に人を殺し物を奪って生計を立てている山賊なぞ気にする程聖人では無い。


問題はその前にあった。


「結界の事よ」




山賊に寝込みを襲われた時彼等が真っ先に試みたことは囲みの突破だった。


理由は簡単だ、速さを生かして離脱し無駄な戦闘を避けるのが最上の策だと考えたからだ。


だが不可能だった、捕縛用の結界が彼等の進行方向に配置されてたからである。



「・・・」


「・・・」


二人は俯いた、話したくないとでも言いたげな様子だった。


「なあ、二人とも・・・本当の本当に結界だったか?答えてくれないか?分かってると思うけどこれ、重要だぜ」


パイモンが優しく問い掛けた。


「ルシ兄、リリ姉、気持ちは分かるよ・・・だけど・・・」


ハウラスも続く。




打って変わった沈黙が場を満たした。




「・・・間違いなかったわ」


「ああ・・・ブファスさん達が使ってるのを見たことがある。間違いない」


ほんの一瞬だが重たい沈黙の後に二人が口を開いた。





「・・・そうか・・・そうか・・・見間違い、とかな分けないか・・・無いよな・・・」


パイモンが呟くように言った。


「待ってくれって・・・そういうことだよな・・・ハウレス」


ルシファーの言葉に彼女は頷いた。








ハウレスは必ずこの話をしなければ行けないと彼等の経緯を聞いたときに心に誓っていた。


理由は簡単だ。


結界は本来山賊などが使える程安物では無い。


正確には結界を発動するのに必要な石がとても貴重品なのである。


本当なら国や軍隊、町や都市等大きな集団が予算を決めて買う程の値段をする。


そして大体の場合においてそんな貴重品をおいそれと使うことは出来ない、必ずその集団の有力者の許可が必要だった。


ルシファーとリリスも知っていることではあった、だがどう考えてもあの人懐っこい男性が裏切るなどとは思えなかったのだ。




「ブファスさんが裏切っている可能性、って事よね・・・」


リリスの言葉にハウレスは頷いた。


「ごめんなさい、でも・・・当てはまっちゃうのよ・・・分かるでしょ?」


そしてシトリーの有力者の中には町の治安を担う集団の長であるブファスが当然入っていた。



「ブファスさんなら俺達の位置を把握できた、そして結界をいつでも持ち出せる、山賊に襲わせて勝てば良し、賊が負けたら今度は偶然見つけた風に俺達を助ける、ラストはその寝込みを別のルーラーに襲わせる・・・」


「・・・」


再び重苦しい空気が場に満ちた、確かにブファスならこれが出来てしまうのだ。


「考えてみれば・・・シトリーで起きたことって言ってた話しだって本当だっていう証拠無いんだよね・・・」


「ごめんなさい・・・言い出したらキリが無いのは分かるわ、でも・・・」


「・・・いや、言いたいことは分かるさ。でも俺は・・・」


ルシファーが言い掛けて言葉を止めた。


「ルシ兄?」


「おいどうした」


ルシファーは何も言わず二人の言葉を仕草で制止した。


そして外に視線を向けた。


「・・・っ!伏せろ!」




ルシファーとリリスだけでなく彼等三人も少なからず戦いの経験があったことが役に立った。


彼の声にこの場に居た全員が反応する事が出来たからだ。


彼の声が響いた次の瞬間、窓ガラスが割れ全員の頭があった位置を弾丸が通りすぎて居た。


「おいおいおいおいまじかよ・・・」


「一瞬見られてる気がしたんだ・・・当たってたな」


冷や汗を隠せなかった一同、ほんの少しでも反応が遅れてたら血の花が咲いていただろう。




「ちょっと・・・一体誰が・・・まさかトロメア?」


「それ以外居ないでしょうね・・・」


「ハウレス、話しは後だ。良いな?」


「文句なんて無いわ、了解よ」


「よし・・・切り抜けるぞ」


ルシファーの言葉に全員が頷き戦いの為に思考を切り替えた。









「・・・気付かれたか」


ルシファー達の居る小屋は夜闇に包まれていた。


月一つ出ていない空、常人ならば黒づくめの襲撃者達に気付くことは出来なかっただろう。


「・・・どうなさるおつもりで?隊長」


「ちっ・・・決まってる、どの道こちらの優位は変わらない。出てこないならこのまま穴だらけにしてやる」


副官らしい男に言われた隊長は苛立ちを隠せない様子で言った。


隊長の合図で部下達が再び弾丸を装填する。




その様子を副官は苦々しげに見ていた。















「聞こえているか!卑怯者共!3つ数える!それまでに出てこい!出てこなければ貴様等の居る小屋もろとも穴だらけにしてやるぞ!」


10人程居る襲撃者達の隊長は大声で小屋に隠れているルシファー達に伝えた。


「・・・そうほいほい出て来ますかね」


「カラビア貴様、うるさいぞ・・・隊長は私だ」


「失礼しました・・・ウァラク隊長」


隊長と言われている男ウァラク、歳は若くまだ青臭さを感じる若者だった。


だが隊長はこの男なのだ、アシュラ直々な命令である為に誰も逆らうことは出来なかった。




(さてさて、どうなるやら・・・ってまじで出て来ただと・・・)


