駆け出し魔法学生はスタート地点を目指す(番外編)

石狩なべ

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光の魔法使い

お師匠様、魔法をかけてください

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「ミランダ様、お、お、お茶を、お持ちしました」
「ああ、入りな」

 紅茶を持ってきたルーチェがドアを開け、ミランダの研究室に入る。今日も今日とて光の魔法の研究を怠らない師匠の姿に、ルーチェのモチベーションが上がる。あたしももっとやらなきゃ! よーし、部屋に戻って滑舌練習だ!

「……ルーチェ、ちょっと」
「はい?」

 指で示され、正面の椅子に座るとミランダがルーチェの手を掴んだ。

(お?)

 透明なベースコートを爪に塗られる。

(おお?)

 それから可愛らしい薄桃色のマニキュアを塗られる。

「……」

 ルーチェが黙って様子を見る。ミランダも無言で塗っていく。しばらくして、両手の爪が色鮮やかになった。

(おー!?)
「なるほど。これは私の色じゃないね」
「これど、どーしたんですか?」
「依頼人から貰ったんだよ。マニキュアショップの店長で、お礼にって」
(可愛い……)
「色々種類を貰ったんだけどね、どんな感じか見たかったから、お前で確かめさせてもらったよ」
「お、お役に立ててな、何よりです!」
「ああ、大いに役に立ったよ」

 ミランダが鼻で笑った。

「その色はお前用だね。お前の爪によく似合ってる」

 その言葉が、ルーチェにはとても嬉しかった。塗られた爪が、より輝いて見えた。

「マニキュアの成分は合成に使えるから、使わないのはそっちに使おうかね」
(……あたしに似合ってる色)

 薄い桃色。ミランダ様がつけてくださった爪の色。

(嬉しい)
「ルーチェ、もういいよ。研究の続きをするから出ていきな」
「はい。ミランダ様」

 翌日、隣の席に座っていたトゥルエノが覗き込んできた。

「爪どうしたの?」
「へへ。ミ、ミランダ様に塗ってもらったの」
「すごく可愛い。ルーチェに似合ってる!」
「……ありがとう」

 ミランダが塗ったマニキュアで、皆がルーチェを褒めた。

「あー! ルーチェがマニキュアつけてるー! 可愛いー!」
(アーニーちゃんに褒められた)
「ルーチェ、マニキュア塗ったの? 可愛い」
(アンジェちゃんに褒められた)
「あー、お洒落さんじゃーん! どうしたの? 俺っち以外の男とデート?」
(クレイジー君に褒められた)

 ルーチェがバイトでレジを打つ。

「お品物ですー。ありがとうございましたー」
「あなた、爪綺麗ね」
「あ、あへへ、ありがとうございます」

 お客さんにも褒められた。

(ミランダ様は魔法使いだ)

 爪がキラキラ輝いて見える。

(嬉しいな)

 けれど、指を動かしていれば自然とマニキュアは剥がれてきてしまう。爪が伸びれば、どんどんかっこ悪くなっていく。それでもルーチェは残しておきたくて、マニキュアを落とすことはしなかった。

(まだ大丈夫)
(まだいける)

「ルーチェ、帰ってきたなら手伝っておくれ」
「はい!」

 隣に立って料理の手伝いをすると、ミランダがルーチェの爪に気づいた。

「……お前、それまだ落としてなかったのかい?」
「気に入ってるんです」
「剥がれてるよ。除光液あげるから、落としな」
「まだ大丈夫です」

 ミランダが手を伸ばすと、それを避け、ルーチェが爪を隠した。

「き、気に入ってるんです!」
「……だったら一回落として、新しく塗ったらどうだい?」
「……」
「あとで部屋に来な。あのマニキュアはお前にあげるから」

 マニキュアと除光液を貰ったが、そういうことではないのだ。

(ミランダ様が塗ってくださったから)
(それをみんなが褒めてくれたから)

 まだ落としたくない。

(まだ大丈夫)

