ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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伝説のエルフ

第448話 大失敗

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 年越しまであと三日だけど、私達の生活は基本的には変わらない。
 ストレッチをして、砂浜でランニングをし、チアキさんと、ベル君、ルイスさんとの組手をし、隔日で魔法の練習を行う。組手にはダルスさん達も時々加わるようになったし、イブさん達がいた時は彼らが参加することもあったけどね。

 午後には魔法陣の刺繍を練習し、マイマジックバッグの作成の為に頑張っている。機織りの魔道具に関しては、私は参加しなかった。何か設計図の時点でよく分からなさすぎて断念しましたよ。
 魔法陣の方は一緒に勉強させてもらったんだけど、機織り機本体はマシン感が凄すぎて、ルイスさん含めた男子三人がキャッキャしながらやってましたよ。

 イブさん達がいた三週間は、午後の時間を彼らと過ごしていたけれど、午前中のルーチーンは変わらず行っていた。
 そんな日々だったから、皆がうっかり忘れていたんだと思う。
 というか、そもそも私がうっかりしていたことに気づいてくれていたのに、それを私に伝え忘れてたというか、なんというか……。

「そういえば、ヴィオはあちらの国に手紙を送る時、差出人の名前――は書いておるじゃろうが、ギルド名は書いておるのか?」

 朝食を食べ終わり、さてそろそろランニングに行くかという時、白雪さんからの一言に固まった。
 イブさん達が来た初日、私が泣いたのはお兄ちゃん達からの手紙の返信がないことが原因だった。その時に思い付いたらしいんだけど、まずは泣き止ませるのが先決で、その後は抱き枕の話、チョコレートの話、魔法陣、モフッコ、色々あり過ぎて聞きそびれていたと言われた。

「ギルド名……」

 手紙は各国の王都にしか届かないと言われたので、王都のギルドの名前を封筒に書いていた。宛先はドゥーア先生だ。
 中にはドゥーア先生宛のお手紙と、お兄ちゃん達へのお手紙、一回目はサマニア村にも書いたと思う。其々の封筒に『リズモーニ王国首都ギルド ダンブーリ・ドゥーア先生』『プレーサマ辺境伯領 サマニア村 ギルマス様』『〔サマニアンズ〕お兄ちゃん達へ』と書いていたと思うけど、それって宛先だよね。

 差出人は『ヴィオ』と名前を書いているけど、郵便にはこっちの住所というかギルド名も必要だ。この場合はリルベルッティ大陸、ミドウ村で良いのかな? 
 疑問形になるという事は書いたことが無いという事で、送り先を書き忘れているという事は、受け取った人は返信を送れないという訳で……。
 ギギっと音が鳴りそうな重たい頭をゆっくり上げれば、チアキさんと白雪さんが優しく笑っていた。
 アチャー、やっちまったな。 
 あんなに泣いておいて、恥ずかしい! 手紙が来ないのは嫌われてるかもって、いや、その可能性は無くないけどさ、そもそも送り先が分からないと届けられないじゃんね。

「書いてなかったです」
「そのようじゃな」
「さて、うちの村は年末年始、一週間は自宅でゆっくりすることになる。畑仕事も無し、勿論ギルドも休みだ。手紙を出すなら今日を逃せば来週になるが、どうする?」
「書く! 書きます! 送りたい!」

 ランニングは終わってからにしようと言ってもらえたので、急いで自室に戻って筆をとる。
 どうしよう、何を書こう、色々伝えたい事はあるけれど、まずは送り先の情報を書いていなかった事を謝ろう。
 タオルのパイル生地はあっちで見かけたことはなかったけど、ダムの公爵様がいるならお貴族様は知ってるかもだよね。これはエミリンさんが詳しいかもしれないから端切れを入れて説明を書いておこう。
 食材は……こないだ書いたのはダンジョンの後だったもんね。だったらカカオの事を書く? いや、でもモフッコがこっちにしかいないなら再現は難しいかな。モフッコがいるかどうかだけでも調べてもらう?
 あとは、何だろう、ああそうだ、お兄ちゃん達が金ランクになったかどうか。いや、絶対になってるんだけど、お貴族様からの依頼とかがあるかを聞いてみる? 
 それからフィルさんの件もどうなってるんだろう。気になるけど王様の事を軽々しく聞けないよね。国家秘密…ん? 緻密…いや、機密? 何かそんな感じだよ。きっと秘密にしなきゃいけない事の方が多いだろうから、私は元気ですって事だけ伝えてもらう? 

 ああ、返事来るかな。
 これで来なかったら悲しいけど……、ううん、悩んでてもしょうがないもん。まずはちゃんとお手紙を書こう。

 書きたい気持ちが先走って、何度も書き直す羽目になったけど、伝えたいことはちゃんと書けたと思う。
 今回の宛先は三カ所、まずはドゥーア先生、それからお兄ちゃん達、最後にサマニア村へ。私が銀ランクになった事で、サブマスが一緒に旅をしてくれるって言ってた。
 考えればあの誘拐事件の時にあったギルマス会議でタキさんに引継ぎをしてギルドを退職したはずなのだ。もしかしたら私が居なくなった事で元通りになっているかもしれないけれど、サブマスの引継ぎなんて大変なことをさせてしまったのに、約束を反故してしまったなんて酷い話である。
 サブマスさんへの謝罪と、もしまだ約束が無効でないのならば、帰った時に一緒に旅をしたいという我儘なお願いも書いてみた。
 魔法の事はお手紙だと危険かもしれないから、浮遊魔法の事も、自作のマジックバッグの事も書いていないけど、これは帰ってから直接伝えれば良いと思う。
 読み直して、封筒の宛先も確認し、チアキさんにも封筒を確認をしてもらう。

「ああ、宛先も送り先も問題ないぞ。俺もうっかりしてたな、スマン」
「いいえ、いつもお手紙をギルドで出してくれてたのはお父さんで、ちゃんと見てなかった私が悪かったの。次は何処のダンジョンに潜るって書いてたのが送り先の情報だったのに、うっかりしてました」

 手紙の裏に自分の名前は毎回書いていたのだ。
 だけど、受け取る時には違う場所にいるのが殆どだったので、送り先のギルドというか村の名前は手紙の中に書いているだけだったんだよね。
 ちゃんと書けているとお墨付きをもらったところでギルドにダッシュ。受付のお姉さんは驚いていたけれど、私の手紙を見て納得してくれたみたい。

『お兄ちゃん達から、お手紙の返信が来ます様に』

 手紙を受け取ってくれたお姉さんに祈っても仕方ないのに、つい手を合わせてお願いしちゃった。無事に届くといいな。
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