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ニクス

ホリデイはあなたとワルツを

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(*'ω'*)時間軸六章終了後。
ニクス(15歳)×テリー(15歳)

――――――――――――――――――










 その日、ゲルダはびっくり仰天した。なぜかって、今年のクリスマスについて親友のニクスと話している時だ。今年はどこに出かけようかと話していたのだ。
 そうだわ。ニクス。あなた、22日誕生日よね。お祝いしなくちゃ。私と仲良くなってくれてありがとうって感謝も込めて、プレゼントを用意するわ。ね、何がいい? どこか出かける?

「ごめんね。誕生日にはもう予定が入ってるんだ」
「あら、そうなの? どこか出かけるの?」
「お客さんが来るんだよ」
「お客さん?」
「うん。友達が城下町から」
「城下町!?」

 それってもしかして、

「ニクスのお姫様!?」

 ニクスは城下町からやってきた。そして、ニクスの家は変なの。だって事あるごとに業者が来て、工事して行ったり、家を大きく改築してたり、大量のドレスが届いたり、クリスマスは毎年巨大な七面鳥が届いて、ニクスのおじとおばが近所に分け与えているほどだ。

 それはきっと全て、ニクスを気に入っているお姫様によるものだと、ゲルダは睨んでいた。

「私、やっとお姫様に会えるのね!」

 ゲルダがぴょんぴょんと跳ねとんだ。

「ニクス! 私もお姫様に挨拶したい!」
「だめ」
「なんで!?」
「ゲルダ、絶対余計なこと言うもん」
「言わないから! お願い! 何も言わない! ただ、お姫様に挨拶するだけ!」
「お姫様じゃないし、本当にただの友達だよ」
「わかった。お友達ね。わかった。わかった」

 なるほどね。お姫様はお忍びで来るんだわ。きっとそうなんだわ。ゲルダがそう思い、にっこりと笑った。

「挨拶だけならいいでしょう?」
「挨拶だけね」
「いいわ。それだけ」
「わかったよ。……12時くらいかな。駅に集合」
「12時ね! わかった!」

(お姫様に会える!)

 ゲルダがぴょんぴょん雪の上を飛んだ。それを見て、ニクスはため息を吐く。

(……大丈夫かな……)

 結構押しが強い子だけど、悪い子ではないんだよな。

(テリーが、嫌がらなければいいけど……)

 いまだに信じられないが、今年の誕生日は、テリーが遊びに来てくれるというのだ。

(マールス宮殿でのこともあるのに、……優しいんだから)

 去年まではクリスマスカードと、いっぱいのプレゼントが送られていた。今年はテリーが来てくれる。ニクスにとっては、それが最高のプレゼントだ。

(楽しみだな)

 胸を弾ませる。


(*'ω'*)


 12月22日。

 テリーとサリアが寂れた汽車から下りると、ニクスと、ニクスのおじと、ゲルダが迎えた。荷物を持ったサリアを見て、ゲルダは思った。

(なるほど。あれはお姫様の使用人なのね! ということは……)

 視線はテリーに向けられる。

「テリー」
「ニクス」

 テリーが手を振り、優雅に歩きながらそばによる。そして、おじを見て、お辞儀をする。

「ご無沙汰しております。モーリスさん」
「はじめまして。メイドのサリアです」
「こちらこそ。テリーお嬢様。サリアさん。遠くからはるばるようこそおいでくださいました」
「今年のクリスマスも最高の食事を手配させていただきました。お口にあうといいのですが」
「あっはっはっはっ。毎年妻と楽しみにしているのですよ。ありがとうございます。さあ、寒くて申し訳ないのですが、荷車に」
「その前に、テリー、紹介させて」

