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キッド

王子様の夢日記

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 ――何だか呼吸が苦しい。



(……ん……)

 この感覚に、キッドは経験がある。

(メニーに刺された時を思い出すな……)
(死んだと思ったら意識が残ってて)
(鼻からしか呼吸が出来なくて、なんで口から出来ないんだと思って)
(瞼を上げてみれば)

 こうやって、テリーが自分にキスをしていた。

(……)

 テリーがキスしている。

(あれ?)

 テリーの瞼が上げられる。

(あ)

 目が合った。テリーの目とキッドの目が合う。テリーがそれを認識した瞬間、目を見開く。

「っ」

 慌てて寝ていたキッドから唇を離し、体を起こす。そして、逃げようとキッドから離れる。

(させるか)

 キッドがテリーの手を掴んだ。

「あ」

 テリーが驚いて声を漏らす。

(逃がさない)

 細い手を引っ張り、小柄な体を自分の上に引き寄せる。

「あぶっ!」

 テリーが悲鳴をあげ、キッドの上に乗っかる。しかし、また逃げようと体を起こそうとする。

(忙しい奴だな)

 キッドが素早くテリーの体を抱きしめ、腕の中に閉じ込める。ぎゅっと腕の力を強くすれば、キッドの胸にテリーが顔を隠し、大人しくなる。

「……ま、また、狸寝入り?」
「いや? 寝てたよ」

 薄暗い自分の部屋。ベッドの上。深夜だろうか、月の明かりがカーテンから零れている。

「お前の夜這いで起きたみたいだ」

 くすっと笑って、テリーの頭を優しく撫でる。そうすれば、テリーの体がびくっと、一瞬だけ強張った。

「嬉しいね。お前から襲ってくるなんて」
「……だ、だって、キッドが」
「俺が?」
「……ベッドで襲ってくるなら、大歓迎って……」

(ん?)

 確かにそれは言ったが、

(うん?)

 ちらっと見上げてくるテリーは恥ずかしげに頬を赤らめている。

(ううん?)

 キッドの胸がきゅうん、と鳴り出す。

(何これ? テリーっぽくない)

 あれ?

(えーっと……)

 ……。

 キッドの頭の中が、整った。

「はっ。そうか。俺達、今日婚約式を挙げたんだった」
「……正しくは、昨日よ」
「そうそう。婚約式を挙げた夜だ」

 キッドは思い出す。

(そうだった)

 婚約式を挙げて、出席したリトルルビィとソフィアがすげー悔しそうにしてて、可愛いメニーから散々睨まれて、それでもテリーが隣で微かに、薄い笑みで、囁いたんだ。

 ――キッドが好き。だから、絶対にキッドから離れないわ。
 ――好きよ。キッド。あたしには、キッドだけ…。

「ふふっ」

 キッドが笑う。

「くくくくくくっ」

 キッドが嬉しそうに、でれんとして笑う。

「テリー、ほら、抱きしめて」
「……ん」

 テリーが素直にキッドを抱きしめた。キッドがテリーをさらに抱きしめた。お互いを抱きしめ合う。

(テリーが俺を抱きしめてる)

 テリーが傍にいる。

(テリーがいる)

 テリーが目の前にいる。その事実が嬉しくて、どうしようもない満足感で満たされ、自然に口角を上げたまま、テリーに囁く。

「夜這いするなんて、そんなに俺が好き?」
「っ」

 テリーが息を呑み、キッドの胸に顔を隠す。

「……よ、ばいじゃない……」
「キスしてた」
「……寝てたから」
「起きてる時にしてほしいな?」
「……起きてたら、からかってくるんだもん。……やだ……」
「からかわないよ」
「嘘だ」
「嘘じゃないよ」

 テリーの頭に優しいキスをする。ちゅ、と音が聞こえれば、テリーの腕の力が強くなる。

「テリー、こっち見て」

(顔が見たい)