長髪の副官であるカラビアは驚いた、ルシファー達が出て来たのだ。













「ほう・・・出て来たか」


ウァラクは邪悪な笑みを浮かべた。


「トロメアか!お前達は!」


「いかにも、我らはトロメアの精鋭であるファリニシュ。ルシファーとリリス、貴様達の罪を償わせに来てやった」


ファリニシュ、その名前を忘れられるわけがなかった。


そして相手の服装、シトリーで襲ってきた連中にも酷似していた。


恐らくはあの時倒した相手もファリニシュだったのだろう。





「・・・」


「何だ、怖くて声も出ないか?よし、一つ教えてやる。貴様達に倒されたウェパルとワルは我等の隊長だった者達だ」


ウェパルとワル、ルシファーとリリスがシトリーを出てから最初に戦ったルーラーである。


忘れるわけがない名前だ。


そしてあの時戦って命を奪った者達が本当は一緒に戦ってたかもしれない者達と言う事実、どこかでほくそ笑んで居るであろう黒幕への怒りがより一層深まった。


それを気取られないようにルシファー・リリスは続けた。


「そうか・・・あいつらが・・・望みは仇討ちか?」


「それもある、が・・・貴様達を殺すのはアシュラ殿の望みだからだよ」


そう言ってウァラクは得意気に語り始めた。


「あの人は俺を認めてくれた、そして力をくれた。俺はあの人の為に生きるって決めたんだよ!その人がお前達の死を望んでるならば俺達は全力で叶えてやるんだよ!」


邪悪な笑み、だがこの男からはとてつもない狂気を感じられた。


(力をくれた・・・何かされたのか?それにこの様子は・・・)


(あの時のモロク達に似てる・・・)


この相手、ウァラクからはガブリエルを魔獣に変えヴァーリ達を殺させようとしていたモロク達に近い物を彼等は感じていた。


「お前達に少しでも理性があるならもうこんな事は止めろ、ガープは戦争を終わらせようとしていたんだ。その目処も立っていた、お前達の主はガープだろ、その意志に従うべきじゃないのか?」


ダメ元かもしれない、それでも言うだけ彼等は言ってみた。


ファリニシュと協力していると言っていたフルカス達の話しを出してみても良かったがそれはリスクがあると考え敢えてガープの名前を出すことにした。


何か変化があればと、でも結果は違っていた。


「ガープ・・・ガープか・・・ふざけんなよ、なんであんな腰抜けに従わなきゃいけないんだ!」


相手の様子の変化はした、だがそれは動揺などでなく明確な怒りだった。


それも主だった者への態度ではない、敵意を剥き出しにしている。


「ふざけんなよ、あいつは・・・勝てた戦争を勝手に終わらせた、それにあいつは俺達の記憶を弄りやがった・・・俺達はあいつに騙されていたんだ、ふざけんなよ!なんでそんな奴に従ってやんなきゃいけねえんだ!ふざけんなよてめえ!」


「あいつは・・・ガープはな・・・俺の父さんが死んだ理由まで勝手に記憶を弄って変えやがった・・・そんな奴に今更忠誠だ?ふざけんなよ!」


(記憶の改変を解いた・・・嘘だろ・・・そんなことしたら・・・)


トロメアでは14年前にソロモンが人を狂わせる事件が多発していた。


異常なまでの寒気の後に人が暴れ始めるのだ、結局原因も分からず被害が多発、ガープ達はどうしようもなく追い詰められていた。


人がいきなり暴れ始める、その事実だけが広がりトロメアは疑心暗鬼で満たされ国は瓦解寸前だった。


記憶の改変はそれに対する緊急処置、ソロモンが関わった記憶を改変し今まで通りの日常を送らせる為の物、ガープ達は後悔していたがそれでもこの処置は成果をあげていた。


(今のトロメアはどうなってるんだ・・・)


ルシファーとリリスはソロモンと言う存在の恐ろしさをよく分かっていた、思い出さなくて良いなら思い出したくない記憶だろう。


あの異常なまでの執念と殺意は恐怖でしかない。


それを一般人が受け止められるわけがない。


「おい・・・答えろ。どこのどいつだ、その記憶の改変を解いた奴は」


「決まってる!アシュラ殿だよ!そういう意味でもあの人は俺の救いなんだ!」


「そうか・・・救いか・・・」


「ああそうだ、でもな。それを知ったところでお前達は今ここで死ぬんだよ、長くなったがお喋りは終わりだ。撃て!」



ウァラクが合図をした、全員が引き金に指を掛ける。




バリアで防げないように彼等は銃を所持していた。




(・・・妙だ)


ウァラクの横に居た一人が引き金に指を掛けながら目の前の光景に違和感を覚えていた。


(・・・やっぱり、何かおかしい。さっきから何故あいつだけ喋っている・・・何故他の連中は微動だにしない・・・)