 翌日、授業中もルーチェは剥がれかけたマニキュアを見てはうっとりした。自分に似合う色。桃色のマニキュア。ミランダ様がつけてくださったマニキュア。ちょっと剥がれかけてるけど、まだいける。まだ大丈夫。だってこんなにも可愛くて、キラキラ光ってる。

「今日の授業はここまで。諸君、気を付けて帰るように」
「ルーチェ、この後バイト?」
「きょ、今日はないんだ。このまま、帰る」
「駅まで一緒に行こう」
「うん!」

 二人で肩を並べて歩く。他愛のない話をしていると、ふと、トゥルエノが言った。

「ルーチェ、爪塗り直さないの?」
「ん? うーん。まだ大丈夫」
「不格好だよ」
「まだ大丈夫」
「……落としたくないんだ?」
「……だって」

 ルーチェが爪を見た。

「ミランダ様が、あの、ぬ、塗って、くれたから……」
「……そういうことだったか」
「すごいの。ミランダ様が、あ、あたしの爪にぬぬぬ塗ったら、次の日ね、ほ、本当に、皆褒めてくれたの。可愛いねって」
「だって、ルーチェがマニキュアつけることなんて珍しいから」
「最初に褒めてくれたのはミランダ様。……お前に似合ってるって、い、言ってくれたから……」
「……ルーチェ、でも、そろそろ流石に……」

 二人が足を止めた。突然影が自分たちを覆ったのだ。きょとんとして見上げると――巨大化したキリギリスが自分たちを見下ろしていた。

「動物の凶暴化!?」
「トゥルエノ!」

 キリギリスの刃が街を襲う。ぎりぎりのところでルーチェとトゥルエノが避け、杖を持って起き上がる。

「稲妻よ、巨大な昆虫に制裁を!」
「風よ、雲を運び、空を覆え、さあ、吹き荒れろ!」

 他の魔法使い達も応援に来る。しかし凶暴化したキリギリスは暴れまくる。ルーチェがキリギリスを睨む。

(このままじゃ切りがない)
「ルーチェ! こうなったら二人で!」
「うん!」

 杖を構え、集中する。トゥルエノとルーチェの魔力が絡まりあった。

「雷よ!」
「光よ!」
「落ちろ!!」

 光に包まれた雷がキリギリスに落ちた。その衝撃にキリギリスが目を回すと他の魔法使い達がキリギリスを押さえつけ、意識を飛ばした。

「魔法調査隊第13隊隊長ネブリーナ! ただいま到着! 霧よ! 魔力を吸い取れ!」

 キリギリスが元の大きさに戻っていく。ボロボロになったトゥルエノとルーチェが溜息を吐いた。

「はあ。びっくりした……」
「トゥルエノ、怪我無い?」
「怪我はないけど、受け身取ったりして青タンだらけなのは確か」
「それは確かに。あはは……あ!!」

 ルーチェが爪を見た。雨に濡れ、土に汚れ、ボロボロになった爪に塗られたマニキュアは完全に剥がれてしまっていた。

「……」
「ルーチェ、マニキュアはまた塗ればいいから」
「……」
「……あ」

 トゥルエノがその存在に気づくと、すぐさま手を挙げた。

「ミランダさん!」

 空を飛ぶミランダがトゥルエノの声に気づいた。側には弟子もいて、二人ともボロボロだ。ミランダの箒が二人の方向へ進み、地面へと下りた。

「お前たちここで何やってるんだい」
「帰宅途中で」
「巻き込まれたのかい。大変だったね」
「いえ、他の魔法使いもいたので。あの、でも……ルーチェが」
「ん?」

 ルーチェが両手を隠し、ミランダから目をそらした。ミランダがきょとんと瞬きをすると、トゥルエノが耳元でひそりと教えた。

「マニキュア取れちゃって、あの、ショックだったみたいで……」
「……」

 ミランダが溜息を吐き、辺りを見回した。

「ルーチェ、今日はバイトがない日だったね」
「……はい」
「夕食、頼んだよ」
「……はい」
「仕事が残ってるから、それが終わったら帰るからね」
「……はい」
「……エルヴィス、こいつ頼むよ」
「あ、はい、もちろんです」
「……はあ。全く」
(あ)

