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新しい出会い
第398話 伝説のあの人
しおりを挟む水色髪の青年に抱っこされたまま連れていかれた部屋には、着流しを着こなしたイケオジというかイケお爺様がいた。白髪交じりの黒髪黒目のその人は、その恰好も相まって日本人にしか見えない。
「《日本人って訳はないんだろうけど、転生者だったりするのかな》」
「ん? 何か言いましたか?」
「ああ、いえ、連れて来てくれてありがとうございます」
思わず日本語を呟いてしまったけど、水色髪の青年には知らない外国語に聞こえたんだろう、自分でも口に出したつもりがなかったので良かったですよ。
ちゃぶ台に座布団なら雰囲気抜群だったけど、流石に違ってテーブルと椅子だったんだけど、お爺様はニコニコしながら私を見つめていた。
どうやらこの家の家主らしく、彼の隣に白髪の熊耳女性が座り、私はその向かい側に、何故か少年が私の隣に座り、青年が給仕をするようだった。
「魔力切れが主な原因だとは思うが、あとは精神的な疲労もあったんだと思う。詳しい説明はこの後するから、まずは食事を用意させよう」
そう言って用意されたのはホカホカと湯気が上がるおかゆだった。コトリと私の目の前に置かれたそれは小さな土鍋に入ったパン粥で、これが米だったら最高だったのにと思ったのも仕方がないと思う。
四人からジッと見つめられている中では食べ辛いと思っていたら、それに気付いた家主が三人にどこまで説明しているのかと聞いてくれた事で視線が外れた。ありがたいです。
「《美味しいけど、米で食べたかった……》」
「《米? 米を見たことがあるのか?》」
温かいミルクパン粥を頂きながら、これも美味しいけどコレジャナイ感が思わず口をついて出ちゃったら、その声に返答があってびっくりした。
顔を上げればキラキラした目で見つめてくるお爺様。
ん? 今私日本語で喋ったと思うけど、日本語で返ってきた?
「《さっき君は米が食べたいと言わなかったか? 俺も米が食べたいと思っているが、この世界の主食は麦だろう? 米は見つけてないんだ》」
「チャーキ? 先程から我も知らぬ言語を使っておるぞ? それはなんと言っておるのじゃ?」
びっくりして固まっていたら、美女が拗ねたように家主の裾を引っ張っている。なんだ? 夫婦なのか? いや、どう見ても女性は30代前半だし、男性は60代から70代だろう。夫婦というよりは親子の年齢差に見える。
「ああ、すまん。俺も百数十年ぶりに使ったが意外と喋れるもんだな。
さて、少し腹塞ぎになっただろうか? 君も気になる事はそのままにしたくないだろうから、先に自己紹介をしておこう。
俺の名はアサカチアキと言う。こちらの人には発音が難しくてな、チャーキとか、アシャーカと呼ばれることが多い。随分昔には勇者と呼ばれたこともあって、その時はアダームと名乗っていた」
は?
百数十年ぶりに喋ったって、異世界ジョークですか?
え?
チャーキって、金ランク上級の人?
四人しかいないうちの一人が確かソロで、チャーキ・アシャカだった筈だけど、確かに初めて聞いた時に日本名っぽいなと思ったけど、アサカチアキってまんま日本名じゃない?
へ?