 ニクスがそわそわしているゲルダを引っ張った。

「この子がゲルダ」

 その瞬間、ゲルダの目がきらきらと光り輝き、自らテリーの手を握り締めた。

「ゲルダと申します! お姫様!!」
「おひ……? え?」
「ゲルダ」

 ニクスがゲルダの肩を掴んだ。

「余計なことは?」
「言いません!」
「よろしい」
「でも私、とってもあなたに会いたかったの! あなたのことをニクスから聞いてるわ! でもニクスったら全然教えてくれないの! だから私、あなたがお姫様だと思ってたの! でも私の勘は当たってたわ! だって、あなたはおとぎ話に出てくる悪いお姫様みたいな顔してる! やっぱりあなたはお姫様なんだわ! ねえ! 呪いの鏡や氷の魔法は持ってないの!?」
「ゲルダ」

 手をぶんぶん振り回すゲルダを見て、テリーが瞬時に思った。

 ――この子、リトルルビィとアリスを重ねたタイプだわ……!

「テリーよ。ゲルダ」
「はじめまして!」
「あたしもあなたのことをニクスから聞いてるわ。とってもユニークだって」
「ユニーク? 私は普通のつまらない女の子ですわ。うふふ。ねえ、荷車に乗ってお話ししましょうよ。寒くても喋ってたら体が温まってくるんだから。ニクスとあなたがどこで出会って知り合ったのかも知りたいの。もちろん私とニクスがどこで出会って知り合ったかもお話してあげるわ。だってあなたと私の共通の話題がニクスしかないんだもの。そこから話を盛り上げていけば必ずどこかで接点が見つかるって母さんが言ってたの。仲良くなりたいなら共通点を見つけることだって。私はニクスみたいにプレゼントなんていらないけど、ただあなたとお友達になりたいの。だってね、学校の人達はみんな私を変人扱いして意地悪してくるの。優しくて気が合うのはニクスだけ」

 ニクスとテリーとゲルダが荷車の後ろに乗り、サリアはモーリスの隣に座った。

「本日はお世話になります」
「何もない田舎ですが、ゆっくりされてください」

 モーリスが馬を走らせた。荷車が進み、寒い風が当たる。三人はくっつきあって話し始めた。

「ニクスの家は毎年工事されてるわ。夏休みが終わった時なんて、ニクスが怪我をして帰ってきた分、ニクスの家のクローゼットがすっごく大きくなったの。まるで豪邸みたい! 私も遊びに行くんだけどね、すっごく大きいの! ここは土地だけはあるから、大きな家が多いんだけど、それでもニクスの家はニクスが来る前よりもすごく大きくなったわ。モーリスさんとマリヤさんは、口をそろえて、ニクスは神様からの贈り物だって自慢してくるの。だからもっと働いて、ニクスが学校に行けるようにお金を作らなきゃって。でも私も納得してるの。だって私と仲良くしてくれるのはニクスだけなんだもん。ニクスがいなかったら、私は学校でみんなに虐められてたわ。でもニクスは頭が良くて、とにかく賢いの。だから意地悪集団もニクスには強く言えないの。だって理屈で言い返されるんだもん」
「……理屈で言い返すの?」
「まあ、時々……」
「だからニクスは神様から贈られたプレゼントなの! でもテリーが私のお友達になってくださるなら、私はテリーの存在にとても感謝するわ。私、本当にお友達が少ないから、嫌なら嫌でいいの。でも仲良くしてくれたらとっても嬉しい」
「奇遇ね。あたしも友達は少ないの」
「まあ。共通点が見つかったわ。うふふ! 私達仲良くなれそう! ねえ、お正月にカードを送ってもいい?」
「もちろんよ。あたしも送るわ」
「ニクスからあなたの住所を聞くわ。だって、ニクスったら三か月に一回はあなたに手紙を書くための便箋を買いに郵便局まで行くものだから、選んでる時のニクスの顔がすごくぶさいく……」
「ゲルダ」
「はい」
「余計なことは?」
「言いません」
「よろしい」

(……ニクスが、あたしのために便箋を選んでるの……?)

