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メニー

キスしないと出られない部屋

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(*'ω'*)テリー誕生日企画。年齢設定はお好きにどうぞ。
 メニー×テリー
 ――――――――――――――――――――












 キスしないと出られない部屋に閉じ込められた。


 テリーがぴくりと顔を引き攣らせた。メニーが眉をへこませた。

「どうしよう、これ……」

 メニーが扉を叩いた。

「あのー、誰かいませんかー?」

(ドロシィィイイイイイイイイイイ!!!)

 テリーが全力で壁を叩く。

(ドロシー!!!!!!!)

 ばんばん音を鳴らして全力で壁を叩く。

(今日は、あたしの誕生日なのよ!!)

 なのに、この仕打ち!!

(天敵のメニーとこんな部屋に閉じ込められるなんて!!!)

「いやあああああああああああああああああ!!!」
「お姉ちゃん!?」
「だせええええええええええええ!!!」

 テリーが絶望から全力で壁を蹴飛ばしまくる。

「ここから、出してぇええええええ!!!」
「お姉ちゃん! 落ち着いて!」

 メニーがテリーの背中を撫でた。

「お姉ちゃん! ね! 落ち着いて! 大丈夫だよ!」
「ふぁああああんんんん!!」

 座り込んで泣きだすテリーに、メニーが表情を曇らせた。

(お姉ちゃん……、可哀想に……)

 誕生日なのに、こんな部屋に閉じ込められて。

(何とか、この部屋から出ないと!)

 メニーが扉を観察する。

(変なところは特になし……)

 扉に書かれているのは、これだけ。

『キスをしたら出られるよ! ははっ! 君達の運命の口付けを見せてもらおうか! 意外とね、君達、人気あるからね! 頼むよ! GLという名のカテゴリを! 盛り上げておくれよ! はは! はははは! はははははは! はーはっはっははは、はははは、はーはっはははは!!』

(キスか……)

 よし、こうなったら。

「お姉ちゃん!」
「ぐす……。何よ、メニー……」
「はぁ、くいしばれぇ!」
「えっ」

 メニーが唇を押し付けた。

「ん!」

 ごん! とメニーの前歯が唇越しからテリーの額にぶつかった。メニーが絶句する。テリーが絶句する。二人とも、痛みに悶える。額を押さえたテリーがメニーを睨んだ。

「……メニィ……!」
「……痛い……」
「当たり前でしょ! 馬鹿!!」

 お前、そんなにあたしが憎いか!! あのね、言っておくけどね、あたしの方が! 憎いわよ!! 妬み僻み嫉みなら、負けないわよ!!

(くそがぁ……! くそメニーがぁああ……!!)

 キスをしたら出られる部屋。

(チッ!!)

 こんなところ、とっとと出て行ってやる!!
 テリーが凛と涼しい顔をして、立ち上がる。

「メニー、泣いてる暇はないわ。さっさとキスしてこんな所出ましょう」
「お姉ちゃん、泣いてたのはお姉ちゃ……」
「早くして! あたしは! こんな所から出て、早くケーキが食べたいの!!」
「えーーーー」

 声を漏らすメニーをよそに、テリーが髪の毛を払う。

(キスくらい何よ)
(あたし達は姉妹なのよ)

 それくらい、どうってことないわ。

「というわけで」

 ちょいちょいと、人差し指を内側に向けて動かし、メニーを呼びつける。

「こっち来なさい」
「はい」

 メニーが返事をして、押さえていた唇から手を離す。じっとテリーを見る。じっとテリーがメニーを見る。

「「……」」

 お互いに、黙り込む。

(……さて)

 どこにキスしたらいい?

