【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣

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8.新たな生活

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 僕の助手としての生活がはじまった。
 ジェラール様の提案には驚いたけど、生命の神秘を魔術でどうにかするのは天才だって難しいという結論に至った。僕はただ目の前の仕事を頑張ろうと決意する。


「エリオット、屋上を案内しよう」
 
 筆頭魔術師の部屋から王宮魔術塔の屋上へ繋がる螺旋階段を登る。先を歩くジェラール様が扉があけると僕は感嘆の息を漏らした。

「わあ……っ、すごく素敵ですね」

 ガラス張りの天井から太陽の光が降り注ぎ、人工の川が流れる水面がキラキラ反射する。自由に伸びた草木が心地良さそうに揺れていた。魔術塔の屋上がこんなに自然に溢れているなんて驚いてしまう。

「魔術塔の屋上は、歴代筆頭魔術師だけが使うことができるからな。青い屋根の建物が魔術工房だ」
 
 ジェラール様の指差した先に青い屋根の建物が見えた。

「エリオット、魔術工房の隣でハーブを育ててみろ」
「え?」
「必要ならば魔術工房の隣にハーブ専用の温室を建ててやる。エドワードがフレッシュハーブティーが絶品だと自慢していたからな――助手の仕事として毎日ハーブティーを淹れてくれ」
「えっ、――は、はい……っ!」

 思いがけない言葉に僕の胸が高鳴る。
 ハーブティーを求めてもらえることが嬉しい。もちろん聖女の力を含めてだとはわかっているけど、ハーブティーを淹れるだけならハーブを育てる必要はないと思うから。



「エリオット、これを身につけていろ」

 ジェラール様に差し出されたローブ留めは、銀色の鎖に美しくカットされた紫水晶が並ぶ。ジェラール様の瞳と髪色にそっくりなローブ留めに思わず固まった。自身の色を相手に贈る意味を流石に知らないわけではない。

「王宮魔術塔での身分証明になる。俺の助手であれば、王宮図書館にしかない古代ハーブ全集や聖女についての蔵書も読めるぞ」
「あ……っ、ありがとうございます」

 恥ずかしい勘違いに僕の頬が痛いくらいに熱くなる。羞恥で赤くなる顔を隠しながらジェラール様からローブ留めを受け取り、自分のローブに留めた。どうだろう、と思ってジェラール様を窺えば、紫色の視線がじっと見つめている。

「あ、あの、変でしょうか……?」
「悪くないな――エリオット、これは王宮魔術塔を離れても肌身離さずつけておいてくれ」
「……ひゃ」

 ジェラール様が自身の耳たぶのイヤリングを外して僕の耳に触れる。パチ、という小さな音が耳元で鳴ったことに驚いた僕から変な声が漏れた。

「やはり悪くない」

 ジェラール様が僕の顔を見てうなずく。それから綺麗な銀髪を耳にかけると付けているアメシストのイヤリングをトン、と指差した。

「イヤリングは俺と揃いだな」
「えっ、あの、えっ……どうして!?」
「意中の相手へ贈り物をするのに理由が必要なのか? それなら俺のイヤリングは守護魔術を組み込んであるということにしておこうか」
「いやいや、待ってください! それならジェラール様の守護が減ってしまいますよね? ジェラール様が身につけていてください……っ」
「俺の心配をしてくれるのか?」
「当たり前ですよ! ジェラール様は魔物討伐に行かれるじゃないですか」

 ただの引きこもりの僕と国を守るために魔物討伐を行うジェラール様。どう考えても守護の魔術が必要なのは明白だと思うのに、ジェラール様は目を数回瞬いてから呆けた顔になる。

 

「……エリオット、俺と結婚しよう」
「ど、どうしてそうなるんですか……っ?」
 
 なぜか再びのプロポーズに思わず叫べば、ジェラール様は耐え切れないといった様子でくつくつ笑いだした。

「もう、なにがおかしいんですか!?」
「いやな。最強筆頭魔術師と呼ばれる俺の心配する奴なんて初めてだったから驚いただけだ」
「……っ!」

 ジェラール様の言葉でハッとする。
 今のさらりとした発言から、王弟殿下や歴代最高と呼ばれる筆頭魔術師の立場ゆえに僕には想像すらできない苦労があるのだと思った。きっとあらゆる期待や希望を背負って生きて来たのだろう。目の前にいる人は、僕とは全然違う人生を送っている。

「ジェラール様ほどの方に、僕が心配するなんて烏滸がましいですよね……ごめんなさい……」
「いや、心配されるのも悪くない。お前だからかもしれないな――すぐに対を作るから、やはり身につけていてほしい」

 真摯なまなざしに言葉が出てこなくて、頷くので精一杯。
 なにも話さないジェラール様と僕の間を風が通り抜け、頬を撫でていく。

「案内の途中だったな、行こうか?」

 ジェラール様が柔らかく微笑むと僕に向かって手を差し出す。その笑顔を見たら、胸が大きくトクンとひとつ跳ねて胸に両手を当てる。

「……嫌か?」

 問いかけに首をふるふる左右に振った。不思議とちっとも嫌だと思っていない自分に驚きながら、僕のあまり大きくない手をジェラール様の手に重ねた。
 僕の手を引きながら歩き始めたジェラール様の手のひらの熱が僕の体温と混ざって同じ温度になっていく。

 僕は、この気持ちにまだ名前をつけてはいけないような気がして、ジェラール様の案内についていった――。
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