異世界で猫に転生した俺は、理想の飼い猫生活を目指す

にゃんこ先生

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第三章 黒猫杯

魔神の封印を解く

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「じゃあジズー、アスモさんの封印解いちゃって?」
 薫子さんがめっちゃ軽い感じで言ってきた。
「解いちゃってって言われても……。
 ほんとに大丈夫なのかなぁ……」
「なっ……、なんてことっ……!
 ジズーが私を信じてくれないなんて……!」
 わざとらしく悲しむふりをする。
「いやいや、そうじゃないじゃん!
 アイビリーブユー!
 アイトラストユー!
 わかるっしょ!?」
「じゃあ封印解いちゃって!」
「封印を解くなんてやったことないから不安なんだよ……。
 失敗して取り返しのつかない事態になるとかないよね?
 大丈夫だよね?」
「……」
 サッと目をそらされる。
「えええええ!?」
「うそうそ、冗談だよ。
 大丈夫だから安心して」
「おい……、本当に封印を解けるのか……?
 オレが数百年かけても解けなかった封印なんだぞ?」
 期待して良いのかどうかわからないけど期待したい、といったような複雑な表情をするアスモ。
「大丈夫、解けるよ。
 私を、そしてジズーを信じて」
「そ、そうか……。
 じゃあ、頼む!」
「よーし……。
 じゃあいくよー!」
 封印が解けるイメージ……、あーちゃんとアスモが二人に分かれるイメージ……。
 こんな感じかな?
 あーいや……、こんな感じか……な?
 うん、たぶんこんな感じだ!
「封印解けろー!」
 俺はアスモに向かって両手を突き出し、頭の悪そうなセリフと共に魔力と神気を放出した。
 すると、アスモが強く輝き出し、そして……。
 ポンッ!という音がしそうな感じでアスモの体からもう一人の女性が出てきた。
 いや、この場合あーちゃんの体からアスモが出てきたってのが正しいかな。
「「「「おおー!」」」」
「えーっと、成功でいいのかな……?」
 俺は恐る恐るあーちゃんから出てきたボンキュッボンなバディのねーちゃんに聞いてみた。
 ねーちゃんは自分の手を見て体を見た。
「おおおおおお!
 オレの体だ!
 もとに戻ってるううう!
 うおおおおお、やっと戻れたあああああ!」
 嬉しすぎるのか、その場で寝転がってゴロゴロし始めた。
 さすが魔神、喜び方が独特すぎる。
 アスモは大丈夫だった、でもあーちゃんはどうだろう?
 あーちゃんを見ると、立ったまま目を閉じたままだった。
 これは……、まだ寝てるのかな……?
 少しして、あーちゃんは少しずつ傾いていき、倒れそうになった。
「おーっとととと、あっぶなー」
 倒れそうになったところを澪がナイスキャッチ。
「なんかスヤスヤ言ってる。
 まだ寝てるみたい」
「そ、そっか。
 じゃあ成功なのかな?」
「だから言ったじゃない。
 大丈夫だって」
「そうだね。
 それにしても、無事にすんでほっとしたわー」
「いやー、お前マジすげーな!
 まさか封印が解けるとは!
 ほんとサンキューな!」
 アスモが俺を抱えてグルグル回りだした。
「ストップストップ!
 目が回って気持ち悪っ!」
「ああああ、すまねえ!
 嬉しすぎてじっとしてらんなくてよ!
 あ、そうだ!
 お礼しないとな!
 オレにできることならなんでもするぞ!
 何して欲しい?
 人間でも滅ぼすか?」
 いきなりとんでもないこと言い出した。
「いや、一応俺元人間なんでそういうのはちょっと……。
 別にお礼なんていいよ。
 アスモだって被害者なんだからさ」
「そうはいかねえ!
 こんな特大の恩を受けて何も返さねえなんてありえねえ!
 なんでもいいんだ、恩返しをさせてくれ!」
「うーん、そう言われてもなぁ……。
 なんにも思いつかないから、保留ってことでもいい?」
「思いつかないんならしょうがねえ。
 じゃあ、思いついたらすぐ言ってくれよな!」
「わかった。
 じゃあ、何か思いついたらその時言うよ」
 特にしてほしいことなんてないから、何か人手が必要になった時に手伝ってもらう感じでいいかな。