(どうしよう)

 テリーが悩む。

(こいつなんかに、キスしたくない……)

 メニーがそんなテリーを見つめる。

(ああ……。お姉ちゃんがすごく悩んでる顔だ……)

 この黙り込んで硬直してぴくりとも動かない状態。

(何かに葛藤して動けないでいるんだね……)

 メニーが考える。

(そうだよね。お姉ちゃんって、すごくロマンチストだから、好きな人以外とキスなんて駄目よってよく私にも言ってたもんなぁ)

 メニーが呑気に出会ったばかりの時のことを思い出す。

(でも、私は妹だし)

 テリーお姉ちゃんの家族だし、

(別に)

 ―――メニーが微笑む。

(どうってことないよね)

「お姉ちゃん」
「っ」

 テリーがはっと我に返る。

「え!?」
「キス、どうするの?」
「ああ!」

 テリーが笑顔を引き攣らせ、頷いた。

「もちろん、するわよ!」
「そっか」
「じっとしてて」
「分かった」

 メニーが背筋を伸ばして立つと、テリーが身をメニーに寄せた。

「ん」

 メニーの頬に唇を押し付ける。

(わ)

 メニーの肩がぴくりと動いた。

(お姉ちゃんの唇、柔らかい……)

 しかし、一瞬でテリーがメニーから離れる。即座に扉に振り向く。

「どうだぁ!?」

 扉を引っ張ってみる。開かない。

「キスしたじゃないのよおおおおおおおお!!!!」

 どんどんどんどん!!

「開けてぇええええ! 早くここから出してぇええええ!!」
「お姉ちゃん! 落ち着いて、ね!」
「びえええええええええええええええん!!!」

 泣きわめくテリーの背中を撫でながら、メニーが扉を見つめる。

(頬にキスするだけじゃ駄目なんだ)
(額も駄目だった)

 じゃあ、どこにキスをすれば開くの?

「……」

 考えても分からない。分かるのは、額と頬にキスをしただけでは扉は開かないということ。

(なるほど)

 メニーが頷いた。

「お姉ちゃん、私が読んだ本にね、書いてあったんだけど……」
「ぐすん! ……今度は何よ……」
「物事を行う時にはね、色んなことを視野においてやってみるのがいいんだって。例えば、そう、この場合だと、頬にはキスをしても扉が開かなかったでしょう?」

 だから、

「扉が開くまで、体中にキスをすればいいんだよ」

 そうしたら、

「いずれは扉が開く」

 メニーが真剣に言う。

「ね、これが一番の近道だと思うの」
「……」

 は?

(何それ。つまり)

 メニーと扉が開くまで、にゃんにゃんしろってこと……?

 考えただけ、テリーのストレスがマックスレベルに到達した。扉を叩き始める。

「すみません! 誰か! 誰かいませんかーーーーー!!」
「お姉ちゃん! さっきから誰もいないでしょ!」

 メニーが胸の前で手を抱えた。

「わ、私だって恥ずかしいけど、でも、しょうがないよ。これしかないんだもん!」
「おほほほほほ! そうよね! おほほほほほ!!」

(ドロシーーーー!! 早く来いーーーー!!)

 どんどんと扉を叩くテリー。それを見て、メニーの眉が下がる。

「お姉ちゃん、……そんなに、嫌?」
「……え?」
「その……」

 メニーがもじもじと、視線を泳がせた。

「私と、……キスするの、そんなに、やだ?」
「い」

 ぐっ、と、テリーが拳を握って、堪えた。

(嫌に決まってるだろうがぁぁあああああ!!)

 なんで死刑にしたお前と仲良くにゃんにゃんキスをしないといけないのよ!! こんなの最悪な展開以外の、何者でもないわ!!!!!

「いやね! メニーったら! そうじゃないわよ!」

 テリーがメニーに笑った。

「馬鹿ね! 違うわよ! あたしはね、年頃の大切な妹にキスをするのは、姉としてどうかと思っただけよ! だって、あんた、彼氏も出来たことないのよ? そんな生娘に姉のあたしがキスをするのは、駄目なんじゃないかと、そういう風に思ってただけよ! 嫌じゃないわよ! もう、馬鹿ね! メニーったら!」
「……彼氏がいないのは、お姉ちゃんも同じじゃ……」
「もーーーーー! 人のことはどうでもいいの!」

(殺されてえのか! てめぇは!!!)

 テリーがぴきっと笑顔を引き攣らせて、全力で微笑む。

「ほら、メニー、座ってキスする場所を考えましょう!」
「うん」

 テリーとメニーがその場に座る。ドレスのレースが揺れる。テリーがメニーの手を取った。

「手にキスをしてみるわね!」
「うん!」

 テリーがメニーの手を取り、手の甲を見下ろす。

(うぐ!)

