ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

文字の大きさ
295 / 586
魔導学園へ

第262話 先生とダンジョン 後半

しおりを挟む

お屋敷からダンジョンまでは 先生の風魔法ドーピングで走り抜けたので 4時間ほどで到着していた。追い抜いた人や 商人の馬車の御者さんなどは驚いていたようだけれど、どう見ても貴族の馬車だし 知る人は知るドゥーア先生の家紋は有名らしいので 大した騒ぎにはならないだろうと本人が言っていた。

なので早朝すぎて人通りがそこまで多くなかったのをいいことに、殆どドーピング状態で走り抜けたのだ。
ダンジョンに到着したのが朝の10時ごろ、途中呼び出してランチを食べさせたのが12時過ぎ、昼食時に私が書き写したノートを見て 他もそうしようと言ってたんだけど、壁画に戻ったらやっぱり考察が始まってしまったのは研究者あるあるなのだろう。

仕方ないと笑いながら 私が壁画を黙々と写す事10カ所分、17時を過ぎた所でお父さんから終了の声掛けがあった。
見て回るだけでも2時間程かかった このフロア。
写して歩くとなると5時間あっても まだ終わっていない。

「先生方 もう今日は終わりじゃ、流石にダンジョン内での野営をさせる訳には行かんからな。
一旦出て フルシェの町に宿泊しよう。続きは明日もう一度潜ればええじゃろう。
ヴィオの写しはどうじゃ?」

「明日半日あれば写し終わると思う。文字も同じ文字が多いから写し慣れてきたしね」

「同じ文字が多いですか? そうか、他のものとの共通点を探し出してから文字を当て嵌めていった方が……」

「はいはい、その考察は宿に戻ってからじゃな。スティーブンさんは 屋敷に連絡せんといかんのじゃろう?」

「はっ!そうでした。ああ、またオットマールに怒られる……」

家令のオットマールさんは 先生と一緒になって集中しすぎるブン先生に時々厳しいからね。
日帰りの予定が泊りになるのは 何となく予想をしていただろうけど、私が一人で壁画を写している中で、先生と二人 1か所目で考察をし続けていたと知ったら 滅茶苦茶怒られるんだろうな。
言わないでおいてあげよう。

とりあえず手荷物を片付けて 私が最初にダンジョンから出る。先生たちが続いて 殿がお父さんだ。

「あぁ、お戻りになったのですね。随分遅いので心配しました」

出た途端 受付のスタッフさんが駆けだしてきたけど ずっと気にして見てたんですか?
1階だけだし 護衛までついているのに 何が心配だったんだろうか。
とりあえず受付さんには 調査はまだ終わってないので 明日も潜る事だけ伝えてから フルシェの町に移動した。

招き猫亭は 流石に前回来た時点で奥さんが臨月だったし、多分休業しているので 他の高級宿にお泊りです。
私たちを宿に送り届け 馬車を預けた後、ブン先生は冒険者ギルドにダッシュで向かってた。多分お屋敷に速達便を依頼しているのだろう。
こういう時に電話があったら便利だなって思うよね。



翌日も早朝からダンジョンへ。昨日はお屋敷からの移動時間があったけど、今日は町からだから20分くらいで到着です。
夏だからもう日は上っているけれど まだ朝の6時前。
私たちの早すぎる訪れに 受付スタッフもびっくりしてました。


早朝から続けた壁画の写し、10時過ぎにお茶休憩(先生たちは参加せず)12時過ぎにランチ休憩を挟んだけど 14時過ぎには写しも終了。
途中で3組ほど 冒険者パーティーがダンジョンに入ってきた時に、私たちが壁画を真剣に見つめてメモしている姿に驚いていたけど、お父さんが 学園の先生が文字を調べているだけだと言って追い払ってた。
まあ 聞いてきたのは一組だけで、どう見ても学園の生徒っぽかったから 先生たちに気付いて 気になったのかもしれないけどね。
他の二組は 明らかに貴族っぽい人たちに関わらずに済むようにと速足で2階に上がって行ったので、貴族と冒険者の違いがよく分かった。

「あぁ、ヴィオ嬢 写しをありがとう、どうしても現物を目の前にしてしまうと 考えに没頭してしまって駄目だね。非常に助かるよ」

「ええ本当に、アルク殿もありがとうございます。これだけダンジョンという危険地域で 安心して考えに没頭できるとは思いませんでした」

写しもほどほどに 先生たちは絵の内容、文字の意味、言葉の繋がりなどを考え始めて 全然進まなかったからね。
いや、先生たちの中での考えは進んでいると思うんだけど、写すという作業がね。
私はその点 写すと決めたら 内容は気にせず 写す事だけに集中してたからね。あとでゆっくり見て理由を考えようと思ってます。

