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キッド
男爵令嬢と冷酷王子ーその後の物語ー(1)
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クレアとポメテリーを知らない方は9章参照(*'ω'*)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/7597364/443331206/episode/4766743の続編
―――――――――――――――――
リトルルビィがじっと目の前にいる雇い主を見つめる。雇い主は構うことなく筆を動かし、華麗に字を書き、原稿用紙いっぱいに想いを綴り、腕を上げた。
「よし! 完成だ! 完成したぞ! じいや! 今度こそあたくしはプロの作家となるのだ! これはもう受賞しないではいられない! これを読んだロマンス小説家が黙っていないぞ!」
「お前はさっきから何やってんだ。姫様」
「リトルルビィ、お前ロマンス小説好きだろ。よかろう。あたくしの最高傑作をまず最初にお前に読ませてやる」
「誰がてめえの書いたものなんか……」
「じいや、あたくしはイチゴケーキが食べたい!」
「待ってなさい。用意するから」
「ココアも飲みたい!」
「クレアや、リトルルビィの分を出すから手伝いなさい」
「はーい」
クレアが立ち上がり、ビリーと共にキッチンへと行ってしまう。一人残されたリトルルビィはちらっと赤い眼を動かす。そこにはテーブルに残された原稿。
(……ま、暇潰しにはなるか)
リトルルビィが原稿を手に持った。
(*'ω'*)
国の第一王子であるキッドと男爵令嬢のテリー。地位の差がある二人の前代未聞の結婚式から二ヶ月が経とうとしていた。キッドは国の王子としての役割を果たすため、国王である父親と共に公務を遂行している。憲法の改正、法律の改正、やることは山ほどある。それでもキッドは決して期待を裏切らなかった。国をより良くするため彼自身が声を上げ、行動する。そんな姿に国民も歓喜の声を上げた。日に日に景気も良くなり、治安も良くなっていく国。戦争という名の喧嘩を吹っ掛けようものなら、国で鍛え上げている兵士達が黙っていない。どんな国でも、この国にだけは手を出そうとはしなかった。少なくとも、キッド殿下が君臨している間だけは。
「キッド殿下万歳!」
「キッド殿下、万歳!」
白馬に乗って笑顔の人々に手を振るキッドを、モニター越しからテリーが見つめていた。
(キッド様、今日もお疲れ様です)
時計を見れば、既に日が沈み、夕飯の支度をする時間。テリーはキッチンで煮込む鍋に振り返った。
(あと何分ぐらいかしら)
ここはエメラルド城ではない。しかし、テリーの実家でもない。ここは仮の家。街から少し離れた場所に建っている、キッドの隠れ家でもあった。テリーはここで、キッドのお目付け役であったビリーから、王妃になるための知識を学んでいる。何も知識がない状態でエメラルド城に来るのは、いくら貴族と言えども不安だろうというテリーに対するキッドの配慮であった。
(あたしは勉強)
(キッド様はお国の為のお仕事)
結婚したのに、二ヶ月も会えていない。
(結婚式が終わって、すぐにこの家に来て、キッド様と過ごせたのは二日間だけ。それ以降はお仕事に行ってしまった)
会いたい。
そう思っても、その言葉を口にしてはいけない。キッドは国の為に頑張っているのだ。
(あの部屋にいる時は、毎日お会い出来ていたのに)
監禁されていた日々を思い出す。あの時は恐ろしい日々だったが、今思うと――。
(毎日、キッド様に会えた)
ずるい人だ。散々振り回しておいて、いざ恋に目覚めると側からいなくなってしまう。
(ずるい人)
――家の戸が開いた。
(あ、帰ってきた)
「じいじ、お帰りなさい!」
テリーがキッチンから大声を出した。
「今、シチューを作ってるの! もうちょっとで出来るから、先に座ってて!」
テリーはおたまをぐるぐる回し、シチューが焦げないように全体に熱を馴染ませる。良い匂いがする。美味しそう。
「……ねえ、じいじ? ……さっき、テレビにキッド様が映っててね……?」
足音がキッチンに近付いた。
「あのね……すごく……かっこよかったの……。キッド様って、どうしてあんなにスーツが似合うんだろう……。……きっと、生で見たらもっとすごいんだろうけど、テレビからでも、その、……すごく、かっこよくて、あたし、目が離せなかった。えへへ。……でも、最近、本当によく動いてるわよね。だからかしら。……ちょっと顔色が良くなかったように見えた。……心配だわ。無茶する人だから」
気配がキッチンの側で止まった。
「あたしももっと勉強して、早くキッド様に近付かないと」
あ、そろそろいいかもしれない。テリーが両手で鍋取手を掴み、横に退ける。
「……その、テレビでね、見たんだけど、社交界、とか、キッド様、よく行ってるみたいで、その、……綺麗な人とかも、いっぱいいるみたいなの。でも、あたしはまだ花嫁修業、っていうか、その、王妃になるための勉強をしてるから、まだ、キッド様とは行けないから、その、なんて言うか、早く……一緒に歩けるようになりたいなって……」
それと、結婚式の時みたいに、二人で踊りたいなって。
「……」
テリーが鍋を見つめる。湯気が踊っている。
「あたし、キッド様に相応しい人になってるかしら」
あの人、すごいんだもの。
「なんでも出来ちゃうから」
不器用なあたしとは対照的に、あの人は完璧な人。あたしが闇なら彼は光。
「あたし、どうしてキッド様と結婚出来たんだろ」
ああ、駄目駄目。マイナス思考。ネガティブシンキング。鍋に蓋をして気合を入れる。
「こんなんじゃ駄目よね。あたしは、愛する旦那様に会える日のために、今は沢山勉強しないと! じいじ!」
そこでテリーがようやく振り返った。
「あたし、頑張るか――」
――キッドが強く、テリーを抱きしめた。
テリーが呆然として立ち尽くす。しかし、幻でも嘘でもない。ずっと会いたかったキッドは、自分の目の前にいて、大きくてたくましい手で自分を抱きしめている。
(……え……?)
