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239 ギルドからの連絡

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 今日の営業も無事に終え、僕とオリビアさんは明日の仕込みの真っ最中。
 時間のかかるソース類にパスタとピザの生地、カルボナーラにトッピングする温泉卵を仕込んでいく。その合間に旬の野菜で新しいメニュー作り。ここ最近は、夜の営業も視野に入れてメニューを考えている。ガッツリ食べるご飯系と、お酒のあてになる様なおつまみ系だ。

「あ、これ美味しい! オリビアさん、味見してください!」
「ん、どれどれ~? あら! ホントだわ!」

 そして、目の前のカウンター席でにこにこしながらおやつを頬張る、ハルトとユウマにレティちゃんの三人。ちなみにそのおやつは、ジョナスさんのお店の新作パンだ。ユウマが転んでパンが潰れてしまったらしいので、レンジで少し温め直して、アイスを横に添えて隠せば見た目もバッチリ!
 オリビアさんが前に貰った林檎メーラとカスタードのデニッシュパンを、一気に四つも食べたとハルトとユウマがバラシてしまったせいか、紙袋の中にはたくさんの新作デニッシュパンが……。
 オリビアさんは知られてしまったとショックを受けていたけどね。
 メフィストはトーマスさんの膝で、妖精さんたちと楽しそうに遊んでいる。トーマスさんはいつもの様に、目尻をこれでもかと下げて幸せそうだ。

「おにぃちゃん、それ、なぁに?」

 レティちゃんは、僕とオリビアさんの味見していた物に興味津々と言った様子で、カウンター席から中を覗き込んでいる。

「レティちゃんも味見してみる?」
「うん……!」
「ちょっと熱いから、気を付けてね?」
「はぁい」

 カウンター越しにフォークに刺したソレを手渡すと、レティちゃんはふぅふぅ、と息を吹きかけ、少し冷ましたところでパクリと頬張る。そしてもぐもぐと味わいながら咀嚼すると、途端にレティちゃんの赤い目がキラキラと輝きだした。

「これ、とっっっても、おいしい……!」
「ホント? 良かった~!」

 オリビアさんとレティちゃんに味見してもらったのは、里芋ターロウの唐揚げ。レンジで温めたターロウを潰し、醤油ソーヤソースとミリン、ジュンマイシュで味付けし、片栗粉をまぶして揚げたもの。一口頬張ると、外はカリッと、中はホクホクとした里芋特有の食感が。レティちゃんが珍しく、もう一つ食べたいと可愛いおねだり。気に入ってもらえて嬉しいなぁ~! この唐揚げ、上から餡をかけても美味しいかも。

「そんなに美味しいのか? ユイト、オレにも一つ」

 レティちゃんが美味しそうに食べていたからなのか、トーマスさんも興味深げにこちらを覗き込んでいる。コロコロした一口サイズのターロウは、おやつにもおつまみにもなる万能メニューだ。

「ん! これは旨い!」

 トーマスさんも気に入ってくれた様で、オレにももう一つ、とおねだりされた。

「おにぃちゃん、ぼくも~!」
「ゆぅくんもたべりゅ!」
「あ~ぅ!」
《ぼくも~!》
《わたしも!》

 そんなトーマスさんに釣られる様に、ハルトとユウマ、そしてメフィストに妖精さんたちも食べたいと可愛いおねだり。

「ん~、メフィストにはまだ早いかなぁ~……?」
「あ~ぶぅ~!」
「あぁ~、美味しいご飯作るから拗ねないで~!」
「ほら、メフィスト。ユイトが困ってるぞ? 機嫌を直しておくれ」

 メフィストはぷぅっと頬を膨らませ、トーマスさんの腕に顔を押し付けている。最近は皆が食べている物を欲しがるんだけど、まだ食べさせるには早いものばかり……。どうして食べさせてくれないの? と、目で訴えてくる。それに僕はいつも胸が痛いんだけど、お詫びに離乳食には愛情をたっぷり込めてるから……!
 メフィストはまだ拗ねている様だけど、トーマスさんはデレデレしてて全く困った様には見えないんだよな……。まぁ、嬉しそうだからいいか……。

 皆にターロウの唐揚げを試食してもらっていると、暫くしてトーマスさんが難しい顔をしながら胸ポケットからギルドカードを取り出した。
 以前にクリスさんに見せてもらった商人ギルドのカードと同じ様なサイズ。だけど色が少し違うみたい。
 そのカードに、何か連絡が入った様だ。オリビアさんも難しい顔をしたままのトーマスさんに困惑している。