 ミランダが素っ気なく箒に乗って行ってしまった。

(お仕事、まだ残ってますもんね)

 爪を見る。マニキュアは残っているものもあるが、やはり、もう剥がれている。

「……帰ろう。ルーチェ」
「……うん」

 トゥルエノが手袋をはめた手でルーチェの肩にそっと触れ、駅まで歩いて行った。


(*'ω'*)


(……ああ)

 ルーチェが爪を見つめた。

(色がない)

 帰ってから、剥がれかけていたマニキュアも全て除光液で落とした。自分の爪が戻ってきた。

(ミランダ様が塗ってくださったのに……)
「ルーチェ、俺、お腹すいたよ。ご飯まだ?」

 窓が開く音が聞こえ、セーレムが振り返った。

「おっと、うるさいのが帰ってきやがった」
(あ、お出迎え……)

 ルーチェがミランダの部屋へ行くと、ミランダが地面に足を付けたところだった。

「お帰りなさいませ」
「ああ」

 帽子とマントを受け取る為両手を伸ばす。そこには色のない爪がミランダとルーチェの目に入った。ルーチェが目をそらした。

「今日もお疲れ様でした」

 ルーチェが帽子とマントをポールにかけた。

「おふ、お風呂、沸いてます。ご飯も、もう少し煮込めば……」
「ルーチェ」

 ミランダが手をルーチェに差し出した。ルーチェがきょとんとする。

「見せな」
「……」

 ルーチェがミランダの手に手を乗せ、爪を見せた。マニキュアは全て落ちている。

「少し爪が伸びたね」
「今夜切ります」
「……」
「爪、伸ばすと汚れが溜まるし、かっちゃいたりして、危ないので」
「……やすりで整えると、形が綺麗になるよ」
「もういいです。爪なんて」
「何を塞ぎこんでるのさ」
「塞ぎこんでません」
「ルーチェ」
「だって」

 ルーチェが下唇を噛んだ。

「ミランダ様が……塗ってくださったのに……」

 それは魔法のようにきらきら輝いていた。

「皆、すごく褒めてくれて、なんか、わから、ら、ら、わかんないけど、なんか、あの、な、なーんか、……お姫様みたいに、なれた気がして」

 ミランダ様の魔法がかかったマニキュア。ルーチェの視界が潤んでいく。

「すごく可愛かったのに」
「……マニキュアなんて、また塗り直せばいいだろう?」
「それじゃあ意味ないんです。あたしが塗ったって、魔法はかからないんです。ミ、ミ、ミランダ様だったから、ミランダ様が、塗ってくださったから……なのに、爪が、む、虫が、出てきて、魔法、使ったら、マニキュア……」
「あー、はいはい。わかった、わかった。そんなことで泣くんじゃないよ。子供じゃないだから、もう」

 目から大粒の涙を落とし始めたルーチェをミランダが優しく抱きしめた。

「だって、っ、ミランダ様が、塗って、塗ってくださったのに……!」
「そんなのまた塗ってあげるから泣くんじゃないよ」
「でも、そ、それじゃあ、ミランダ様の研究時間が、減るじゃないですか。あ、あたし、迷惑だけは、か、かけたくなくてぇ……!」
「わかった、わかった。まだ試したいマニキュアがあるからお前の爪で試すよ。それならいいかい?」
「……」

 ルーチェが急に大人しくなり、無言で鼻水をすすった。

「私が似合いそうなら貰うけどね、微妙なのがいっぱいあるんだよ。お前で試していいかい?」
「……試していただけるんですか?」
「微妙なマニキュアを使いたくないものでね。実験台になるかい?」
「……はい」
「……はあ。お前くらいだよ。他人に爪を使われて喜ぶのなんざ。爪に炎症が起きても知らないからね」
「構いません」