キッドがいる。
(なんで……)
エメラルド城ではないのか。
(え? じいじは……)
いない。ここにいるのはキッドだけだ。ということは、そもそも扉を開けたのはキッドであって、ずっと自分がぐだぐだ話していた内容を聞いていたのも――。
(……っ、嘘、全部聞かれた……!?)
途端に、一気に体温が熱くなり、その顔は真っ赤に染め上がる。わたわたと手を動かすと、キッドが唇を愛おしい耳に寄せ、小さく囁いた。
「俺も愛してるよ。奥様」
「……っ、こ、声くらい、かけてくださっても……」
「驚かせようと思って黙ってたんだ。そしたら……良い話が聞けたな」
ね、テリー。
「俺のスーツ姿、かっこいい?」
そっと離れると、本当にキッドの姿が見えた。テレビで見るよりもずっと色っぽく、美しく、スーツ姿は誰よりもかっこいい。あまりにも麗しすぎて目がとろけてしまいそう。ああ、いけない。このままでは言葉すら失ってしまいそう。テリーは必死に目を逸らし、頷いた。
「お、お洗濯、しますので、先に、その、お風呂に……」
「ああ、城で入ってきたから大丈夫」
「え? 入ってきて……」
あ、また目に入ってしまった。キッドが自分に笑顔を向けている。なんて輝かしい笑顔。眩しくて、テリーはまたもや必死に目を逸らした。
「で、でしたら、楽なお洋服にお着替えを……!」
「そうだね。毎日スーツで疲れたよ」
「お、お着替えは、えっと、二階の、キッド様のお部屋に……あ、と、取りに行ってきま……」
「そうだね。楽な服には着替えたいから……」
キッドが近付いてきたと思えば――軽々とテリーを腕に抱えた。
「きゃっ!」
「テリーに脱がせてもらおうかな」
「え? き、キッド様、何を……」
キッドがテリーを抱えたまま歩き出す。
「え、えっと、あの、シチューが……」
「うん。後でいいから」
「で、でも、シチューが、あの……冷めちゃう……から……」
キッドが自室のドアを開け、テリーをベッドに置いた。
「き、キッド様」
「テリー、二人の時は?」
キッドがベッドに乗り込んだ。
「あ、あの、キ……」
「うん?」
「……キッド……」
「ん。……良い子」
(あ……)
――唇を押し付けられる。
(あ……そんな……)
二ヶ月ぶりの愛おしい人からのキスに、心臓が飛び跳ねる。
(だめ……)
口内にキッドの舌が入ってくる。
(あっ)
久しぶりに我が家に帰ってきた子供がはしゃぐように、キッドの舌がテリーの中で遊びまくる。そこに居座り、構ってと言うように、テリーの舌にしつこく絡んでくる。
(そんな触り方……とけちゃう……)
二ヶ月ぶりのキスに、体が疼いてくる。
(あ、だめ、ぼうっとしちゃう……)
体が熱くほてってくると、キッドが唇を離した。テリーが肩を上下に揺らし、乱れた呼吸を繰り返す。
「……はっ、……ふう……」
「テリー、脱がしてくれるんだろう?」
「は、はい……」
妻として、旦那様のスーツジャケットを脱がさなければ。ジャケットを掴み、丁寧に脱がせていく。布が擦り切れる音に心臓が鳴り、キッドの色気に胸が鳴り、キッドのワイシャツとスーツパンツ姿に、これがまた――非常に艶やかで。
(ああ! 眩しい!)
