ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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閑話

〈閑話〉 サマニアンズ 9

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 ~トンガ視点~

 あの女を王都に届けてひと月、僕たちが持ってきたマジックバッグの中身があまりにも大量で、詳細を調べるのにかなり時間がかかっていると報告を受けた。
 フィルさんは流石に来れなかったけど、オトマンとネリアの同級生がフィルさんの側近として側にいるから、彼らが伝言をしてくれたのだ。

「四人分のマジックバッグだろう? 重要書類が大量だったぞ。
 前の王様も宰相も気付いていなかった悪事がザックザックだってさ。今はその罪状確認で時間が足りないくらいだけど、まあ侯爵家が終了するのは間違いないぞ」
「そうね、王妃は王への毒殺未遂、王の家族への殺害依頼が罪状ね。侯爵自身は何処まで罪状が増えるか分からないけど、来年には公開裁判からの処刑になると思うわ」

 ヨルクさんとクラリスさんは、何でもない事のように言ってくるけど、それってかなり凄いことだよね? まあ同情の余地は全くないけどさ。
 どうやらこの国で起きたクーデターも、その前にあった色々も、悪侯爵が関わっていたらしい。いつから悪事を働いていたのか、それを調べるのに時間がかかっているんだって。

「結果が出るのはまだまだ先になりそうだ。それで金ランクの冒険者をこのまま縛り付ける訳にもいかないって事で、陛下から〔サマニアンズ〕に護衛依頼の打診があった」
「僕たちに?」
「〔土竜の盾〕は?」
「俺たちは年明けにフィルの護衛で皇国に行くんだ。アイリスのペンダントを取り返すのと、魔道具の返却だな」

 ヨルクさんの提案に驚いていれば、テリュー達はフィルさんからの別件についていくことを聞かされた。皇国……、そこでヴィオの母親は殺されて、ヴィオも死にかけたんだもんね。

「けどさ、魔道具を返すって、メネクセスが盗んだみたいに思われねえ? 大丈夫なのか?」

 ルンガ、僕も同じことを思ったよ。

「盗んだ相手は共和国出身の冒険者崩れよ。彼の姿は教会の人達が証言してくれるでしょうし、既に似顔絵もインランの証言で作られているわ。私たちは盗まれた魔道具を拾ってあげて、それを届けてあげるだけ」

 僕らの疑問はクラリスさんが教えてくれたんだけど、ニッコリ微笑んでいるのに背筋が冷えるのは何だろうね。うん、僕らに政治の事は分からないし、関わらないで良い様にしてくれているならそうしよう。
 思わずクルトとルンガを見つめれば、二人も同じことを思ったらしく頷いてくれた。

「で、陛下からの護衛依頼って?」
「ああ、来年からシュクラーン殿下が魔導学園に入学するんだ。本来は将来の側近候補になり得る貴族も一緒に留学するんだけど、今回の事で貴族の洗い直しが必要になったから、予定していた人員がかなり変更になりそうでな。殿下一人で出発させるわけにもいかないし、かといって騎士団を動かすにはガルデニアの件があって難しい。そこで、リズモーニ出身の〔サマニアンズ〕にお願いしようとなったんだ」

 成程ね。僕たちもドゥーア先生からお借りしている馬車も、辺境伯閣下からお借りしている魔馬もお返しする必要があるしね、返しに行くついでに送り届けるのは問題ない。
 サブマスはメネクセスに到着してからの一か月弱、ずっと図書館などでの調べものをしているから飽きてきていると思うしね。
 という事で、僕たち〔サマニアンズ〕はメネクセス王国の第一王子殿下をリズモーニ王国の魔導学園まで護衛する依頼を受けることにした。



 風の一月目、船で移動することを思えば少し早いけど、この季節は海が荒れやすく船が動かない事も多いらしいので、リズモーニへ移動することになった。

「船旅の方が基本は早いですが、この馬車がありますからね。陸路で行けばいいでしょう」
「ですが雨は陸にも降りますよ。その場合は移動もままならないのでは……?」

 王子様ってこういう人のことを言うんだろうな。っていう綺麗な少年がサブマスと話し合い中。本来ならリーダーの僕が対応すべきなんだけど、王子様相手とか無理なので、サブマスにお願いしたんだよね。
 こうやって考えると、フィルさんって僕らと対応する時には、かなり砕けた感じの態度を作ってくれてたんだなって思う。
 インランを連れてきた時にお城の騎士団取調室っていうところに直接連れて行ったんだけど、そこで対面した時のフィルさんは、ファイルヒェン陛下って感じで、全く気安く声なんてかけられない雰囲気だったもん。

 王子様はそこまでの威圧感はないけれど、キラキラし過ぎていてちょっと住む世界が違うって感じ。ルンガなんてさっきから気配を消して壁になってるしね。クルトは……、多分ヴィオに見せてあげる為の構図を考えてるんだろうね。

「まあ乗ってもらえば分かりますよ。荷物はそれだけですか?」
「あ、はい。養父上《ちちうえ》からマジックバッグをお借りしているので、殆どの荷物はこちらに入れています」

 王子様には似合わない背負い鞄を持っていると思ったけど、フィルさんのマジックバッグなら納得だな。僕たちも全員がマジックバッグ持ちなので、馬車の屋根には侍従二人分のトランクだけを載せるだけで良くなった。
 サブマスと王子様、侍従の二人を車内に、ルンガが御者を、僕は屋根で、クルトは馬車後部に立って警戒。

「其方たちはずっと外にいるのか? 寒くないのか?」
「冒険者なので大丈夫です」

 というか王子様と密室とか無理すぎる。馬車が走り出せば、自分の周囲を包むように水の膜を張る。ルンガとクルトは風で膜を作っているけど、僕は水だ。こうすることで外気は防げるし、水の椅子は座り心地も抜群だ。
 街道に出たところで車輪の音が聞こえなくなった。サブマスの風魔法だろう。

「うわぁ! 本当に浮いているんですか? 全く揺れないです! 凄い!」

 興奮気味の声が聞こえたと思えば、馬車の窓が開き、綺麗な金髪の頭がヒョッコリ顔を覗かせる。こんな風にしていると年頃の少年って感じだけど、王族っていう柵がただの少年でいられなくするんだろうなぁ。
 これはヴィオがお姫様になるとか無理だね。

 ホースヴァルルは浮かしていない状態の馬車でも問題なく曳くことができるけど、浮かせた事で速度が上がる。無防備な少年の髪は風を強く受けてビョウビョウと横に流れている。
 流石に侍従が心配して中に戻ったようだけど、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。まあこの調子だと旅も辛くはないかな?
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