「……ゲルダ、その話、詳しく……」
「テリー、その話よりももっと面白い話を……」
「ニクスは何かと郵便局に行きたがってね、なぜかって、ここは田舎で可愛い便箋が置かれているのが郵便局しかないから、なかったら隣町まで探しに行って……」
「ゲルダ!!!」

 馬車に揺られながらサリアがのどかな景色を眺める。
 寒いけれど、どうしてかしら。この町はどこか安心する。
 サリアの口から、白い息が吐きだされた。

「見て。この道を渡れば町の広場に行くわ。今は冬だから噴水は止まってるけど、冬以外は動いてて綺麗なの」

 ニクスが、ゲルダはお喋りで変わった女の子だと手紙で書いていたのをテリーは思い出した。でも決して悪い子ではないから、いつかテリーに紹介したいと。

 言葉の通り、ゲルダはお喋りで町のことを色々と教えてくれた。あのお店にはおいしいキャンディが売ってるの。あそこは雑貨屋さん。あのお店はレストラン。パンケーキがおいしいの。あ、いじめっ子がいるわ。あの子達よ。ちょっとお金持ちだからって鼻を高くしてるの。テリーがいじめっ子たちを睨めば、ニクスがそれを止めた。やめなさい。

 馬車が町を通り、橋を渡る。モーリスが声をかけた。

「ゲルダ。君の家はここの近くだろう」
「あら、やだ。もうここまで来ちゃったの?」
「そうだよ」
「ねえ、モーリスさん、家まで着いていってもいい? 私、もう少しテリーとお話ししてたいの」
「馬車では送らないよ」
「歩いて帰るわ。ね? お願い」
「全く」

 モーリスが笑いながら再び馬を動かした。

「ねえ、テリーはいつ帰るの?」
「明日には」
「明日? やだ。来たばかりなのに」
「そうよね。でもちょっと忙しいのよ」
「すぐに帰っちゃうのね。明後日とかなら、明日三人で一日町を歩けたのに」
「少しくらいなら歩けるわ」
「テリー、なめちゃだめよ。ここは無駄に土地だけがある田舎町よ。町はとっても広くて大きいの。町を歩くには時間がいるわ」
「そう。……なら、また今度ね」
「来てくれたら大歓迎で迎えるわ。でも春までよ。春になったら、私とニクスは城下町の厳しい高校に入るの」
「まだ試験も受けてないのに」
「受かるわよ。それで、私、城下町の素敵な男の子と付き合うんだから。でも、待って。城下町に行けたら、テリーともいつだって会えるわ。うふふ! 来年が余計に楽しくなってきた。ね。ニクスもそう思うでしょ?」
「はいはい。そうだね」
「テリーは高校に入る?」
「あたしは自宅学習だから」
「あら、やっぱりお姫様は違うのね。テリー、私、勉強頑張るわ。だから、城下町に行けたら町を案内してくれる?」
「ええ。もちろんよ」
「やった。目的があれば向上心も湧いてくるわ。うふふ! 楽しみが増えちゃった。絶対受験頑張らなきゃ」

(……ん?)

 ニクスが少しつまらなさそうにしている。

「……ニクス?」
「ん?」

 テリーに顔を向けたニクスはいつも通りの顔をした。

「何?」

(……気のせいかしら)

「寒いわね」
「そうだね」
「田舎の冬はきびしいわ。もっとあったかくなってほしい。毎日春が続いてたらいいのよ。春ってとってもいい気分だわ。でもすごく眠たくなるのよね。私、春が好きなの。でも、夏も好きよ。秋も好き。でも冬はニクスの誕生日とクリスマスがあるから大好き。あら、そうなったら嫌いな季節がないわ。おかしいわね。寒いのは嫌だし暑いのも嫌だけど、不思議と嫌いな季節はないわ。あるとしたらハロウィン近く?」
「ああ、台風の時期ね」
「あの時期頭ががんがん痛くなるの。嫌になっちゃう。でもそれ以外は大好き。基本私は生きていられたら何でもいい気がするの。将来はキッド様やリオン様みたいなイケメンと結婚して家庭を持つの。私が思う女の幸せだわ」
「イケメンね」
「イケメンはいいものよ」
「それはわかる」
「城下町にならたくさんかっこいい人がいそう」
「そうでもないわよ」
「そうなの?」
「来たらわかるわ」
「もったいぶるなんてテリーったら意地悪だわ。でも愛も感じるわ。うふふ!」

