おとぎ話の悪役令嬢のとある日常(番外編)

石狩なべ

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キッド

イライラしてよ。ハニー。

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(*'ω'*)年齢参照:テリー(14)/キッド(18)/メニー(12)/ルビィ(13)/ソフィア(24)
 キッド×テリー話です。
 ――――――――――――――――――――――――――――――

















 メイストーム・デー。

 東の国。外国では、バレンタインデーから88日目の5月13日は、「八十八夜の別れ霜」という言葉に由来し、『別れ話をするのに最適な日』、『別れ話をしてよい日』とされている。

 それが、メイストーム・デー。

(これだーーーーーーー!!)

 図書館にて、テリーが本を持って立ち上がる。隣にいたメニーがびくりと肩を揺らした。突然立ち上がった義姉を見上げる。

「……お姉ちゃん?」
「メニー、あたしは行く所が出来たわ」
「え」
「この機会を逃すわけにはいかない!」
「え、お姉ちゃん、ちょっと」

 勢いよくテリーが駆け出す。彼女の頭の中は、メイストーム・デーで埋め尽くされていた。

(そんな素敵な日があるなんて!!)
(別れ話をして良い日があるなんて!!)

 テリーは急ぐ。広場の離れにある森に囲まれた、自称婚約者がいるはずの家を目指す。

「キッド!!」

 ばーん! とテリーが扉を開ける。雑誌を開きながらお菓子を食べ、ソファーでだらけるキッドと目が合う。

「今日は何日!?」

 テリーが訊けばキッドがカレンダーを見る。

「5月13日」
「メイストーム・デー!」
「何それ」
「別れ話をしてもいい日!」

 というわけで、

「キッド! 婚約解消しましょう!」
「却下」

 テリーが膝から崩れ落ちた。キッドがスナック菓子を咥え、雑誌のページをめくる。

「急に来たと思ったら何? 婚約解消なんてしないよ」
「してよ! あたしが望んでるのよ!」
「却下」
「ぐううううう! 畜生! 畜生ぉおおお…!!」

 テリーが拳で床を叩く。廊下の掃除をしていたビリーがそれを見て、テリーの背中を叩いた。

「テリーや、そんな所に座ってたらドレスが汚れるぞ。立ちなさい」

 静かに立ったテリーがビリーに振り向いた。

「じいじ聞いてよ! キッドが! 婚約解消してくれない! 外国では、今日は別れ話をしていい日なのよ! あたしが勇気を持ってあたしが訪ねてあたしから面倒な話をわざわざ提示してやれば調子にのりやがって! キッドくたばれ!!」
「あはは。無理無理。何言われても婚約は解消しないし契約も解消しないよ」
「じいじ! キッドが婚約解消してくれない!」

 テリーが地団太を踏むと、ビリーが呆れたため息を出し、キッドを見た。

「キッド、あまり虐めるんじゃない」
「あのさあ、じいや。俺は虐めてないよ。そいつが勝手に家に来て、勝手に婚約解消しようって喚いてるだけ。俺はそれをしないって言ってるだけ」
「テリーや、お茶でも飲んでいくかい?」
「……いらない」

 テリーが首を振り、ビリーに顔を上げた。

「お邪魔したわ。じいじ」
「またおいで」
「はい」
「じゃあね、テリー」

 雑誌を見たまま、ひらひら手を振るキッドを無視して、テリーはキッドの家から出る。そして、再度地団太を踏む。

(畜生!)

 親指の爪を噛み、ぎりりと家の扉を睨む。

(今日こそ婚約解消できる気がしたのに……!)

「キッド! 覚えてやがれ!」

 テリーが再び、広場に向かって走り出した。




(*'ω'*)




(……あー……)

 湖のある公園にて、湖を眺めながら考える。

(どうしたらキッドと婚約解消が出来るのか……)

 テリーは考える。普段使わない頭を真面目に働かせる。

(なんだかんだ色々作戦立ててはいるけど結局全部うまくいかないし……。……くそ……)

「あれ、そこにいるのは僕の可愛い妹のニコラじゃないか!」

(アメリアヌ様、あたしに良い提案をお与えください。あいつと婚約解消できる術があるのであれば、あたしは喜んで実行しますわ)

「おーい、ニコラ! 久しぶりだね! 元気だった?」

(キッドと婚約解消。今度こそ婚約解消……)

「ニコラ? おーい。ニコラってば。おーい。テリー? テリーってば」

(婚約解消だけでもしてみせるわ……。何としてでも……! こんないい機会、二度とない!)

