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わたしと後輩男子
酒はのんでものまれるな4
送っていきましょうか?という言葉に頷いた理由は分からない。
店主にお願いして来たタクシーにふたりで乗り込んだ理由もよくわからない。
――…これじゃ私が営業成績一位をお持ち帰りしたことになるんじゃ……。しかも年下……。
謎の冷や汗と、いやいや送ってもらうだけだからというよくわからない言い訳でその場を凌ぐ。
別に悪いことをしている訳じゃ……。
住んでいるアパートの下に着いて、自然な流れで鈴木もタクシーを降りた。降りなかったら泣くところだった、と思った自分に少し慄く。何を期待しているんだろう。
エレベーターを押す時、焦りで勢いよくボタンを押した所為で身体が傾いた。
先輩、という声と共に、鈴木の手が刹那を抱き留めた。
「大丈夫ですか?もしかしてやっぱ結構酔ってます?」
鈴木は優しかった。ここに来て酔ってるか確認してくるなんて、結論どういうつもりなんだろうと怪訝に見上げると、びっくりするくらい身長が高いことに気付く。
「……鈴木くんって、背大きいんだね」
「はあ?」
今度は鈴木が眉を顰める番だった。
「今更すぎませんか?先輩ってまじで俺のこと興味なさすぎません?」
183あるんですけど、と続けて鈴木がぶっきらぼうに言ってのける。
それはまた大きいな……。童顔で気付かなかった……。なんて言える筈もなく、エレベーターに乗せられる。
完全に酔っ払いだと思われている。
なんとも無念というか残念というか、情けない。
きっとこの童顔ででっかい青年は年上の自分に気を遣っているのだ。
そりゃ自分と飲んでた先で倒れられたり何か事故に巻き込まれでもしたら目覚めが悪いだろう。
昔、こちらが介抱する側だった時はそれが一番の理由で面倒を見ていたのだ。それと同じ……。
部屋の前で鞄から鍵を出すときも、こういう時に限ってすんなり見付からない。やっとの思いでドアを開けて中に入るときに頭を下げると、鈴木の革靴がドアの間に挟まった。
「帰っちゃうんですか」
頭上から低い声が脳天に突き刺さった。
心臓がばくんと跳ねて、そのまま地続きにどんどんと太鼓を打ち鳴らしていた。
「入れてはくんないんですか」
ぐっと革靴がドアを押し開く。
その強引さは刹那には持ち合わせないものだった。
だからこそ自分の内側まで引き剥がされるかのような錯覚に陥る。
手が伸びる。
よく見なくても大きな手。それが刹那の頬に触れた。
かっと熱が集まる。頬に触れた手が耳に、短い髪をすくう。
その感触がなんだかこそばゆくて、刹那は肩を竦めた。見上げる男は大きくて、少しの力で押しつぶされてしまいそうだと思った。
――…それもいいかもな。
なんて思う今日の自分はやはり酔っている。
これはお酒の所為。そう、悪いのはお酒。
近付く距離に目を閉じる。
一瞬息を呑む音が聞こえた気がするが、確認しようとか思うより先に唇を塞がれる。
じわりとした熱に身体全体が火照るのがわかった。触れるだけのキスが離れて、額を合わせられる。
ゆっくり目を開くと、幼ささえ感じていた双眸が熱っぽく妖しく光る。
玄関の壁に押し付けられるようにして、半ば乱暴に深く口付けられる。
どさりとお互いの荷物が地べたに落ちる。その音をかわぎりに、目の前の広い胸に手を伸ばす。
正面から抱き合って、キスをする。
恋人のような応酬に、酒の力もあいまって余計に脳がぐらぐら揺れる感覚を覚える。
角度を変えて唇を合わせる度、ちゅっちゅっと短い音がする。
不意に、唇の表面をざらりとした感触が這う。ぞくりと背筋が粟立つのがわかった。
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