 ……ニクスはやはり、景色を見てぼうっとし始める。

(……?)

 寒いのだろうか。

「雪が積もった時なんてね、すごく大変なんだから! ニクスはいつも家の雪かきを手伝ってくれるの!」

 ゲルダの声が続く中、ニクスの住む家へと近づいていく。


(*'ω'*)


 ニクスの家で、ゲルダは本当に自分の足で帰っていった。

「楽しかったわ。テリー! またね! 絶対にカード贈るから!」

 家に到着したのは13時半。温かい家の中で遅いランチを食べ、サリアとテリーとニクスは家の周りを歩き回る。

「テリーが改築してくれたおかげで、本当に家が豪華で大きくなったよ」
「サリア、これっていいことよね?」
「……どうでしょうか」

 モーリスからは冬の牧場を見せてもらい、妻のマリヤは完成した編み物の靴下をテリーとニクスに渡した。

「貧乏くさいものですが、せっかくなので、お嬢様にもと思いまして」
「とても作りが繊細で美しいです。ありがとうございます」

 ニクスとおそろいの靴下。

「サリア、見て。可愛いでしょ。ニクスとおそろいよ」
「ええ。よかったですね」

 ニクスの足元を見れば、自分と同じ靴下をはいている。

(……おそろい)

 ――なんか、親友の中の親友みたい!

(……へへ)

 夜になれば、テリーが手配していた最高級のステーキがニクスの家に届き、あたたかいスープと柔らかいパンと最高級のステーキが並べられ、ニクスとモーリスとマリヤが少し困ったような、それでもとても喜んだ顔でステーキを食べていた。

「私達は決して裕福な暮らしではありません。両働きで、子供に恵まれなかったところ、ニクスが来てくれました」
「ニクスは私達の宝物です」

 ケーキのろうそくが灯る。

「おめでとう。ニクス」

 マリヤがささやき、ニクスが火を消した。ニクスが15歳になった日を、みんなで祝う。

「この家に来てくれてありがとう」
「君が来てくれてから、毎日が幸せだ」
「大好きよ。ニクス」

 モーリスとマリヤがニクスを抱きしめた。ニクスは、とても幸せそうに微笑むのを見て、テリーの目元が少しだけ緩んだ。

(15歳なのね)

 ニクスは12歳でこの世を去るはずだった。

(おめでとう。ニクス)

 雪は、綺麗に輝き、積もっていく。


(*'ω'*)


「はあ。お腹いっぱい」

 テリーがニクスのベッドに倒れた。

「はあ……」
「テリー、髪乾かさないと」
「お風呂がすごくよかった……」
「気に入っていただけて良かった」
「なあに? あれ。すごくあったかかった。やっぱり何て言うの? 自然に囲まれたお風呂っていうの? はあ。すごくよかった……」
「テリー、起きて。髪乾かすよ」
「……このベッド、ニクスの匂いがする。くんくん……」
「こら、起きる」
「……はーい」

 上体を起こし、ニクスに髪の毛を拭いてもらう。

「今日はなんだか移動が多かったわ」
「田舎だからね」
「ゲルダがあんなにお喋りだなんて思わなかった」
「すごかったでしょ?」
「アリスとは気が合いそう」
「ああ、確かに」
「引っ越してきてからずっと一緒なの?」
「うん。仲良くしてもらってる。なんだかんだ気が合ってさ」
「そう」