テリーが見たいのを我慢して一生懸命目を逸らし、ぶるぶる震える心臓を落ち着かせようと必死に冷静さを保たせたように見せかけ、スーツジャケットを腕にかけた。
「で、では、あたし、その、明日までにスーツを洗って乾かしますので……」
「何言ってるの。駄目だよ」
「ひゃいっ」
キッドが優しくテリーをベッドに押し倒した。
「あ、あの、あの!」
「明日丸一日、休みを貰えた。だから二人で過ごそう?」
「え! でしたら、なおさらお洋服のクリーニングを!」
「それはじいやにでも頼めばいいさ」
「あ、そうです! じいじも帰ってきます! あたし、シチューの準備が……!」
「じいやは帰ってこないよ」
「え?」
「俺がエメラルド城で過ごすように命令した。だから明日が終わるまで……夫婦水入らずで過ごそう?」
キッドの手がテリーの頬に優しく触れてきた。
(あ……)
「……テリー、会いたかった」
(……ずるい人)
そんな切なそうな目で見つめてくるなんて。
「……あたしも会いたかったです……」
「……テリー……」
「キッド……」
瞼を閉じれば唇が再び重なる。唇が動く。ふにふに咥えられるようにキスされる。角度が変わってまた重なる。キッドがテリーの頬に触れ、肩に触れ、腕に触れ、手に触れ、唇を離し、彼女の首に鼻を押し付けた。
「あっ、キッド……」
「……良い匂いだね。テリー」
「ん、っ、じいじが、良い匂いのシャンプーを、買ってきてくださって……」
「俺はテリーの汗の匂いの方が好きだけど」
「ま、また、そんなことを……!」
くくっ、と笑う声から漏れた息がテリーの肌に当たり、また心臓が飛び跳ねる。
(だめ、声、出ちゃう……!)
……ん? 気がつくとキッドの手がテリーのネグリジェのボタンを外し始めていて、テリーの顔面が真っ赤に染まる。
「きゃあっ! き、キッド!」
(焦るな)
そうは思いつつも、手が止まらない。
(明日一日テリーといられるんだぞ。焦る必要なんてない)
なのに、既に熱を持ってる自身は早く彼女の中に入りたいと叫んでいる。
(落ち着け。がっつくな。怖がらせたらいけない。ゆっくりと、まずは、……テリーを気持ちよくさせてからだ)
どろどろに甘やかせて、とろとろに溶けるまで体に触れていたい。長い指を滑らせてテリーの太ももを撫でれば、華奢な体がびくんっ! と揺れ、その反応すらも愛おしく感じてしまう。
「んっ……!」
(ああ……テリー……!)
リボンを解く音が、やけに耳に響いた気がした。
「あ……」
テリーの白い肌が、あられのない姿となって現れた。キッドはついうっとりとその姿を見てしまう。久しぶりのテリーの体は緊張から小さく震えていて、小さな胸は見ないうちにほんの少し膨らみを持ったように思える。そして、青のレース柄の下着。なんていやらしい体なんだろう。これを外せば、彼女は完全に裸になってしまう。なんてけしからぬ下着なんだろう。自分の髪と瞳と同じ色だなんて。ああ、力づくで奪ってしまいたい。自分色に染まってしまうテリーが見たい。恥ずかしがるテリーが見たい。ならば、煽り立てる方法をいくつか知っている。キッドが自ら服を脱ぎ、その筋肉のついた体を彼女に披露する。
(きゃあ! 目のやり場に困……わ、わああ、筋肉すごい……! わぁあ……!)
しばらく見ない間に、より一層恐ろしいほどの色気を纏った体にテリーの目が泳ぐ。その瞳を見てキッドがテリーの顎を掴んだ。
「どこ見てるの?」
「ひゃっ」
「俺しか見ちゃ駄目。……ね?」
(あ、ああ、なんて、人……!)
テリーは内心涎が出そうになったが、グッと堪える。
(ずるい人……)
「……あ、あの……」
「ん?」
「……。……す、……する、の、ですか?」
上目遣いで訊いてくるテリーに、キッドの胸がぎゅん!! と高鳴った。なんて可愛いことをしてくるんだろう。この小悪魔。
(無自覚? いや、わざとか? いや、……無自覚っぽいな)
わざとならこんなキョドり方は出来ない。まだ彼女の頭の片隅にシチューが残ってるようだ。その瞬間、キッドの中でドス黒いモヤが感情となって現れるのを感じた。……嫉妬だ。
(ようやく手に入れて、安心したと思ったけど……)
まだ駄目らしい。自分以外を見てほしくなくて、忘れてほしくて、彼女の耳に優しく囁く。
「しちゃ、駄目なの?」
「っ、お、お疲れでしょうから……」
「テリーが甘やかしてくれたら疲れなんて吹っ飛ぶよ。だから……ね?」
(……甘やかす……?)
テリーがおずおずと手を伸ばして、キッドの頭に触れ、それを胸に抱き寄せた。きょとんとしたキッドの顔がテリーの小さな胸に埋もれて見えなくなる。
「……お疲れ様です」
テリーが体を起こし、キッドに寝かせるような姿勢を取らせ、優しく頭を撫でてあげた。
「よしよし」
キッドが口を閉じ、撫でてくるテリーの手の温かさで、全身の疲れと今までの苦労、ストレスがまとめて全部落とされた気がして、思った。――この子と結婚しよう。
(あ、違う。もう俺の奥様だった)
……あー、まずい。可愛い。愛しい。テリー。本当に結婚してくれてありがとう。テリーが他の男のものになるなんて絶対に耐えられない。そんなことになれば俺はその男を殺して君を無理矢理自分のものにしたことだろう。心が手に入るまで、その甘くて美しい体に触れて、犯して、体を何度も重ねて、誰にも見られないあの部屋に、君を永遠に閉じ込めたことだろう。
(そんな事を言ったら、君は呆れるかな)
結婚してもまだ君に依存している俺がいる。
(でも君なら、それを笑いながら抱きしめてくれる気がするんだ。……俺の甘え、かな?)