昨日とは違い 早めの時間に出てきた事で 受付さんもホッと安心した様子でした。

「ドゥーア先生、先生たちは速く帰って調べたい? きっと帰り道でも考えに没頭しちゃいますよね?
だったらお父さんが御者さんをしてくれるので、私が風魔法つかいますけどどうしますか?」

「いや、流石にそんな……」

お父さんとお茶休憩中に二人で考えていた事だ。
きっと手につかなくなるだろうからその方が安全じゃないかと思ってます。
ブン先生は流石に申し訳ないからと断りかけるけど、ドゥーア先生が 「確かに……」と悩み始めた。

「まあ 首都に入る時には スティーブンさんが御者をしておいた方が良さそうじゃからな、首都の壁が見えた時点で声をかける」

お父さんの一言が決め手となって 二人はそそくさと馬車に乗り込んだ。
私のノートも渡したし、きっと話し合いは私たちが声をかけるまで続けるだろう。


結果、首都の外壁が見えたところで声をかけても気付いてもらえず、門番さんも御者席に私たち親子が座っていることを不思議に思って車内を覗き込んだら納得。結局そのままお屋敷までお父さんが御して帰りました。
もちろん風魔法は首都の壁が近づいた時点で終了してますよ。

「おかえりなさいませ、旦那様、そしてスティーブン? 君には少し聞きたい事と話したいことがあるので 後で私の部屋へ」

「あ、ああ……ただいま戻った」

「は、はい……。アルク殿 あの、ありがとうございました」

お屋敷の門前に立つ騎士さんも既に全員が顔見知り。お父さんが御者をしていることを不思議に思ったようだけど 車内を覗いて納得の顔。
玄関で待っていてくれたオットマールさんは 呆れた溜息を吐いた後、お父さんと私に深々と頭を下げてきた。
そして馬車から下りた先生たち二人に 絶対零度の視線とおかえりなさい。
こんなに怖い “おかえりなさい” 初めて聞いたよ。
隣に立つエミリンさんもヒンヤリした笑顔です。きっと昨日帰らなかった事が原因でしょう。

到着した今、すでに夕食時間なので お説教は後のようですね。
エミリンさんは ダンジョン帰りのそのままで晩餐に行かせたくはないけれど、ゆっくり用意していれば食事の時間が遅れてしまうと 苦渋の決断!みたいな感じです。
その場でクリーンをして汚れを落としたけど そういう事じゃないらしい。

「お嬢様を可愛らしく着飾れるチャンスはそうないのですよ? 旦那様方はそういう事をお考えになられないから……」

もう!とプリプリしてるけど、理由が微笑ましすぎるので 「明日からまたお願いします」と言っておきます。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

【完結】あなたの『番』は埋葬されました。

月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。 「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」 なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか? 「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」 そうでなければ―――― 「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」 男は、わたしの言葉を強く否定します。 「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」 否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。 「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」 「お断りします」 この男の愛など、わたしは必要としていません。 そう断っても、彼は聞いてくれません。 だから――――実験を、してみることにしました。 一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。 「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」 そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。 「あなたの『番』は埋葬されました」、と。 設定はふわっと。

【完結】存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜

小豆缶
恋愛
「願った結果を、ほんの少しだけ変えてしまう力」 私に与えられたギフトは、才能というにはあまりにも残酷な自分も人の運命も狂わせるギフトだった。 そのあまりの危うさと国からの管理を逃れるために、リリアーナは、生まれたことそのものが秘匿され、軟禁され、育てられる。 しかし、純粋な心が願うギフトは、ある出来事をきっかけに発動され、運命が動き出す。 二度とそのギフトを使わないと決めて生きてきたのよ だが、自分にせまる命の危機ーー 逃げていた力と再び向き合わなければならない状況は、ある日、突然訪れる。 残酷なギフトは、リリアーナを取り巻く人たちの、過去、未来に影響し、更には王宮の過去の闇も暴いていく。 私の愛する人がどうか幸せになりますように... そう、リリアーナが願ったギフトは、どう愛する人に届くのか? 孤独だったリリアーナのギフトが今、王宮で本当の幸せを見つけるために動き始める

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

処理中です...