 タオルの隙間からニクスを見る。

「楽しそうで良かった」
「……うん。ここは楽しいよ」

 テリーの髪の毛からしずくが垂れる。それを目で追ってしまう。

「テリー」
「ん?」
「今夜、本当にこの部屋で寝るの?」
「……? うん」
「部屋は他にもあるのに?」
「……嫌なの?」
「だって、テリーはお嬢様でしょう? 平気なの?」
「マールス宮殿でも一緒に寝てたでしょ」
「……だね」

 ふわあ。テリーがあくびをした。

「はい。おしまい」
「ん」
「もう寝ようよ。疲れたでしょ」
「待って」

 テリーが鞄から包みを出した。

「今日という日の最後に渡そうと思って」
「待ちくたびれたよ」
「ニクスはあたしの誕生日の最初に渡してくれたでしょう? だから逆に、最後にしたわ」
「忘れてるのかと思ってた」
「なわけないでしょ」

 プレゼントは小さな箱のようだ。テリーが両手でニクスに差し出した。

「改めて、……誕生日おめでとう。ニクス」
「ありがとう。テリー。……待って。これブランドもの?」
「まあ、開けてみて」
「なんだろう?」

 リボンを解いてみる。蓋を開けてみれば――ニクスがはっと息をのみ、瞬きした。

「……ピアス」
「……穴、開いてる?」
「……大丈夫。そろそろ開けようと思ってた」

 穴は塞がられてる。

「パーティーとかでイヤリングしてると、落としちゃうから。いずれはまた開けたいな、って思ってたところ」

 耳に当ててみる。

「どう?」
「可愛い」
「えへへ。耳に穴を開ける理由が出来た」
「手紙で、きれいなピアスをしたいって言ってたから……」
「……よく覚えてたね」
「メイドの時はしてなかったでしょう?」
「テリーはしてたね。あたしのピアス」
「あのピアス、すごく素敵。ニクスのお母様はセンスがよかったのね」
「……センスだけじゃないよ。性格もよかった。すごく優しい人だった」
「でしょうね」
「ありがとう。……うふふ。これは失くせないな。すごく大切にする」

 プレゼントの箱をぎゅっと抱きしめる。

「ありがとう。テリー」
「喜んでくれてよかった」
「……穴開けたら、最初につけるよ」
「そうしてくれたらうれしい。よかったら感想を手紙で送って」
「うふふ。わかった。もし不良品だったら返品は可能?」
「心配ないわ。オーダーメイドよ」
「……値段は聞かないでおくよ」

 ニクスが微笑んだ。

「卒業パーティーにしていくね。すごくきれいなドレスを着て、この魔法のピアスで出れば、たちまち男の子達があたしだけに夢中になる」
「……何色のドレスがいい?」
「ドレスは自分で用意します」
「何色がいい? あたしは白がいいと思う」
「はあ。……テリー、もう寝よう」
「ねえ、ドレスの色……」
「もういいから」

 テリーは何もかもを用意してしまうから、ニクスが話を遮った。

(テリーはあたしに何でも与えてくれる)

 でも、欲しいのはそれじゃない。

(あたしが欲しいのは……)

 隣には、無防備なテリーがいる。

「……」

 ニクスが明かりを消した。部屋が暗くなる。ベッドに潜れば、ベッドの軋む音が響く。テリーの肩と肩がぶつかる。このベッドは一人用だから狭いのに。でも今は冬で、寒いから、くっつきあって寝れば、きっと温まるだろう。

