【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣

文字の大きさ
39 / 95
村を泳ぐ

聖女の村の滞在記三日目

しおりを挟む


「んんーきもちいいのー」

 清めの儀式を明日に控え、緊張が高まってきた夜、ラピスにお願いしてもふもふをたっぷり撫でさせてもらうことにした。
 くるぅくるぅと喉を鳴らすラピスの背中をもふもふの毛並みに沿ってゆっくりと手のひらを動かしていく。優しい匂いともふもふな手触りに癒される。
 ノワルから「翼を動かすから背中周辺を指圧すると気持ちいいんだよ」と教えてもらい、翼のある肩甲骨にそって指先を押し付け、ゆっくり離していく。

「ラピス痛くない?」
「ん、きもち、いい……なの」

 しばらく指圧を続けていくと、くるぅくるぅと震わすように喉を鳴らすラピスの顔を覗いてみれば、目がうっとりとろけている。小さな翼をそおっと撫でながら飛膜が見えるように優しく広げてみる。

「はあ、綺麗だね」
「ん、んーくすぐったいのーちょっとだけなのー」
「うんっ! ちょっとだけね! ちょっとだけ!」
「しかたないなのー」

 もふもふ龍のラピスの翼を広げると、夜空に揺らめくオーロラみたいな青色なのだ。

 青みを帯びた夜空に光が差し込むと、鮮やかな青が浮かび上がり、光の向きが変わると夜空の中で鮮やかな青が揺らめくように煌めいていく。幻想的に煌めくオーロラを見ているみたいで、ほお、と感嘆の声を漏らし、時間を忘れてずっと魅入ってしまう。

 ラピスのゆったりした呼吸に合わせて揺らめく輝きにうっとり見つめてしまう。その美しい色に惹かれるように飛膜を包みながら触れるとほんのり温かくて幸せな気持ちに包まれる。

「もうおしまいなのー」
「うんっ、ラピスありがとう」
「もうねるなのー」

 ラピスを腕まくらして、ぎゅっと抱きしめるともふもふの毛が頬をくすぐる。愛おしくて胸がきゅんとする気持ちのままにキスをおでこに落とす。

 眠たそうな青い瞳にとろんと見つめられると胸のきゅんきゅんが高まってしまい、顎の下を優しく撫でながら上を向かせて、ちゅ、ともふもふの口にキスをする。ふにゃりと緩む口元が可愛くて、何度もちゅ、ちゅ、と甘いキスを贈っていくと、小指が揺らめくオーロラみたいに煌めいて夜に溶けて消えていった——。


 三日目の朝は、雨の柔らかな匂いとカーテンの隙間から差し込む光が眩しいくらいの気持ちのいい晴れた日になった。
 気合いを入れたら、もにゃりと夢の中のラピスに「めっなの!」と怒られるくらいベルデさんのお姫様に会えるのが楽しみで、ほんの少し緊張している。

「花恋様、ここに座ってね」

 そう言うとノワルが優しく私の手を引いて、鏡の前に座るように勧める。勧められるがままに座ると柔らかな手つきで髪を梳き、手のひらの黒、赤、青色の小さなウロコ玉が両端に並んだ五色に煌めく紐を取り出して見せてくれる。

「ノワル、その紐すごく綺麗だね」
「そうだね。今日は一緒についていけないから、これを身につけてね」

 甘い眼差しを切なそうに細めたノワルと鏡ごしに目が合うと、後ろからぎゅっと抱きしめられる。

「……っ!」
「本当はね、ずっと俺の腕の中にいて欲しいんだよ」

 低く掠れた声が耳元で囁かれると、甘さが痺れるみたいに体中に広がっていく。頭の上にキスの雨が降り注ぎ、ノワルの甘いひだまりに包まれる。
 ノワルの切なそうな表情を見て、胸の奥がきゅうきゅうと音を立てはじめる。そばにいて欲しいと言われて嬉しいと感じてしまう。

