おとぎ話の悪役令嬢のとある日常(番外編)

石狩なべ

文字の大きさ
117 / 141
メニー

ドレスの代償

しおりを挟む
(大運動会の続きです。CP上、キッドとテリーは婚約解消してる前提です(*'ω'*))

 ――――――――――――――――――――










(ああ……、疲れた……)

 テリーが体操着のままベッドの上にダイブする。

(お腹すいた……。ステーキ……。ステーキが食べたい……)

 テリーがうとうとと瞼を動かす。

(夕飯いつかしら……)

 瞼が重くなっていく。

(待つ間、少し休もう……)

 瞼が下りれば深呼吸。整った呼吸を繰り返す。テリーが眠る。すやすやと眠りだす。
 その中で、トントンと扉がノックされた。

「テリーお姉ちゃん」

 扉が開く。メニーがひょこりと顔を覗かせた。

「……あ、寝てる」

 すやすや眠るテリーがいるベッドまで近づく。

「おねーちゃーん」

 声をひそめて呼んでみる。テリーが起きる気配はない。

「ご飯が出来たよー」

 声をひそめて言ってみる。テリーが起きる気配はない。

「……んー」

 メニーは考える。

(疲れてるだろうし、起こすのは可哀想な気がする)

 メニーが眉をひそめる。

(でも起こさなかったらお母様にどやされるし、お姉ちゃんもなんで起こさなかったのよって文句言ってきそう……)

 メニーが唸る。

「うーん!」

 よし、こういう時は、ドロシーに相談だ!

「いでよ! ドロシー!」

 ドロシーは現れない。

「あれ?」

 メニーが辺りを見回す。

「あれー? ドロシー?」

 ドロシーの気配はない。

(……キッチンかも)

 ドロシーは諦め、メニーはテリーに手を伸ばすことにした。肩をとんとんと軽く叩く。

「お姉ちゃん、ご飯できたって」
「んん……」

 テリーが身じろぎ、寝返った。

「……あと五分……」
「はい、過ぎた。お姉ちゃん、起きて」
「んん……」

 テリーは起きない。身じろいで、唸って、再び夢の中。

「くかー……」
「お姉ちゃんってば」
「ぐうー……」
「おねーちゃーん」

 メニーがテリーを呼ぶ。肩を揺らす。何とかテリーを起こそうとメニーが頑張る一方で、テリーの夢では、メニーは高笑いをしていた。

「おーっほっほっほっほっほっ! テリーのことを死刑にしてやるー!」
「ぎゃーーーーー!!」
「どう? テリー? 逆さづりにされる気分はー!」
「メニーーーーーー!!!」

 テリーが必死にもがく中、メニーが運動会の優勝カップを握り締めた。

「優勝は私、メニーだー!」
「なぁぁああああにぃぃぃいいい!!?」

 リトルルビィが、ニクスが、キッドが、ソフィアが、リオンが、メニーに拍手をする。

「おめでとう! メニー!」
「さすが皆のプリンセスだね!」
「くくっ。テリーとは大違い。彼女こそプリンセスだ」
「くすす。とても輝いてるよ。メニー」
「僕のハニー!」

 リオンがテリーを踏んづけて、手を差し出す。

「ぎゅふ!」
「さあ、ハニー! ニコラなんて放って、僕と一緒にランデブーに出かけよう!」
「リオンてめぇぇえええええ!!」
「きゃ! 素敵!」

 メニーがテリーを踏んづけた。

「ふぎゃ!」
「愛してるわ! ダーリン!」
「運動会の優勝カップが似合ってるよ! ハニー!」
「さあ、私をお城まで連れて行って!」
「君のためならどこにだって! さあ、行こう!」

 ふみふみふみふみ。

「てめえら! このあたしを踏んづけるなんて! 許さない! この、馬鹿夫婦! この! この、この、この……!!」

 テリーが睨みつけた。

「メニー!!!」




 メニーがきょとんとした。

「……お姉ちゃん?」
「……めにー……むにゃむにゃ……」
「お姉ちゃん? もしかして、私の夢見てるの?」

 メニーが顔を近づける。

「お姉ちゃん、起きて。私、ここだよ」
「メニー……てめえだけは許さない……」
「お姉ちゃんってば、何言ってるの。……まさか、喧嘩した時の夢? ああ、もう……」

 メニーがうんざりげに眉を下げた。

「お姉ちゃん、起きてよ」
「この……」

 テリーがメニーの手を掴んだ。

「ん?」

 引っ張られる。

「ひゃ!?」

 ぼふん、とメニーがベッドにダイブした。慌てて起き上がる。

「ちょ、お姉ちゃん!?」

 ――おーほっほっほっほーーーお。テリーのばーか!
 ――何をををををををを!!!