テリーの背中に触れる。柔らかい肌を撫でる。
(ああ、テリー……)
「……ふふっ」
キッドの耳に、テリーの笑い声が聞こえる。
「キッド、くすぐったいです、ふふっ……」
キッドの手がテリーの肌を撫でる。
「んふふ……ふっ……ん……」
耳裏にキスをする。肌を撫でる。
「んっ……」
その耳を優しく咥えると、テリーの肩が小さく揺れて、一つ高めの声を出してしまう。――あっ……! ――その声を聞いたと同時にキッドの手が硬直した。
(っ、あたしったら、びっくりして、はしたない声を……!)
「テリー」
へ?
「大好き」
吐息の混じった低い声が耳に響き、テリーの心臓が高鳴った。
「……もっと……甘えていい……?」
「そ、それは、その、構いませんが……」
キッドが堪えきれず、再び、その唇に自らの唇を押し付けた。テリーが驚いて目を丸くし、はっとして、慌てて目を閉じる。強く抱きしめられ離れられない。まるでテリーを縛り付けるようなキスに、テリーが頭をぼんやりさせる。すごい。唇柔らかい。気持ちいい。温かい。……ああ、そういえば……この間お使い中に……。
「……何考えてるの?」
瞼を上げると、キッドの青い目が鋭く光っている。まるで、殺意を向けられているようだ。
「今、俺以外のこと考えてた?」
「……えっと……」
「ねえ、テリー、何考えてたの? 俺に教えて?」
「キッド……?」
「今、君の目の前にいるのは俺だよ。俺しかいないのに、俺以外のことを考えてる余裕なんてあるんだね?」
禍々しいオーラを放ち、テリーをオーラごと包み込み、絶対に離さんとばかりに腰を掴んでいる。嫉妬の感情にギラギラ瞳を光らせるキッドを見て……テリーは思った。
(……拗ねてる)
拗ねてるどころではない禍々しいキッドの頭を撫でる。
「キッド、んっ、そうではなくて……」
「そうじゃないの?」
キッドがテリーの首筋にキスを落とす。
「あっ」
「じゃあ、俺のこと考えてたの?」
「あの、んっ、唇が、柔らかいなって……」
「……唇?」
「はあ……。……お使いの時に、あたしと同じくらいのレディ達が噂をされてました。一度でいいからキッド様にキスされたいって」
でも、
「これだけ唇が柔らかいなら、逆にがっかりしてしまうのではないかと。あ、その、悪い意味ではなく……全て完璧なのに唇の硬さまで完璧なんて、どこから女磨きをすればいいのか混乱してしまうんじゃないかって……」
「テリーもそう思ってる?」
「あたしは……もう……あなたの隣に立てるようになるだけで……いっぱいいっぱいで……」
キッド様の隣に立てる、彼に相応しい女性にならないと!
「……そんなこと、気にしなくていいのに」
「あっ」
キッドがテリーの肌に唇を落とす。
「……キッド……」
「テリーはテリーのままでいいんだよ」
「そ、ういうわけには……あっ……」
「王妃になってほしくてテリーと結婚したわけじゃない」
目を青い瞳に覗かれる。
「俺がテリーの側にいたかったから、結婚してもらったんだ。だから……テリーは俺のことだけ考えて」
それ以外はいい。
「俺のことだけを見てくれたら、それでいいから……」
「あっ……!」
キッドの舌がテリーの耳を唾をいっぱいにさせて舐め上げれば、快楽が一気にテリーの中に押し寄せてくる。
「あっ、キッド、耳は……、汚い、から……!」
グチュグチュと、舌が耳を舐める音が鼓膜に届く度にテリーの体が揺れてしまう。
「はっ、ん、キッドぉ……!」
キッドの指がテリーの肌をなぞる。小さいが膨らみかけている胸に触れると、テリーの喘ぐ声がより甘くなっていく。もっとだ。もっと甘くして、トロかせて、溶けていけばいい。そして自分以外考えられなくなればいい。テリーが欲しい。二ヶ月ぶりに彼女に会えた。もっと触りたい。もっと声を聴きたい。指が下着に行き着くと――どんな男も触れたことがない、自分だけが許された割れ目を伝うように撫でた。その瞬間、テリーが目を大きく見開き硬直する。その理由をキッドがきちんと彼女の耳に言ってあげる。
「テリー、……濡れてるよ」
「……っ」
「俺も、すげー興奮してるんだ。……はっ……二ヶ月ぶりだから、ちょっと……無理、させるかもしれない」
「……ほどほどに……」
「うん。頑張る」
それにしても、
「はあ……。テリーの耳たぶ、柔らかいね……。ほんと、イイ……」
「あ、ちょっ、んっ、んぅ……!」
「テリー……耳たぶ、コリコリしてる。ね、痛くない? 痛かったら言ってね?」
「あ、あの、あの……!」
そんなに囁かないで。
(ドキドキ、しちゃう……!)