先程の会話の間その男はずっと訝しんでいた、他の隊員もだろう。


ルシファーの横にはリリス、パイモン、ハウレス、ハウラスがいるが一切動いてなかったのだ。


だが彼等に勝手な発言は許されなかった、それ故に注意が出来なかった。


今のファリニシュは隊長の言葉が絶対なのだ、誰も逆らうことは出来ない。



(ここで撃ったら・・・何か変だ・・・罠かもしれない・・・でも・・・)


彼は迷った、迷いに迷った。


脂汗が頬を伝う。


そして口を開こうとした。





しかし遅かった。


同じく違和感に気付いていたカラビアがウァラクを守っておりそれと同時に口を開こうとした隊員とその他の隊員の首が宙を舞っていた。


血飛沫が飛び散りウァラクが何が起きたのか分からないと言った表情で硬直していた。




「ちっ・・・やっぱり罠かよ!」


カラビアが悪態をつく、何とか見えない何かの襲撃を回避した隊員達もおり彼等は直ぐさま連携を取って迎撃態勢に入ろうとした。


不測の事態においては各自の判断で能力を使用し状況を打開せよ、各自に下されていた命令である。


隊員達は皆手練れである為に万全であれば十分逆転の目は合ったと言えるだろう。


だが残念ながら彼等の心理状態は最悪だった、おまけにもう一つ最悪な状態が重なっていた。




「遅い・・・鈍い!」


ハウラスが獲物の喉笛を食い千切る虎の如く生き残りに襲い掛かっていた。




彼女の能力はフラウロス、猫に近い身体能力を持つ魔族である。


特徴はシンプル、ありきたりだが俊敏な身体能力と岩程度なら容易く切り刻む爪だ。


ちなみに姉のハウレスも同じ力を持っていた。


先程の攻撃はハウレスの魔法、真空波である。


爪に魔力を込め風と共に撃ち出して対象を切り刻む魔法だ、彼女は魔力操作に長けていた為にこのような形で力を生かしていた。







攻撃の態勢に入る前に隊員達が切り刻まれていく、彼女の顔にも怒りが出ていた。



「おい・・・お前達だよな、あの時俺達を襲ったの」


カラビアに向けられたのはパイモンの声だった、怒りに満ちているのがよく分かる。


「先輩達をどこにやった?」


彼も能力を発動している。



パイモンの能力はイフリート、火を自在に操り火山地帯に住む好戦的な魔族である。


パイモンは火を操る力を扱え手には炎で作り出した剣を展開している。




「・・・悪いな、全員殺させてもらったよ。手加減できる相手でもなかったんでね」


状況は最悪だった、この話をしている間にカラビアとウァラクしか生存者はいなかった。


カラビアは必死に焦りを隠し返答をしていた。


「全く・・・驚いたよ、完全にこちらの作戦ミスなのもあるがそれを抜きにしてもあの時放っておいても良いと判断した自分を殴り飛ばしてやりたいくらいだ、ここまでやるとはね」


「ああ、あの時は何が何だか分からないままだったから醜態を晒しちまった。その結果先輩達を死なせた、本当に悔やんでも悔やみきれないな」


「確かにそうね、だからここで仇を討たせてもらうから、悪いけどあなた達仲良くこのまま死んでもらうよ」


「容赦はしないから」


そんな中遠隔から魔法で先制攻撃を撃ったハウレスも合流した、同じく怒りに満ちている。


「悪かったな、任せてもらっちまって」


「気にしなくて良い、なんとかなって良かったよ」


少し離れていたがルシファー・リリスまで寄ってきた。


(任せてた・・・考えてみればあいつらは全く手を出してなかった・・・仇だと知って手を出さなかったって事か・・・これは詰んだか?)


虎の群れに加えてヒグマでも来たような状況だった、必死に打開策を練るが一つしか彼には浮かばなかった。



(これしかない・・・これしかないか・・・)