 そう思って言えば、思った通りの答えが返ってくる。

「やだ」
「もう……」

 絡ませていた腕を曲げて、テリーの横髪を耳にかける。優しく頬を撫で、顔を上げさせる。

「……っ」

 恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めるテリーが見える。

(可愛い)

 額にキスを落とす。

(可愛い)

「んっ」

 テリーの肩がぴくりと揺れる。

(その反応も愛しい)

 頬にキスをする。

「ひゃっ」
「テリー」
「っ」

 耳元で囁けば、テリーの体が強張る。

「可愛い」

 頬にキスを落とす。

「テリー、好き」

 瞼にキスを落とす。

「お前が好き」

 見つめ合う。キッドがふわりと微笑んだ。

「……ね? 婚約解消しないで良かっただろ?」
「……ん」

 こくりと、テリーが頷いた。

「……ママが喜んでたわ。最高の親孝行だって……」
「そう。それなら、俺も嬉しい」
「……キッド」
「ん?」
「……呆れた?」
「ん? 何が?」
「……眠ってるところ、キスしたりして……」

 不安げに訊いてくる少女に、キッドは微笑む。

(可愛い)

 その顔も可愛い。

「ねえ、テリー」

 キッドがテリーの目を覗き込む。テリーもそんなキッドを見つめる。

「なんでキスしたの?」
「……なんでって……」

 口ごもるテリーの口から聞きたいのは一つだけ。

「ねえ、なんで?」
「……分かってるくせに」

 テリーの視線がゆらりと逸らされる。

「駄目」

 キッドがテリーの髪の毛を引っ張った。

「逃がさないよ」
「っ」

 テリーの目がぎょっと見開かれる。その目に映すように、キッドが引っ張ったテリーの髪の毛にキスをした。テリーが見つめる。キッドがテリーを見つめる。テリーの頬がまた赤くなる。眉をへこませて、わなわなと唇を震わせる。そんなテリーに、キッドが艶やかに、いやらしく微笑む。

「テリー、なんで?」
「……っ」
「ねえ、なんで?」
「……眠れなくて」
「うん」
「一目だけ、顔見ようと思って……」
「うん」
「顔、見てたら」
「うん」
「……なんか、くっつきたくなって……」
「うん」
「……した」
「キス?」

 こくりとテリーが頷く。

「どうしてくっつきたくなったの?」
「……っ! だからっ」
「それが訊きたい」
「……言わなくても分かるでしょ……」
「言葉に伝えてくれないと、分からないよ」

 だって、俺、そうやって確認しないと不安になっちゃうんだもん。

「俺視点と、お前視点で、考え方も捉え方も違うんだよ? 俺が不安でいっぱいになって苦しんでいいの?」
「苦しめばいいじゃない。お前なんていつもへらへらしてるんだから、たまには苦しめばいいのよ」
「酷い事言うんだから」

 しかし、テリーが本気で言っていないことは、キッドも分かっている。

「憎たらしい言葉ばっかり使うんだから」

 ――ちゅ。

 テリーの鼻にキスを落とす。

「……ん」

 テリーが唸り、じっとキッドを見つめる。

「テリー、聞かせて」

 キッドがテリーの頭を優しく撫でた。

「どうして俺にキスしたくなったの? で、どうしてキスしたの?」
「……キッドが」
「俺が?」
「……」
「俺が、何?」
「キッドが……」

 ぽつりと、呟く。

「……すき……だから……」

(あ、やばい)

 キッドの背中がぞくぞくと震える。

(思った以上にやばい)

 興奮で、体が震える。

(胸が苦しい)

 とくん、とくんと、心臓が震える。

(テリーが、俺に好きって言った)
(テリーが好きって言った)
(俺を好きって言った)