ただでさえ胸がドキドキして治まらないのに、彼のせいでもっと心臓運動が激しくなって、心臓発作になってしまいそうだ。
(あたし……いつの間に彼のこと、こんなに好きになってたのかしら……)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/7597364/443331206/episode/4766743の続編
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リトルルビィがじっと目の前にいる雇い主を見つめる。雇い主は構うことなく筆を動かし、華麗に字を書き、原稿用紙いっぱいに想いを綴り、腕を上げた。
「よし! 完成だ! 完成したぞ! じいや! 今度こそあたくしはプロの作家となるのだ! これはもう受賞しないではいられない! これを読んだロマンス小説家が黙っていないぞ!」
「お前はさっきから何やってんだ。姫様」
「リトルルビィ、お前ロマンス小説好きだろ。よかろう。あたくしの最高傑作をまず最初にお前に読ませてやる」
「誰がてめえの書いたものなんか……」
「じいや、あたくしはイチゴケーキが食べたい!」
「待ってなさい。用意するから」
「ココアも飲みたい!」
「クレアや、リトルルビィの分を出すから手伝いなさい」
「はーい」
クレアが立ち上がり、ビリーと共にキッチンへと行ってしまう。一人残されたリトルルビィはちらっと赤い眼を動かす。そこにはテーブルに残された原稿。
(……ま、暇潰しにはなるか)
リトルルビィが原稿を手に持った。
(*'ω'*)
国の第一王子であるキッドと男爵令嬢のテリー。地位の差がある二人の前代未聞の結婚式から二ヶ月が経とうとしていた。キッドは国の王子としての役割を果たすため、国王である父親と共に公務を遂行している。憲法の改正、法律の改正、やることは山ほどある。それでもキッドは決して期待を裏切らなかった。国をより良くするため彼自身が声を上げ、行動する。そんな姿に国民も歓喜の声を上げた。日に日に景気も良くなり、治安も良くなっていく国。戦争という名の喧嘩を吹っ掛けようものなら、国で鍛え上げている兵士達が黙っていない。どんな国でも、この国にだけは手を出そうとはしなかった。少なくとも、キッド殿下が君臨している間だけは。
「キッド殿下万歳!」
「キッド殿下、万歳!」
白馬に乗って笑顔の人々に手を振るキッドを、モニター越しからテリーが見つめていた。
(キッド様、今日もお疲れ様です)
時計を見れば、既に日が沈み、夕飯の支度をする時間。テリーはキッチンで煮込む鍋に振り返った。
(あと何分ぐらいかしら)
ここはエメラルド城ではない。しかし、テリーの実家でもない。ここは仮の家。街から少し離れた場所に建っている、キッドの隠れ家でもあった。テリーはここで、キッドのお目付け役であったビリーから、王妃になるための知識を学んでいる。何も知識がない状態でエメラルド城に来るのは、いくら貴族と言えども不安だろうというテリーに対するキッドの配慮であった。
(あたしは勉強)
(キッド様はお国の為のお仕事)
結婚したのに、二ヶ月も会えていない。
(結婚式が終わって、すぐにこの家に来て、キッド様と過ごせたのは二日間だけ。それ以降はお仕事に行ってしまった)
会いたい。
そう思っても、その言葉を口にしてはいけない。キッドは国の為に頑張っているのだ。
(あの部屋にいる時は、毎日お会い出来ていたのに)
監禁されていた日々を思い出す。あの時は恐ろしい日々だったが、今思うと――。
(毎日、キッド様に会えた)
ずるい人だ。散々振り回しておいて、いざ恋に目覚めると側からいなくなってしまう。
(ずるい人)
――家の戸が開いた。
(あ、帰ってきた)
「じいじ、お帰りなさい!」
テリーがキッチンから大声を出した。
「今、シチューを作ってるの! もうちょっとで出来るから、先に座ってて!」
テリーはおたまをぐるぐる回し、シチューが焦げないように全体に熱を馴染ませる。良い匂いがする。美味しそう。
「……ねえ、じいじ? ……さっき、テレビにキッド様が映っててね……?」
足音がキッチンに近付いた。
「あのね……すごく……かっこよかったの……。キッド様って、どうしてあんなにスーツが似合うんだろう……。……きっと、生で見たらもっとすごいんだろうけど、テレビからでも、その、……すごく、かっこよくて、あたし、目が離せなかった。えへへ。……でも、最近、本当によく動いてるわよね。だからかしら。……ちょっと顔色が良くなかったように見えた。……心配だわ。無茶する人だから」
気配がキッチンの側で止まった。
「あたしももっと勉強して、早くキッド様に近付かないと」
あ、そろそろいいかもしれない。テリーが両手で鍋取手を掴み、横に退ける。
「……その、テレビでね、見たんだけど、社交界、とか、キッド様、よく行ってるみたいで、その、……綺麗な人とかも、いっぱいいるみたいなの。でも、あたしはまだ花嫁修業、っていうか、その、王妃になるための勉強をしてるから、まだ、キッド様とは行けないから、その、なんて言うか、早く……一緒に歩けるようになりたいなって……」
それと、結婚式の時みたいに、二人で踊りたいなって。
「……」
テリーが鍋を見つめる。湯気が踊っている。
「あたし、キッド様に相応しい人になってるかしら」
あの人、すごいんだもの。
「なんでも出来ちゃうから」
不器用なあたしとは対照的に、あの人は完璧な人。あたしが闇なら彼は光。
「あたし、どうしてキッド様と結婚出来たんだろ」
ああ、駄目駄目。マイナス思考。ネガティブシンキング。鍋に蓋をして気合を入れる。
「こんなんじゃ駄目よね。あたしは、愛する旦那様に会える日のために、今は沢山勉強しないと! じいじ!」
そこでテリーがようやく振り返った。
「あたし、頑張るか――」
――キッドが強く、テリーを抱きしめた。
テリーが呆然として立ち尽くす。しかし、幻でも嘘でもない。ずっと会いたかったキッドは、自分の目の前にいて、大きくてたくましい手で自分を抱きしめている。
(……え……?)
