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32 はじめての贈り物
しおりを挟む「メイソンさぁ~~~ん! 来たわよぉ~~~っ!」
「ちょっとエリザ……! 声が大きいわ……!」
「だって、店にいないんだもの~」
裁縫を教えるためにメイソンさんのお店に来たのはいいのだけれど、肝心のメイソンさんが見当たらない……。
どうしたのかしら? と思っていたら、大柄な男性が音もなく後ろからぬっと現れた。
「……今日はわざわざ、すみません……。どうぞ、上がってください……」
「お邪魔します! オリビアさん、入りましょ!」
「え、えぇ……。お邪魔、します……」
ちょっとビックリしちゃったわ……。気配消すの上手いのね、この人……。
お店の二階にある自宅にお邪魔すると、そこには柔らかくて素敵な布がテーブルの上にたくさん積み上げてあって……。
そのどれもが、肌触りが良さそうな物ばかり。
「ねぇ、メイソンさん。これ、もしかして全部お孫さん用の?」
「……あぁ。どれがいいか、分からなくて……。見かけたら買うようにしてる……」
「まぁ~! これ肌触りが良さそうね? オリビアさん、これなら男の子でも女の子でも似合いそうよ!」
エリザが指差して言ったのは、コットン素材のふんわりと優しい色合いをした大きな一枚布。
「メイソンさん、この生地……、触ってもいいかしら?」
「……あぁ」
「失礼するわね? すごく柔らかいし、これならベビー服にもピッタリね」
「ホントね。秋に産まれる予定なら、少し肌寒い日もこれでいいんじゃない?」
「……それで、作れそうか?」
「えぇ、大丈夫よ。心配いらないわ」
「作るのはメイソンさんだから頑張ってね!」
「……あぁ。やってみる」
それから私たちはベビー服の型紙を作り、その間にメイソンさんは裁縫道具の準備と、私たち用に先程買ってきたというお茶を淹れてくれた。
「あ、そこはきちんと切らないと、あとで余ってしまうのよ」
「あら! メイソンさんったら、器用じゃないの! この調子だと、余った布地でベビーケープも作れちゃうわ!」
「……」
「そうそう、そこで折り返した布地の裏から縫い始めるの。この縫い方だと赤ちゃんの肌に当たらなくていいのよ」
「もう出来たの……!? 私より上手いじゃない……! まだ布地も余ってるし、あともう一着作ってみたら?」
「……」
……この人、本当に話さないのね? ちょっとビックリしちゃったわ……。私とエリザしか話してないんだもの。
メイソンさんは、私とエリザの言葉にこくりと頷くものの、視線は自分の手元に集中している。
初孫だもの、真剣にもなるわよね? 私も張り切っちゃうわ!
エリザの励ましと、私も教えるのにも熱が入り、とうとうベビー服が完成! しかも三着も! 初めて作ったとは思えない代物よ!
「……ありがとう。これで、娘と孫に贈り物が出来るよ」
完成したベビー服を大事そうに抱えて感慨深く眺めるメイソンさんに、私もエリザもホロっと来てしまったわ。本当に良かった……。
「……ユイトくんに、ありがとうと伝えてくれ」
「ユイトくんに?」
「……俺は、自分の顔が怖いっていう自覚があるんだ。こんな傷だしな。笑うと引き攣って見れたもんじゃない……」
メイソンさんが自分の事をそんなふうに思っていたなんて……。
私とエリザは言葉が出なくて、黙って聞いていた。
「……でもあの子は、孫に贈り物を考える人が怖いわけないと言ってな。今度、弟たちと遊びに来ると言ってくれた。初孫と遊ぶ予行練習にだと」
笑っちまうよなぁ、とメイソンさんは嬉しそうに呟いた。
「……あの子は、あんたん家の自慢だろうな。羨ましいよ」
「……えぇ、……そうなの。……そうなのよ! とっても優しくて可愛いの! 下の子たちも可愛くて、目に入れても痛くないってこの事なんだって思ったわ! それにねっ、」
「わかった、わかった。落ち着いてくれ」
「ハッ! あら、ごめんなさい! つい興奮しちゃって……」
「オリビアさんのそんなとこ、私も初めて見たよ!」
「……俺も、孫をそんな風に思うのかねぇ」
「そうよ! お孫さんが産まれたら可愛くて可愛くて、あなたも何でもできる気になっちゃうわ!」
「ハハ、楽しみにしておくよ」
ちゃんと話した事はなかったけれど、今日だけでとってもいい人だって分かった気がするわ。お孫さんが産まれたらお祝いしなくちゃね?
「あら……、結構長居しちゃったわね? ユイトくんたちも心配だし、そろそろお暇するわ。メイソンさん、お茶とっても美味しかったわ! ご馳走さま!」
「あ、本当ね。メイソンさん、お茶ありがとう。美味しかったわ! またネッドと飲んでやってね」
「あぁ、こちらこそありがとう。助かったよ」
二人にお別れを言って、可愛いあの子たちの待つ家に帰ることにした。
ちゃんとお留守番してるかしら? 大丈夫よね、きっと。
あぁ~、早くあの子たちに会いたいわ。
*****
「メイソンさん、協力ありがとう~! 時間を延ばせてよかったわ!」
「いや、こちらこそ。エリザの言う通り、良い人だったな」
「でしょう~? あの一家はね、皆お人好しなのよ~! こっちが心配になっちゃうくらい!」
「ハハ! それは違いないな……」
オリビアを見送った二人がこんな会話をしているなど、当の本人は気付くはずもなかった。
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