 テリーが言った。
 自分の口から言った。

「俺も好きだよ。テリー」

 キッドが優しく、テリーの額に唇を押し付ける。

「……あたしの方が好きよ」

 テリーが呟く。その言葉に、キッドがくくっと笑った。

「何? 俺に勝負を挑む気?」
「あんたの愛なんてね、ほんのこれっぽっちよ。あたしの方が超どでかい愛なんだから」
「へえ?」

 キッドの額とテリーの額がくっついた。

「そんなに俺が好き?」
「好きよ」

 テリーがキッドを見つめる。

「……キッドが好き」
「……嬉しい。……俺もテリーが好き」

 キッドとテリーの鼻同士がくっつく。

「……テリー……」
「……ん……」

 テリーが瞼を閉じる。口を閉じる。じっとする。しかし何も来ない。ちらっと瞼を上げる。キッドがにやにやして自分を見つめている。テリーが鋭くキッドを睨んだ。

「……何笑ってるのよ。気持ち悪い……」
「俺からの唇を待つお前の顔に見惚れてたんだよ」
「……ほざけ」
「くくっ」

 テリーが不機嫌になってしまった。

(俺の唇が欲しくて、俺とキスがしたくて)

 テリーが不機嫌になってしまった。

(ああ、困ったお姫様だ)

 キッドがテリーの唇に人差し指を置いた。

「んっ」

 テリーの柔らかい唇に触れる。

「……んん……」

 テリーが眉をひそめ、もどかしそうに唸る。

(やめて、テリー。俺も早くキスしたいんだよ)

 その柔らかな唇に、キスしたくてたまらないんだよ。

(でも、素直にお前の言うことを聞くのも面白くない)

「ねえ、テリー、お前貴族だろ?」

 キッドがからかう声で、テリーの瞳を見つめる。

「貴族のお嬢様が婚約者の寝ているところを襲うなんて、マナー違反じゃない?」
「……ん」
「寝た部屋だって、違うだろ? わざわざ忍び込んでくるなんて……」

 くくっ。

「いけない子」

 キッドの指がテリーの唇から離れ、テリーの横に移る。キッドが体を起こした。覆いかぶさり、上からテリーを見下ろす。

「お仕置きだ。テリー」

 テリーのネグリジェのリボンがキッドの手によって簡単に解かれる。

「あ」

 はだけた部分に、キッドがキスを落とす。

「あっ」

 鎖骨にキスを。

「あ、キッド……」

 テリーが体をよじらせる。膝を曲げる。その膝にキッドの手が触れる。

「っ……、キッド……」

 テリーの首にキスをしながら、ネグリジェの裾をするすると上げていく。

「んっ…」

 テリーがキッドを抱きしめる。キッドがテリーの首を舐めた。

「……あっ……」
「いやらしい声」

 くすっと笑うと、テリーの耳が赤く染まっていく。

「キ、キッドのせいでしょ……!」
「お前が悪いんだよ? いけないことするから」

 テリーの太ももに指が触れる。

「あっ、キッド……」

 柔らかい太ももを撫で、テリーの耳を甘噛みする。

「あ、そんな……待って、そんな風にされたら……」

 キッドの手がテリーのカボチャぱんつに触れる。

「あ、だ、だめ……」

 キッドの歯と、キッドの手に、テリーが悶える。

「あたし、まだ14歳なのよ……。こんな……はしたないこと……!」
「夜這いも十分はしたないよ」

 首にキスをすると、テリーの肩がぴくりと揺れた。

「んっ……」

 ぎゅっと、腕に力が込められたら、キッドが締め付けられる。

「そんなに締めないでよ」

 キッドがくつくつ笑う。

「俺を独り占めしたいの?」

 キッドの手がテリーの尻に触れた。

「やっ……!」

 ぱんつの袖をずらし、片方の尻を優しく撫でる。

「あぅ……」

 テリーの腰がぴくりと揺れる。それを見て、耳元でキッドが囁いた。

「テリー……分かる? 俺の手がお前のお尻を触ってるの。……くくっ、……柔らかい……」
「……言うな……。……ばか……」
「吸い付いてくるみたい」

 くにゅっと、握ってみる。

「ゃんっ!」

 テリーが上擦った声を出し、体を跳ねさせた。真っ赤な顔で、キッドを見つめてくる。

「ば、ばか……! ばかぁ!」

 ぞぞぞぞぞぞ。

(ああ、いい……)
(テリーの反応、いい……)