 きらきらと輝く白い手。

(くそ! すべすべの綺麗な手しやがって……! むかつく……!!)

 テリーがメニーの手の甲に、優しく唇を寄せた。

 ――ふに。

「ん」

 メニーの指が、ぴくりと動いた。テリーが扉に振り向く。

「どうだ!?」

 鍵が開いた音はしない。扉も開かない。

「……」
「落ち込まないで。お姉ちゃん」

 メニーに肩を撫でられ、テリーが俯く。

(くそ……! くそ……!!)

「今度は私がしてみるね!」

 メニーがそう言って、俯いて地面をどんどん殴ってるテリーを見つめる。

(額は駄目。頰も駄目。手も駄目)
(そうなると……)

 メニーがひらめいた。

「じゃあ、ここ」
「うん?」

 ぽかんとするテリーにメニーが近付いた。テリーの首筋に唇を押し付ける。

「ちゅ」

 ぷに。

(貴様ぁああああああ!!!)

 テリーがメニーを睨んだ。

(そんなふわふわな唇で、どこ触ってくれてるのよ!! この、無意識えっち女!!)

「どう? お姉ちゃん、扉開いた?」
「えっ、あ……」

 テリーが振り向く。扉は開かない。メニーが眉をへこませた。

「駄目か……」

(畜生……!)

 こんなの、とんだ罰ゲームよ……!

(今日は、あたしの誕生日なのに……!)

 メニーにキスする日になるなんて!!

(あたしの生まれた日を呪ってくれるわ!! くたばれ!)

「お姉ちゃん、次、どこにキスする?」
「……んん……」

 どこと言われても……。

 メニーの全部が気に入らないのに、なんでキスをしなければいけないのだろうか。

(そうね)

 じゃあ、無難なところ。
 テリーが唇を寄せた。

「ちゅ」
「んっ」

 メニーの鼻。

(形のいい鼻め、噛み付いてやりたい……)

 チラッと扉を見る。開かない。

(くそ……)

「次、私ね!」

 メニーがテリーに近づく。

「じゃあ……」

 メニーがテリーの肩に触れた。

「お姉ちゃん、ボタン外してもいい?」
「え、なんで」
「肩にキスしてみる」
「か……」

 テリーが硬直すると、メニーがむすっと頰を膨らませた。

「だって、どこにキスしていいかわかんないんだもん! 物は試しだよ」
「ああ、……はいはい」

(くそ……)

 テリーがドレスのボタンを外し、襟をずらす。メニーがテリーの肩に触れ、唇を寄せた。

「ちゅ」

 むに。

(ぐぅ……! 不快感しかない!)

 イライラしながら扉に振り返る。扉は開かない。

(開かない……)

 テリーがイラッとする。

(なんで開かないのよ……!)

 あああああああああああああああ!! イライラする!

 テリーがメニーをぎろりと睨みつけた。

「メニー! こんなことをちまちまやってても、時間の無駄よ!」
「へっ!?」
「脱げ!」
「は!?」
「こうなったら、体中にキスしまくるわ!」

 それで扉も開くでしょうが!!

「メニー! ほら! 脱ぎなさい!」
「ま、待って! 待って! お姉ちゃん! 落ち着いて!」

 メニーが血の気を引かせる。

(やばい! お姉ちゃんが切れた!)

 激おこぷんぷんテリーお姉ちゃんだ!
 メニーがテリーの手を掴んで押さえる。

「お姉ちゃん! 待って!」
「えーい! 問答無用! 脱ぎなさいメニー!」
「分かった! じゃあお姉ちゃんも脱ごう! ね!」
「下着勝負しようってのか! 上等よ! 貴族令嬢を舐めないで!」
「違う! なんか違うけど! でも! うん! 分かった! もういいや! それで! 大丈夫!」

 メニーが諦めてテリーの手を離す。メニーがドレスを脱ぐ。テリーがドレスを脱ぐ。
 メニーがレースのキャミソールとカボチャぱんつ姿になる。
 テリーがレースのキャミソールとカボチャぱんつ姿になる。

「っしゃあ!」

 ハイのテリーがメニーの体を睨みつける。

「するわよ! キス! しまくるわよ!」
「うん! お姉ちゃん! あの! 無理せず!」
「うるさい! あたしに出来ないことはないのよ!」

(メニーの下着姿なんてどうでもいいわ! あたしはこの部屋から出たいだけなのよ!)

