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57 “オリーブの樹” いよいよ開店!

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 村に六時課の鐘が鳴り、いよいよ開店。
 だけどまだ、お客様の来る気配は無いなぁ……。

「にぃにぃ~、おきゃくちゃま、くりゅかなぁ~」
「そうだねぇ、来てくれるといいねぇ」

 三人でお店の扉を見つめながら、お客様が来るのを今か今かと待っている。

「おにぃちゃん、きんちょう、してないですか?」
「今日は大丈夫! ん~、でもまた、ハルトに撫でてもらおうかな~?」
「ぼく、なでなで、します! どうぞ!」
「あぁ~! ゆぅくんも! ゆぅくんもちゅる!」
「じゃあお願いしま~す」
「「はぁ~い!」」

 僕はしゃがんで、二人に頭をなでなでしてもらう。
 髪の毛がくしゃくしゃになってる気がするけど、喜ぶ二人が可愛いから気にしない。ハルトとユウマはいつもと逆なのが楽しいのか、とっても満足そう。

「ふふっ、仲良しさんねぇ」
「あれ~? なんだかまた別世界にきた気がするよ~」

 撫でられているとお店の扉が開き、チリンと言う鐘の音と一緒に笑い声が聞こえた。

「あ、すみません! いらっしゃいませ!」

 僕が慌てて言うと、ハルトとユウマも真似をして

「いらっしゃぃませ!」
「いらっちゃぃましぇ!」

 と、可愛くお辞儀をした。
 営業再開、記念すべき第一号のお客様は、卵を売っているフローラさんと、診療所のカーティス先生だった。
 フローラさんはにこにこしているが、カーティス先生は、んんっと唸った後、なぜか肩が震えている。

「フローラさん! 来てくれたんですね! すっごく嬉しいです!」
「こんにちは。おすすめのサンドイッチを楽しみにしてたのよぅ」
「ふろーらさん、こんにちは!」
「おばぁちゃん、こんにちは~!」
「坊やたちもこんにちは。今日も元気ねぇ」

 フローラさんはハルトとユウマの頭をよしよしと優しく撫でている。そして僕のくしゃくしゃになっていたのであろう髪を整えてくれた。

「カーティス先生もお久し振りです! 今日はお休みですか?」
「そうなんだよ、昨日エリザさんに聞いてね。タイミングが良かった!」
「せんせ、こんにちは!」
「しぇんしぇ、こんにちは~!」
「はぁ~~~っっ!! 今日もかわいいねぇ~~~!!!」

 カーティス先生も変わりない様で安心した。ハルトとユウマの頭をわしゃわしゃしているが、手つきは優しいらしく、ハルトとユウマも気持ちよさそうに目を細めている。



「そう言えば、オリビアさんはどうしたんだい?」

 カーティス先生は二人の頭を撫でてとりあえず満足したのか、くしゃくしゃになった二人の髪の毛を綺麗に戻している。

「今日はトーマスさんが熱を出してしまって……。いまオリビアさんが看病してくれてます」
「えぇ? あのトーマスが……? 珍しい事もあるもんだ。ちょっと診てもいいかい?」
「え、お願いできますか?」
「うん、大丈夫だよ。まずはオリビアさんに声を掛けてもらっていいかな? 勝手に上がるのも失礼だからね」
「はい、ありがとうございます! ハルト、オリビアさん呼んできてもらってもいい? カーティス先生が来てるって」
「はぁーい!」

 ハルトはすぐにオリビアさんの下へと、先生が来た事を知らせに駆けて行った。

「すみません、お待たせしてしまって。フローラさんとカーティス先生はお席はご一緒ですか?」
「私は一緒でいいわよぅ? 先生はどうかしら?」
「僕もフローラさんとご一緒出来て光栄です。ただトーマスを診に行くので少し離れますが……。それでもよろしいですか?」
「えぇ、大丈夫よ~。やっぱり先生は楽しい人ねぇ」

 フローラさんが席に着いたところで、オリビアさんがやって来た。後ろにはハルトもついている。

「カーティス先生、診てもらえるって本当ですか?」
「えぇ、あのトーマスが熱を出すなんて驚きです。お邪魔しても大丈夫ですか?」
「はい、よろしくお願いします。ユイトくん、ごめんね。お店お願いね」
「はい、大丈夫です」

 カーティス先生はフローラさんに先に食べていてくださいと言い残し、オリビアさんと一緒にトーマスさんのいる寝室へ向かう。
 フローラさんは一人になったけど、いつの間にか隣にユウマがちょこんと座っていた。

「こら、ユウマ。お邪魔しちゃダメだよ?」
「あらあら、違うのよぅ。寂しいから話し相手になってもらおうと思って、ね? ユウマちゃん」
「うん! ゆぅくんねぇ、おばぁちゃんとおはなししゅるの!」
「も~……。お行儀よくしてるんだよ?」
「はぁーぃ! ゆぅくんだいじょぶ!」

 フローラさんもユウマもにこにこしてるからいいのかな?

「フローラさん、お冷どうぞ。お食事は何にしますか? サンドイッチの他にもオムレツとパスタもご用意できますが」
「私はやっぱり、オススメしてくれたたまごサンドとフルーツサンドが食べたいわぁ。……あら、たまごは二種類あるの?」
「はい、茹で卵を潰してマヨネーズと和えたサンドイッチと、厚焼きにした玉子を挟んだサンドイッチです」
「じゃあ、今日は茹で卵を潰したのと、フルーツサンドをお願いしましょうか」
「はい! すぐご用意します!」

 初めての注文だ! フローラさんに美味しく食べてもらえるといいな!