「お前のドレスなんて……こうしてくれるー……」
「お姉ちゃん、いだだだだ! 何!? 何!? お姉ちゃんってば!」

 メニーの上にテリーが覆いかぶさる。慌てて肩をとんとん叩くと、テリーの手がメニーの胸元を掴んだ。

「えっ」

 びりーーーーー!!

「きゃーーーーーー!!!!」

 メニーが悲鳴をあげた。
 ドレスの胸元がテリーによって破られ、はだけた。

「お、おねーちゃーーーん!!」
「ドレスなんて……こうしてくれるー……」

 びりーーー!!

「お姉ちゃん! 寝ぼけてるでしょ! 起きて! おねえちゃ…」

 はっ!

「目を瞑ったまま、ドレスを破いてるだと……!?」
「ぐー……」
「お姉ちゃん! 起きて! お姉ちゃん!!」
「メニー……」

 びりびりびりーーー!

「きゃーーー! やめてーーー!!」

 メニーが逃げようとしても、テリーがメニーを離さない。
 夢の中では、メニーとテリーは格闘している。

「テリーはドレスも持ってないんだね! 可哀想! おーっほっほっほっほーお」
「馬鹿野郎! あたしが普段から体操着を着てると思ったら大間違いよ!」
「『てりぃ』だって! ああ、なんてダサい体操着!」
「なにをーーーーーー! お前のドレスなんて!」

 テリーの目は開かない。

「こうしてくれるわー」

 びりーーーー!

「お姉ちゃん! もう、もう破くところがないよー!」
「ぐかー」
「助けてー! 誰かー!!」

 キャミソールとカボチャパンツ姿になったメニーがテリーの下でもがく。

「お姉ちゃん! 起きて! お姉ちゃん!」
「許すものかー」
「理不尽だ! 何この執念! ドレスに恨みでもあるの!?」
「メニー」
「うわぁーーーー! ご勘弁をーーー!!」

 伸びた手に、メニーがぎゅっと目を閉じる。体に手が巻き付いてくる。

(むぎゃ!?)

 ぎゅっと、抱きしめられる。

「……」

 テリーに抱きしめられている。

「……」

 メニーがそっと目を開けた。テリーはメニーを抱きしめたまま、眠っている。

「ぐかー……」

 夢の中では、メニーを羽交い絞めにして格闘している。
 現実では、メニーを抱きしめている。

「……もう……」

 メニーがため息混じりに言葉を吐いた。

「お姉ちゃん、妹のドレスを破くなんて貴族令嬢失格だよ」

 メニーの手がそっと、テリーを抱きしめ返す。

「お姉ちゃん、いい加減に起きてよ」
「むにゃー……」
「お姉ちゃんってば」
「くかー……」
「……もう……」

 メニーがもぞもぞと動くと、テリーの腕の力が強くなった。

(うぼっ!?)