「メニー! どこにキスしても文句言わないでね! これは! 仕方ないことなのよ!」
「うん! お姉ちゃん! 私も頑張るね!」

 メニーがテリーの足を掴んだ。

(ん?)

 ちゅ。

 メニーがテリーの足のつま先にキスをした。

「……」

 ん?

「ちょ、メニー」
「ん?」
「あんた、今どこにキスしたの」
「キスしまくるんでしょ?」
「いや、まあ、そうだけど」
「うん」

 メニーが再びテリーの足を持ち上げる。今度は足の甲に唇を寄せる。

 ちゅ。

「……」

 えーと。

(……キス、出来ない)

 メニーがテリーの足元でにゃんにゃんしているため、

(口が、届かない……)

 テリーには見つめることしか出来ない。よって、メニーによる単体キスショーが、目の前で開演される。

 ちゅ。

「っ」

 ピンクの唇が、テリーの足に押し付けられる。

 ちゅ。

「ん、」

 メニーがテリーのふくらはぎにキスをする。

 ちゅ。

 今度は膝。

 ちゅ。

 足を、なぞるように、キスしていく。

「め、メニー」

 ちゅ。

 メニーの唇が、膝の上に上っていく。

「あの、メニー」

 メニーの唇が、太ももへと流れてくる。

「メニー、一旦ストップ」

 メニーの唇が押し付けられる。

「あの」

 太ももに。

「あの、」

 内太ももに。

「あの、えっと」

 外太ももに。

「えっと、えっと、えっと」

 メニーの唇が押し付けられ、太ももを、筋肉を、なぞり出す。

 ちゅ。
 ちゅ。
 ちゅ。
 ちゅ。
 ちゅ。
 ちゅ。

「メニー!」
「わっ」

 腕を引っ張られ、メニーがテリーに引き寄せられる。きょとんとすると、テリーがにこっと笑う。

「そんなところにキスしないの! ね!」
「……でも、扉」
「開いてないから、足じゃないのよ!」

 テリーがメニーの腰をガシッと掴んだ。

「いいから、あんたはじっとしてなさい。ね、いいわね」
「うん、分かった!」
「いい子ねー!」

 あーたーしーのーあーしーにー、触るなぁあああああ!!!

(お陰で、変な声出ちゃったじゃないのよ!)

「メニー、キスするわね」
「うん」

 テリーがメニーの腰を掴んだまま、唇を寄せる。メニーの頭。

「ちゅ」
「んっ」

 メニーが俯く。瞼にキスをしてみる。

「ちゅ」
「んんっ……」

 メニーの手が、テリーの腰を掴んだ。青い目をテリーに向ける。

「お姉ちゃ……」
「メニー、我慢して」

 こめかみにもキスをしてみる。

「ちゅ」
「あの、私も……」

 メニーがテリーに身を寄せる。

「キス、してみるね……?」

 メニーの唇が、テリーの耳に寄せられた。

「ちゅ」
「ひゃっ!!」

 びくんっ、とテリーの体が跳ねる。メニーがテリーの腰をぎゅっと掴んだ。

「お姉ちゃん、我慢して」
「わ、分かってる……」

 テリーの耳が、自然と赤くなる。

(み、耳は、くすぐったいのよ……! くそ……!)

「あ、そういえば」

 メニーがふと、思い出す。テリーが眉をひそめる。

「え、何? どうしたの?」
「童話の本で見たことあるの」

 耳をちゅぱちゅぱすると、魔法が解けるんだって。

「もしかしたら、この部屋は魔法の部屋なのかも! お姉ちゃん! やってみる価値はあるよね!」

 魔法、という言葉に目を輝かせるメニーに、テリーが硬直する。

(誰だ! そんな話考えたエロ作家!!!)

