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初めてのデート 5
しおりを挟むあれからガイ様はルルア兄妹に何かを伝え終えると、私の腕を掴み取り、ずんずんと飲食の屋台へ向かって勢いよく歩き出したの。
状況が飲み込めないまま、ちらりとルルア兄妹に視線を送ると、「またね」と呑気にひらひらと手を振るお兄様が見えただけだった。
転ばない様に必死でガイ様に付いて行く。形のいい丸い後頭部から見える耳はほんのり赤い……ルルア兄妹の言葉を信じるなら照れているのだろうけれど、そうなのかしら……? 私の嫉妬深さに呆れていないといいのだけど……と祈るように願ったの。
飲食の屋台の中程まで辿り着いた処で、ガイ様がくるりとこちらに向き直る。いつもの穏やかな瞳を見て安堵のため息を吐いた。
「強く掴んでしまったな……痛くはないか?」
「あっ、はい……大丈夫です」
「アリー、ああいうのは二人きりの時に言って欲しいんだが……?」
ガイ様の眉毛が困ったように下がると、視線が逸らされる。耳もまだ赤くて、私も釣られた様に顔に熱が集まった。「……はい」と小さく頷くと、ガイ様は顔を綻ばせるように笑ったの。
「もう昼過ぎだし、何か食べよう! アリーは何か食べたい物はあるか?」
ガイ様に聞かれて、屋台を見渡すけれど、こういう屋台に来たのが初めてなのもあって、なかなか選べない。ガイ様の大きな手が頭にぽんと乗せられ「最初は俺のお勧めでもいいか?」と瞳を覗き込まれ、大きく頷いた。ガイ様のお好きな物を教えて貰えると思うと、頬が緩んでしまう。
手を繋ぎ直したガイ様と大きな釜のある屋台に並ぶ。お店の人が釜を開けた途端に香ばしい匂いが広がり、食欲を刺激する……!
お店の人が素手で熱そうな釜の中に手を入れるので驚いたが、どうやら釜の内側にパン生地のようなものを直接貼り付けて焼いているらしい。熱くないのかしら……?
「これは胡椒餅という饅頭だ。熱いから気をつけて食べるんだぞ?」
私の幼い頃からの成長を見守っていたせいか、ガイ様は少し心配性だ。猫舌ではないし、大丈夫なのだけど……? ガイ様のこういう所は少しアレクお兄様に似ているなと思う。こんな時に年の差を感じるけれど、昔からよくして頂いていると思うと嫌ではないの。ガイ様にお礼を言いながら薄い紙に包まれた饅頭を受け取ったの。
「あの、ガイ様……どうやって食べるのですか?」
「ああ、そうか……アリーは屋台が初めてだったな。このままかぶりつけば良いんだ」
そう言ったガイ様は大きな口で饅頭をばくりと食べ始めた……! 立ったまま、物に齧りつくなんて初めてで、ちょっと悪いことをする様な気持ちに胸がわくわくと高鳴る。私もガイ様の真似をするように、饅頭に齧りついたわ!
「……っ!」
外はパイ生地のようにサクサクしているのに、中はもっちりとしていた。口に頬張った中身の豚肉餡は熱々肉汁がたっぷりで、ネギの甘みと胡椒のピリ辛さがとっても美味しい。
ガイ様に「旨いか?」と聞かれ、大きく二口目を頬張ったばかりの私は、こくこくと大きく首を縦に振った。ガイ様はとっくに食べ終えたらしく、柔らかな瞳で私の食べる様子を見守るように見つめていて、気恥ずかしい。
これを皮切りにしてガイ様のお勧めの鶏肉を甘辛ダレに絡めた串焼き、蛤ともち麦のスープに夏野菜たっぷりのちょっと辛いガスパチョスープ、クラーケンの炒めたもの等、色々な物を食べ歩きしながら屋台を回ったの。
「まあ……! あれは何をされているのですか?」
「あれは竜の髭と呼ばれる飴菓子を作っているところだな。蜂蜜の入った水飴を伸ばしていくと真っ白な糸状の飴菓子が出来るんだ。……少し見て行くか?」
私が食い入る様に見ていたので、最後は揶揄う様に聞かれ、返事を返す間もなく屋台の目の前に連れられた。
屋台のおじさんが慣れた手つきで水飴の塊をドーナツ状に変えると、今度は粉をまぶしながら数字の8の形にびよんと伸ばしていく。何度も伸ばす作業を繰り返す内に、真っ白な糸が細くなって行き、最後には目でなんとか分かるくらいの細さになった。それを切り分けるとアーモンドに巻きつけて『竜の髭』は出来上がったわ。
ガイ様に渡された『竜の髭』はすごく柔らかくて、持っているだけで崩れそう……「早く食べた方がいいぞ」と言われ、直ぐにひと口食べてみたの。
「……溶けますね! 甘くて優しい味がしますね」
食べると口の中ですぐに溶けていくの。蜂蜜が入っているので甘くて上品なのだけど、どこか懐かしく感じる優しい味がしたの。自然と頬が緩んで味わっていると、視線を感じたの。視線を感じる先に顔を向けると甘く微笑むガイ様と目が合った。「気に入ったみたいだな?」と髪を優しく梳き、イヤリングに甘く触れた。桜貝のイヤリングがそれに合わせてゆらりと揺れた……。
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