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第二章 野望のはじまり

初収穫

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 畑のキャベツとレタスが、ケモッセオで買ったそれらと同じくらいかそれより少し大きいくらいにまで育った。
 見た感じ瑞々しいし、見た目だけではケモッセオのものよりも美味しそうに見える。
 収穫が遅れると味が落ちるって書いてあったし、そろそろ収穫したほうがいいかな。
 ちょっとみんなに聞いてこよう。
 ダイニングに行くと、みんなが行儀よく椅子に座って朝食を待っていた。
「ねえねえ、みんな。
 今畑見てきたんだけど、キャベツとレタスはぼちぼち収穫したほうがいいかなって思ったんだけど、どうかな?
 あんまり自信ないからみんなにも確認してほしいんだけど」
「農業といえば妾であろう。
 ちょっと見てくるのじゃ」
 アレッサンドラが畑に向かった。
 澪と雫とロナはみんなの朝食を用意してるので行けないが、他のみんなはアレッサンドラの後を追った。
 あ、もちろんフランはまだ起きてない。
「いい感じに育ったのぉ。
 ちょうどいい頃じゃな」
 アレッサンドラがキャベツやレタスの硬さを確認してからそう言った。
「収穫は朝するのが良いのじゃ。
 今からするかえ?」
「ちょ、ちょっと待つのだ!
 澪と雫とロナを呼んでくるのだ!
 澪ー!雫ー!ロナー!」
 バハムルは大声で呼びながら走っていった。
「バハムルくんはドラゴンなのに可愛いわねぇ」
「まさかパレオって……、小さな男の子が……?」
「んなわけないわよ失礼ね!」
「そう?ならいいんだけど。
 可愛くてもバハムートさんの息子なんだから、手を出さないでね?
 相手が相手なだけに応援できないよ」
「そうなのよね。
 可愛くても竜王の息子なのよね。
 ほんとここってとんでもないのばっかりね」
「そうじゃのぉ。
 エルフの国エルエールの第一王女という肩書きは、ガイアのほとんどの場所でかなりの力を発揮するんじゃがのぉ。
 ここではなんの意味もないわい。
 恐ろしい場所じゃ」
「ドラゴンに天使に過去の人間の英雄。
 これだけでもなんなのって感じなのに、さらには女神様にその眷属なんてねぇ」
「じゃが、近頃獣人の国のケモッセオにドラゴンと天使がいる商会が出入りしておると聞いたぞよ。
 竜族も天使族も、多種族と交流を持つことはないと思っておったが、方針の転換でもあったのかのぉ」
「あ、わたくしも聞いたことあるわ。
 その商会がエンシェントクロコダイルを卸したおかげで、デモーンにエンシェントクロコダイルの革のバッグが売りに出てたよ。
 こんなチャンスもうないと思って、やばいくらい高かったけど買っちゃったわ。
 ほらこれ、ステキでしょう?」
「魔族の国にも売りに出てたのかえ。
 エルフの国にもエンシェントクロコダイルの革製品が売りに出てたわい。
 妾はこのバッグを買ったのじゃ。
 エンシェントクロコダイルなぞ、生きてるうちにもう手に入らないかもしれないからのぉ。
 妾の私財の半分以上したわい」
「へぇー、あれがそんな風になったんだー」
 薫子さんが興味深そうにバッグを見てる。
「めっちゃ高かったんだねぇ。
 どうもお買い上げありがとうございます」
「ん?どういうこと?」
「どうもこうも、その商会って俺たちなんだけど」
「はあ!?」
「まことか!?」
「え、うん。
 サッカー関連でお金がたくさん必要になりそうだったから、高く売れそうな鰐を持っていったんだよ」
「そんな簡単に言うけど、エンシェントクロコダイルなんだけど……。
 前にジズーくんならちょっとがんばれば金貨十万枚くらいなら稼げるとか言ってたけど、今納得したわ」
「とんでもないのぉ、お主……。
 ここに来てから、今までの価値観がぶち壊れてしもうたわい」
「ほんとね……」
 二人ともゲンナリした顔でボヤいた。
「連れてきたのだー!」
「遅くなってごめんねー。
 収穫するなら包丁いるでしょ?
 みんなの分持ってきたよ―」
「お、ありがとー」
「ほんと、いい感じに育ってるね~。
 普通に美味しそう!」
「じゃあ、収穫するのだ!」
「収穫するよー!」
 畑の番人の二人のテンションが一気にMAXへ。
「ここをこう持ってじゃな、こうやるんじゃよ」
「「「「ふむふむ」」」」
 アレッサンドラ先生に教えられた通りに収穫していく。
 俺は、申し訳ないけど見学。
 俺の肉球は収穫には向かないんだよね。
「ジズー!
 最初の一個、収穫したのだー!」
 バハムルがレタスを掲げながら楽しそうに報告してくる。
「おー!
 上手に収穫できたねー!
 その調子でがんばって!」
「うん!」
 あぁ……、パレオの言う通り、バハムルはかわええなぁ。
 バハムルが一家に一人いれば、世界平和も実現できるな。
 薫子さんも顔に土をつけながらめっちゃ楽しそうに収穫してる。
 あ、パレオはしんどそうだ。
 研究者だもんなぁ、ちょっと中腰で作業するだけで腰が悲鳴をあげるのもしょうがない。
 アレッサンドラは王女なのに熟練農家かってぐらい手際がいい。
 エルフは王族だろうと農業をやってるんだろうか?
 てか、パレオとアレッサンドラ。
 サッカー脳の俺にはその名前はやばい。
 パレオはパオロ・マルディーニ、アレッサンドラはアレッサンドロ・ネスタに変換されてしまう。
 俺の妄想イレブンに二人追加されてしまった。
 スリートップは左からクリス(クリスティアーノ・ロナウド)、ロナ(ロナウド)、レオ(リオネル・メッシ)。
 左サイドバックにパレオ(パオロ・マルディーニ)、センターバックにアレッサンドラ(アレッサンドロ・ネスタ)。
 そしてリベロにフラン(フランツ・ベッケンバウアー)。
 現在六人だけど、なんだか「ぼくの考える最強イレブン」みたいな感じのメンバーになってきた。
 アツイな!
 中盤に、俺がジダンとして入りたいなーとは思う。
 でも、俺にかかってる身体強化の魔法が無効化されたら、俺の身体能力はどんな感じなんだろう。
 まぁ、ドラゴンや天使と同じチームでやれるほどの身体能力がなければ、監督ジダンとしてチームに加わるっていう手もあるか。
 いや、むしろアリだな!
 となると、中盤に三人と右サイドバック、それからゴールキーパーってことで、あと五人か。
 その前に、パレオとアレッサンドラがサッカーをやるようになるかまだわかんないわけだけど。
 うまい具合にサッカーを勧めてみて、好きになってもらわないとだなぁ。
 そんな感じでサッカー妄想を楽しんでいたら、薫子さんに声をかけられた。
「ジズー、収穫おわったよー?
 家に戻るよー」
「あ、うん。
 ごめんごめん、ちょっとぼーっとしてた」
 いつの間にか収穫が終わっていた。
 まぁ、俺はやれることがなくて暇だったから、ちょっとした妄想をしてしまうのはしょうがないってことで。