「…… テリー」
「ん?」
「なんだか、寒くない?」
「大丈夫よ。ニクスの部屋、暖炉もあって暖かいわ」

 暖炉、今だけ消えてくれないかな。

「ニクスは寒い?」
「うん」
「大丈夫?」

 テリーが心配そうな顔でニクスにくっついた。そんな顔しないで。あたしはね、今すごくいけないこと考えてるから。

「……テリー」
「ん?」
「あたし、聞いたことあるんだ」

 肌と肌を重ねると、暖かいんだって。

「……ちょっとだけやってみない?」

 あたし達は親友同士。

「実験がてら」
「……脱ぐの?」
「はしたない?」
「……サリアには秘密よ」

 テリーが毛布の中でもぞもぞと脱ぎ始める。その動きを見て、ニクスが固唾を飲んだ。自分も脱がないとこの実験はできない。パジャマを脱いで、キャミソールとぱんつのみになる。手を伸ばせば、毛布の中で裸同然のテリーがいた。

「……くっつくこうよ。テリー」
「……うん」

 毛布の中で抱きしめ合う。

(あ……)

 あたたかい。

「……本当にあったかいね」
「……うん」

 息が近い。

「ニクス、……ゲルダともこういうことしてるの?」
「ん? まー、……たまに女の子の集まりでやってみることはあるけど」

 田舎の女の子は好奇心な子が多いから。

「どうして?」
「……何でもない」

 何でもないって顔じゃないよ。テリー。

「ヤキモチ?」
「……違う」

 あたしに迷惑かけたくないから言わないって顔。

「テリー、ヤキモチじゃないの?」
「……ごめん」
「うん」
「妬いた」
「……うん」

 あたしも昼間、君を取られて妬いてたんだよ。テリー。……絶対言わないけど。

「もやもやする?」
「する」
「うーん。……どうしたらその気持ちがなくなるかな?」
「……もっとくっついて」
「もちろん。いいよ」

 もっと、もっと強く彼女を抱きしめる。どうしよう。胸の音を聞かれてしまうかもしれない。そしたら、潜めているこの想いにも気づかれてしまうかもしれない。

 気づいたらいいのに。

「……ニクス、また胸大きくなった?」
「……テリーも大きくなった気がする」

 胸同士がくっつく。

「ニクス、胸が当たってる」
「そうだね」
「……」

 ふに。

「あ、テリー、どこ触ってるの」
「だって、柔らかそうだったから」
「じゃあ、あたしも触るからね」
「え、ま、待って、ニクス」

 ふに。

「あっ……」
「テリーが悪いんだよ? 触ったりするから」
「ごめん、ニクス……」 
「あれ、本当に大きくなったんじゃない? テリー」

 ふにふに。

「ん……、ほ、本当?」
「マールス宮殿での続きしようか。テリー、ちょっと後ろ向いて」
「え、い、今……?」
「一晩しかいられないんでしょ? 今やらないと、いつやるの?」
「……わ、わかった……」

 テリーが言われるがままにニクスに背中を向ける。

「……これでいい……?」
「うん。ありがとう」

 ニクスがテリーの背中にくっつき、腕を伸ばして――テリーの胸に触れた。

「……ん」

 優しく、下から揉んでいく。

「ニクス、……上手……」
「……上手とかあるのかな?」
「これ、……気持ちいい……」
「……そっか」

 気持ちいいんだ。

「刺激が起きると、胸は大きくなるみたいだよ。テリー」

 あえて、まだ柔らかい尖端に指をこすりつける。

「ふぇっ!」
「あ」
「ニクス!」
「ごめんごめん」

 わざとだけど、間違ったふりをして、おどけた顔をすれば、テリーは恥ずかしそうに顔をそらす。

(もっと触ったらどうなるの?)