「流石はルーラーってところか、力だけでなくあんな手品まで出来たとはな・・・幻覚魔法か?」


「そうだな、ちょっとでも冷静になれば違和感に気付けるような初歩的な物だ、通じてくれて良かったよ」





この幻覚は前にウェパル達との戦いで使った物だった、あの時は相手も勝負を焦っており一瞬だが騙すことが出来ていた。


だが気付かれながらも掛かったフリをしてこちらを騙すという事が出来てしまう為に彼等は多様を避けていた。


遠距離というアドバンテージを取られていた為にやむを得ず使っていたがそれくらいでなければ先ず使わないだろう。




「初歩的な・・・もの?そんなもので?」


ウァラクがようやく口を開く、彼の肩は震えていた。


無論怒りである。


初歩的なものに一杯食わされた、彼のプライドを傷つけるには十分すぎる物だった。


そしてカラビアは己の発言の失敗に気付いた。


本当は関係ない話しで時間を稼ぎ不意討ちでウァラクの力を使い一点突破を狙うという事を狙っていた、だが一気に雲行きが怪しくなってきた。


そして一番聞かせてはいけない言葉を彼は引き出してしまった。




「そうだ、そこのそいつや他の連中は違和感に気付いてたようだがお前だけは気付かなかったんだな。一体どうなってるんだ、そんなやつが仕切ってるなんて」


「・・・なんだと?」



怒りのあまり唇を震わせてウァラクが言葉を返した。




「アシュラ殿は言った、期待してると。その為に力もくれた、その俺に・・・そんな!言葉を吐いて!」


「おい待て、ウァラク!待ってくれ!」


「黙れ役立たず!アシュラ殿を殺そうとしたお前達なんか知るか!あんな連中も死んで当然だ!お前達なんか俺一人で十分なんだよ!」





それだけ言ってウァラクはルシファー・リリス目掛けて飛び掛かっていった。


剣を抜き悪鬼としか言いようがない形相であった。


そして何か力を使おうとした。



だがその前に彼は魔力弾で喉と心臓と肺を貫かれていた。







「っ・・・」


口から血を吹き出しその場に崩れ落ちるウァラク、激痛と息が出来ない苦しみで力を使う事など出来るわけがなかった。


「ッ・・・」


倒れたウァラクは必死に口を開く、カラビアの方を向き言葉を吐こうとした。


だが言葉が出なかった、かすれた呼吸音と血の泡しか出ない。


それでもウァラクの言葉がカラビアには分かった。


(助けて先輩)


力に溺れておかしくなった若者ではなく昔から知ってる一人の若者がそこには居た。


カラビアは飛び出そうとした。


(あれ・・・俺・・・本当は何をしたかったんだっけ・・・)


ウァラクの頭に過ったのは昔のこと、まだウェパル達が健在だった頃の事。


そしてウェパル達を始め副隊長や多くの先輩が殺されて無力感に苛まれた事。


そんな時だった、君には素質があると声を掛けられた。


(ああ・・・何やってんだろうな・・・先輩達に死んで欲しくなかったから力をもらったのに・・・)






「待ってろ、今助けて」





遅かった。


カラビアが飛び出すより早くウァラクの頭部は魔力弾で砕かれた。



飛び散った肉片、そして目玉がカラビアの前に転がってきた。



虚ろな目、もう二度と光を宿すことはない目である。


カラビアは膝から崩れ落ちた。









「・・・分かってるな、次はお前だ」


「ごめんね、命乞いなんか許さないから」


そう言ってカラビアを取り囲むルシファー・リリス達。


それぞれが完全に狙いを定め何よりルシファー・リリスが見ている為何かしようとしても直ぐに分かってしまう、完全にカラビアは詰んでいた。



「心配するなよ・・・命乞いなんかしないさ」


だがこの男、カラビアは笑っていた。


生気が感じられない笑い、己の無力さを痛感した自嘲だった。


「・・・なっ、何がおかしいのよ」


ハウラスがいきなり笑い出した相手に若干引き気味で聞いた。


「おかしいだろ・・・だって全部俺の失敗でこうなったようなものだ、笑わずにいられるかよ」


「俺が・・・近くに居たんだ、俺がアシュラの所に行く此奴らを止めていればこうはならなかった・・・」


「止めてれば隊が分裂するなんて言う馬鹿みたいな結果にはならなかった・・・」


そしてカラビアがパイモン達を指差して言った。


「俺があの時此奴らを後回しにする判断をしていなければこうはならなかった・・・」


「あの時逃がさなければこんな敗北はなかった・・・」


「分かるか?全部俺のせいなんだよ、俺が悪いんだ・・・」


確かに聞いていて心が痛む話ではあった、選択肢を間違えていれば彼等もこのような後悔に苦しんでいたかもしれないと思うと他人事とも思えなかった。


だがそれでも見逃す理由にはならない。


「同情はする、でもここで見逃す気は無い」


「そうだな・・・それで良い。こちらもそのつもりだ」


そう言うとカラビアは天を仰ぎ、それから彼等の目を見て言い放った。





「こちらとしても後輩殺されて黙って見逃せないんだよ」


先程とは明確に違っていた、覚悟の決まった眼だった。




(ルシファー!あいつなにかを・・・)




そしてリリスの警告、ルシファーは止めに入るべきだった。


斬り掛かれば止めることが出来たかもしれなかった。




だが一瞬判断が遅れてしまった。


(・・・っ!)