「ニコラってば!!!」
「うるせえ! 誰よ! 耳障りな声ね!」
「返事くらいしなさい!」

 テリーが隣を見ると、一緒に肩を並べて歩いているリオンが立っており、ぎょっと体が飛上がらせた。

「ひっ! あんた! いつからそこに!!」
「……人をお化けのように言わないでくれる……?」

 リオンが苦い顔を浮かべ、またにっこりと笑う。

「久しぶりだね。元気だったかい? 愛しい我が妹よ」
「何が愛しい我が妹よ。あたしは今あんたに構ってる暇は無いの」
「うん? 何か事件か?」

 テリーの足が止まる。リオンの足もつられて止まる。テリーがリオンを見上げた。

「……キッドと婚約解消出来る方法を考えてた……」
「……まだ諦めてなかったんだ……」
「当然よ! ただ、5月13日という今日は、外国では別れ話をしてもいい日らしいの。だからキッドの家にわざわざあたしが行ってあげて言ってあげたのよ! 婚約解消してって!」
「で? 兄さんはなんて言ってた?」
「……しないって」
「だろうね」
「畜生!」

 テリーが地面を踏んだ。

「何としてでも婚約解消したい……! あいつと将来結婚するなんて、あたし嫌よ! 絶対嫌よ!」
「落ち着くんだ。ニコラ。婚約を解消したいがために、今の君はパニック状態にあるんだ。冷静に考えれば、方法なんていくらでも思いつく」
「……例えば?」
「ふふっ」

 リオンがにやりと笑った。

「僕の最高の作戦を聞くかい?」
「……何よ。考えがあるの?」
「無いことはない」
「言って」
「交換条件だ」
「何よ」
「僕をお兄ちゃんと……!」

 テリーが思いきりリオンの足を踏んづけた。

「ぃだんっ!!」

 リオンが痛みに絶望して膝から崩れ落ちる。

「くっ……! 妹に、足を踏まれて三千里……!」
「くだらないことを言ってないで、早く言って」
「……つまりさ、うんざりさせればいいんだよ」

 リオンが立ち上がり、テリーに微笑んだ。

「キッドは見かけによらず、浮気を極度に嫌がる傾向がある」

 しかし、

「それが浮気じゃなかったら?」
「うん?」

 テリーがきょとんとした。

「何?」
「だからつまりさ、君が浮気じゃないけど、友達と遊び歩いて、兄さんの相手をしなかったらどうなる?」
「手紙とGPSで連絡がくるわ。嫌ってほど来ると思う」
「全部無視するんだ」
「会いに来たら?」
「逃げる。捕まっても無視する」
「キレるわよ」
「そう。怒らせるんだ」

 で、

「うんざりさせるんだ」

 で、

「兄さんに言ってごらん。そのイライラを引き起こさないためには、一つの方法しかない」

 そう。

「あたしと婚約解消することだ! ってね!!」
「なるほど!!!!」

 テリーの目が輝く。リオンの目が輝く。

「どうだ! すごいだろ! 僕の作戦!」
「確かにそれなら上手くいきそう! あたしにうんざりしたキッドが、婚約を破棄するのよ!」
「流石、僕! 僕こそ神に愛されしミックスマックスの伝道師、第二王子リオン!!」
「素晴らしいわ! お兄ちゃん!!」
「そうだろ! もっと言っていいんだよ!」
「お兄ちゃん! すごい! お兄ちゃんすごい!! 誰も考え付かないことを思いつく! そこに痺れる憧れるぅ!」
「そう言ってくれてお兄ちゃんも嬉しいよ!!」
「早速実行よ!!」
「よし、きた! ニコラ! 僕とミックスマックス本店に遊びに行こう!」
「アリスと遊んでくる!!」

 テリーが駆け出す。
 リオンが一人残される。
 風が吹いた。
 葉っぱが飛んだ。
 リオンが一人残されている。

 ふっ、とリオンが笑った。

「全く。世話のかかる妹だ。あの照れ屋さんめ」

 そう言って、やれやれと肩をすくめてみせたのであった。




(*'ω'*)




『……で、今日からキッドさんの連絡は一切無視するってこと?』

 ニクスの質問に、テリーが笑顔で頷いた。

「そうよ! もう、ガン無視してやるのよ! これで婚約も解消出来るわ!」
『テリー、それ大丈夫なの?』
「大丈夫!」
『でも、今まで仲良くしてきたわけだし……』
「ニクス、婚約さえ解消しちゃえばいいのよ。あいつがあたしにうんざりして、二度と連絡を取りたくないって思わせればいいだけ。仲直りはその後、いくらでも出来るわ」
『あまり怒らせないようにね』
「怒らせるのよ」
『テリー』
「大丈夫。だって、あたしは今まで、何度も婚約を解消してってお願いしたんだもの」

 断ったあいつが悪いのよ。

「こうなったら、何が何でも解消してやるわ。応援してくれる? ニクス」
『いつも通り、話なら聞くよ』
「ええ。ありがとう、ニクス。……大好きよ……」
『うー……うん、あたしも大好きだよ。テリー。……』

 どこか納得しない声が聞こえるが、テリーは気にしない。

(今日はアリスとお茶会して楽しんだし、明日はリトルルビィでも誘おうかしらね?)
(ああ、こういう時にメニーを利用するべきかしら)

 くっすすすすす!

