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村を泳ぐ
聖女の村の滞在記三日目
しおりを挟む「んんーきもちいいのー」
清めの儀式を明日に控え、緊張が高まってきた夜、ラピスにお願いしてもふもふをたっぷり撫でさせてもらうことにした。
くるぅくるぅと喉を鳴らすラピスの背中をもふもふの毛並みに沿ってゆっくりと手のひらを動かしていく。優しい匂いともふもふな手触りに癒される。
ノワルから「翼を動かすから背中周辺を指圧すると気持ちいいんだよ」と教えてもらい、翼のある肩甲骨にそって指先を押し付け、ゆっくり離していく。
「ラピス痛くない?」
「ん、きもち、いい……なの」
しばらく指圧を続けていくと、くるぅくるぅと震わすように喉を鳴らすラピスの顔を覗いてみれば、目がうっとりとろけている。小さな翼をそおっと撫でながら飛膜が見えるように優しく広げてみる。
「はあ、綺麗だね」
「ん、んーくすぐったいのーちょっとだけなのー」
「うんっ! ちょっとだけね! ちょっとだけ!」
「しかたないなのー」
もふもふ龍のラピスの翼を広げると、夜空に揺らめくオーロラみたいな青色なのだ。
青みを帯びた夜空に光が差し込むと、鮮やかな青が浮かび上がり、光の向きが変わると夜空の中で鮮やかな青が揺らめくように煌めいていく。幻想的に煌めくオーロラを見ているみたいで、ほお、と感嘆の声を漏らし、時間を忘れてずっと魅入ってしまう。
ラピスのゆったりした呼吸に合わせて揺らめく輝きにうっとり見つめてしまう。その美しい色に惹かれるように飛膜を包みながら触れるとほんのり温かくて幸せな気持ちに包まれる。
「もうおしまいなのー」
「うんっ、ラピスありがとう」
「もうねるなのー」
ラピスを腕まくらして、ぎゅっと抱きしめるともふもふの毛が頬をくすぐる。愛おしくて胸がきゅんとする気持ちのままにキスをおでこに落とす。
眠たそうな青い瞳にとろんと見つめられると胸のきゅんきゅんが高まってしまい、顎の下を優しく撫でながら上を向かせて、ちゅ、ともふもふの口にキスをする。ふにゃりと緩む口元が可愛くて、何度もちゅ、ちゅ、と甘いキスを贈っていくと、小指が揺らめくオーロラみたいに煌めいて夜に溶けて消えていった——。
三日目の朝は、雨の柔らかな匂いとカーテンの隙間から差し込む光が眩しいくらいの気持ちのいい晴れた日になった。
気合いを入れたら、もにゃりと夢の中のラピスに「めっなの!」と怒られるくらいベルデさんのお姫様に会えるのが楽しみで、ほんの少し緊張している。
「花恋様、ここに座ってね」
そう言うとノワルが優しく私の手を引いて、鏡の前に座るように勧める。勧められるがままに座ると柔らかな手つきで髪を梳き、手のひらの黒、赤、青色の小さなウロコ玉が両端に並んだ五色に煌めく紐を取り出して見せてくれる。
「ノワル、その紐すごく綺麗だね」
「そうだね。今日は一緒についていけないから、これを身につけてね」
甘い眼差しを切なそうに細めたノワルと鏡ごしに目が合うと、後ろからぎゅっと抱きしめられる。
「……っ!」
「本当はね、ずっと俺の腕の中にいて欲しいんだよ」
低く掠れた声が耳元で囁かれると、甘さが痺れるみたいに体中に広がっていく。頭の上にキスの雨が降り注ぎ、ノワルの甘いひだまりに包まれる。
ノワルの切なそうな表情を見て、胸の奥がきゅうきゅうと音を立てはじめる。そばにいて欲しいと言われて嬉しいと感じてしまう。
「あの、ノワル、でも、清めの儀式は数時間だよ……?」