相手の眼に気圧されてしまったのだった。






他の三人も気付き一歩遅れて止めに入ろうとした、だが遅かった。






カラビアは何かを足下で砕いていたのだ。


「あいつ、あれは!離れろお前ら!」


ルシファー・リリスはその光景を見て警戒した、転移の石を砕いたのかと思ったからだ。


もしもこれに巻き込まれてしまえばまた何か良くない方に行ってしまうのは間違いない。



その言葉を聞いて三人もその事を理解、離れようとした。




だが。



石は砕かれても光は起きなかった、しかし変わりに暴風が辺りを包み込んだ。



「なっ・・・何?風?」


「くそ・・・なんて風だ・・・前が見えない・・・」


「待って・・・あいつは?さっきまで居たのに・・・逃げたの?」


ハウレスが言った、たしかに暴風が辺りを包んだのと同時にカラビアは姿を消していたのである。





「お前ら、落ち着いて聞け。円陣を組め」


辺りを伺っていた彼等が言った。




「ルシ兄?」




「速くしろ!来るぞ!」




ルシファー・リリスには感じられていたのだ、相手は逃げてなんかいなかった。


カラビアは能力を発動していた。


前にシトリーで戦った相手達同様能力は切り札として残していたのである。


















暴風の中心、気を抜いたら飛ばされそうな風が辺りを包んでいる。


三人は指示通り円陣を組み目の前に視線を向けていた。


「おい、あいつはどこなんだ?逃げてないって一体どこに?」


「悪い、静かに。指示の通りにしててくれ」




パイモンの言葉を遮ったルシファー・リリス、その様子に三人は気を引き締めた。


彼等は普段ならば何が起きているのか、相手がなにをしようとしているのか少なからず説明をするのが何時もだった。


だが今は違う、これは只事じゃない証左である。








(困ったわ・・・相手が速い・・・)


(くそ・・・まだ来ないか)


(来ないわ・・・間違いなく焦らそうとしてるわね)


能力の目星は付いていた、だが今はそれどころではなかった。


(分かっててやってるな、あいつ・・・)


(あの速さ、狙い撃つのは先ず無理ね。位置が分かっても当てようがないわ・・・)


彼等には待つしか無かった。




一同に緊張が走る、完全に有利な状況から一転して彼等は追い詰められていたと言っても良い。




ルシファー・リリスの様子からパイモン達三人も相手が只者でないことを再認識させられた。


「気を抜くなよ、兎に角目の前に集中しろ。今の俺達には待つしか手が無い・・・」


「待つしか・・・分かったぜ・・・」


「・・・一応聞くわ、相手に飛び道具がない事を祈るしかないのよね?」


「ああ、そうだ・・・」


「・・・ごめん、私達お荷物になっちゃったね・・・」


ハウラスが言った。


位置が分かっているなら彼等だけで相手を追えば勝てるだろう、という意味での発言だった。


だがそうなれば相手の位置が分からない三人はそのまま奇襲される危険がある、ルシファー・リリスが追わないのは三人を庇う為でもあった。



「馬鹿言うな、お前達がお荷物なわけがあるか。今は集中しろ、耐えれば活路はある」


「うん・・・ありがとう・・・」


そう言って少しでも三人の気持ちを上げようとしたルシファー・リリス、だが内心は穏やかではなかった。


(そうは言っても・・・時間ないよな?)


(残念ながらね・・・せめて30分以内に離れないと危ないわ)



悪魔族達の魔力に反応して魔獣がこちらに向かってきていたのである、それもかなりの数。


短期決戦をしたいが今の彼等には不可能、もしもこのまま足止めを喰らえば・・・という嫌な考えがどうしても過ってしまう。




(くそ・・・最悪だ・・・)


耐えれば活路があると言う言葉はでまかせというわけでもなかった、彼等なりの根拠はあった。


だが現状と条件が噛み合ってないのだ。







もう何度目か分からない異常なまでの鼓動の早まりをルシファー・リリスは感じた、戦っているといつもこうなる。


どうしても慣れない感覚だった。



只管意識を集中させるリリス。



瞬き一つせず剣を握り締めるルシファー、握る手に力が入りすぎて血が滲んでいた。





そしてこちらを狙ってくれと必死に祈っていた。







風の音だけが耳に入ってくる。


パイモン達ももう口を開かず目の前に集中していた。


特に話してはいないが何となく三人も今の役割を把握している、彼等と長く居たお陰だった。


(兎に角初撃だけでも受け止める、そうすれば二人が何とかしてくれる・・・)


(頼るしかないのが相変わらず情けない話だが・・・)


(その分出来る事は全力でやる、絶対助けるから)


各々覚悟を決めていた、友人であり恩人でもある二人の為に、そして一緒に生き抜く為の覚悟だった。







待つのはとても長く感じられる、苦しいとすら感じられる、だが来る時はいきなり来るものだ。




そして来た。










(来た!)




リリスの警告、ルシファーは今度は遅れまいと気を更に引き締めた。




一直線に暴風が迫ってくる、人が飛ばされそうな程の暴風、そしてそれがルシファー・リリス目掛けて向かってきていた。




足に力を込め大地を踏み締めるルシファー・リリス。




風で身体が揺らいではいけない、確実に一撃を叩き込み相手を撃退しなければならない。




「・・・」




更にルシファーは目を閉じた。




この方が彼には集中できるのだ、あとは愛したリリスの声のままに全力を叩き込めば良い。




彼に気配は分からないがそれでも確実な殺意が迫っている事は嫌でも理解出来た。







時間にして10秒もない瞬間、でも長く感じられた。





「・・・」


待つのは長く感じられるが彼女の声を待つのは不思議と彼には苦ではなかった。







(ルシファー!)