(ソフィアと遊ぶのもいいわねぇー! おっほっほっほっほっ!)

 テリーはこれからの作戦を頭に思い浮かべ、くくくっといやらしく笑った。



(*'ω'*)



 翌日。


 早速テリーがメニーを連れて広場へ直行する。

「メニー! どこに行く!」
「えーっと」
「よし、きた! そっちに行くわよ!」
「ひゃ」

 すたこらとメニーの腕を引っ張っていく。

「メニー! どこ行く!」
「え、えーっと」
「よし、きた! そっちに行くわよ!」
「ひぇっ」

 すたこらとメニーの腕を引っ張っていく。

「メニー! 次はどこに行く!」
「えーっと、えーっと……」
「そっちね! よし、きた! 行くわよ!」
「ひぃ」

 すたこらとメニーの腕を引っ張っていく。
 日が落ちるまで遊び歩き、帰る頃には馬車の中でメニーが伸びていた。

「せっかくのお休みが……。何でもない平和な一日が……。うーん……。足が痛い……」
「あー! 楽しかった! 気分は最高心は晴れやか何から何まで絶好調!」

 テリーがニコニコ笑い、メニーが疲れ切っている。そんな時、ぴろりろりんと音が鳴った。

(うん?)

 テリーがGPSを取り出す。新着メッセージがきていた。

『愛しの君。明日デートしよう。授業はいつ終わるの?』

(反応無し)

 テリーは無視を決め込む。ポケットにGPSをしまった。しばらくして、再び、ぴろりろりんと音が鳴った。GPSを取り出す。新着メッセージがきていた。

『デートをすれば気分も変わる。時間教えて』

(あたしは返事しないわよ)

 テリーがGPSをしまった。

(返事も反応もしない。それが一番)
(イライラさせてうんざりさせてやる。そして!)

 婚約解消。

(いひひひひひひ!)

 テリーがいやらしく笑う中、メニーはすやすやと、穏やかに眠っていた。


(*'ω'*)


 また翌日。

 テリーがリトルルビィを連れて広場を走る。

「リトルルビィ! どこに行く!」
「えっとね!」
「よし、きた! そっちに行くわよ!」
「きゃあ!」

 すたこらと嬉しそうなリトルルビィの腕を引っ張っていく。

「リトルルビィ! どこ行く!」
「えっとね!」
「よし、きた! そっちに行くわよ!」
「きゃあ!」

 すたこらと嬉しそうなリトルルビィの腕を引っ張っていく。

「リトルルビィ! 次はどこに行く!」
「そっち!」
「そっちね! よし、きた! 行くわよ!」
「きゃあ!」

 すたこらと嬉しそうなリトルルビィの腕を引っ張っていく。
 日が落ちるまで遊び歩き、噴水前まで戻ってくる。

「はあ……! はあ……! テリーってば……! 激しいんだから……!」
「リトルルビィ、疲れた?」
「ううん! すっごく楽しかった!!」

 リトルルビィが笑顔であたしに手を振る。

「じゃあね! テリー!」
「またね! リトルルビィ!」

 二人は笑顔で手を振って別れる。テリーはるんるん鼻歌を歌ってスキップする。

「あー! 楽しかった! リトルルビィが可愛かった! 気分は上々へいDJ! かもんいえいいえい! 針落とせや踊れやぱーりないと!」

 テリーがニコニコ笑い、人目も気にせずホップステップジャンピング。そんな時、ぴろりろりんと間抜けな音が鳴った。

(うん?)

 テリーがGPSを取り出す。新着メッセージがきていた。

『愛しの君、まだ怒ってる?』

(反応無し)

 テリーは無視を決め込む。ポケットにGPSをしまった。しばらくして、再び、ぴろりろりんと音が鳴った。GPSを取り出す。新着メッセージがきていた。

『GPS見てたぞ。お前リトルルビィと何してたの』

(遊んでたのよ! ばーか!!)

 テリーがGPSをしまった。

(返事はしないわ。あたし悪い事してないもん)

 るんるん!

(ああ、時間の問題だわ!)
(あたし、今度こそキッドと婚約解消が出来る! 出来る! 出来るのよ!)

 テリーの足が夕日に向かって踊っていた。


(*'ω'*)


