おとぎ話の悪役令嬢のとある日常（番外編）

悪役令嬢のとある日常

残された手紙

　拝啓、愛しい方へ

　この世界を創造した貴方様から、この世界を任された時、私は自信に満ち溢れていた。貴方様のためならばこの身を捧げても良かった。何も知らない私は、貴方様が褒めてくださるならばなんでも良かったのです。

　けれど待っていたのは残酷な光景。

　友は争い、友は裏切り、友は殺され、友は死ぬ。友は友ではなかった。それは人間だった。思い込みが激しく、人の話を聞かない。無駄な祈りを捧げ、騙す人間を信じ、助けようと手を差し伸べた私を無下にした。

　主様。貴方は間違いを犯しました。
　人間に自由な脳と心を与えるまでは良かった。しかしそのせいで、彼らは、彼女たちは、憎む感情を覚えてしまった。

　妬み僻み嫉み。承認欲求。欲望。野望。睡眠欲。食欲。性欲。欲。欲。欲。欲。欲。欲――。

　そんなものを与えてしまったせいで、皆が苦しみ、私は悲鳴を上げた。助けてと何度も貴方様を呼んだ。けれど、貴様は助けに来なかった。私をこの世界に取り残し、あとは知らない顔。

　わらわはお前を許さない。
　わらわをこんな風にした貴様を許しはしない。

　この世界を終わらせなければ、でなければ、貴様は迎えに来ない。迎えに来たところで、わらわのやることは決まっている。

「んふふ」

　会いたい。主様。

「んひひひひ！」

　会いたい。会いたくて仕方ない。

「主様」

　愛おしい貴方様。

「この世界を壊した後、貴様のことも壊してやる」

　憎き創造主よ。銀河の果てにいる精霊よ。

「まずは貴様の創ったこの世界からだ」

　紫色の唇が上に上がっていく。

「壊してくれよう。全てを」


　祈る声が聴こえてきた。
　天使は、握りきった紫色の羽を広げ、祈る人間の元へと、今日も足を向けていく――。



　残された手紙　END