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序章~エロ作家の副業~

発展編

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 コンビニの灯りが頼もしいと思ったのは生まれて初めてのことだった。
 ぐっしょり汗まみれで大ペットボトルの水を買い、会計が済むやレジ前で開栓してゴクゴク飲んだ。
 店員のおじさんが目を丸くしていたが、体裁ていさいなど気にしていられなかった。

 店を出て駐車場の車止めに腰を降ろし、人心地つくうち、伸吾に対する怒りが沸き起こっていた。

 ――なにアイツ。最低! 絶対、許さない!!

 もうちょっとで轢かれていたかもしれない。その現実的な死の恐怖から、ビルで見舞われた怪異の怖ろしさが吹き飛んでいた。
 最悪。
 あんな奴もう彼氏じゃない。
 事故って死ねバカ!
 本気で憤っていた。
 自分を放置して車で逃走し、今頃は自宅に駆け込んでベッドの中で震えているに違いない。
 あんな奴と一年半も付き合って、好きだなんて思っていた自分が馬鹿馬鹿しいとさえ思えた。

 伸吾が帰宅しているであろうことを考えた途端、自分の帰る手段はどうしようと思った。
 ――タクシーを呼ぼう。
 ところがずっとライトを点灯していたため、スマホの充電が切れていた。
 コンビニのおじさんに電話を借りられないか頼んでみたところ、心配してすぐ固定電話のあるバックヤードへ通してくれた。
 オーナーらしきおじさんの厚意により、タクシー到着までバックヤードにて休ませて貰うことが出来た。その上スマホの充電までさせて貰えたとあって、夏海は人の情けの有り難さに涙したほどだ。

 やがて着いたタクシー。
 自宅の住所を告げると、夏海は復活したスマホで伸吾へのLINEを打った。

『あなたという人がよく分かりました。もうとても付き合っていくことは無理です。さようなら』

 送信をタップしてやると、溜飲が下がった。
 メソメソと泣き言や詫び言を送ってきても取り合う気はない。逆ギレされたらこちらも盛大に噛みつくつもりだった。
 それにしても疲れた。疲れきった。

 ――全身が重い……。

 タクシーが交差点に差し掛かる。
 運転手が左折の指示灯を出してハンドルを切った。
 もうすぐ家だ。やっと帰り着ける。
 夏海がぼんやりとそう思ったときだった。

「ひゃあっ!」

 急に運転手が奇声をあげ、急ブレーキをかけた。
「なっ、なんですか!?」
 酔っ払いでも飛び出してきたかと、驚き顔で訊ねる夏海。
 顔面蒼白で振り返った運転手は、夏海の顔や後部座席全体をまじまじと見回し、
「いえっ、なんでもありません!」
 額から流れる脂汗を白手袋の甲で拭うのだった。

「見間違いかなにかです、きっと。失礼しました」
 運転手は緊張しきった声で詫び、再び車を発進させた。
 夏海は直感した。

 ――ルームミラーに、なにか写ったんだ。

 愕然とした。
 あれを振り切れなかった。
 あれを連れて帰ってしまった。

 ――あたしにしがみついて来たんだ。

 霊感のない夏海にもはっきりと感じ取れる重圧が、肩にのしかかった。


   ■   ■   ■


「有り難うございます。貴重な体験談をお聞かせ願いまして……なんと言いますか、不謹慎かもしれませんが日も経っていない取れたての新鮮なお話で、かなり刺激がありました」
 私は竿先からカウパーを滲ませながら感謝の言葉を述べた。
「いえ、あたしのほうこそ、こうして話したらなんとなく身体が楽になったような気がします」
 それもそのはずだ、霊は彼女から離れて私の隣にすり寄って来ている。
「一一先生のほうがちょっと具合悪そうに見えますけど、大丈夫ですか? もしかして、あたしがお話ししたせいで、先生にも呪いみたいなのが……」
 今にもイキそうな私の様子に、心配そうな表情を見せる夏海。
 なんと心優しい娘だろう。

 彼女の語りで欲情したのもあるが、それよりも私はすぐ横に超絶タイプの女幽霊が座っていることで暴発寸前に追い込まれていた。
 女幽霊は、私のフルマックス膨張股間をどうやら髪の隙間から見つめているようだった。
 どんな表情になっているのかは、こちらからは見えなかった。

「それで、その後もご自宅やバイト先で怪異に見舞われていると?」
 私は発射してしまいそうになるのを尻の穴に力を込め必死で抑え込み、全身をプルプル震わせながら質問した。
「……はい、そうなんです。さっきこのお店に入って来たときみたいに、ラップ音って言うんですか、いきなりよく分からない大きな音が鳴ったり、ガラスとか鏡にいないはずの人影が写り込んだり、体調を崩す人がいたり……あのっ、先生ほんとに大丈夫ですか!?」

「ひっ、ひっ、ふー!」
 私は射精欲を堪えるあまり、ラマーズ法じみた変な息を吐いていたようだった。
「先生、霊感あるんですよね!? 絶対、なんか悪い影響受けちゃってますよね!?」
「す、すみません。違うんです。実はその、ついついお話を聞くのに熱中してしまって、トイレを我慢してまして!」
 私は尿意だと誤魔化し、非礼を詫びつつ股間を押さえて手洗いに駆け込んだ。


 幸い、男子便所の個室は空いていた。
 飛び込んで後ろ手に鍵を閉め、もう片方の手でベルトを緩める。

「おわっ!」
 なんと、中に幽霊が先回りしていた。
「ヤバいっ……我慢出来ない!!」
 私は狭い個室内で壁ドンし、幽霊に懇願した。

「初体面で失礼とは思うけど……抜いてくださいっ!」


 私の並々ならぬ気迫に恐怖を感じたのか、肩を縮こませて「ひいぃっ!」と小さくくぐもった悲鳴をあげる幽霊。
 垂れ下がってる髪すだれが軽く流れ、彼女の顔、向かって右半分がばっちり見えた。
 蒼白かった肌が真っ赤に火照り、アーモンド型の眼が潤んでいる。
 純和風のお姫様っぽい顔立ちだが、眉はかなり濃くて野性的というアンバランスがたまらなくそそる。

「あなたを一目みたときから、こんなになってしまってるんです。あなたが魅力的過ぎるせいだ。責任を取ってください。お口でも、手でもいい……このいきり立った愚息をしごいて楽にしてくれませんか」
 私は下着ぐるみズボンをずり下ろすと、先走り汁でテカテカになっている肉棒を彼女の太腿に押し当てた。
 彼女が身に纏っているものは、襟を左前にした真っ白な和服で、いわゆる死に装束というものだ。ベタな日本幽霊のユニフォームと言える。

「あ、凄いっ……ど、どこが愚息なんですか。おっき……」
 見下ろして簡単する幽霊。
 自ら着物の裾を乱し、生脚を露出させて直に感触を確かめてくるところを見ると――。

「あなた、もしかして好き者ですか」

 レディに失礼とは思ったが、ズバリ率直に訊ねた。
「ち、違いますっ……普通です!」
 キッと睨みつけて否定してくる幽霊。
「でも……しっ、仕方ないじゃないですか。いきなりいやらしい目で見つめられて、ズボンの前をぱんぱんにしてるの見せつけられたら……こっちだって、相当長い間ご無沙汰だったから――」
「つまり要約すると、下のお口でしごいてオッケーってことですね!?」
「はいっ! 是非!!」
 言葉で合意するより早く、私は彼女の腰を抱え上げて大股開きさせ、自らの肉棒へ向け引き寄せていた。
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