その言葉のままに彼は全力で剣を振りかぶった。

















(まさか・・・結構速さには自信あったんだが、反応されるとはな・・・痛えな、もうちょっとで心臓に入ってたぞ・・・)


風が吹きすさぶ中カラビアは彼等から離れた木の裏で小休止をしていた。


彼の胸部には深い切傷、ルシファー・リリスの一撃で付いた物だった。


(どうせバレてるんだよな・・・ここに隠れてるのも・・・まあ良いか、些細な問題だ。もう少しだけ息整えたら、またいってくるか・・・)


















「もう良いぞ、円陣を解いてくれ」


「それは良いけど、一瞬なんか風がこっちに・・・ちょっと、ねえなんかすごい血が付いてるじゃん!怪我した?まさかあいつに・・・」


「落ち着けハウラス、返り血だろ?」


パイモンが冷静に指摘をした。


「え・・・あ、ごめん。びっくりしちゃった・・・」


「良いさ、心配してくれてありがとう。それでこの後の事と相手のことを簡単に説明する」


ルシファー・リリスの話に耳を傾ける一同、一先ず危機が去った事は確かなのを彼等の様子から確認した。


(上手く行って良かったね・・・流石よ)


(ああ、お前のお陰でもあるさ。ただかなり冷や汗をかいたな・・・)


あまり時間が無かったので三人には話さなかったが彼等も先程は相当神経を磨り減らしていた。


相手が見えない事と速すぎる事、視覚的な情報が無いというのはかなりのストレスなのである。


対応できたのは本当に幼少期からの訓練のお陰だったと言わざる終えない。


また相手が他の遠距離攻撃手段を持っていなかったこと、そしてパイモン達を狙いに行かなかった事も幸運だった。


してきたとしても対処出来るように近くに居たがそれでもこのどちらかを相手が行ってきたら誰かが欠けていた可能性もあった。


(誰かを狙った方が数を減らせてた可能性は高かった・・・しなかったのは何故だ)



「話す余裕があると言うことは今は離れてるのね?」


ハウレスの言葉で考え事から思考を戻したルシファー、今は手短に話を済まさなくてはならない。


「ちょっとだけ離れてるらしい、剣を振った時に手応えもあった。恐らくこちらの攻撃は入ってる」


「それで相手の能力だが恐らくはシルフだ、風の妖精のシルフ。風と一体化するのが能力ってところだろう、だからこんな小道具で風を起こして最大限に力を活かせる環境にしたと考えられる」


「ただの石にしか見えなかったが・・・砕いたらこんな風を起こせるとかトロメアは本当に俺達の知らない物ばかり持ってるんだな・・・」


「でもその・・・待ってればって話しはどういう意味だったの?」


「ああ、簡単な理由だ。あいつは俺達を撹乱するつもりだったんだろうが速く動きすぎていた。確かに速かったが動く為の魔力も相当使うだろう、だから尽きる前に相手は仕掛けてくるしかない、と俺達は読んだ」


「ひとまず当たってたって事ね」


「まあそういう事だ、運が良かったのもある」


「よし、とりあえず・・・あいつはどこに行ったの?今なら息整えてるって事よね、このまま倒しちゃおうよ」


ハウラスが意気揚々とルシファー・リリスに聞く、恐らくこのまま話したら飛んでいって殴り掛かるのは間違いなかった。


彼女はかなり喧嘩っ早いのである。


だがストッパーでもあるパイモンが真っ先に止めに入った。


「おい待て、焦りすぎだろう。何か考えあるんだよな?」


「ああ、考えてある。このまま考え無しに行って相手にまだ隠し球でもあったら大惨事だ、ちゃんと作戦通りにやってくれ。それで確実に仕留めてさっさと離れよう」


一同は頷いた。
















(さて・・・行くか、痛み止めも効いてきたからな)


カラビアはゆっくり起き上がった。


痛み止めで痛みは抑えられた、だが彼の傷は変わらない。


傷の縫合などする時間も無い、暗殺に使う糸で傷口付近を無理矢理縛り上げ強引極まりない止血を行っていた。


(生きて帰れちゃったらその時は治療するか・・・)


彼の使った痛み止めは短時間で効くかなり強力な代物だった、それを彼は複数投与していた。


身体に悪いと言うレベルではない、だがそれのお陰で彼はこの短時間で再び起き上がることが出来たのだった。


(ああ・・・気持ち悪い・・・って、来たか・・・)




木の陰からこっそり伺うとこちらに歩いてくるルシファー・リリスが見えていた。




(さっきので追い付かれたんだ、一瞬だけもう少し加速して、文字通り全部ぶつけてやるつもりで・・・きついな、立ちくらみがする・・・)


カラビアの能力はお世辞にも使いやすい物とは言えなかった、こればかりは生まれつきなので文句を言っても仕方ない話ではあったが。


能力の内容は殆どルシファー・リリスの読み通り、風と一体化するというもの。


なので風がないと効果が無い、そしてもう一つ致命的欠点があった。


魔力の消費が凄まじいのだ。


早い話が凄まじく燃費が悪い、今の立ちくらみもそのせいだった。


(だめだな・・・今になって後悔が出てきた。もう少し上手くやれたんじゃないか?)