 ルーチェの目から涙が引っ込み、代わりに口角が上がった。

「嬉しいです。ミランダ様。マニキュア、また塗ってほしいです」
「全く、図々しい奴だよ。お前は」
「ごめんなさい。でも、う、嬉しいです」

 前のマニキュアは落としてしまったけれど、

「新しいマニキュア、楽しみです。へ、へへへ」
「……夕食、煮込んでるんじゃないのかい?」
「あ、わ、忘れてました!」

 料理のことを思い出すと、ルーチェはキッチンの方へと一目散に走っていき、ミランダは溜息を吐きながらリビングへ移動する。

「ミランダお帰りー! 背中撫でて!」
「手を洗ったらね」

 ルーチェが蓋を開け、出来立ての料理を見て笑みを浮かべた。上手くいった。これでミランダ様に美味しく食べてもらえる。ミランダがルーチェの肩から、ひょいと鍋を覗き込んだ。

「今夜は何だい?」
「鶏ももの、トマト煮込み、です。この後チーズ入れます」
「お前にしては上出来だよ」
「へへへ。……ミランダ様」
「ん」
「今夜、……一緒に寝ちゃ、駄目ですか?」
「寝てもいいけど」

 ミランダがはっきり言った。

「今夜は手が出るよ」
「……」
「それでもいいのなら」

 ミランダがキッチンから出ようとすると、その手前で、背後からルーチェに抱きつかれたことによって、足を止めた。

「ルーチェ」
「いい、です」
「ああ、そうかい」
「手、出て、いいです」

 うつむく顔も、耳も、既に赤く染まっている。

「貴女の側に……いたいです」
「……じゃ、今夜は一緒に寝るかね」
「……」
「ルーチェ、風呂に入るから、離しな」
「……はい」

 名残惜しいが、この後には長い夜が待っている。言われた通りにミランダのドレスを離すと、振り返ったミランダの唇がルーチェの額に触れてきた。

「っ」

 ルーチェが身を強張らせ、その耳に低い声が囁かれる。

「後でね」
「……は、い……」
「ミランダ! 俺のお腹撫でてよ! 早くぅ!」
「後でね」

 ミランダが手を洗うため、先に洗面所へと向かった。


(*'ω'*)


 ドアをノックすれば、ミランダが返事をした。ドアを開ければ、枕を抱いたルーチェがナイトガウンを着るミランダの色気に脳がやられてしまう。

(今夜もお美しい……)
「……いつまでそこに突っ立ってるんだい?」
「あ、ご、ごめんなさい」

 枕と一緒にベッドへ移動する。ミランダは既に座り、ルーチェを待っている。

(久しぶりで、緊張してきた……)

 ミランダの手が伸びる。

(あ)

 抱き寄せられ、強制的にミランダの肌とくっついてしまう。

(あ……)

 抱きしめられ、優しい手で頭を撫でられたら、もうルーチェはとろけてしまう。

(ミランダ様……)

 ミランダがルーチェの手を持ち、そっとキスをした。あ。爪にキスをされる。ルーチェが見つめる。親指、人差し指、中指、薬指、小指、一つ一つにキスをし――ミランダの目がルーチェに向けられた。

 その美しい瞳を見ていられなくなり、ルーチェが即座に目を逸らした。

「ルーチェ」
「だ、だって……」
「ちゃんと見てな」
「はい……。ミランダ様……」

 口付けされるたびに、胸がドキドキと音を鳴らす。ミランダの唇を見つめるたびに、だんだん理性が崩壊していくことを自覚する。その瞳に見つめられたら、動くという機能が停止してしまう。

 ミランダが近づいた。ルーチェは瞼を閉じる。唇が重なる。

(温かいです……。ミランダ様……)

 体が密着し、唇を求めてしまう。

(もっと欲しいです……あっ)