「お姉ちゃんが昔くれた本あるでしょ? 確か、アレに載ってたの!」

(あの時のあたし! ばかやろーーーー!!)

 後悔先に立たず。

(だとしても……。くそ、しょうがない……)

 テリーがため息をつく。

(もうこうなったらいくらでもちゅぱちゅぱするわよ。いいわよ。メニーの耳をちゅぱちゅぱすればいいんでしょ……)

 げっそりしながら、テリーがメニーを抱きしめる。

「分かった。やってみるから暴れないでよ」
「うん! 我慢しててね!」

 ……。

 ん?

(あれ?)

 メニーが近づく。

(あれ? あたしが、メニーの耳にキスするんじゃ……)

 耳元に、メニーの吐息があたる。

(あれ?)

 ――はむ。

「~~~~~~~~~っっっっっ!!」

 途端に、テリーの肩がびくーーーっ、と上に上がった。

「め、め、め!」
「ちゅぱ」

 ひえっ!!

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」

(ひぅっ!!)

 テリーの背中がびくびく、と震え上がる。

(く、くすぐったい!)

「め、メニー! やめっ……!」

 メニーの唇が動く。

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」

(んんんんんんんっっっ!)

 体が跳ねる。びく、びくり、と、反応してしまう。

(メ、メニーに! 耳を、ちゅぱちゅぱされる日が来るなんて!)

 しかも! 誕生日に!

(ぐっ……! ここは、堪えるのよ! あたし! 全ては全部、この部屋から出るため! 今だけ耐えるのよ!)

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」

(メニーに悪気はない。くたばれと思うけど、こいつはただ純粋にくだらない本なんかを信じて、あたしの耳をちゅぱちゅぱしてるだけ。心を大らかに。テリー、落ち着いて。あたしはやれば出来る子。あたしはやれば出来る子。あたしはやれば出来る子)

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」

(あたしは何ともない。何ともないのよ)

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」

(何でもないの。あたし、大丈夫なの)

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」

 ……。

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」

 ……。

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」

 テリーが唾を呑んだ。ごくりと喉が鳴る。メニーの唇が動く。

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」

 テリーが目を泳がせた。メニーの唇が動く。

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」

 テリーが瞼を閉じた。メニーの唇の動きを感じる。

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」

(あ、これ……)

 テリーが息を漏らした。

(だめな、やつ……)

「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ」
「メ、メニー」

 テリーがメニーの肩を掴んだ。

「も、もういいわ。ほら、扉、開かないから……」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「メニー、あの、もう、もういい、から……」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「ん、め、メニー?」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「ね、ねえ、もう、いいのよ、メニー、ね、もう、離して……」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「え……?」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「え、あ、め、メニー?」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「あ、ま、まって、」

 肩を押すが、メニーが離れない。唇が、ひたすら、耳に粘りつく。

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「ん、んん、メニー、あっ、も、もういい……! もぉ、もおいい……!」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「へ、なに? あ、メニー、ちょ、ちょっと……!」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「メニー、一旦、たんま、メニー……!」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「あ、待って、それ以上、あの、あたし……!」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「んんんんっっ……!?」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「あ、あ、あ、ま、まって、あ、だめ、あ、だめなの、あ、まって、ちょ、メニー!」

 ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。

「メニー!!」

 そこで、メニーが唇を離した。

「っ」

(このっ! お前! よくも!!)

 赤面した顔で、メニーを睨む。

(何してくれてるのよ!!)

 ギッ! と睨むと、






 青い目が、テリーを見つめていた。






(え?)


 一瞬、テリーが硬直する。
 一瞬、時が止まる。

(え?)

 身に覚えのある青い目が、目の前に、映し出されている気がする。

(メニー?)