(せめてあいつの機嫌を損ねてでも良いから全員で協力した方が良いと言うべきだった・・・少なくともこんな結果にはなってなかっただろうな・・・)


彼の頭に合ったかもしれないifが過り始めた。


今回のカラビア達の作戦は杜撰としか言えないものだった。否、作戦とすら言って良いか分からない。


全員で相手を誘い出しウァラクが仕留めるというもの、彼等ファリニシュの本分であった奇襲等を一切しないのだ。


理由は簡単、正々堂々と戦い倒さなくては認めてもらえないかもしれないと言うウァラク本人のくだらない焦りからだった。


その結果が今の惨状、隊員達全員の心も恐怖で抑えつけたせいで本来の実力すら発揮できずカラビア以外の隊員が散った。


(本当にどいつもこいつも下らない死に方しちまったな・・・)






(よし、行くか)











暴風が吹き荒ぶ、カラビアは能力を発動し風と一体化した。






そして必殺の一撃の為にカラビアは持てる全てを注ぎ込んでいく。






(いくら位置が分かっても反応が出来なかったら意味が無い、ウェパル達には及ばないが・・・俺だって!)






もしかしたら勝てないかもしれないと言う不安は一切感じなかった、ただ全力をぶつける、今のカラビアはそれだけだった。





そしてルシファー・リリスは剣を構えた。


彼等はまた眼を閉じていた。


背後には先程の三人、太刀打ち出来るのが自分達だと言うことで三人を守っているつもりなのだろうとカラビアは察した。





(上等だよ、勝負だ!)







決着は一瞬だった。







「・・・まじかよ・・・」


カラビアの背中に数発の魔力弾が撃ち込まれていた、もはや斬り掛かるどころではなく彼は力無く剣を落とし倒れ込んだ。






「こうしてくるって思ってたよ。さっきのお前の動きは本当に速かったからな。それにこちらが対応した以上それを上回らないといけない、ならば一瞬だけ加速し背後から斬り掛かる。俺が同じ立場だったら間違いなくそうしてた、だからそこを撃ってもらった」


ルシファー・リリスは倒れ込んだカラビアに告げた。


「ああ・・・思い違いしちまってたな・・・後ろの連中は守られてたとかじゃなかったのか・・・」


これは勝てない、勝てなくて当たり前だった。


彼等はこちらを侮ってもいないし連携も取ってた、歪みきってしまった今の自分達ではどう足掻いても勝てるわけがなかった事をカラビアは痛感し苦笑した。




「おい!無事か・・・良かった」


「ああ、心配掛けたな。ありがとう」


駆け寄ってきたパイモン達に声を掛けるルシファー・リリス、その顔には安堵があった。


「良かった・・・上手く行って・・・あれ・・・そいつまだ生きてるの?」


「下がってて、あとは私達が」



ハウレスとハウラスがルシファー・リリス達の前に立ちはだかりカラビアにトドメを刺そうとした。


カラビアは完全に虫の息なので放っておいても死ぬことは確実なのだがそれでも生かしておけば何かをしてしまうかもしれない、そう考えての行動だった。



「待て・・・待ってくれ・・・」


カラビアは弱々しく言った。


「待ってくれ?今更命乞いのつもり?」


「ふざけてるの?この期に及んで」


「待て二人とも。ちょっと落ち着け」


先輩達の仇である為か怒りを露わにし撃とうとした二人を制したパイモン、ルシファー・リリスが口を開き真意を聞いた。


「どういう意味だ?命乞いじゃないだろ」


「ああ、そうだ。この距離で撃ったら・・・俺の身体の爆弾が・・・起動してお前ら諸共死ぬぞ」


「爆弾・・・ハッタリ・・・じゃないわよね」


その言葉を聞いて二人も矛を収めた、ルシファー・リリスの話からそれがハッタリじゃない事を信じたのだった。


「でもなんで教えたの?あなた達の目的は・・・」


「そうだな・・・俺達の目的はそうだった。でも俺・・・個人は違う、なあ?取引しないか?」












(・・・リリス、時間は?)


(ちょっとだけなら、見ておくわね)


(ああ、頼むよ)





知らせないまま殺させれば爆弾で殺せてたのにそれをしなかった、この行動は話を聞くだけはしてみようと彼に思わせていた。



「良いな、指一本動かすな、あまり時間は無いが話だけなら聞いてやる。何が望みだ?」


「へへっ・・・ありがとな・・・そうだな、難しくはないさ。簡単だ、なあお前達・・・知ってるよな?ソロモンのこと、それを・・・知ってること全部をオーディンに伝えて欲しい、それだけだ」


必死に声を絞り出しカラビアは伝えた。





「ソロモンの事って・・・あれよね?あなた達が襲われてたって」


「ああ、そうだ・・・何が望みだ?そんなことをして一体何に」


「決まってる・・・トロメアはもうだめだなんだ、もう殆ど国の体裁すら保ててない・・・さっき俺の後輩のウァラクが言った言葉覚えてるよな?記憶の改変が解かれたって、その時のお前達の顔、意味が分かってたって事だよな?」