「うん。それでも花恋様が俺たちと離れると思うと心配になるんだよ」
ノワルの言葉に、心がとろりと甘くなると頬がどうしようもなく緩んでしまう。ノワルに頬を近づけるようにすり寄るとふわっと包み込むように抱きしめてくれる。
「ねえ花恋様、好きだよ」
「——うん。私も……すきだよ」
自然に小さな呟きが溢れると、髪を横に流されてあらわになった耳朶やうなじにノワルが優しくキスを落としていく。耳朶やうなじを掠める唇に、身体が揺れるたびにノワルが嬉しそうにくすくす笑い、その吐息も肌を撫でるのがくすぐったくて身をよじる。
「俺にキスしてくれる?」
いたずらにキスを落としていたノワルの唇が耳元で甘く囁く。思いがけない言葉に心臓がどきんと跳ね上がるけれど、背中に感じるノワルのいつもより早い心臓の音やじんわりと感じるぬくもり、耳元で囁かれる掠れた声、優しい愛情を感じる逞ましい腕のすべてが愛おしくて、胸の奥のきゅうきゅう鳴る音が止まらない。
振り返って、こくんと小さく頷いた。ノワルの甘い黒い瞳を見つめて手を伸ばせば、にこりと微笑んだノワルの頬に触れる。そっと触れるようにキスをして離れると、ノワルにおでこをぐりぐりこすり付けられる。
「ああ、もう……。花恋様は、本当にかわいいね」
ノワルからの、ちゅ、ちゅ、と小鳥が啄ばむようなかわいい音のするキスを受け止める。キスの合間に見つめ合い、ふにゃりと頬が緩むように笑うとからかうようにキスを落とされ幸せに浸ってしまう。
呆れたようなロズの声が近くで聞こえた。
「カレン様、そろそろ出発しないと間に合いませんよ」
「ひゃあ! ロ、ロズ、い、いつから、いたの?」
「カレン様が頷いたあたりからです」
「ひゃああ! は、ははやく言ってよ……っ」
真っ赤になった顔を両手で覆っていると、ノワルが頭の上でくすくす笑う気配がした。
今度は真面目な声で「カレン様」と呼ぶロズの声がして、窺うように見上げれば、先ほどの黒、赤、青色の小さなウロコ玉が両端に並んだ五色に煌めく紐を差し出され、恥ずかしさも忘れて神秘的な美しさに目が奪われる。
「カレン様、清めの儀式はかんざしやイヤリングのような大ぶりのアクセサリーは身につけることが出来ないので、今回はこの髪結い紐を使いますね」
「そうなんだ! これも鯉のぼりのものなの?」
「ええ、これも同じように回転球と矢車の部分で出来たものです。カレン様に害意があるものと異常状態——つまり酔っ払ってしまうことがないように結界を張ります」
鯉のぼりってなんでもありなんだな、と感心している間にロズは手早く髪に髪結い紐を編み込みながら結ってくれる。ロズの細い指先が優しく髪に触れるのを鏡ごしに見つめていると、色気の漂う艶やかな笑みで見つめ返されてしまう。
心臓が忙しく飛び跳ねている間に髪結いを終わらせたロズが正面に回り、覗き込むように確認をしてくれる。
「ロズ、ありがとう!」
「どういたしまして。あとこちらが勝利酒です。説明する時間がなかったので、詳しいことは書いてあります」
もう一度お礼を言って、ロズから勝利酒を両手で受け取る。
「あっ、カレン様」
「どうしたの?」
「ひとつ、忘れものです」
なにを——の言葉はロズの唇に消えた。
顎をくいっと上げられ、優しくひとつキスを落とされた。
「——カレン様、いってらっしゃい」
赤く染まった頬の私は、起きてきたラピスの案内で草木の緑が輝くように生い茂り、光があふれた夏めく村の中を清めの儀式に向かった——。
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