勇者? 勇者ってあの聖女と結婚した勇者? 神国の王様になったんじゃなかった? 王様が何でこんな場所にいるの? もしかして神国のお城に連れてこられた? いや、神国はヒト族至上主義だから熊耳女性がいるのはおかしいかもしれない。
混乱が更に増した気がするけど、とりあえず食事を終えてから改めてお話を聞かせてもらうことになった。
◆◇◆◇◆◇
どうやらここは私がいたリズモーニではない。というかリズモーニ王国があった大陸ではないとの事。
「この島は其方が住んでおった〖グロンディール大陸〗の西部に位置する〖リルベルッティ〗という島国じゃ。島の大きさはあれじゃな、あの大陸の西側にある国が全部一緒になったのと同じくらいじゃ」
白髪の美女は白雪さん、彼女は白熊の獣人というか、聖獣なんだって。
聖獣というのは全ての獣種に出る訳ではないけれど、時々現れるんだって。
聖獣になると寿命が凄く長くなるから、両親は勿論、自分の子や孫よりも長生きするようで、母子遺伝ではなく、別の聖獣が寿命を迎えた時にどこかに新たな聖獣が現れるんだって。今はこの世界に五体の聖獣がいるらしいよ。
「えっと、私はヴィオです、本名はヴァイオレット、銀ランク白級になったばかりの7歳です」
「洗礼直後の年齢で銀ランク? 確か登録が7歳じゃなかったか?」
「7歳なんて、やっぱりまだチビじゃないか! それなのにあんなに魔法が使えるのか? お前凄いな!」
チアキさんが驚いているけど、勇者ならギルドの事はよく知っているだろうから驚かれても仕方がないね。そして私をチビ呼ばわりするこの少年は竜人族の子供だそうです。
竜人族というのもあちらで会ったことはなかったけど、獣人と同じように竜の遺伝子を持つ人たちなんだって。凄く長命種だから子供が生まれにくく、子供は村中で大切に育てるとのこと。
竜人族は獣人とは違い、産まれる時には人の姿なのだと聞いて驚いた。
7歳くらいから竜化の練習をはじめて、10歳くらいになったら翼がしっかりとしてくる。翼が生えてくると飛ぶ練習をはじめ、15歳くらいになると筋力もついてかなり長距離を飛べるようになることから〖グロンディール大陸〗に飛んで行かないように大人たちの監視が付くようになるんだって。
「ベルフォンスは他の子供達よりも成長が早く安定して飛べるようになりましたが、まさか大陸までの距離を飛べるなど思いもしませんでした」
どうやらベル少年は秘密特訓を繰り返し、大人たちの目を盗んで一人で〖グロンディール大陸〗まで飛んで行ってしまったらしい。
ベル少年の不在に気付いたチアキさんが白雪さんにそれを告げ、この村の自警団でベル少年のお目付け役でもあったルイスゲーンさんが白雪さんと一緒に探しに行ったんだって。
「あなたは空を飛べるの? 凄いね!」
「お、おお、まあな! まだ人を乗せては飛べねえけど、ヴィオはチビだからな、そのうち背中に乗せて飛んでやるよ」
マジですか? ドラゴンに乗って旅をする夢が、ドラゴンに乗って旅をする事で叶いそうですか? それはお父さんが滅茶苦茶喜びそうじゃない?
――と、そこまで考えたところで思い出した。
「お父さん……」
呟く一言に室内がシンと静まり返った。
私の記憶は悪夢だったんじゃないのかな。あれは本当にあった事だったのかな。
「あの時に何があったのかは、正直見ておらんから正確な事は分からんが――」
そう切り出して白雪さんが教えてくれたのはあの夜にあった事が事実だという現実だった。
「ルイスが死にかけておった故、其方に助けを求めたのじゃ。あの場所は何故か聖結界が張られておってな、其方が最後に暴走を起こした聖属性の魔力も魔素は結界内に留まっておったから、其方が吸収しておった。それが無かったら急激な魔力減少で死んでおったかもしれん」
そういえば何故かあの場所だけドーム状に魔獣が入って来れなくなっていた。あれは聖結界が張ってあったからだったんだね。けど、あの三人が聖結界を?
二人は闇属性魔法を使っていたからあり得ないし、かといってもう一人は最初に殺したから結界は解けていてもおかしくない筈。どういうことだったんだろうか。
「俺が悪かったんだ。まさかあんなに遠いと思ってなかったし、あんな魔素が少ない場所があると思ってなかったんだ」
どうやら竜が飛ぶには翼自体の筋力もそうだけど、魔力を使っているらしい。自分に風の魔力を纏わせているから、飛び続けるには魔力が減っていく。だけど空気中にある魔素を吸収することで通常なら丸1日飛ぶことも余裕なんだって。
だけど皇国は国を結界で塞いでいるから土地から出る魔素も覆い隠されていた為、その上を飛ぶことで一気に魔力が減って魔の山に墜落したんだって。
魔の山の頂上付近に落ちた事で魔獣に襲われたらしく、追いついてきたルイスさんが増えてくる魔獣から庇ってる間に、竜化が解けたベル少年を抱えて白雪さんが竜の巣と呼ばれる場所まで連れて行ったそうだ。
竜の巣は天然の結界というか魔獣は入って来れない聖域のような場所らしく、そこで白雪さんがベル少年の回復を頑張っていて、何とか竜の巣に辿り着いたルイスさんは満身創痍、だけどそっちの回復をしようと思えば身体が小さいベル少年も危険になる、どうしよう! ってなってるときに私の聖属性魔力が暴走したらしい。
全く覚えてないんだけど、どうやら白雪さんに連れていかれた私は、白熊状態の白雪さんを獣化したお父さんと思ったらしく、お願いされるがまま目の前で血みどろだったルイスさんを回復したらしい。
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