キッドがいる。
(なんで……)
エメラルド城ではないのか。
(え? じいじは……)
いない。ここにいるのはキッドだけだ。ということは、そもそも扉を開けたのはキッドであって、ずっと自分がぐだぐだ話していた内容を聞いていたのも――。
(……っ、嘘、全部聞かれた……!?)
途端に、一気に体温が熱くなり、その顔は真っ赤に染め上がる。わたわたと手を動かすと、キッドが唇を愛おしい耳に寄せ、小さく囁いた。
「俺も愛してるよ。奥様」
「……っ、こ、声くらい、かけてくださっても……」
「驚かせようと思って黙ってたんだ。そしたら……良い話が聞けたな」
ね、テリー。
「俺のスーツ姿、かっこいい?」
そっと離れると、本当にキッドの姿が見えた。テレビで見るよりもずっと色っぽく、美しく、スーツ姿は誰よりもかっこいい。あまりにも麗しすぎて目がとろけてしまいそう。ああ、いけない。このままでは言葉すら失ってしまいそう。テリーは必死に目を逸らし、頷いた。
「お、お洗濯、しますので、先に、その、お風呂に……」
「ああ、城で入ってきたから大丈夫」
「え? 入ってきて……」
あ、また目に入ってしまった。キッドが自分に笑顔を向けている。なんて輝かしい笑顔。眩しくて、テリーはまたもや必死に目を逸らした。
「で、でしたら、楽なお洋服にお着替えを……!」
「そうだね。毎日スーツで疲れたよ」
「お、お着替えは、えっと、二階の、キッド様のお部屋に……あ、と、取りに行ってきま……」
「そうだね。楽な服には着替えたいから……」
キッドが近付いてきたと思えば――軽々とテリーを腕に抱えた。
「きゃっ!」
「テリーに脱がせてもらおうかな」
「え? き、キッド様、何を……」
キッドがテリーを抱えたまま歩き出す。
「え、えっと、あの、シチューが……」
「うん。後でいいから」
「で、でも、シチューが、あの……冷めちゃう……から……」
キッドが自室のドアを開け、テリーをベッドに置いた。
「き、キッド様」
「テリー、二人の時は?」
キッドがベッドに乗り込んだ。
「あ、あの、キ……」
「うん?」
「……キッド……」
「ん。……良い子」
(あ……)
――唇を押し付けられる。
(あ……そんな……)
二ヶ月ぶりの愛おしい人からのキスに、心臓が飛び跳ねる。
(だめ……)
口内にキッドの舌が入ってくる。
(あっ)
久しぶりに我が家に帰ってきた子供がはしゃぐように、キッドの舌がテリーの中で遊びまくる。そこに居座り、構ってと言うように、テリーの舌にしつこく絡んでくる。
(そんな触り方……とけちゃう……)
二ヶ月ぶりのキスに、体が疼いてくる。
(あ、だめ、ぼうっとしちゃう……)
体が熱くほてってくると、キッドが唇を離した。テリーが肩を上下に揺らし、乱れた呼吸を繰り返す。
「……はっ、……ふう……」
「テリー、脱がしてくれるんだろう?」
「は、はい……」
妻として、旦那様のスーツジャケットを脱がさなければ。ジャケットを掴み、丁寧に脱がせていく。布が擦り切れる音に心臓が鳴り、キッドの色気に胸が鳴り、キッドのワイシャツとスーツパンツ姿に、これがまた――非常に艶やかで。
(ああ! 眩しい!)