「あの、ノワル、でも、清めの儀式は数時間だよ……?」
「うん。それでも花恋様が俺たちと離れると思うと心配になるんだよ」

 ノワルの言葉に、心がとろりと甘くなると頬がどうしようもなく緩んでしまう。ノワルに頬を近づけるようにすり寄るとふわっと包み込むように抱きしめてくれる。

「ねえ花恋様、好きだよ」
「——うん。私も……すきだよ」

 自然に小さな呟きが溢れると、髪を横に流されてあらわになった耳朶やうなじにノワルが優しくキスを落としていく。耳朶やうなじを掠める唇に、身体が揺れるたびにノワルが嬉しそうにくすくす笑い、その吐息も肌を撫でるのがくすぐったくて身をよじる。

「俺にキスしてくれる?」

 いたずらにキスを落としていたノワルの唇が耳元で甘く囁く。思いがけない言葉に心臓がどきんと跳ね上がるけれど、背中に感じるノワルのいつもより早い心臓の音やじんわりと感じるぬくもり、耳元で囁かれる掠れた声、優しい愛情を感じる逞ましい腕のすべてが愛おしくて、胸の奥のきゅうきゅう鳴る音が止まらない。

 振り返って、こくんと小さく頷いた。ノワルの甘い黒い瞳を見つめて手を伸ばせば、にこりと微笑んだノワルの頬に触れる。そっと触れるようにキスをして離れると、ノワルにおでこをぐりぐりこすり付けられる。

「ああ、もう……。花恋様は、本当にかわいいね」

 ノワルからの、ちゅ、ちゅ、と小鳥が啄ばむようなかわいい音のするキスを受け止める。キスの合間に見つめ合い、ふにゃりと頬が緩むように笑うとからかうようにキスを落とされ幸せに浸ってしまう。
 呆れたようなロズの声が近くで聞こえた。

「カレン様、そろそろ出発しないと間に合いませんよ」
「ひゃあ! ロ、ロズ、い、いつから、いたの?」
「カレン様が頷いたあたりからです」
「ひゃああ! は、ははやく言ってよ……っ」

 真っ赤になった顔を両手で覆っていると、ノワルが頭の上でくすくす笑う気配がした。
 今度は真面目な声で「カレン様」と呼ぶロズの声がして、窺うように見上げれば、先ほどの黒、赤、青色の小さなウロコ玉が両端に並んだ五色に煌めく紐を差し出され、恥ずかしさも忘れて神秘的な美しさに目が奪われる。

「カレン様、清めの儀式はかんざしやイヤリングのような大ぶりのアクセサリーは身につけることが出来ないので、今回はこの髪結い紐を使いますね」
「そうなんだ! これも鯉のぼりのものなの?」
「ええ、これも同じように回転球と矢車の部分で出来たものです。カレン様に害意があるものと異常状態——つまり酔っ払ってしまうことがないように結界を張ります」

 鯉のぼりってなんでもありなんだな、と感心している間にロズは手早く髪に髪結い紐を編み込みながら結ってくれる。ロズの細い指先が優しく髪に触れるのを鏡ごしに見つめていると、色気の漂う艶やかな笑みで見つめ返されてしまう。

 心臓が忙しく飛び跳ねている間に髪結いを終わらせたロズが正面に回り、覗き込むように確認をしてくれる。

「ロズ、ありがとう!」
「どういたしまして。あとこちらが勝利酒です。説明する時間がなかったので、詳しいことは書いてあります」

 もう一度お礼を言って、ロズから勝利酒を両手で受け取る。

「あっ、カレン様」
「どうしたの?」
「ひとつ、忘れものです」

 なにを——の言葉はロズの唇に消えた。
 顎をくいっと上げられ、優しくひとつキスを落とされた。

「——カレン様、いってらっしゃい」

 赤く染まった頬の私は、起きてきたラピスの案内で草木の緑が輝くように生い茂り、光があふれた夏めく村の中を清めの儀式に向かった——。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ
恋愛
 剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。  そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。  予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。  リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。 基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。 気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。 連載中のサイトは下記4か所です ・note(メンバー限定先読み他) ・アルファポリス ・カクヨム ・小説家になろう ※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。  https://note.com/mutsukihamu ※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私は、聖女っていう柄じゃない

蝋梅
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。 いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。 20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。 読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...