 ぞくぞくと、興奮が押し寄せてくる。

「俺が馬鹿? ああ、口が悪い。これもお仕置きしないと」

 キッドの手がテリーの尻を揉んでくる。いやらしく手を動かして、ゆっくりと、じっくりと、揉んでいく。テリーがその度に、不埒な声を漏らす。

「んっ……やめ……んっ、んっ……ぁっ……キッド……」

 テリーの目がとろとろにとろけてきて、呼吸も荒くなってくる。

「興奮してるの? テリー?」
「し、してない……!」

 ぷいっと、テリーが首を背ける。

「嘘つき」

 キッドが笑い、テリーの膝を掴み、左右に開いた。

「っ!」

 テリーの目が見開かれる。キッドは大胆に開かれたネグリジェの中身を、にやにやしながら見下ろす。薄暗いが、月の明かりのお陰で見えてしまった。

「テリー、今日の下着は青色?」
「み、見るなぁ……!」

 羞恥から両手で顔を隠す婚約者に、キッドの笑みは消えない。

(なんでこんなに可愛いことするかな……)

「ほら、顔を隠しちゃ、キスが出来ないんじゃない?」
「……んんっ……!」

 体を震わせながらテリーが手を退かす。潤んだ瞳でキッドと見つめ合う。

「可愛くおねだりしてごらん? あたしの破廉恥でえっちな唇に、キスしてくださいって」
「そ、そんなこと……言えない……」

 ぷるぷる震えるテリーがそんな事を言っても、キッドの嗜虐心を煽るだけだ。キッドが目を細め、テリーに伝える。

「じゃあ、一生キスしない」
「や、やだ……」
「キスしたい?」

 テリーが素直に頷く。

「キスしたいの?」

 にやあと笑うキッドに、テリーが頷く。

「……したい……」
「何がしたいの?」
「……キッドとキスしたい……」
「じゃあ、言ってごらん?」
「言ったらキスする……?」

 上目で見てくるテリーに、キッドの手に力が入った。

(まだ駄目だ)
(まだ待て)

 今すぐ動き出しそうな自分を抑える。

「満足するまで、キスしてあげるよ。すごいやつを」
「……んん……」
「ほら、なんて言うんだっけ?」

 なんておねだりするんだっけ?