 またまた翌日。

 テリーがソフィアを連れて広場を走る。

「ソフィア! どこに行く!」
「そうだね、どうしようか?」
「じゃあ、そっちに行くわよ!」
「くすす」

 すたこらとソフィアの腕を引っ張っていく。

「ソフィア! どこ行く!」
「そうだね、どうしようか?」
「じゃあ、そっちに行くわよ!」
「くすす」

 すたこらとソフィアの腕を引っ張っていく。

「ソフィア! 次はどこに行く!」
「そうだね、どうしようか?」
「あたしが決めるわ! 行くわよ!」
「くすす」

 すたこらとソフィアの腕を引っ張っていく。
 日が落ちるまで遊び歩き、噴水前まで戻ってくる。

「はあ! 疲れた! あたし帰るわ! またね、ソフィア!」
「その前に」

 ソフィアがテリーの肩を掴んだ。元気なお嬢様の顔を覗き込む。

「テリー、一体何を企んでるのかな?」
「ん、何が?」
「君、この数日、とても充実してるみたいだね」

 ソフィアがにっこりと微笑んだ。

「今日、あの方に連絡した方が君のためだと思うよ? テリー?」
「あの方って?」
「わかってるでしょう?」
「あたし、子供だから分かんなーい」

 にいっと微笑んで、ソフィアから離れる。

「じゃあね。ソフィア。付き合ってくれてありがとう」
「くすす。また誘ってね。テリー」

 テリーが離れ、帰り道に歩いていく。
 ソフィアはふふっと笑い、くすすと笑い、――後ろから刺さる視線に声をかけた。

「くすす。こんな町並みで睨むのはやめていただけますか?」
「睨んでないよ」

 ソフィアの背後に立つキッドが返事をする。その声は、酷く冷たい。

「私は忠告しました。八つ当たりはご容赦を。くすす」
「忠告すれば手を繋いでいいわけ?」
「恋しい子とのせっかくのデートですよ? それに手を引っ張ってきたのはテリーからです」
「……」
「ああ、嬉しかった。あの子から手を繋いでくれるなんて」
「……」
「あなたはあの子から手を握ってもらえたこと、あります?」
「黙れ」
「くすす」

 ソフィアがにんまりと微笑む。

「銃を突きつけないでください。無防備な私に卑怯ですよ。殿下」
「帰ってくれる?」
「そうですね。お買い物してから帰りましょうかね。さてさて、夜ご飯はどうしましょうか?」

 ソフィアがくるりと振り向いて、不機嫌顔のキッドを見つめ、くすっと笑う。

「食べていかれます?」
「今夜は結構」
「それは残念」

 ソフィアがまた笑う頃、キッドが歩き出す。人混みに紛れる。
 夕日はゆっくりと沈んでいった。



 夜、一つのメッセージがテリーの元に届いた。


『我が愛しい君。久しぶりに二人きりで素敵なランチに行きませんか? 少し遠出をして、隣町に行きましょう。そこで素敵なひと時をこの私と過ごしてください。二人で話したいことが山ほどあります。今宵も貴女のことを思うと胸が苦しい。このメッセージが届くことを心の底から願っております。愛してます。我が君。我がプリンセス。私のテリー。返事をお待ちしております』

 テリーはGPSをベッドに投げた。

「よし! 明日の勉強は頑張らないと!」

 翌日、クロシェ先生が感動した。テリーの集中力に感動した。

「テリーが集中して勉強を……! 素晴らしいわ! テリー!」
「おほほほほほほ!!」

 その翌日、サリアは感動した。テリーの綺麗好きに感動した。

「流石テリー。私達が掃除する前に部屋の掃除を……」
「おほほほほほほ!!」

 またまた翌日、アリスは感動した。テリーの掃除好きに感動した。

「すごい! お部屋がみるみる綺麗になっていくわ!」
「おほほほほほほ!!」
「さすがね! ニコラ! 感動したわ!」

 あ、そうだ、感動したと言えば、

「見て見て。ニコラ。新しい帽子の絵を描いたのよ」
「あら」

 あたしは箒を置いて、アリスの絵を見る。素敵な帽子の絵が描かれている。

「これはまた良いデザイン」
「ふふっ! オーダーメイドで作ってあげるわ。待っててね!」
「ええ、待ってる」

 顔を見合わせて、微笑み合って、また世間話をして、日が沈む頃にアリスの家からテリーが出ていく。

「またね、ニコラ!」
「またね、アリス!」

 テリーが軽い足取りで歩き出す。

「はあ! なんっっって充実した日々なの!」

(キッドに振り回されない数日! あたしは自由気ままに解放されたヤギちゃんに戻った気分だったわ!)

「ああ、素敵! ずっと続けばいいのに!」

 くるんくるんと回りながら歩いていると、どすんと何かにぶつかった。

「あら、失礼」

 顔を上げると、可愛い鼠の着ぐるみ。

「……ん」

 鼠の着ぐるみがテリーを見て、持ってた風船を一つ渡した。

「……ありがとう」

 素直に受け取り、手に持つ。

(……まあいいわ。気分が良いし、鼠だし、受け取るわ)

「ん?」

 前に行こうとすると、もう一人の鼠の着ぐるみが風船を渡してくる。

「……ありがとう」

 素直に受け取り、手に持つ。

(……まあいいわ。鼠だし、風船はメニーにでも……)

