【完結】くま好き令嬢は理想のくま騎士を見つけたので食べられたい

楠結衣

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ごちそうさま 2

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 オルランド侯爵家の馬車を降りると夜の帳が下り始めていた。
 頬がひんやりとした夜気に触れる。雲ひとつない静かな空に朧げな白い月が浮かんでいる。


 ガイ様にエスコートされ謝恩会の会場に入ると、既に沢山の卒業生が華やかにドレスアップし、皆笑い合い会場のあちこちでお話に花が咲いている。

 ルル様がオルランド商会の御令息アーサー様と同伴なさって出席していらっしゃったの。アーサー様はクラスは違っていたけれど同じ学年だったので、私も何度かお話をさせて頂いた事があるの。ルル様とアーサー様は『妖精の瞳』や『アリーの瞳』等でお話が弾むようで、エトワル学園内で二人が一緒にいる所をよく見かけたの。
 私達を見つけて二人で歩み寄って来てくれたわ。四人で会話を楽しんだ最後にガイ様が穏やかに微笑むと、

「二人共これからも頼むな」

 そう言うと、ガイ様が差し伸べた手をアーサー様が感激した様に握り返したの。
 凛々しく対応されるガイ様も素敵だな……と見惚れていると、私の視線に気付いてこちらに顔を向ける。
 穏やかな瞳が目を細めて私を甘く見つめるものに変わり、ガイ様が大人の色気を漂わせる。私の頬は一瞬で紅潮してしまい、ドキドキと胸が高鳴る。私の腰に優しく回っていたガイ様の腕に力が篭り、逞しく抱き寄せられる。

「あ、あの、僕達はそろそろ失礼します! な、なあ、ルル?」

「えっ、はいっ? お顔が真っ赤なアリー様……尊いです。最高に可愛いです! 今日のドレスも独占欲丸出しの緑色なのに緑から白色にグラデーションさせて清楚さを忘れさせないとか、大胆に肩や背中を開けたデザインなのに繊細なレースで覆って愛しさを世界中に見せたいけど誰にもアリー様の素肌を見られたくない相反した気持ちを表現したり、『アリーの瞳』を守るようにエメラルドを配置するとか……ガイフレート様の隠して閉じ込めてしまいたい独占欲を甘い溺愛具合に昇華させるオルランド商会のドレス部門の凄さを感じますよねっ! ああ、私も創作意欲が湧いて来るので、もっとずっと永遠に見ていたいですっ!」

「ちょ、ちょっと、ルル! 本音が漏れ過ぎてるからねっ! 雇い主が目の前にいるからね、うん、言いたいことは分かるけどさーーそういうのは当人がいないところで言うのがマナーだからね? うん、あとせめてもう少し離れた所から見ような?」

「うう、そうですね。私達が居たら自然に赤く染まり恥じらう尊いアリー様が見れませんもんね! ああ、仕方ないですね、アーサー様行きましょう……っ」

 興奮して早口に何かを捲し立てるルル様と焦った様子のアーサー様を目にしていた筈なのに、いつの間にか視界は暗くなっていた。

 優しく私の頭を抱き締めたガイ様は、鍛え上げた逞しい胸に私を引き寄せていたと気付いた。三人で何かを話しているみたいだけれど、ガイ様の「こほん、ごほっ、ごほん……」と咳払いの音がするばかりで何を話していたのかは分からなかったの。

「喉の調子が悪いのですか?」

 ガイ様が何度も咳払いをするのが心配になって、顔色を伺う様に見上げるとガイ様の顔がほんのり赤く染まっている気がして、もしかして風邪なのかしらと両手でガイ様の頬に触れ、その後に額に手を当てる。やっぱり少し熱いかしらと思って、きちんと額同士で確かめようとつま先を立て、ガイ様に近付くとーー

「ああ、あ、あの、本当に、僕達、失礼します……っ」

 大きな声に振り向くと、顔が真っ赤なアーサー様と鼻を抑えた顔の赤いルル様が頷きながら慌てたように立ち去ってしまった。
 卒業式当日だから風邪でも無理をして参加していたのかしらと首を傾げたの。

 それにガイ様も体調が悪いならちゃんと言って下さらないと思いじとりと見上げると、ガイ様の熱い指先が私の髪を一房摘みあげると、ちゅ、と軽くキスを落とす。

「えっ?」

 突然の事に息を呑む。頬に熱が集まり恥ずかしさで俯き照れる私をガイ様が揶揄うように覗き込む。

「ーー全部、可愛過ぎるアリーが悪い」

 ガイ様は私の耳元に甘く囁くと顔がゆっくり離れて行った。紅潮した頬の熱を冷まそうと両手を頬に当てる。少し落ち着いた私は下からそっとガイ様を覗き見ると、ガイ様の甘い瞳と見合う。一瞬で頬に熱を持つ私の様子を嬉しそうに見たガイ様が笑みを深めたの。

「アリー、俺と踊って頂けますか?」

 ガイ様のダンスのお誘いを最大の笑顔で受けると、ぶはっ……と豪快に笑われ「アリーは元気で可愛いな」と大きな手を差し出されたの。その大きな温かな手にそっと自分の手を添えると、二人でダンスフロアに向かって歩き出したわ。

 今日の会場では、フロアの中心でダンスが行われているので、ダンスの場所を囲むようにテーブルや椅子が配置されている。
 ダンスをする様子を眺めながらお話が出来る様になっているの。今日で卒業ですものーー最後の別れを惜しみ卒業生も在校生も会話に花が咲いていて、今日は平民も貴族もいる謝恩会という事もあって、踊りより会話に夢中になっていらっしゃる方々も多いのじゃないかしら?

 ガイ様にエスコートされてフロアを進んでいくの。
 ガイ様の腰に回した手に力が篭り、ぐっと引き寄せられる。途端に周りが見えなくなり、ガイ様の甘い匂いに包まれる。ガイ様の甘くて熱い瞳に射貫くように見つめられ、焼かれるように溶けていくの。

 優雅な音楽が響き始め、私達はステップを踏む。シャンデリアから舞い落ちる光が『アリーの瞳』のネックレスを煌めかせる。くるっと回る度に煌めきの粉を纏ったような気持ちになった。

「アリー、婚約した時のこと覚えているか?」
「ーーはい。私がエトワル学園を卒業するまでは、ガイ様との婚約を白紙に戻せるようになっていると」
「そうだ。でもーーもう離すつもりは無いけどな」
「私も離れたくありません……っ!」

 ガイ様は一度目線を上に向けると、短く息を吐いた。私の腰に添えた手に力が篭ると、ガイ様との距離が密着するように近くなった。慌ててガイ様を見上げると甘く愛しそうに目を細めたガイ様と見つめ合う。

「大人になったアリーに見惚れて目が離せないーーアリー、俺と結婚してくれないか?」

 嬉しくて目元が熱く潤むのを感じる。震える声で、はいと返事をすると、ガイ様が耳元に顔を寄せる。

「アリー、愛している」

 ガイ様の甘く掠れた声が耳元に落とされた——
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