「テリー?」

 キッドが微笑む。いやらしく微笑む。
 テリーが眉をへこませる。羞恥から唇を震わせる。

「……あたしの……」

 テリーが潤んだ瞳で、顔を赤く染めて、キッドだけを見つめて、言った。

「……あたしの……はれんちで……えっちな、くちびるに……キス……して……?」
「っ」

 キッドの理性がぷつんと切れた。

「あ」

 テリーが声を漏らすと同時に、キッドがテリーの唇を押し付ける。

「んっ」

 すぐにその中に舌を入れ、テリーの熱い舌と絡ませる。

「んむっ……」

 テリーの舌とキッドの舌が絡まり、キッドの手が動き出す。

「んっ……!」

 テリーの尻を揉み、テリーの舌と絡み合う。過呼吸を起こさないよう、一度口を離すと、テリーが深く荒く、息を吐いた。

「は、あっ……キッド……っ、そんな、一気に……!」

 キッドが自ら寝巻を脱いだ。

「あ」

 体をテリーの両足の間によじらせた。

「あ」

 唇を押し付ける。

「んっ」

 テリーとキスをする。

「んっ……」

 テリーがぼうっと、キッドに見惚れていく。

「キッド……」

 テリーの手が、キッドの胸に触れた。そこは激しく脈打っている。

「テリー」

 キッドの手が、テリーの胸に触れた。そこは激しく脈打っている。
 二人の目が合わさる。見つめ合う。テリーの目が、キッドから離れない。

「キッド……きて……」
「……テリー……」

 顔を近づかせれば、荒い呼吸が伝わる。
 テリーの瞼が下りていく。キッドの瞼も下りていく。

「テリー……」
「キッド……愛してる……」
「テリー……俺も……お前が……」

 キッドの唇とテリーの唇が、重なった。


















「えへへへへ……」

 キッドがにやけて笑った。

「テリー……幸せにするよ……。結婚しよう……。もぉ年齢とかどぉーでもいいから……先に結婚しちゃおう……。……それで……いつまでも……俺と一緒に……」

 ぺろぺろぺろぺろ。

「テリー……ふふっ……そんな舐め方……お前……えっちだな……」

 ぺろぺろぺろぺろ。

「くくっ……テリー……ふふっ……」
「わんっ!」
「ふふっ……うん……?」

 ぺろぺろぺろぺろ。

「ん、なに、なんかすげー舐められて……」

 ぺろぺろぺろぺろ。

「あ……?」

 キッドが眉をひそめて瞼を上げる。荒い呼吸でぜえはあぜえはあと呼吸する、弟の犬のコリーがいる。満面の笑顔で、舌を出して、宮殿の庭のベンチで居眠りしていたキッドに、鳴いた。

「わんっ!」
「……」

 キッドがぽかんとする。

「……え?」

 きょろりと周りを見る。

「え?」

 きょろりと周りを見る。コリーを見る。コリーが輝かしい目でキッドを見ている。

「わんっ!」
「……」

 キッドは察する。

(……夢)

 キッドが硬直した。

「……」
「あっ! ここにいたのか! コリー!」

 ふいに、不快な声が耳に入ってくる。こっちに近づいてくる足音まで聞こえる始末。

「全く! 探したんだぞ! 遊ぼうと誘ったら逃げ出すなんて、照れ屋さんだな! コリーは! ははっ!」

 笑っていたリオンがコリーを見つけ、キッドを見つけ、ぴたりと立ち止まる。

「あ、……ね……」

 キッドが剣を取り出した。

「え」

 投げた。

「え」

 リオンの横を通り過ぎた。

「え」

 リオンの後ろにある壁に剣が刺さった。

「え」

 リオンの頬から、じわあと、ゆっくりと、傷口が開かれていく。

「えっ」

 リオンの頬が薄く切れていた。

「っっっっっ!!!」

 リオンが声にならない悲鳴をあげ、思わずその場に座り込む。

「あばぁぁあああああああ!!」
「……はあ……。……お前じゃなかったら斬ってたよ。コリー」
「わんっ!」

 コリーの頭を一度撫で、キッドが立ち上がる。

(……テリーに会いに行こう……)

 夢だったか。

「……」

 キッドがゆっくりと瞬きした。

(……覚めたくなかったな……)

「こ、コリー! そんな野蛮な奴から離れなさい!」
「わん!」
「こら! コリー! いい子だから! め! こっち来なさい! め!!」
「わん!」

(ああ……耳障り……)

 キッドが銃を持った。

「え」

 リオンが間抜けな声を出すと同時に、キッドが引き金を抜く。リオンの横を通過する。風が吹く。また頬が少し痛くなる。後ろを振り向くと、自分の後ろの壁に銃の弾が入っていた。再び頬から血が垂れてくる。途端にリオンの体が下から上まで震えあがる。

「あばばばば! だばばばばばば!」

(テリー……会いたい……)

 キッドが歩き出す。

(あの家に帰ればテリーがいる……)

 10月いっぱい、テリーが近くにいる。

(さっさと仕事終わらせて帰ろう……)

 剣を抜いて、キッドが鞘にしまう。そしてまた歩き出す。その後ろで、コリーと顔を青ざめさせるリオンが、キッドの背中を見送っていた。

「……なんであんな不機嫌なんだよ……。……あいつ……」
「わんっ」
「……そろそろ約束の時間だ。……さて、僕もニコラに会いに行かないと……」

 ぐうっと、リオンが伸びをした。







 王子様の夢日記 END
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