テリーが見たいのを我慢して一生懸命目を逸らし、ぶるぶる震える心臓を落ち着かせようと必死に冷静さを保たせたように見せかけ、スーツジャケットを腕にかけた。
「で、では、あたし、その、明日までにスーツを洗って乾かしますので……」
「何言ってるの。駄目だよ」
「ひゃいっ」
キッドが優しくテリーをベッドに押し倒した。
「あ、あの、あの!」
「明日丸一日、休みを貰えた。だから二人で過ごそう?」
「え! でしたら、なおさらお洋服のクリーニングを!」
「それはじいやにでも頼めばいいさ」
「あ、そうです! じいじも帰ってきます! あたし、シチューの準備が……!」
「じいやは帰ってこないよ」
「え?」
「俺がエメラルド城で過ごすように命令した。だから明日が終わるまで……夫婦水入らずで過ごそう?」
キッドの手がテリーの頬に優しく触れてきた。
(あ……)
「……テリー、会いたかった」
(……ずるい人)
そんな切なそうな目で見つめてくるなんて。
「……あたしも会いたかったです……」
「……テリー……」
「キッド……」
瞼を閉じれば唇が再び重なる。唇が動く。ふにふに咥えられるようにキスされる。角度が変わってまた重なる。キッドがテリーの頬に触れ、肩に触れ、腕に触れ、手に触れ、唇を離し、彼女の首に鼻を押し付けた。
「あっ、キッド……」
「……良い匂いだね。テリー」
「ん、っ、じいじが、良い匂いのシャンプーを、買ってきてくださって……」
「俺はテリーの汗の匂いの方が好きだけど」
「ま、また、そんなことを……!」
くくっ、と笑う声から漏れた息がテリーの肌に当たり、また心臓が飛び跳ねる。
(だめ、声、出ちゃう……!)
……ん? 気がつくとキッドの手がテリーのネグリジェのボタンを外し始めていて、テリーの顔面が真っ赤に染まる。
「きゃあっ! き、キッド!」
(焦るな)
そうは思いつつも、手が止まらない。
(明日一日テリーといられるんだぞ。焦る必要なんてない)
なのに、既に熱を持ってる自身は早く彼女の中に入りたいと叫んでいる。
(落ち着け。がっつくな。怖がらせたらいけない。ゆっくりと、まずは、……テリーを気持ちよくさせてからだ)
どろどろに甘やかせて、とろとろに溶けるまで体に触れていたい。長い指を滑らせてテリーの太ももを撫でれば、華奢な体がびくんっ! と揺れ、その反応すらも愛おしく感じてしまう。
「んっ……!」
(ああ……テリー……!)
リボンを解く音が、やけに耳に響いた気がした。
「あ……」
テリーの白い肌が、あられのない姿となって現れた。キッドはついうっとりとその姿を見てしまう。久しぶりのテリーの体は緊張から小さく震えていて、小さな胸は見ないうちにほんの少し膨らみを持ったように思える。そして、青のレース柄の下着。なんていやらしい体なんだろう。これを外せば、彼女は完全に裸になってしまう。なんてけしからぬ下着なんだろう。自分の髪と瞳と同じ色だなんて。ああ、力づくで奪ってしまいたい。自分色に染まってしまうテリーが見たい。恥ずかしがるテリーが見たい。ならば、煽り立てる方法をいくつか知っている。キッドが自ら服を脱ぎ、その筋肉のついた体を彼女に披露する。
(きゃあ! 目のやり場に困……わ、わああ、筋肉すごい……! わぁあ……!)
しばらく見ない間に、より一層恐ろしいほどの色気を纏った体にテリーの目が泳ぐ。その瞳を見てキッドがテリーの顎を掴んだ。
「どこ見てるの?」
「ひゃっ」
「俺しか見ちゃ駄目。……ね?」
(あ、ああ、なんて、人……!)
テリーは内心涎が出そうになったが、グッと堪える。
(ずるい人……)
「……あ、あの……」
「ん?」
「……。……す、……する、の、ですか?」
上目遣いで訊いてくるテリーに、キッドの胸がぎゅん!! と高鳴った。なんて可愛いことをしてくるんだろう。この小悪魔。
(無自覚? いや、わざとか? いや、……無自覚っぽいな)
わざとならこんなキョドり方は出来ない。まだ彼女の頭の片隅にシチューが残ってるようだ。その瞬間、キッドの中でドス黒いモヤが感情となって現れるのを感じた。……嫉妬だ。
(ようやく手に入れて、安心したと思ったけど……)
まだ駄目らしい。自分以外を見てほしくなくて、忘れてほしくて、彼女の耳に優しく囁く。
「しちゃ、駄目なの?」
「っ、お、お疲れでしょうから……」
「テリーが甘やかしてくれたら疲れなんて吹っ飛ぶよ。だから……ね?」
(……甘やかす……?)
テリーがおずおずと手を伸ばして、キッドの頭に触れ、それを胸に抱き寄せた。きょとんとしたキッドの顔がテリーの小さな胸に埋もれて見えなくなる。
「……お疲れ様です」
テリーが体を起こし、キッドに寝かせるような姿勢を取らせ、優しく頭を撫でてあげた。
「よしよし」
キッドが口を閉じ、撫でてくるテリーの手の温かさで、全身の疲れと今までの苦労、ストレスがまとめて全部落とされた気がして、思った。――この子と結婚しよう。
(あ、違う。もう俺の奥様だった)
……あー、まずい。可愛い。愛しい。テリー。本当に結婚してくれてありがとう。テリーが他の男のものになるなんて絶対に耐えられない。そんなことになれば俺はその男を殺して君を無理矢理自分のものにしたことだろう。心が手に入るまで、その甘くて美しい体に触れて、犯して、体を何度も重ねて、誰にも見られないあの部屋に、君を永遠に閉じ込めたことだろう。
(そんな事を言ったら、君は呆れるかな)
結婚してもまだ君に依存している俺がいる。
(でも君なら、それを笑いながら抱きしめてくれる気がするんだ。……俺の甘え、かな?)
