異世界で猫に転生した俺は、理想の飼い猫生活を目指す

にゃんこ先生

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第三章 黒猫杯

紅い流星 対 筋肉隊

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 俺は今、薫子さんとスタジアムの客席にいる。
 ケモッセオで有力者と会うようになってから定着しつつある、薫子さんに抱き上げられるスタイルで。
 今は座ってるから膝の上ではあるが。
 昔はこれだけでも照れまくりでドキドキしたもんだけど、慣れてしまったのか、それとも中身が猫っぽくなってきているのか。
 胸元に抱き上げられると今でも照れてしまうけどね。
 薫子さんだけではなく、領主さんも一緒にいる。
 しかし、VIP席ではない。
 子供の部はVIP席で観戦したが、なんとなく物足りなかったというかなんというか……。
 やはり一般の席から観戦したほうが、サッカー観戦!っていう感じになると思うんだよね。
 それにしても、間もなく試合が始まるとはいえ、けっこうな盛り上がりだ。
 VIP席で観戦した時はスタジアムの雰囲気はいまいちわからなかったが、こんなに盛り上がっていたんだな。
 なんだか、すごく成し遂げた感が……
 いやまぁ、俺はお金を用意しただけだけど……。
 運営はエリーゼさんを筆頭に、商人ギルドの職員さんたちに丸投げだったし、警備や審判は竜族の方々に丸投げだし。
 ……。
 お金を工面するのだって大事なことだよね!きっと!
「会長。
 会長はどのチームに賭けたのだ?
 やはり自分のチームか?」
 領主さんが聞いてきた。
 この人は俺のことを会長と呼ぶようになった。
 何か肩書きがあったほうがやりやすいだろうと思って作った黒猫商会だが、猫の俺が商会の代表であるよりも人間の澪たちのほうがいいだろうと思って、わりと早々に商会は澪と雫に任せている。
 しかし、お偉方の相手は俺の担当という感じになっちゃってるっぽいし、俺が商会を作ったことには変わりないから、領主さんは俺を会長と呼んでいる。
 勝手なイメージだけど、会長って老人って感じがして、なんかちょっとやだなぁって思ったり。
 どうせだったらCEOとでも名乗ろうかな?
 澪あたりにからかわれそうだけど。
「んー、俺は一応主催者ですので賭けはまずいかなーと思うんですけど。
 俺が考えたスポーツの大会だからうちのチームが有利って考える人は多いでしょうし。
 不正に儲けてるなんて思われたくないですからね。
 まぁ当然、うちのチームを全力で応援しますけどね」
「真面目だなー会長さんは。
 俺はコロのチームにへそくり全部賭けたぞ」
 ん?なんかとんでもないことを言わなかったか?
「えーと、今なんと?」
「へそくりを全額賭けたと言ったのだ!
 コロのやつめ、負けたら絶対に許さん……」
「えええええ!
 何やってるんですか!
 ギャンブルで人生ぶち壊す気ですか!?」
「ふっ……。
 このライオネル、やるからには常に全力だ」
 何格好つけてんのこの人?
 てか今更だけどこの人ライオネルっていうんだな。
 初めて知った気がする。
「確か結婚してましたよね?
 そんなことして奥さんに怒られないんですか?」
「ははははは!
 そりゃーバレたら怒られるだろう!
 だがな、バレなきゃ怒られないだろう?」
 ……なんでこういうタイプの人は絶対にバレないって思うことができるんだろう……。
「領主さん、もっと奥さんを大事にしてあげて下さい。
 でないと、天罰を下しますよ?」
 女として思うところがあったのか、薫子さんがおこ気味で領主さんに言った。
「も、もちろん妻のことは大事にしておる!
 ん?
 天罰が下るじゃなくて、下す?
 え?」
 あぁ、そうだった。
 領主さんは薫子さんをただの秘書だと思ってるんだったね。
「まぁ、サッカーを楽しんでくれるのは嬉しいですが、賭けは遊びで済む程度にしてくださいね?
 領主が賭けで家庭崩壊なんてことになったら、サッカーのイメージが超悪くなってしまうので」
「大丈夫大丈夫。
 賭けで大儲けして、妻に国でも買ってやるわ!
 ふはは!」
 ダメだこの人……。
「ジズーは絶対あんな風になったらダメだからね?」
「大丈夫、俺だってあんな風にはなりたくないよ」
 ギャンブルに溺れて破滅する猫なんて嫌すぎる。
 ギャンブル狂の猫、キャラは立つけど別に俺は影薄くても構わないし。
『これより、黒猫杯本戦第一試合「紅い流星」対「筋肉隊」を行います』
 エリーゼさんのアナウンスが聞こえた。
 ちなみに、拡声の魔法具を使っているのでスタジアム全体に声が届く。
 魔法超便利だ。
 アナウンスが流れた後、両チームの選手の入場。
 審判三人を先頭に、選手たちがケモッセオの子どもたちと手を繋いで入場する。