 フローラさんの席にはユウマと、いつの間にか向かいにハルトも座っている。フローラさんが二人を見てくれている様な気がしてちょっと安心。

 キッチンに戻り、注文の入ったサンドイッチを作る。
 まずは食感が残る様に粗く潰した半熟ゆで卵を、お手製マヨネーズとほんの少しの塩胡椒を入れて混ぜ、バターを軽く塗ったジョナスさん自慢のふんわり食パンにたっぷりのせて挟む。
 食パンを潰さない様に包丁を入れ、皿の上に少しずらして盛り付けたら完成だ。
 今日はまだどれくらい出るか分からないから、食パンには挟まず注文が通ったら作ると言う風にしたけど……。どれくらい出るかなぁ……?


「フローラさん、お待たせしました。先にたまごサンドをどうぞ。フルーツサンドもすぐお持ちします」
「まぁ、ありがとう。思ってたより具沢山ねぇ、とっても美味しそうだわ」
「フルーツサンド、食べれそうですか? 止めておきましょうか?」
「あら、大丈夫よぅ? 私おばあちゃんだけど、いっぱい食べるの」
「ふふ、じゃあフルーツサンド、お作りします」
「はい、お願いします」

 今度は食パンにホイップした生クリームをたっぷりのせて、カットしておいたオレンジオランジュフレッサキウイフルーツキウィを散らし挟んで完成。

 ……と思ったら、ここで次のお客様。


「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「こんにちは! 私たち三人だけど、いいかしら?」
「はい、テーブル席にどうぞ」

 入ってきたのは、女性一名と男性二名の冒険者風の人……。
 もしかして……?
 
「あ! おねぇさん! いらっしゃいませ!」
「おねぇしゃん! いらっちゃぃましぇ!」
「あ~! ハルトくん、ユウマくん、こんにちは! ちゃんと来たわよ~!」
「俺たちもいるぞ~!」
「はい! とっても、うれしいです! ありがと、ございます!」
「ゆぅくんもうれちぃ! ありぁとござぃまちゅ!」
「「「かわいぃ……!」」」

 なんか冒険者の人って、こういう人が多いのかな……? お客様たちはにこにこしながら二人に手を振り席に着いた。
 フローラさんにフルーツサンドを提供してごゆっくりどうぞ、と一礼。フローラさんもご丁寧にありがとうねぇ、と喜んでくれた。たまごサンドも美味しそうに食べてくれてるみたいですっごく嬉しい……!

「本日はご来店ありがとうございます。お冷をどうぞ」
「ありがとう~!」
「もしかして、ハルトとユウマに聞いてこのお店に来てくれたんですか?」
「そうなんだよ。ギルマスがこの店は美味いって叫んでたから、どんな店だろうって話してたら二人で来てね」
「そうそう! もじもじしながらさぁ~、おみせ、きてくれますか? って!」
「にぃにのごはん、いっぱぃちゃべてほちぃの、って言われたら、そりゃ来るしかねぇよな!」

 そう言ってワハハと笑ってるこの人達が、今の僕には神様に見える……!
 昨日のハルトの頑張りが……! あの時の胸の痛みが癒えていく様な気がする……! あ、泣きそうだけど堪えなきゃ……。
 トーマスさん! やりましたよ……!

 ハルトとユウマも、どうだと言わんばかりにむふ~っと鼻を膨らませてるし、フローラさんもそれを見て笑ってる。この人たちにお礼を伝えないと……!

「それで来てくれたんですか……? ありがとうございます……! 僕もすごく、嬉しいです……!」
「えぇ……? そ、そう? 喜んでくれて、私たちも嬉しいわ……! ねぇ?」
「お? おぅ、俺たちも食いに来たかったしな! なぁ?」
「え……? う、うん! ハルトくんとユウマくん、一生懸命だったからね!」
「「そうそう!」」

 僕は泣くのを堪えながらお礼を伝えたんだけど、やっぱり引かれちゃったみたいだ……。男が泣いてもね、ごめんなさい……。

「あ、めにゅー! メニュー頼みましょ!」
「あ、あぁ! 俺ハラ減ってるからさ、ガッツリしたのがいいんだけど……」
「それならミートパスタか、ビフカツはどうですか? ボリュームもありますし、プラス200Gでサラダとスープ、パンのセットも追加できます」
「旨そうだな、じゃあ俺はビフカツのセットで!」
「私はオムレツで! これもセットは付けれるの?」
「はい、大丈夫です。オムレツはチーズ入りとチーズなし、どちらになさいますか?」
「あ、チーズ入りでお願いしま~す!」
「じゃあオレは……。あ、ミートパスタ? このセットにしようかな」
「かしこまりました。ご用意しますのでお待ちくださいませ」
「「「はぁーい……!」」」

 嬉しいな~! ハルト~! よかったねぇ~! と、僕は心の中でずっと叫んでた。お姉さん達は口を開けてこちらを見ていたけど、頑張って美味しいお料理作りますからね!
 少々お待ちくださいませ!
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