 前に行こうとすると、もう一人の鼠の着ぐるみが風船を渡してくる。

「ん?」

 テリーが振り向く。右には鼠。左には鼠。前には鼠。後ろには鼠。

「はっ!!」

 テリーが気付いた。

「こいつら、所詮は偽物だわ! あたしをどこかに誘導してやがる!」

 テリーが慌てて抜け出そうとするが、でかい着ぐるみたちの輪から抜け出すことは出来ない。

「畜生! どでかい鼠共! 偽物が! このあたしを誰だと思ってるのよ!!」
「ちゅー」
「馬鹿が! 鼠はそんな変な声出さないわよ!」
「ちゅー」
「阿呆が! 鼠はそんな男らしい声出さないわよ!」
「ふっ! 今日も君は美しい! ちゅー!」
「てめえか! お前てめえか!! リオンの世話はどうしたのよ!」
「大丈夫だ! ニコラ! 俺もいる! ちゅー!」
「いい加減にしろよ! こら! いかれた双子ふぜいが! ということは全員あいつの部下ね! 退け! あたしは帰るのよ!!」

 どんどんどんどんどん!

「ぐわあああああああ!! このあたしを押し出すなんて、なんて奴ら! 畜生が! あたしの背中を押すなんて、クソ野郎ども! 覚えてやがれよ! てめえらの経歴覚えてるからな! このあたしの背中を押したことあたしは覚えてるからな! あたしがベックス家を継いだら……」

 全て言い終える前に、テリーの手が握られる。

「ふぇっ」

 ぐいっと引っ張られる。

「ぎゃっ!」

 驚きに手が開いて、風船二つが空へ飛んでいく。

「あ」

 それでも引っ張られる。裏路地に足が進んでいく。

「ちょ」

 建物と建物の間に、狭い隙間に、突き飛ばされるように押しやられる。

「ひゃっ」

 顔の横の壁から、どんっ! と音が鳴る。テリーの顔が青くなる。キッドが乱暴に手を置いたのだ。壁に。

「どういうつもりかな? レディ」

 キッドは微笑んでいる。
 その目は笑っていないが、口角はちゃんと上がっている。
 テリーは分かってる。数年関わってる相手の機嫌が非常に不機嫌であることを。

(こいつが来ることは予想済み……)

 テリーの喉がこくりと鳴る。

(ここが山場よ! 戦争よ!)

 テリーがにんまりと微笑む。

「あらあら、これはこんばんは。キッド殿下」
「こんばんは、愛しい我が君」
「一体何の御用でしょうか? あたくしはこれからお家に帰って夕食を取らなければいけませんの」
「でしたらディナーをご一緒しましょう。素敵な夜景付きのレストランでも」
「結構。家のご飯の方が美味しいです」
「おい、いい加減にしろ」

 キッドの手がテリーの顎を掴んだ。

「何? お前どういうつもり? 何がしたいわけ?」
「礼儀がなっておりませんでしてよ。王子様」

 テリーがキッドの手を払った。

「あたしがどう動こうが、あたしの自由ですってよ。貴方と結婚してるわけでもあるまいし」
「婚約者として自覚ある行動とは言えないな」
「あら、なあに? うんざりした?」
「ああ、すごくうんざりしてる」
「あたしのしてる事、嫌?」
「ああ、すごく嫌だ」
「不快?」
「不快だよ」
「ふふっ! そうでしょう! そうでしょう!」

 テリーがにんまりと笑う。キッドの目はどんどん冷えていくが、気付かないテリーは興奮気味に口を動かす。

「キッド、あたしはこういう女なの。嫌だと思う事は嫌だし、あんたのままごとにも付き合いたくない。何よ、あのメッセージ。愛しい我が君? ふざけんな。気持ち悪い」

 テリーは愉快に笑う。

「おほほほ! キッド、今すごく不快でしょう? あんたのガラスハートにちくちく矢が刺さってるでしょう? 傷つかない方法を教えてあげるわ」

 ここで一言!

「あたしと婚約解消することよ!」
「来い」

(えっ)

 ぐいっと乱暴に手を引っ張られる。

(え?)

 キッドが大股で歩く。テリーが転びそうになりながら引きずられる。

(え? え? え?)

 路地裏の出口には馬車が止まっている。扉は開かれている。

「乗れ」
「あ」

 背中をぐいと押され、

「ちょ」
「いいよ」

 キッドが乗りこみ、御者に声をかける。扉が閉められ、馬車が動き出す。

(え)

 逃げ道はない。

「テリー」
「あ」

 手を掴まれる。

「げっ」

 手を捕まれた。

「あ」

 逃げ出そうと身を乗り出すが、馬車は動いている。

「ひゃっ」

 キッドがその手を引っ張る。キッドの膝の上に腰が下りた。

「ぎゃっ」

 キッドが後ろからテリーの腰に抱き着いた。

「わっ!」

 ソファー式の椅子に倒れこむ。

「わあああああ!」

 テリーがうつ伏せに倒れ、その上にキッドが乗っかってきた。

「わ、わ、わ、やめ……」
「駄目」

 上からキッドがテリーを押さえ込んだ。

「いけない子にはお仕置きだよ、テリー」
「あたしには酷い事しないって!」
「悪い子は別」

 テリーのドレスのリボンが解かれる。するすると音が鳴る。

「ひゃっ」

 第一ボタンがキッドの手で外される。ぷち、と音が鳴る。

「やっ」

 第二ボタンがキッドの手で外される。ぷち、と音が鳴る。

「あばばばば! やめろ! えっち!」

 テリーがキッドの手を掴んだ。しかし、その手ともう一つの手が掴まれ、背中に回される。

(えっ)

 素早く、手首に縄が結ばれる。

「へっ!?」

 両手を縛られた。

「ひっ!」

(手が動かない!)