 ミランダの唇がルーチェの首に移った。

(あ、く、くすぐったい……)

 寝巻きが脱がされていく。

(あ、あたしも……)

 ミランダのナイトガウンの紐に手を伸ばすと、ミランダの声が耳に吹かれた。

「おや、脱がしてくれるのかい?」
「は、はいっ」
「そんなに私の裸が見たいのかい。盛ってるねぇ」
「はっ、裸!?」

 ルーチェの頭から湯気が出るのを見て、ミランダがクスッと笑った。

「馬鹿だね。下着くらいつけてるよ」
「ははっ! で、で、ですよね!」
「脱がし合いも前戯の一つだよ。ルーチェ、わかったらブラジャーくらいしてから来な」
「……今後そうします……」
「……ま、お前の下着なんて見ても興奮しないんだけどね」
「ごもっともです……んっ」

 ミランダの指がルーチェの背中を泳ぎ出せば、ルーチェの体がビクッと揺れる。ミランダの唇がルーチェの首筋を辿ると、ルーチェの口から堪えた吐息が漏れてしまう。久しぶりの行為に、緊張で体が震え始めた。それをあやすようにミランダが唇をつけていく。ルーチェの心臓は既に爆発寸前であり、その顔は林檎のように赤く染まっている。

(あっ)

 耳にキスをされた。くすぐったい。

「……ミランダ様……」
「ルーチェ、脱がすんじゃないのかい?」
「は……い……」

 紐を緩ませれば、大人の下着をつけるミランダの体が目に入る。引き締まったお腹周り、巨大なのに形が整った美乳。フィットされたセクシーな大人の下着。ルーチェは目のやり場に困り、ただあたふたと目を泳がせた。

 そんなルーチェの頬に手を添え、ルーチェがようやく視線を上に上げたところで、逆の頬にキスをする。恥ずかしい。ルーチェが上を脱いだ。見られてる。ルーチェが下を脱がされた。少し寒い。ミランダがガウンを落とし、ルーチェを押し倒した。

(……あ……)

 色気たっぷりのミランダが、自分を見下ろしている。

(恥ずかしい。でも、嬉しい)

 ミランダの指がルーチェの体を伝う。

(くすぐったい。でも、やめてほしくない)

 ミランダの手がキャミソールを捲り上げた。

(ミランダ様に……触れられている……)

 キャミソールの中に手が入り、上へと伝い、何もされてない胸を優しく撫でてきた。

(あっ)

 先端を指で撫でられた。

「あっ」

 声が漏れてしまう。恥ずかしい。自分の声が漏れないように手で口を押さえると、ミランダに掴まれた。

「やっ……! み……らんだ……さま……」
「声、出しな」
「で、でも……でも、あ、あたし……」
「はーん? ……私の言うことが聞けないのかい?」
「あ、あうっ……」
「私が出せと言ったら出しな。この間も言ったはずだけどね」
「ご、ごめんなさ……あっ……♡」

 そんないじらしい触られ方をされたら、おかしくなってしまう。

「ミラッ……ダ……さま……♡」

 息が荒くなっていく。ミランダの指が動く度に、全ての神経が反応してしまうような感覚に陥る。その目で見つめられるたびに、その手で触れられるたびに、体が嫌なほど反応してしまう。

 もっと、もっと触って。
 もっと、もっと貴女が欲しい。

(あっ)

 ミランダの手が下に伝ってきた。

「っ」

 つい、ルーチェがその手を掴んだ。ミランダがきょとんとする。ルーチェが固まる。ミランダが目を細ませた。ルーチェから冷や汗が出る。ミランダの口角が上へと上がってしまう。

「……なんだい?」
「……あの、なんか、あの、ひ、久しぶり、だ、だから、なんだとおも、思うんですけど」
「うん」
「なんか、すごく、こ、興奮、あた、しが、してしまってて。ど、ドキドキ、してしまってて」
「それで?」
「……さ、……触るん、ですか?」
「触らないと何もできないからねぇ」