 にしても、何事もなく終わってよかったよかった。
 もう大丈夫そうだし、ロナたちに連絡だけしとこうかな。
 そう思ったとき、あーちゃんの声が聞こえてきた。
「あれ?
 ここ、あーちゃんのおうち?」
「あ、あーちゃん起きたみたい。
 おはよう、あーちゃん」
「みお、おはよう。
 あーちゃん、ジズーのお部屋で寝てたのに、なんであーちゃんのおうちにいるの?」
「えーっとね、ちょっといろいろあってねー……」
「いろいろ?」
 あーちゃんの頭の上にハテナマークがいくつも浮いてるように見える。
 あーちゃんからすれば、昨日俺の部屋で寝て、起きたら今まで暮らしてたダンジョンの自分の部屋で目が覚めたわけだ。
 周りに誰もいなくて自分だけだったら、夢だったのかって思ったりするんだろうけど、俺たちも一緒にいる。
 どうなってんだ?って思って当然だ。
「おう!アブリル!
 起きたか!」
「あれ?
 もう一人のあーちゃん?
 夢でしか会えないはずなのに……。
 あーちゃん夢見てるのかな」
「夢じゃないぞ!
 こいつのおかげでお前の体から出られたんだ!」
「今まであーちゃんの中にいたの?
 ……どうやって?」
「あー、お前記憶がけっこう消えちゃってるんだったな。
 ちょっと長くなるけど聞いてくれ。
 オレとお前はな……」
 アスモがあーちゃんに、封印されたとこから全部、いとつずつゆっくりと話していった。
 あーちゃんは記憶がないからか、他人事のように聞いていた。
「……てなわけで、オレはお前の中から出ることができたんだ」
「そっか……。
 あーちゃんの名前、アブリルっていうんだ……」
「ああ、いつからかオレの記憶にひっぱられるようになっていったみたいでな。
 自分に関することを忘れ、オレの記憶を自分の記憶だと思うようになったんだ。
 巻き込んでしまって、今までずっと迷惑をかけてしまって……、本当に申し訳ねえ!」
 ガバッとアスモが頭を下げる。
「謝らないで、いい。
 もう一人のあーちゃん、何も悪くない。
 それに、夢でお話できたから、楽しい時もいっぱいあった。
 もう一人のあーちゃんは、あーちゃんの友達」
「アブリル……!」
 アスモの目から涙が溢れ出し、漢泣きって感じで泣き出した。
 ……女だけど。
「ぐすっ!
 友達だからオレのことはアスモって呼んでくれ!」
「うん、わかった。
 友達だからアスモって呼ぶ。
 アスモ、これからも仲良くしてね」
「も、もちろんだ!」
 アスモはあーちゃんに抱きついた。
 うんうん、えー話や。
 女の友情を眺めていたら、くぅーっという可愛らしい音が聞こえてきた。
 どうやらあーちゃんのお腹がなったみたいだ。
「あーちゃんお腹空いた」
「そうか!
 腹減ったか!
 じゃあ外に何か採りに行くか!」
 あーちゃんはこくんと頷いて……、でもすぐに何かを思い出したかのような顔をして首を横に振った。
「あーちゃん、みおとしずくのご飯が食べたい。
 だめ?」
 そう言って澪と雫をじーっと見つめてくる。
 二人が、特に澪があんな可愛いおねだりに逆らえるわけがない。
「もちろんいいよー!」
「じゃあおうちに帰ろっか~!」
 あーちゃんは少し嬉しそうな顔でこくんと頷き、澪と雫の二人の手を掴み、二人とともに転移した。
 そして残された俺たち。
「え……?」
 アスモがすっごい困惑してる。
 女の友情を確かめあったばかりなのに、澪と雫のご飯に負けたアスモ。
「なんか、あれね。
 あーちゃんってけっこう自由奔放なとこあるんだね」
「あー、確かに……。
 自由奔放っていうか、昔から超マイペースってやつだったな」
「そっか、なんかちょっと意外かも」
「とりあえず、あっしらも帰らね?
 もう問題は解決ってことでいいっしょ?」
「……そうだね。
 アスモもとりあえずうちに来なよ」
「え、いいのか?」
「うん、せっかくだしアスモもご飯食べていってよ。
 あーちゃんもそのほうが喜ぶ……というより、あーちゃんはそのつもりなんだと思う」
「そうか、わかった」
「じゃあみんな、帰ろうか」
 そうして、俺たちはダンジョンを後にした。
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