 テリーが暴れ出す。

「お前! レディの手首を縛るなんて、どういう教育してるのよ! 最低!!」
「人のメッセージを何通も無視するなんて、お前こそどういう教育してるわけ?」

 キッドが再び上から体を沈ませた。

「テリー」
「っ」

 耳元で囁かれ、テリーの体がびくっと揺れる。それを見て、キッドがせせ笑った。

「何? 嫌だって言う割には、実は結構期待してるんじゃない?」
「このっ……」

 テリーがキッドを睨む。

「急に耳に息吐かれて、驚いただけよ! 馬鹿!」
「へえ?」

 さらにキッドがテリーにぴたりとくっつき、耳元で囁く。

「驚いたんだ?」

 ふー。

「っ」

 テリーがぐっと唇を結ぶ。吐息がくすぐったい。体を力ませて堪えるテリーに、キッドが口角を上げた。

「お前、耳弱いもんね」
「えっ……」

 ぴく、と肩を揺らせば、キッドの唇から柔らかな舌が出され、テリーの耳にぴとりとくっつく。

「ひゃっ!」

 テリーが悲鳴をあげると、キッドの舌が動き出す。

「ぁっ」

 キッドの舌が耳を這う。

「待って」

 テリーの首がすくむが、キッドが逃がさない。

「き、汚いから……」

 キッドが舐めてくる。

「ちょ、キッド……」

 キッドの舌が動く。

「ま、待って」

 キッドの舌が動く。

「ん、んん、んんん……!」

 身をよじるが、狭いソファーに閉じ込められ、どうあがいても逃げられない。おまけに手は縄で縛られている。

(リオン! 助けて! 話が違う!!)

 ――ぺちゃり。

「ひゃっ」

 ――ぐちゅり。

「や、やだ」

 ――ちゅ。

「んっ……」

 ――ぐちゅ。

「んんっ……!」

 ――はー。

「ふぁっ!」

 キッドが笑う。くつくつ笑う。テリーがくたりと脱力して、その場で肩を大きく上下に揺らす。

(くそ、くそ、くそ……!)

 こんなの、聞いてない。

「テリー?」

 キッドが微笑み、テリーの顔を覗き込む。

「顔が赤いよ? リンゴみたい」
「……うるさい……」
「へえ? そんな口の利き方していいのかな?」

 キッドの手がテリーの足に触れる。ふくろはぎから、指を上に、すーっとなぞる。ドレスがするすると上に上がっていく。びくりと、テリーの体が揺れた。

(ひい! これ謝らないと駄目なやつ!!)

「ご、ごめんなさい! やりすぎました!!」

 キッドの指が止まる。耳元で、キッドが訊いてくる。

「反省してる?」
「してます!」
「よし、じゃあ今夜のディナーに付き合うね?」

 ……。

「それは、家で食べる……」
「そうか」

 キッドがにっこりと笑う。

「まだ時間はある。良い返答をしてくれるまでお前を愛してあげるよ」
「……もう謝ったじゃない」
「ねえ、謝ったら俺が許すと思った?」
「……」
「お前、よくも俺の愛のこもったメッセージを何日も無視してくれたな?」
「……」
「それにいつの日からか、誰かと遊ぶようになったね。メニーに、リトルルビィに、ソフィアに、あと、アリス? ね? 楽しかった?」
「……」
「部屋にこもって掃除と勉強かあ。俺のメッセージに返信する時間はあったと思うんだけど、そんなに集中してお前は一体何がしたかったの?」
「……」
「そうか。お前、俺に構ってほしかったんだな?」

 テリーの縛られた手を、キッドがきゅっと握ってくる。そして、低い声でテリーの耳に囁く。

「いいよ。うんざりするくらい構ってあげる」
「ごめんなさい!!」

 テリーが全力で謝った。

「ごめんなさい! キッド、ごめんなさい!!」
「何が?」
「無視してごめんなさい!!」
「誰の入れ知恵だ」
「お兄ちゃんです!!」
「リオンか」
「そうです! あいつも同罪です!!」
「分かった。良い子だね。テリー」

 頭をなでなでと撫でられ、テリーが頷いた。

「そうよ! あたしすっごくいい子なの! あたしに悪知恵を植え付けたのは、悪の心を持ったリオンお兄ちゃんなのよ!!」
「そうか。リオンが悪いのか。あとで懲らしめておくよ」
「そうよ! だからあたしは帰るわ!」
「お前、リオンと同罪なんだろ? だったらそれ相当の報いを受けないと」