 にやにやするミランダからルーチェが目を逸らし、瞼を閉じた。

「……ご、ごめんなさい……」

 ルーチェの手の力が緩み、ミランダの手が下着に触れ、大切なラインを撫でてみた。ああ、なるほど。やっぱりね。だと思ったよ。

「濡れてるね」
「ごめんなさい……」
「私の指は気持ちいいかい?」
「お、かしく、なりそうなくらい……」
「お前はいつもそうじゃないのさ。私が触れるとおかしくなる」
「はい。ミランダ様の……魔法に、心臓を射止めら、れて、ます……んっ」

 長い指が固く突っぱねる箇所に押し付けられた。

「あ……あ……」

 ゆるゆると撫でられれば、心臓が再び激しく動き出す。

(ミランダさま……)

 ミランダに触れられた場所から熱が上がっていく。体が反応する。指一本触れられるだけで敏感になってしまう。優しく撫でられる。ルーチェの息が震えた。キスをされた。ときめいた。ミランダの指がクッ、と押し付けられた。

「あっ――」

 ――体に力が入り、中で痙攣を感じ、次第に全身の力が抜けていく。ルーチェの白くなった頭に理性が戻ってくる。ミランダが首筋に唇を落とすと、ルーチェの背筋が再び伸びた。また再開される。今度はルーチェが手を伸ばし、ミランダの頬に触れ、自ら口づけをした。ミランダの動きが止まる。ルーチェが再びキスをした。ミランダが受け入れる。またキスをした。もう一回。また一回。さらに一回。流石にミランダがストップをかけた。

「これ。ルーチェ」
「や……」
「しつこいよ」
「ミランダ様も……し、してます……」
「お前の反応が面白いからね」
「じゃああたしも、します……」

 ミランダの手を掴み、ルーチェがその指にキスをした。爪に唇が当たる。ミランダがそうくるならと手を動かした。ルーチェの体に再び力が入った。しかし、また愛しい人の指の爪にキスをした。ミランダが探り当てた。そこを指でつついてきた。ルーチェが俯いてくる。指が少しだけ入ってきた。ルーチェが身をくねらせた。

「ふっ……んっ……」
「ルーチェ、まだ下着越しだよ」
「ん……んっ……んんっ……ひゃっ! あっ!」

 また一人で達してしまう。

「ミランダ様……んちゅ」
「お前はキスが好きだね」
「んちゅ、んっ……」
「はいはい。わかったから」

 下着が下ろされるのを見て、ルーチェが手を伸ばした。

「あ、あたしも、ぬ、ぬーがし、ます」
「はいはい。そうだね」

 ミランダの下着を脱がし、そのまま両手で抱きしめる。

「こら、下着泥棒」
(……ミランダ様の匂いがする……)
「パンツの匂いなんか嗅ぐんじゃないよ。汚いよ」
(安心する……)
「ルーチェ」
「……はい」

 いい加減下着を離し、本物のミランダに抱き着く。口づけし合い、陰部を重ね合わせれば、ルーチェの中からとろとろになった愛液が溢れ出す。無言のままミランダがこすり合わせてきて、ルーチェの背筋がぴんと伸びた。

「あっ」

 気持ちいい。

「ミランダさまっ……」
「……力抜きな」
「あ、むり、で、あっ……」

 また達したようだ。ルーチェが思わず起き上がる。

「あたし、あたしが、あの、上で、動きます、から……」

 ミランダが主導権を渡さない。

「ミランダさま、おねがい、です、あたし、おかしく、なるから……」

 擦れ合う。

「また、い、いっちゃい……ます……から……ぁ……っっ……!」

 膣内が痙攣する。子宮のあるであろうへその下辺りにミランダの手が触れ、ルーチェの体を押さえつける。

「んっ……んっ……」
「いいからそこで啼いてな」
「ミランダ様が、また、いけ、て、ない、ので、あたしが……」
「はいはい」
「あっ! ……んぅ……」
「……気持ちいいかい?」
「は、い……みらんら……さま……」
「これは?」
「んっ! やっ、あたし、も、もお……」