 メニーだ。

(メニー)

 この目は、この瞳は、


 最後の瞬間に目があった、あの青い目。



 ――の、気がした。
 メニーがくしゃみをした。

「はっくしゅん!」

 あ。

 くしゃみの反動で顔を揺れ、メニーの顔が上がったタイミングで、唇が当たる。

(げっ)

 テリーの唇と、メニーの唇が、一瞬、こつんと重なった。

「っ」
「きゃ!!」

 メニーがはっとして、慌てて後ずさる。

「きゃーーーーー!!」
「えっ」

 メニーが口を押さえて、ぶるぶると震える。

(えっ)

「あ、わ、私……!」

 メニーが、ぼろりと涙を流す。

「ふぁ、ふぁーすと、きす、だったのに……!」
「……」

 テリーがきょとんとして、瞬きして、そして、ゆっくりと頭を押さえた。メニーは顔を押さえた。

「……あー、メニー……」
「ぐすん、ぐすん……!」
「あの、いい? よく聞いて」

 あたし達は姉妹で、家族よ。

「カウントは無しよ。あんたはまだ、ファースト・キスはしてないのよ」
「……そ、そうなの?」
「そうよ」

 テリーがこくりと頷く。

「あたしとキスしたところで、カウントは無効よ」
「わ、私、まだファースト・キス、してないんだよね?」
「うん。してない」
「はーーーあ!」

 メニーが心から安堵した息を吐いた。

「良かったー! これで妖精さんになれる!」
「はあ?」
「大人になるまでキスしないと、妖精さんになれるんだって!」
「あ、そう」

 いつも通りのメニーだ。
 いつも通りのむかつくメニーだ。

(……気のせいか)

 メニーの目が、あの時のメニーの目に見えたのは、

(気のせいね)

 ちゅぱちゅぱも、必死にやりすぎて、止めてくれなかったに違いない。

(くそが! 止めろと言ったらすぐにやめなさいよ!)

「あ、お姉ちゃん、扉開いてるよ!」

 メニーが扉を引いてみる。扉の前には、緑の猫が汗だくで倒れこんでいた。

「あれ? ドロシー?」
「に、にゃ……」
「あれ? どうしたの? 何これ」

 ドロシーの周りには、見た事のない読めない字で書かれた本が数冊ばらばらと置かれていた。多分、魔法使い専用扉が開く方法とでも、書かれているのだろう。

(遅いのよ……! お前は!)

「お姉ちゃん、扉も開いたし、ドレスに着替えちゃおう」
「……賛成……」

 疲れた……。

(とんだ誕生日よ……)

 テリーが再びげっそりした顔でドレスに着替えていく。メニーがドレスを着ながら、足元に歩いてきたドロシーを見下ろし、眉をへこませた。

「ドロシー、お姉ちゃんも私も大変だったんだよ!」
「にゃー」
「一生懸命、色んなことやったんだから! もー! 恥ずかしかった!」






 でも、



「楽しかったよ」




 メニーが微笑む。緑の猫は、にゃあ、と一言鳴いた。

「メニー、着替えた?」
「うん!」
「帰るわよ」
「うん!」

 メニーがテリーの手を掴む。テリーがその手を見下ろす。メニーが微笑んでテリーを見上げる。テリーもにっこりと微笑む。

「あんたは甘えん坊ね」
「えへへ!」
「行くわよ」
「うん!」

 テリーとメニーが部屋から出て行く。ドロシーも一緒についていく。本はいつのまにか消えていた。

「あーあ、疲れた。早く帰ってケーキ食べないと」
「お姉ちゃん、私のプレゼントも楽しみにしててね!」
「ああ、はいはい」
「お姉ちゃん」

 メニーがにこりと微笑んだ。

「お誕生日おめでとう!」
「ええ」

 テリーが微笑む。

「ありがとう。メニー」

 しかし、その笑みには感情はない。
 しかし、メニーの笑顔には感情がある。
 二人は噛み合わない。
 けれど、満足そうに、メニーは微笑む。

 テリーの手を、きゅっと握りしめる。

「お姉ちゃん、私、本当に、その、ふぁーすと、きす、大丈夫なんだよね……?」
「うん。平気平気」
「よかったー!」

(さっさと妖精さんでも賢者でもなんにでもなっちまえ。畜生メニーめ)

 胸の内で悪態をつき、メニーと結ばれる手を見下ろし、大きく、テリーがため息をついた。










 キスしないと出られない部屋 END
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