 メニーを離さなさい。
 メニーがぐっと抜けようと力を入れてみる。

「お姉ちゃん……!」
「……にー……」
「え?」




「メニー……」






 メニーを抱きしめて離さない。
 メニーを離さないテリー。
 テリーがメニーを抱きしめる。
 メニーが硬直する。
 テリーがメニーの背中に頬をこすりつけた。

「……離さない……」

 テリーが呟いた。

「あたしの……もの……」



 その瞬間、

 メニーの目が、閉じられる。
 メニーの目が、しばらく閉じられる。



 目が、そっと開けられた。


「……」


 青い瞳がゆっくりと動く。自分の背中に乗っかるテリーに振り向く。

「……ぐー……」

 青い瞳が振り向き、そのまま、体ごとテリーに振り向いた。

「……」

 手が伸びた。テリーの体操着を掴み、そのまま、持ち上げる。

「……ぐー……」

 テリーの体操着が脱がされる。

「むにゃ……てめ……くー……」

 テリーのハーフパンツが脱がされる。

「……ふがー……」

 脱がした手が体操着をベッドの外へ投げた。

「……」

 キャミソールとかぼちゃパンツ姿になったテリーを抱きしめ返す。

「……」

 抱きしめて、横向きに、向かい合って寝転がる。

「……」

 肌と肌がくっつく。
 腕と腕がくっつく。
 足と足がくっつく。

「……」

 青い瞳がテリーから離れない。

「……」

 顔が近づく。

「……」

 唇が近づく。

「……」

 鼻がくっついた。

「……」

 止まる。

 青い瞳が、
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。

「ふふ」

 笑い声が漏れる。

「ふふふ」

 そっと、テリーの頬に手を添える。

「……」

 青い瞳がテリーを見つめる。
 口は開かない。
 青い瞳がテリーに手を伸ばす。
 指で優しくテリーを撫でる。

「……ん」

 テリーが眉をひそめる。青い瞳がくすりと笑った。

「……んん……」

 触れてみる。
 テリーが唸る。
 触れてみる。
 テリーがピクリと動いた。
 触れてみる。

「……うう?」
「しー」

 静かに、というように息を出すと、テリーが黙った。

「……ん」

 再び、夢の中。
 青い瞳が微笑んだ。

 もっと触れる。
 テリーが眠る。
 もっと触れる。
 テリーが肩を揺らした。
 もっと触れる。
 テリーが眉をひそめた。

 頬に唇をつけてみる。
 テリーは気持ちよさそうに眠る。
 だから触れる。

「……ん」

 触れる。

「……ん、どこ、触って……」

 触れる。

「ふふ、……くすぐったい……」

 触れる。

「ん……この……メニー……」

 触れる。

「てめ……よくも……」

 触れる。

「ん、くくっ……そこは、ふふ、だめ……」

 触れる。

「……あ……」

 唇を寄せる。

「ちゅ」

 青い瞳が、目を閉じることなく、テリーを見つめる。
 頬に唇をつければ、眠るテリーがいる。
 手を握れば、握られるテリーがいる。
 足を絡めれば、絡められるテリーがいる。

 青い瞳が、テリーを見つめる。

「離さないで」

 手を、握り締める。

「離したら、駄目」

 見つめる。

「私も、離さない」

 青い瞳が、囁く。

「絶対に、離さない」

 テリーを見つめる。









(*'ω'*)







 ――ゆさゆさ。

(……んん?)

 体を揺らされ、テリーが眉をひそめ、呻いた。

「あたしの……優勝カップは……渡さない……。これは……あたしのものよ……」
「テリー、起きてください」

(あ……サリアの声……)

 テリーがそっと目を覚ます。思った通り、サリアが目の前で自分の顔を覗き込んでいた。

(……夕食が出来たのね……)

 ふわあ、とテリーが大きな欠伸をする。

「今夜のご飯……何……?」
「あら、まだお腹空いてるんですか?」
「あたし……お腹はぺこぺこよ……。今日一日、運動会でずっと体動かしてたんだから…」
「でも、テリー、もう食事は済んだのでは?」
「何言ってるのよ……。あたし、寝てたのよ……。どうやって食事するのよ……」
「だって、どう見たってこれは」

 サリアが呟く。

「食後では?」
「あ?」

 テリーが振り向く。メニーのドレスがボロボロで、キャミソールとかぼちゃパンツ姿で眠っていた。

「……」

 頬を赤らめ、しんどそうに眠っていた。

「……」

 テリーが自分の手を見る。メニーのドレスの一部を握っていた。

「……」

 自分も体操着は着用しておらず、下着姿だ。

「……」

 テリーが眉をひそめ、ゆっくりと振り向く。
 サリアは真剣な顔で、テリーを見ていた。

「テリー」

 肩を、ぽんと叩かれる。

「いいですか。近親相姦はばれないようにしないと」
「誰が近親相姦だーーーーーーーー!!!」

 悲鳴のように叫び、テリーが慌ててメニーの肩を揺らす。

「メニー! 起きなさい! 一体何があったの!」
「うーん……テリーお姉ちゃんの……えっち……」
「まっ」

 サリアが口を押さえた。テリーが青ざめる。

「ちょ! ちが! サリア! これは誤解よ! メニー! 変なこと言うんじゃないの!」
「うーん……ドレス破くなんて……酷いよぉ……」
「まっ」

 サリアが眉を下げる。テリーの血の気がさーーーっと引いていく。

「メニー! 起きて! とりあえず、ドレスを着るのよ!」
「むにゃむにゃ」
「メニー様がこんな風になるまでお戯れを…。やりますね。テリー」
「サリア! わかってるくせに!」
「あら、何をですか?」

 サリアのにやにや笑う顔にテリーが顔を引き攣らせる。再びメニーの肩を揺する。

「ちょ! 本当に! メニー! 起きろ! 起きて! 起きて事情を話すのよ!」
「くかー」
「メニーーーーーーーーー!!!!」

 その夜、テリーの悲鳴が屋敷中に響き渡ったのだった。









 ドレスの代償 END
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

さくらと遥香(ショートストーリー)

youmery
恋愛
「さくらと遥香」46時間TV編で両想いになり、周りには内緒で付き合い始めたさくちゃんとかっきー。 その後のメインストーリーとはあまり関係してこない、単発で読めるショートストーリー集です。 ※さくちゃん目線です。 ※さくちゃんとかっきーは周りに内緒で付き合っています。メンバーにも事務所にも秘密にしています。 ※メインストーリーの長編「さくらと遥香」を未読でも楽しめますが、46時間TV編だけでも読んでからお読みいただくことをおすすめします。 ※ショートストーリーはpixivでもほぼ同内容で公開中です。

処理中です...