 ミランダが腰を大きく動かしたことをきっかけに、ルーチェが悲鳴を上げた。気持ちいいところに当たってる。また当たる。また達する。また絶頂する。また一人でイク。

「も、やだ、ミランダ、さまも……一緒に……!」

 ミランダの息が荒くなるにつれ、動きも大きくなっていく。

「ミランダさま、ミランダさま、ミランダさ……」
「っ」
(あ)

 ミランダの力んだ腕に抱きしめられる。

(やっと、二人で、イけた)

 ミランダが震える息を吐き、その息がルーチェの肌に当たる。絶頂したミランダの色気に、またルーチェが魅了される。

「ミランダ……さま……」
「……はあ……」
「……」
「……さてと」
「ひゃっ!」

 また動き出す。

「も、もう、お、お、終わりでは!?」
「は? 誰がそんなこと言ったんだい」
「あ、あたし、もうイケませ……」

 また擦られれば、ルーチェがその場で悶えながら喘ぐ。

「も、ぉ、無理れす、むりれすぅ……♡!!」

 夜はまだ長い。


(*'ω'*)


 名前を呼べば尻尾を振り回して駆けてくる。
 気が付いたら膝に頭を乗せている。
 頭を撫でれば頬の筋肉が緩む。
 気を遣えると見せかけて、頑なにもっと撫でてと言ってくる。

 馬鹿な弟子。
 爪くらいなんだい。

(そんなことで喜ぶなら、いつだって塗ってやるさ)

 隣で眠りながらも、自分にぴったりくっついてくる弟子の憎めない姿勢にミランダが息を吐いた。

(少し爪を借りただけでこんなことになるなんてね。お前はつくづく私の予想斜め上を行くのだから)

 マニキュアが剥がれたなら、また塗り直せばいい。なのに、ミランダ様の魔法だから剥がしたくない――なんて、

(顔には出さないようにしてるけどね、お前は私の恋人なんだよ)

 そんなこと言われて、手が出ないわけがない。

(久しぶりだったのもあってか……楽しかったね)
「うーん……みらんださまぁ……」
(はいはい。側にいるよ)
「だいすきですぅ……」
(はいはい)
「あーいして、ますぅ……」
(わかったわかった)
「ずっとお側に……むにゃむにゃ……」
「……」

 ミランダがルーチェに振り向き、身を屈め、――眠る弟子の額に唇を落とす。

「いいよ。お前が嫌でなければ」
「すきれすぅ……」
「はいはい。わかったわかった」

 優しく頭を撫でれば、ルーチェが眠ったままあどけない顔で笑った。





(……よし)

 ルーチェが両手を広げた。

(完璧)
「ミランダ様! か、か、完璧です! 見てください!」
「あ?」

 庭の植物に水を与えていたミランダが振り返り、きらきら光るルーチェの目と、どろどろに塗られた爪を見て、呆れた目を向けた。

「お前それつけすぎだよ」
「可愛いです!」
「直してあげるからついてきな。この下手くそ」
「えー」

 ミランダにやり直してもらえば、元通りの爪が戻ってきた。

「やっぱり可愛いです」
「そいつは良かったね」
「ミランダ様、あたしもっとじょ、じょーずに、……、……つ、つけられるよう、頑張ります!」
「これに時間かけるなら魔法に時間かけな。お前はすぐサボろうとするからね」
「そ、その辺は大丈夫です。ちゃんとややややってます」
(どうだかね)
「ありがとうございます」

 ルーチェが爪を見て満足そうに笑う。

「剥がれるまで大切にします」
「……わかったら魔法の練習してきな」
「はい。ミランダ様!」

 勢いよく立ち上がったルーチェの両手の爪には、色鮮やかに美しいマニキュアが塗られていた。




 お師匠様、魔法をかけてください END
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 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

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