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わたしと後輩男子
酒はのんでものまれるな3
刹那は産毛が逆立つ気分だった。突然何を言い出すんだこの陽キャは。
「接点ないじゃん」
「まあそうなんですけどね」
鈴木はそう言うと、ビールおかわり!と元気よく笑った。
鈴木は大食いだった。タコの次は大根がみっつ来たし、たまごもはんぺんもみっつきた。刺身も食べたしよく飲んだ。談笑の内容はたいしたことではなかったが、酒の所為かいつもより気楽に話すことが出来たし、刹那のグラスも気持ちよく空いていった。
「先輩ってなんか趣味とかあるんですか?」
「うーん……。好きなことなら何個かあるけど、趣味ってほどじゃないかな」
「例えば?」
「昼間に行く映画。時間によるけど、ランチ付きなの。普段よりちょっと奮発する。コース料理とか。時間かかるでしょ食べるのにも、食事がくるのにも。それでゆっくり映画の感想をひとりで黙々と反芻するの」
「それめっちゃいいっすね」
「そうなんだよね。昔は友達と行ったりもしたけど、ひとりで行く方がなんていうか、ぶつからないんだよね。感想が」
「一理あるっすね」
「でしょ」
鈴木は流石営業成績一位といった具合に聞き上手だった。
刹那は何杯目かわからない焼酎を飲みながら、エイヒレを齧った。
「でも今度は俺と行きましょうよ」
「なんでぇ」
「俺も映画好きだし、アニメでも小説でもドラマでも絵画でも、なんでもそうだと思うんですけど、自分と同じ感想持った人に出会うのって楽しくないですか?それに違う視点で見てる人の気付きとかって面白いじゃないですか」
それは本当にそうだなと思った。刹那は映画の後のランチで、ひとりSMS検索に奔走する。みんなどう思ってるんだろうと思って映画のタイトルを入力する。
そうして浮かび上がってくる感想ひとつひとつに、わかるーだとか、それは違うんじゃとか、ひとりで文字列と会話する。つまるところ、本当は誰かと話したいのだ。
――…そうだった。自分は誰かと話したいのだ。
「ん?どうしました?酔っちゃいました?」
鈴木の声にはっと我に返る。ぱっと横を見やると、涼しい顔をして同じく焼酎を飲んでいる鈴木が心配そうな目付きでこちらを見ている。
「……ううん。大丈夫」
そう言うと刹那はレモンサワーを頼んだ。ちょっとすっきりしたい。
「ところで鈴木くんって結局なんで私だけ先輩呼びなの?」
「あー、それ?なんていうか、轟先輩って言いやすいじゃないっすか」
「呼びやすいからってこと?」
「まあそれもあるんですけど、先輩って先輩なんですよ。なんていうか、人生の。そういう感じ」
「なにそれ。どういう感じなんだ」
けらけらと笑うと、鈴木も笑った。
居心地の良い時間だった。
こういう関係値ってもしかしたらいいのかも。
ふとそう思った。
飲みすぎたのかな。
「先輩ってずっと髪短いですよね」
「うん?うん、そう。楽だしね」
「女の子って髪長いと大変っすよね。みんな言ってますもん。風呂上がりのドライヤーが一番めんどいんでしょ?」
「そうそう。ほんとにめんどいよ。この長さでも面倒だからすごいよね」
「はは、俺でも先輩髪短いの好き」
「ほんと鈴木くんってそういうの上手だよね」
「本心なんですけど」
じろっと睨まれる。思わずグラス片手に固まった。運ばれてきたレモンサワーはまだ半分以上あった。業務用だかなんだかわからないが、どこでも同じ味のするレモンの甘いけど爽やかな風味と共に、若干熱っぽい視線に撃ち抜かれる。
――…危ない。
本能がそう告げた。
刹那はレモンサワーをぐぐっと飲んだ。
「営業成績一位ってすごいね……」
「んえー?」
今それ?と鈴木は呻いたが、気付かなかったフリをした。
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