 その後、朝ご飯で食べたレタスは超美味しかった。
 野菜の味にうるさいエルフの王女様に、「ガイアで一番うまいレタスじゃ!」とまで言わしめた。
 そして、晩ご飯で食べた肉野菜炒めも超美味しかった。
 野菜の味にうるさいエルフの王女様に、「ガイアで一番うまいキャベツじゃ!」とまで言わしめた。
 そして、新たな肉料理(ドラゴンは肉料理と判断した)に、ドラゴンたちは歓喜。
 実はヘルシーな食事を好むフランも、「肉野菜炒めなら、罪悪感なく肉も食べれるし」と言って喜んでいた。
 なんだろう、フランって言うことがいちいち現代人っぽいんだよなぁ。
 それとも女性っていうのは今も昔も同じってことなんだろうか。
 とにかく、大成功に終わった初めての農業。
 俺たちのやり方がよかったんだろうなんて自惚れるわけもなく、良かったのはここの土なんだろうと澪は言った。
 その通りなんだと思う。
 世界樹は、豊かな土壌と清らかな水がなければ育たないとアレッサンドラが教えてくれた。
 世界樹は、俺たちが初めてここに来た時には実も何もついてなかったが、今は実がたくさんなっている。
 つまり、ここの土と水は相当質がいいんだろう。
 せっかく農業に詳しいアレッサンドラがいるし、今度は畑を広げてもっとたくさん作ろうということになった。
 目指せ完全自給自足!と雫はみんなを煽っている。
 でも自給自足って……、うーん。
 かなり広い農地を作って、いろいろな物を作らないといけないからかなり忙しくなると思うんだけどなぁ。
 農作業の機械なんてないわけだし、人手が足りないんじゃないかなって思うけど。
 まぁ、やってみないとわかんないか。
 農業なんて知識も経験もない俺の予想なんて、的外れな可能性もむしろ高いし。
 初めてのことは何事もトライアンドエラーだ。
 まずは、今まではゴロゴロしてるだけで畑仕事をほとんど手伝ってなかったフランに、これからは畑仕事をちゃんとやらせることから始めよう。
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