彼等はその訴えに深く頷いた。


「もうな・・・やばいんだよ・・・あの時の記憶を持ってる大人達がビビり散らかして・・・自分の子供や、友人・・・同僚・・・道行く人にすらビビり散らかしてる・・・ズタズタなんだよ・・・もう完全にな・・・疑心暗鬼が国を満たしてる・・・殺人も起きた、子供を親が殺したりした・・・」


ルシファー・リリスだけでなく知らないはずのパイモン達すらその惨状を聞いていて戦慄していた。


「何でだ・・・何でそんな・・・誰か何とかしようとかしないのかよ・・・」


パイモンが口を開いた、よく知らなくてもこんなことが事実だとしたらそう思うのは自然のことだろう。


「ご尤もだ・・・でも誰も何とかしようとする事を・・・許されなかった、アシュラのせいだ・・・」


「あいつが・・・あのクズが・・・みんなに知る権利があるって言って・・・」


「知る権利・・・」


「そうだ、それのせいで・・・全部・・・だから俺達はアシュラを暗殺しようとした・・・失敗した・・・あいつからは、何故かは分からないがソロモンと・・・同じ気配がしていた・・・」


その言葉にルシファー・リリスの顔色が変わった。


「・・・おい待て、ソロモンと同じ気配だと?」


「何でかは・・・俺も知らない、ただそのせいで俺達は戦うまでもなく武器を置いてしまった・・・何でかは全く分からない、でもあの気配は・・・記憶が戻ってしまったから・・・間違えようが、無かった・・・」


「もう一つ、お前達が頭を吹き飛ばしたあいつ、何故かあいつからも同じ気配を感じた・・・理由は分からないが・・・」


カラビアは嗚咽の混じった声で話し本当に悔しそうであった。


「もう駄目なんだ・・・俺達じゃ、アシュラには勝てない・・・あの恐怖が染みついてしまっている・・・絶対に無理なんだ・・・」


「だから知らせて欲しいって事ね・・・」


「そうだ・・・俺達を助けて欲しいとまでは・・・言わない・・・そんな虫の良いことは言えない・・・でも俺達みたいに殺してない連中も・・・トロメアにはいっぱいいるんだ・・・だから・・・頼む・・・伝えるだけで良いんだ・・・そいつらだけでも助けたいんだ・・・それだけで・・・頼む・・・」


涙ながらの懇願だった、これを断れる人間など居るわけが無かった。


「さっき戦ってた時一瞬お前の眼に気圧された、負けたらこれを伝えるつもりだったのか?覚悟を決めてたんだな」


「そうだ、そんなところだ・・・話す間もなく殺されても駄目、かと言って勝ってしまったら此奴らはそこまでだった・・・かなり分の悪い賭けだった・・・」


カラビアの眼が虚ろになってきていた、魔獣が来てしまうより早く彼の命が尽きかけている証拠だった。


元々心臓付近まで届く裂傷に背中に数発の魔力弾、常人ならもう死んでいる傷である、今の彼は気力だけで命を繋いでいた。




「分かった、引き受けよう。必ず伝える」


ルシファー・リリスは力強く返事をした。



「そうか・・・ありがとう・・・」


「こちらからの礼だ・・・お前達の・・・シトリーの裏切り者の事だ・・・」


思ってもない取引材料、寝耳に水だった。


一同驚いた様子はしつつも言葉を挟まず耳を傾けた。








「嘘だろ・・・何で・・・」


ルシファー・リリスは声が出なかった、だがカラビアはそれでも事実を伝えた。


恐らく一番知りたがっている事を伝える事、これが条件を飲んでくれた彼等への礼儀だと確信していたからだ。



「残念だが・・・間違いでは無い、これでも・・・それなりに、長く情報を扱ってきた。確定情報だ・・・」


「もう・・・行け・・・話すこと話したら、意識が飛びそうになってきた・・・気が緩んできた・・・」


(ルシファー、大変よ。そろそろ移動しないと・・・)


「・・・残念だが時間だ。俺達ももう行く」


気持ちを切り替えルシファー・リリスが言った。


「なあ、最後に一つ良いか?名前は?」


「カラビア・・・だ」


「そうか。カラビア、必ず伝えておく。だから・・・安心してくれ」


それだけを言い残し彼等は直ぐさま去って行った。




(最後ので・・・ちょっと表情曇らせちまったな・・・まあ頑張って乗り越えてくれや・・・良い奴らだったな・・・話聞いてくれた・・・長生き・・・して欲しいな・・・ウェパル・・・ワル・・・凄く強い奴らだったな・・・こりゃ勝てないわ・・・負けちまったけどなんかすっきりした・・・まあでも・・・)








「ざまあみろ、アシュラめ・・・俺なりの・・・仕返しだ・・・俺達の誇りを・・・踏み躙った・・・お前への・・・ざまあみろ・・・へへっ・・・ざまあ・・・み・・・ろ」








その日、エデンへと繋がる街道付近の森の一角で爆発が起きた。


原因はわからないものの周辺には誰もおらず被害者は居なかったらしい。
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