「トーマス、どうしたの?」
「あぁ、いや……。どうやら王都に呼び出しの様だ。明日詳しい事を訊いてくるよ」
「あら……。決まったのね……」

 とうとう、王都に向かう日が決まった様だ。やる事がたくさんあるから、ちゃんと忘れない様にしないとな。ハルトもユウマも、ライアンくんに会えると嬉しそう。そんな僕たちを横目に、オリビアさんは浮かない表情。

「なに、心配することはない。家族で行くんだ。楽しみじゃないか」

 な、レティ? メフィスト? と、トーマスさんは二人の頭を優しく撫でている。

「そうね……、そうよね……! 皆で初めての旅行だと思えばいいわね!」

 王都に行ったら、色々見ないとね? と、オリビアさんもレティちゃんを抱き寄せながら、何をしようかしらといつもの明るい表情に戻っていた。
 
 そうだ。楽しくてすっかり忘れていたけど、王都に行ったらレティちゃんとメフィストの正式な処分が決まるとバージルさんは言っていた。心配しなくても大丈夫だとも言っていたけど……。
 こんなに大事な事、どうして忘れてたんだろう……。

「おにぃちゃん、だいじょうぶ、です!」
「え?」

 僕をまっすぐに見つめながら、ハルトがにっこりと微笑んだ。

「れてぃちゃんとめふぃくん、ぼくのかぞく! まもります! ねっ、ゆぅくん!」
「やくしょくちたもん! ねっ、はるくん!」

 二人はこうなる事を、知ってたみたいだ。
 だからあんなに、剣の訓練頑張ってたのか……。

「そうなんだ……」

 おうとにいくまでに、もっと、つよくなります! とハルトはやる気を漲らせている。ユウマも同じ様で、えてぃちゃんとめふぃくん、だぃじょぶ! と二人を安心させる様に声を掛けていた。
 ハァ~……、情けないなぁ~……!
 僕っていっつもこうなんだ。いっつも二人に気付かされる。

「レティちゃん。王都に行ったら、何しよっか?」
「ん~……、わかんない……」

 オリビアさんに抱き寄せられたまま、レティちゃんは首を傾げている。

「じゃあ……。レティちゃんも僕と一緒に、美味しい食材探し、手伝ってくれる?」
「うん……! おにぃちゃんと、いっしょにいく……!」
「あ~ぅ!」
「もちろん、メフィストも一緒にね? 楽しみだね!」
「あ~ぃ!」

 手をパチパチさせながら、トーマスさんの腕の中で楽しそうに笑っている。
 どうやらメフィストも、すっかり機嫌が直ったみたいだ。

「あ、王都に着くのに五日は掛かるんですよね? メフィストたちの着替えやご飯はどうしましょう?」

 僕は特に問題ないけど、レティちゃんやハルト、ユウマとメフィストのご飯は大事だし……。途中でお店とかもあるのかな?

「それならオレの魔法鞄マジックバッグに入れていくから問題ないよ。一応だが、王都までの護衛も、オレの魔法鞄の事を知っているパーティに頼もうかと思ってな」
「あ、そっか。護衛の人もいるのか……。あ、イーサンさんたちが馬車は手配するって……」
「そう言えばそうだったな……。そうだ! 馬車はハワードに頼んでサンプソンを連れて行けるか訊いてみよう。あれだけ強いんだ。問題ないだろ?」
「しゃんぷしょん! じぃじ、ほんちょ~?」
「ぼく、さんぷそんが、いいです!」
「そうか! なら明日、訊いてくるよ」
「「やったぁ~!」」

 ユイトも、そんなに心配しなくていい。

 そう小さく呟いて、トーマスさんは僕を見ながら優し気に微笑んだ。もしかしたら、気を遣ってくれたのかもしれない……。
 すると、僕とトーマスさんの間にノアがふわふわと飛んでくる。他の妖精さんたちも一緒に飛んできて、皆楽しそうだ。
 どうしたんだろう? と思っていると……、

《 とーます! ぼくもゆいとといくよ~! 》
《 ぼく、はるとといっしょ~! 》
《 わたしも~! れてぃといっしょ! 》
《 ぼく、ゆうまといるっ! 》
《 わたしは、めふぃすと! 》

《《《  》》》


 ノアを始め、妖精さんたちの突然の付いて行く宣言に、ハルトたちは喜び、僕たちは頭を抱えたけど、それはまた別のお話。
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