テリーの背中に触れる。柔らかい肌を撫でる。
(ああ、テリー……)
「……ふふっ」
キッドの耳に、テリーの笑い声が聞こえる。
「キッド、くすぐったいです、ふふっ……」
キッドの手がテリーの肌を撫でる。
「んふふ……ふっ……ん……」
耳裏にキスをする。肌を撫でる。
「んっ……」
その耳を優しく咥えると、テリーの肩が小さく揺れて、一つ高めの声を出してしまう。――あっ……! ――その声を聞いたと同時にキッドの手が硬直した。
(っ、あたしったら、びっくりして、はしたない声を……!)
「テリー」
へ?
「大好き」
吐息の混じった低い声が耳に響き、テリーの心臓が高鳴った。
「……もっと……甘えていい……?」
「そ、それは、その、構いませんが……」
キッドが堪えきれず、再び、その唇に自らの唇を押し付けた。テリーが驚いて目を丸くし、はっとして、慌てて目を閉じる。強く抱きしめられ離れられない。まるでテリーを縛り付けるようなキスに、テリーが頭をぼんやりさせる。すごい。唇柔らかい。気持ちいい。温かい。……ああ、そういえば……この間お使い中に……。
「……何考えてるの?」
瞼を上げると、キッドの青い目が鋭く光っている。まるで、殺意を向けられているようだ。
「今、俺以外のこと考えてた?」
「……えっと……」
「ねえ、テリー、何考えてたの? 俺に教えて?」
「キッド……?」
「今、君の目の前にいるのは俺だよ。俺しかいないのに、俺以外のことを考えてる余裕なんてあるんだね?」
禍々しいオーラを放ち、テリーをオーラごと包み込み、絶対に離さんとばかりに腰を掴んでいる。嫉妬の感情にギラギラ瞳を光らせるキッドを見て……テリーは思った。
(……拗ねてる)
拗ねてるどころではない禍々しいキッドの頭を撫でる。
「キッド、んっ、そうではなくて……」
「そうじゃないの?」
キッドがテリーの首筋にキスを落とす。
「あっ」
「じゃあ、俺のこと考えてたの?」
「あの、んっ、唇が、柔らかいなって……」
「……唇?」
「はあ……。……お使いの時に、あたしと同じくらいのレディ達が噂をされてました。一度でいいからキッド様にキスされたいって」
でも、
「これだけ唇が柔らかいなら、逆にがっかりしてしまうのではないかと。あ、その、悪い意味ではなく……全て完璧なのに唇の硬さまで完璧なんて、どこから女磨きをすればいいのか混乱してしまうんじゃないかって……」
「テリーもそう思ってる?」
「あたしは……もう……あなたの隣に立てるようになるだけで……いっぱいいっぱいで……」
キッド様の隣に立てる、彼に相応しい女性にならないと!
「……そんなこと、気にしなくていいのに」
「あっ」
キッドがテリーの肌に唇を落とす。
「……キッド……」
「テリーはテリーのままでいいんだよ」
「そ、ういうわけには……あっ……」
「王妃になってほしくてテリーと結婚したわけじゃない」
目を青い瞳に覗かれる。
「俺がテリーの側にいたかったから、結婚してもらったんだ。だから……テリーは俺のことだけ考えて」
それ以外はいい。
「俺のことだけを見てくれたら、それでいいから……」
「あっ……!」
キッドの舌がテリーの耳を唾をいっぱいにさせて舐め上げれば、快楽が一気にテリーの中に押し寄せてくる。
「あっ、キッド、耳は……、汚い、から……!」
グチュグチュと、舌が耳を舐める音が鼓膜に届く度にテリーの体が揺れてしまう。
「はっ、ん、キッドぉ……!」
キッドの指がテリーの肌をなぞる。小さいが膨らみかけている胸に触れると、テリーの喘ぐ声がより甘くなっていく。もっとだ。もっと甘くして、トロかせて、溶けていけばいい。そして自分以外考えられなくなればいい。テリーが欲しい。二ヶ月ぶりに彼女に会えた。もっと触りたい。もっと声を聴きたい。指が下着に行き着くと――どんな男も触れたことがない、自分だけが許された割れ目を伝うように撫でた。その瞬間、テリーが目を大きく見開き硬直する。その理由をキッドがきちんと彼女の耳に言ってあげる。
「テリー、……濡れてるよ」
「……っ」
「俺も、すげー興奮してるんだ。……はっ……二ヶ月ぶりだから、ちょっと……無理、させるかもしれない」
「……ほどほどに……」
「うん。頑張る」
それにしても、
「はあ……。テリーの耳たぶ、柔らかいね……。ほんと、イイ……」
「あ、ちょっ、んっ、んぅ……!」
「テリー……耳たぶ、コリコリしてる。ね、痛くない? 痛かったら言ってね?」
「あ、あの、あの……!」
そんなに囁かないで。
(ドキドキ、しちゃう……!)
ただでさえ胸がドキドキして治まらないのに、彼のせいでもっと心臓運動が激しくなって、心臓発作になってしまいそうだ。
(あたし……いつの間に彼のこと、こんなに好きになってたのかしら……)
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