 キッドがテリーの頬にキスを落とした。テリーの肩が、またびくりと揺れる。

「ひゃい!」
「ね? 俺とディナー行こうよ」
「ま、ママが怒るから、結構です!」
「じいやが連絡したはずだよ。テリーが駄々をこねて、どうしてもペットのハインリヒと食事がしたいって言うから、一緒にご飯を食べますって」
「お前! 勝手に何言ってくれてるのよ! あたしがいつ駄々をこねたのよ!! ペットのハインリヒって誰よ! お前ペットなんていないだろ!」
「というわけで、しばらくお前は俺のものだよ」

 空いた時間を埋めないと。

「可愛い声で啼いて」
「ちょっ」

 襟をずらされる。

「キッ……」

 ちゅ、とうなじにキスをされる。

「……っ」

 テリーの唇がまた硬く結ばれる。キッドの手が動く。テリーの柔らかい唇に触れる。

「んっ……」
「開けて」

 キッドが低い声で囁く。

「お前の声、聞かせて」

 テリーが首を振る。

「へえ? 逆らうの?」

 キッドが笑った。

「面白い」

 耳をかぷりと甘噛みすると、テリーの背中が震える。

「っ」

 少し開いた口の中に、キッドの指が入ってくる。

(なっ……)

 歯をがっちり噛む。

(何するのよ……!)

 歯を食いしばる。キッドの指がテリーの歯をなぞる。キッドが動き、またうなじに唇を押し付けた。

「んっ」

 ぺろりと舐めてくる。

「あっ」

 口が開いた。

(あ)

 キッドの指が一本、入った。

(あっ)

 キッドの指がテリーの舌の上に乗った。

(あっ……)

 テリーの舌に触れてくる。キッドの指がテリーの唾液で濡れていく。

(あ……きたな……)

 首を舐められる。

「ふぅ……!」
「ほら」

 キッドの指が二本に増える。

「声出して」
「ゃっ……」

 キッドがテリーの肩に歯をあてがった。

「ぁ、……やめ……」

 キッドがテリーの肩を甘噛みする。

「はっ……っ……ぁ……」

 キッドの指によって開かれた口からは、吐息と声が漏れる。

(ぐうううううう……!!)

 歯を食いしばることが出来ない。

(キッド、絶対許さない……!!)

 ぱくりと、唇だけ閉じる。歯で指を噛まないのはテリーの無意識な優しさからだろう。

「ん」

 キッドがきょとんと声を漏らした。指を挟んで唇を閉じようとするテリーに、くすりと笑い声が出てしまう。

「なぁに? そんなに咥えて、俺の指を独り占めしたいってこと?」

(違う違う違う違う! 声を押さえたいだけよ! お前、本当に馬鹿じゃないの!?)

「いいよ。そういうことなら、遊んであげる」

 キッドの指が動く。出たり、入ったり、ずぷずぷと指が動きだす。

「むっ」

 テリーの体が揺れる。手に力が入る。キッドが面白そうにその光景を眺め、指を動かす。

「んっ! んっ、んっ……!」

 キッドの指が濡れる。テリーの唾液が増えていく。

(待て待て待て待て! 零れる……!)

 ぐっと顔を上げれば、キッドが微笑む。

「ありがとう。そっちの方がやりやすい」
「っ」

 指の動きが早くなる。
 するする入って、ずぷずぷ動いて、

「んっ、ぐっ……むぐっ……」

 テリーの舌の上で、キッドの指が動く。

(こ、こいつ……こいつ……!)

「えほっ……!」

 咳込むと、キッドの指が口から抜けた。その瞬間、口の端からよだれが垂れる。椅子のクッションにぽたぽたと、垂れる。

「貴族のくせに、だらしないなあ」

 キッドが笑いながら、そのよだれを舌で伝う。

「ひゃっ」

 テリーの悲鳴に構うことなく、舌でなぞる。下から上に、キッドの舌がなぞってきて、上ってきて、顎を掴まれて、

(あ)

 唇が、唇に押し付けられる。

「んっ」

 テリーが鼻から声を漏らすと、キッドが角度を変え、唇同士がくっつく。

「っ」

 ついばむように、キッドの唇が動き出す。

「っ、っ、っ、っ」

 唇を離すたびに、テリーが荒い呼吸を繰り返す。キッドも息を吐いて、息を吸って、また吐いて、また吸って、乱暴に唇を押し付ける。

(こ、こんなの、王子様のキスじゃない……)

 テリーの目からじわぁと、涙が浮かんでくる。

(無理矢理やだ……)