 手が離れる。

(もっと、くっついて、あたたかくなって、抱きしめあって、キスをしたら)

 ――キス、したい。

「……テリー」

 テリーを振り向かせ、顔を覗けば、赤く染まった頬。ニクスが再び唾を飲み、そっと、近付いた。

(……あ)

 テリーが瞼を閉じる。だから自分も閉じる。唇同士が触れ合う。

(親友同士のキス)

 と言って昔からしているただのキス。

(……柔らかい)

 あたたかい。

(どうなるんだろう)

 これで、もし、告白したら、どうなるのかな。

(あたし達、大人になったよね。テリー)

 出会った頃よりも、君はもっと綺麗になった。成長するたびに、愛しくなって、恋しくなって、手紙を書くたびに会いたくなって、会うたびに違う顔が成長した君がいる。

(あたし達は女同士)

「ねえ、テリー」

 言ったらどうなるんだろう。

「あのさ」

 言ってしまったら、

「これは、例え話ね」

 テリーが瞼を上げた。



「あたしがテリーを好きだって言ったら、どうする?」



 テリーがキョトンとした。そして、真面目な顔で訊いてきた。

「……あたしのこと、嫌いだったの?」
「あーーー」

 そっちかーーー。

「……嫌い……だったの……?」

 テリーの目が潤んだ。

「う、うっとおしかったの……?」
「違う。ごめん。ほんと、ごめん。そうじゃない」
「ニクス、ごめんなさい。その、何が、その、気に入らなかった……?」
「違うんだよ。テリー。ごめんね」
「あ、あたし……そんなつもりじゃ……ぐすっ!」

 あーーーー。やっちゃったーーー。

 ニクスが上からテリーを抱きしめた。

「ごめんね。テリー、言葉を間違えた」
「っ、べ、別に、嫌なら……あたし……ぐすん!」
「ごめんごめん。本当にごめん。違う違う。本当に違うの」
「嫌なら、違う場所に寝るから……ぐすん!!」
「ごめんごめんごめんごめん。本当にごめん」

 ふくれっ面で涙をボロボロ流すテリーの頭を必死に撫でる。

「テリーのこと好きだよ。ずっと大好き」
「ぐすん! ぐすん!」
「ごめんね。言い方を間違えたの。本当。テリーのこと好きだよ。もう、恋するくらい大好き」
「ぐすん! ……本当?」
「うん。大好き大好き。本当に大好き」
「……あたしもニクスが大好きよ」

 テリーが微笑む。

「親友だもん」

 ……。
 ニクスも笑顔で返した。

「うん。テリーはあたしの親友だよ。大好き」
「……あたしも大好き」

 ……。

「……大好きだよ。テリー」

 彼女の瞼に優しいキスを。

「もう寝よう」
「……うん」

 ニクスとテリーが枕に埋もれる。

「……おやすみなさい。ニクス」
「…… おやすみ。テリー」

 今はまだ、いいや。

(はあ。言う言葉を間違えた)

 言葉とタイミングは大事だ。今日はやめておこう。

(でもいつまでもこのままでいるわけにもいかない。テリーが誰かと恋をする前に……)

 自分の想いだけでも。

「……」

 ニクスがテリーの唇にもう一度キスをすれば、テリーがびくっ! と肩を揺らした。

「ん!?」
「いい夢が見れるように、おまじない」

 何食わぬ顔でおやすみなさい。

「いい夢見てね。テリー」
「……うん。……ありがとう」

 テリーが瞼を閉じた。ニクスも瞼を閉じた。テリーの呼吸が整ってきた。やがて脱力し、整った呼吸が繰り返される。

 ニクスが瞼を上げた。

「……」

 彼女の耳に近づき、ささやく。

「テリー」

 言えない言葉を、寝てる君に。

「愛してるよ」

 頬にキスをすれば、今日を終えよう。
 愛しい親友の顔を見つめて、初恋相手の顔を眺めながら、夢の中に入っていこう。

 ニクスが目を閉じる。
 外では雪が降る。
 明日は駅までの移動が大変そうだ。
 寒いから寄り添う。
 ニクスとテリーがお互いの手を握りしめ合い、夢の中でワルツを始める。
 雪の上を踊ろう。
 二人なら怖くない。

 二人は眠り続ける。






 ホリデイはあなたとワルツを END
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