 サッカーの入場と言えばこれ。
 元地球人として、このセレモニーだけははずせなかった。
 ちなみに、子供の部の試合から主審はバハムートさんが務めている。
 副審の二人もやたら屈強そうなドラゴンだ。
 審判が最強種族のドラゴンなので、審判の判定に不服だからと審判を取り囲んで圧をかけるという醜い光景はほぼ見ることはないだろう。
 しかし審判に逆らえない分、審判には常に正しさが求められる。
 審判ってすごく大変だ。
 なので、VARの代わりではないが、観客席の複数箇所にも審判を配置して、フィールドの審判が誤った判定をした場合に指摘する体制にした。
 VARにちなんでOARと名付けた(Oの部分はOutside the field)。
 子供の部では必要なかったが、よりスピーディになる大人の部では出番があるかもしれない。
 写真撮影も国歌斉唱もないので、選手たちがタッチしあってすぐにコイントス。
 ピーーーッ!!
 バハムートさんの笛が響き渡る。
 赤い流星のキックオフでスタート。
 と同時に、赤い流星の選手が背番号十一番の一人を除いて全員一斉に自陣に下がって、赤い流星の十一番は敵陣に向かって走った。
 そして自陣から高く大きくボールを蹴り上げた。
「おおお、いきなり地球ではありえない展開!」
「チキュウ?」
 領主さんが首を傾げる。
「あ、なんでもないです。
 お気になさらず」
 一人敵陣に走っていった選手がボールに向かって大きくジャンプ。
 いや、ほんと大きくジャンプ。
 十メートルは飛んでるなあれ……。
 そしてそのまま空中で叩きつけるようにボレー!
 空気との摩擦でボールが少し赤く見えた。
 そしてキーパーの手前に着弾し、バウンドしてネットに突き刺さった。
 GOOOOOOOOAL!!
 ええええええ!?
 予想していたよりもはるかにサッカー漫画な感じだった!
 ていうか、なるほど!
 赤い流星のチーム名はこのシュートからきているんだね!
 キーパーの手前に着弾させるのも、よく考えてるなーって思った。
 打点の高いヘディングもそうだけど、そういう軌道は止めにくいって聞くし。
 一人以外は全員守り。
 てっきり守備に全振りしてるのかと思ったけど、こんな攻撃があるなんて!
 試合開始早々の得点にスタンドは沸き立つ。
 赤い流星の十一番も、手を振って観客に応える。
 そして今度は筋肉隊のキックオフ。
 いきなりの失点だが、どのように攻めるのか?
 とかなんとか思ってたらキックオフと同時にシュートをした!
 ええええええ!?
 しかもやたらすごい威力のシュートだ!
 そしてシュートと同時に筋肉隊はキーパー以外が全員敵陣に走り出す。
 しかし、赤い流星は一人以外全員守備。
 当然キーパーの元に届くこと無く選手にぶつかり弾かれる。
 まぁ、その選手は軽く吹っ飛んだが……。
 そして、弾かれたボールが地面に着く前に他の筋肉隊の選手がそのままシュート!
 また相手選手にぶつかる。
 また相手選手が吹っ飛んでボールも弾かれる。
 さらにそのルーズボールを筋肉隊が拾いそのままシュート!
 選手が吹っ飛ぶ……。
 な、なるほど!
 これもまさに筋肉隊というチーム名にあった戦術……、戦術?
 ともかく、赤い流星は筋肉隊の気迫に押され、ルーズボールを拾いに行かず、シュートブロックを優先している。
 結果、筋肉隊の攻勢が止まらない。
 赤い流星の選手が必死にシュートをブロックし、キーパーもきっちりシュートを弾く。
 そんなことを十数回ほど繰り返したところでようやく赤い流星がルーズボールを拾った。
 筋肉隊は得点できなかったが、赤い流星にシュートブロックによる物理ダメージは与えていた。
 ボールを拾った赤い流星は、また大きくボールを蹴り上げる。
 またあの流星のようなシュートが炸裂するかと思ったが、筋肉隊の選手も高くジャンプしてボールをカット!
 そ、そりゃそうか!
 紅い流星だけが高く跳べるわけじゃないもんな!
 相手も高く跳べたら、そりゃカットされることもある。
 どちらも獣人だけのチームだし、身体能力は高いんだろう。
 これはジワジワとダメージで削られて紅い流星が不利かな?って思ったが、選手交代を上手く使って筋肉隊の弾丸シュートに耐え切って赤い流星が勝利した。
 結果的に、最初の一点が決勝点となった。
 ちなみに今大会では、様子見として交代枠は五枠にしている。
 多すぎるかなとも思っていたが、この試合の激しさを見た後じゃむしろ足りないかなとも思えた。
 まぁ、大会が終わった後に話し合う必要がありそうだ。
 何はともあれ、この激しい試合に観客は大盛り上がり。
 観客は勝った紅い流星にはもちろん、負けた筋肉隊にも惜しみない拍手を送った。
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