 テリーの目からぽろりと涙が落ちる。それに気づいたキッドが、頬を舐める。

「んっ」
「泣いても駄目だよ」

 ちゅ。

「あっ」

 ちゅ。

「んっ」

 ちゅ。

「ごめ、キッド、もう、ごめんな……」

 ちゅ。

「キッド、許して、ごめんなさ……」

 ちゅ。

「分かった、ディナー、付き合うか……」

 ちゅ。

「んん!」

 ちゅ。ちゅ。ちゅ。ちゅ。

「あ、あたしが悪かったから……!」

 ちゅ。

「も、もうやめ……」

 ちゅ。

「は、反省したからぁ……!」
「本当?」

 キッドがテリーの涙目の目を覗き込む。

「本当に反省した?」
「反省した! しました!」
「もう婚約解消するとか言わない?」
「言いません!」
「よしよし。良い子だね」

 ちゅ、と頬にキスを落とされる。おまけに、優しい手つきで頭を撫でられる。

「もう言っちゃ駄目だよ?」
「……はい」
「今夜のディナーは一緒だよ?」
「……はい」
「ん。良い子」

 するりと、縄が解かれる。テリーの手が自由になった。

(……ほっ)

「テリー」
「っ」

 上から、キッドが抱きしめてくる。テリーをぎゅっと掴んで、離さない。

「俺達は運命の赤い糸で結ばれてるんだから、別れようなんて無駄。分かった?」
「……はい」
「愛してるよ。テリー」
「……はい」
「個室のレストランに行こうね。美味しいもの食べよう」
「……はい」
「二人で食べ合いっこも出来るよ。テリー、好きだろ?」
「……はい」
「驚かせてごめんね」

 テリーの頭にキスをする。

「大好きだよ。愛してる。俺にはお前だけ、ね?」
「……はい」
「くくっ。何食べようか? あそこのご飯、美味しいんだよ」

 キッドが体を起こす。テリーの手を引っ張り、テリーの体も起こす。そして、今度は正面から抱きしめる。自分の胸にテリーを閉じ込め、その愛しい背中を撫でる。

「愛してるよ。テリー」
「……はい」
「愛してる」
「……はい」
「可愛くて素直なお前が大好き」
「……はい」

 テリーは返事をする。キッドに抱きしめられながら、キッドに耳元で愛を囁かれながら、ひたすら青い顔で頷く。

「テリー、可愛いよ」
「……はい」

 テリーの体が震えている。ぶるぶる震えている。

(……話が違う……)

 テリーが拳を握った。

(こんなはずじゃなかったのに……)

「テリー、好きだよ。不安にさせてごめんね」
「……はい……」
「たくさん愛を囁くよ。テリーの目、大好き」
「……はい……」
「テリーの声が好き」
「……はい……」
「テリーの柔らかい唇も……」

(……リオン……お前を恨んでやる……恨んでやるからね……!)

 ぼろぼろのテリーと、お肌がつやつやなキッドを連れて、馬車はゆっくりと、目的地に向かって走っていた。


(*'ω'*)


『だから言ったのに』

 ニクスが受話器越しに呆れた声を出した。

『こうなること、予想できなかったの?』
「……完全に……解消できるかと……」
『……しばらく大人しくしとけば?』
「そうする……」
『……テリー』

 ニクスが訊いてきた。

『愛のディナーは美味しかった?』
「味を感じなかったわ……」

 ――テリー、あーんして?
 ――……あーん。
 ――テリー、これも食べてみて。あーん。
 ――……あーん。
 ――これも食べて。あとこれも。あーんは?
 ――……あーん。

「呪われてるわけでもなかったのに……! なんで!? 恐怖であたしの舌が麻痺してしまったのかしら……! ああ、キッドめ! あいつ、せっかくのディナーを! なんて奴なの! おぞましい!」

 体がぶるぶるぶるぶる!

「あいつ……よくもあたしの体に、べたべた触ってきやがって……!」
『変なことはしないに限るってね』
「……しばらくは大人しくするわ。でもね、あたしは諦めないわよ……」

 婚約解消してやる。絶対してやる。

「近いうちに必ず!!」
『……うん。頑張ってね……』

 ニクスが呆れつつ、意気込むテリーに言った。





 ――翌日。




「キッド! 待て! 何かの誤解だ!!」
「リオン、誤解ってなんだ? 俺は何も誤解なんてしてないと思うぞ?」
「いやいやいやいや! 実の弟に銃を構えるなんて、駄目だよ! そういうのよくないよ! め! め!」
「お前が『め』って言っても何も可愛くないんだよ」
「ひいいいい! 待って! 待て待て待て待て! だって、テリーが!」
「お前、俺の婚約者のせいにするわけ?」
「ひっ! あ! なんだあれ! わお! あそこに空飛ぶ魔法使いが!」

 ばきゅーん! ばきゅーん! ばきゅーん!

「ぎゃああああああああああああ!」

 実に平和なとある朝、国の城内で、第二王子の悲惨な悲鳴が響いたとか。そうでないとか。多分響いたのだろう。

 今日も平和な一日が始まるのだった。









 イライラしてよ。ハニー。 END
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