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しおりを挟むそれからすぐに、アルフレッド様から初夜のやり直しを提案されて。あまりにも真剣な表情に、夕暮れ前の青空だと思いつつも、こくりと頷いてしまった。
頷いたあとは、流れるように笑顔の侍女達に引き渡される。入浴してふんわり甘い花の香油を塗られ、髪も肌も整えてもらう。初夜のときと同じ真っ白で繊細なレースの薄い生地の夜着に着替えて、夫婦の寝室に入った。
「…………」
先程は勢いで大胆なことを言ってしまったけど、ベッドに腰掛けていたら心臓がどきどきを通り越して、ばくばく弾む。いつ心臓が口から飛び出してきてもおかしくない。
カーテンを閉めていても、日差しが部屋を明るく照らす。肌がうっすら透ける夜着は初夜よりも心許なくて、ふるりと心が震えてしまう。その時、控えめなノック音がした。
「どうぞ……」
寝室の扉が開いてアルフレッド様が入ってくる。初夜のときと同じ紺色の夜着、しっとり濡れた髪。色香が立ち上りすぎていて、ぽぉと見惚れてしまう。
そんな私を愛おしそうに見つめたアルフレッド様が、ゆっくりと跪き、手の甲にキスを落とした。
「アリス、愛している」
見上げるアルフレッド様の瞳がとろりと甘い。
「もう、俺は、アリスを愛することができないなんて、できない………本当にこれから初夜をやり直してもいいのだろうか? やめるなら今のうちだが」
口をひらいたら心臓が飛び出してきそう。アルフレッド様に触れている大きな手をきゅっと握り返して、頷いた。
「やめないでください……」
緊張している私を見ていたアルフレッド様が、ふっと微笑む。
「アリス、かわいい」
膝の上に乗せられる。ちゅ、ちゅ、とくすぐるようなキスに緊張がほぐれていく。
アルフレッド様の指が自身の頬を指すから、ひな鳥みたいにアルフレッド様の指を追いかけてキスをする。頬が緩むのが嬉しくて、アルフレッド様の顔に沢山のキスを落とす。ゆっくり指が動いて、肉厚な唇の端に指が止まる。
「おいで?」
甘く掠れた声で誘われて、頬が熱くなる。吸い寄せられるように動きはじめた途端に、優しく塞がれた。
「ごめん、可愛すぎて我慢できなかった」
「アル……もう我慢しないでください……」
アルフレッド様が私の肩にぽすりと顔を埋める。深いため息を吐きながら抱きしめられた。
「……これから我慢しなくていいなんて、夢みたいだ」
大きな身体で甘えてくるのが愛おしくて、アルフレッド様の頭をそっと撫でた。紺色の毛先が首筋をくすぐるから、くすくす笑ってしまう。
「アリスは無邪気に抱きついてくるから、我慢するのが大変だったんだ。婚約中で手も出せないのが分かっていて、嫌がらせなのかと疑ったこともあるくらいだ」
「え?」
「ぬいぐるみになった時は、アリスの柔らかさを感じて……それは、もう、大変だった……」
ゆっくり顔を上げたアルフレッド様の瞳に熱がゆらりと灯っていてる。その瞳に見つめられると、なぜか身体がふるりと震えた。熱い指先が頬をなぞる。
「もう、我慢しないから──覚悟して」
唇が重なって、優しい触れ合いはすぐに深くなっていく。絡まる舌も吐息も熱くて、甘い。もっと近づきたくて、腕を伸ばして首に回すと、アルフレッド様も私をきつく抱き寄せてくれた。心がとろりと溶けて、力がくったり抜けて。
「アリス」
優しく寝かされると、窺う茶色の瞳に小さく頷く。頼りない細いリボンをアルフレッド様の指がつまむ。寝室に、小さな解ける音が響いた。
沢山の甘い言葉に溶けて、甘やかなキスと触れ合いに蕩けていく。茜色の空に変わる頃、アルフレッド様に私の初めてを捧げて、私は身も心もアルフレッド様の妻になった。それから、二回目の初夜は夜更けまで続いて……。
翌朝、声が掠れて動けない私を見て、アルフレッド様が飲み物を差し出してくれた。
「喉に効くブレンドティーと言っていたな」
苦笑いするアルフレッド様を見て、魔女にはすべてお見通しだったのだろうと微笑み返す。ふわりと香る蜂蜜に頬を緩めると、隣に座るアルフレッド様が宝物のように頭を撫でてくれる。そんな仕草が嬉しくて、大好きなアルフレッド様をうっとり見つめた。
「旦那様、愛しています。これからもずっとずっと、愛してください……」
驚いたアルフレッド様の顔が一転、獰猛な獣のような瞳に変わる。あっと思った時には、押し倒されていた。
「煽ったアリスが悪い──もっと愛してもいい?」
甘い声でささやくアルフレッド様の重みと熱を感じて、大好きな人からの誘惑を断れるわけがない。
今度は体力回復のブレンドティーを相談しようと心に決めたところで、我慢をやめたアルフレッド様のキスが落ちてきた。アルフレッド様に腕を伸ばして、抱きしめる。
「アル、大好き」
「アリス、愛してる」
私とアルフレッド様は、愛する人と、愛して、愛されることができるしあわせに甘く深く溶けていった──
おしまい
*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…..
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました!
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最後にお願いがあります。
こちらの『惚れ薬からはじまる嘘の溺愛~寡黙な旦那様に愛することはないと言われました~』は、第17回恋愛小説大賞 参加作品です。
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みんなの感想(6件)
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こっちでももう一回読んだけどやっぱり面白かった♥️
甘々で、超素敵なお話でした。クッキーの顛末は予想出来たのですが、初夜に「愛せない」と言った理由がどうしても分からず、その謎に惹かれるように一気に読ませていただきました。予想の斜め上を行く甘々な種明かしが最高でした。この物語をお茶受けに、何杯でも紅茶が飲めそう。面白かったです。
やーん。素敵でした!いやー、甘い!本当に甘い!
アイシングが甘いのは知っているけど、クッキーよりも甘いお話でしたね♡
いや、なんとなく溺愛な匂いはしてたんですがね♪
二人の誤解が解けてよかった~。
ハピエンで幸せな気分になりました!